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雑学・コラム

2026.03.31

なぜ人は過酷なスタンプラリーに挑むのか?経済効果は数億円、日本独自の「印を集める」心理を観光学で解明

Kindai Picks編集部

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学生ライター
岡本健
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大阪・関西万博でも人気を集めたスタンプラリー。御朱印など「印を集める」日本文化は外国人にも注目されていますが、なぜ人は多大な労力をかけて収集に走るのでしょうか。その心理や設計の妙とは? 推しグッズ集めは大好きだけど、歩き回るスタンプラリーは苦手な現役大学生が、観光学の視点から「集めたくなる仕掛け」の謎に迫ってみました!

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こんにちは! 近畿大学広報室でインターンシップをしている、国際学部 国際学科 グローバル専攻3年の松原 萌仁香(まつばら もにか)です。

突然ですが、皆さんは何かを集める趣味はありますか?

私の趣味は、漫画やVTuberなどの「推し活」で、イベントに参加したり、推しのアイテムをゲットしたりする毎日。何が出るかわからないランダム商品やガチャガチャでは、推しが出るまで何度も挑戦することも……。


にじさんじ×極楽湯 コラボメニューを注文した時の写真。

また最近では、一つの作品に対して多くのイベントがあり、その中でもよく耳にするのがスタンプラリーです。

同じイベント施設内だけではなく、電車を利用して回るものや、1000km超える距離を巡らなければならないという北海道での『ゴールデンカムイ』のスタンプラリーも話題になりました。

推し活以外でも、2025年開催の大阪・関西万博では様々なスタンプラリーが実施され、多くの人が参加しました。



また、趣味として御朱印集めをする人が増えています。私自身、父に連れられて一緒に回ることがあり、神社やお寺のことを知れるという利点を感じますが、自分ひとりだと集めに行かないだろうと思ってしまいます。



なぜ、人はわざわざ時間とお金をかけてまで「スタンプ(印)」を集めたいと思うのでしょうか? 推しのグッズ収集に目がない私でも、たとえ推しに関わるイベントだったとしても、移動してまで集めたいとは思ったことがないのです。スタンプラリーに参加する人の心理を知れば、スタンプのための移動も楽しく思えるようになるのでしょうか?

そこで、観光学を専門とする近畿大学 総合社会学部の岡本健先生にお話を伺いました!

岡本 健(おかもと たけし)
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 社会・マスメディア系専攻 教授
専門:観光学
1983年生まれ。担当授業は「メディア文化論」「メディア社会論」など。博士(観光学)。アニメや漫画などを動機とした旅行・観光、地域振興をはじめ、ゾンビやVTuberなどの、ポップカルチャーの研究も行う。
教員情報詳細


なぜ人は印を集める? 御朱印とスタンプラリーの違い



松原:岡本先生、今日はよろしくお願いします! 私、友達とスタンプラリーに参加したことがあるんですけど、2〜3箇所なら回れるんです。でも5箇所、10箇所以上になってくると、めんどくさくなってしまって……コンプリートできずに終わってしまいます。参加する人としない人の違いはなんでしょうか?

岡本先生:内容と動機付けによるものと思います。スタンプラリーって、ただ単に回るだけだと動機になりません。だから、「回ったら何かもらえる」とか「推しが関係している」という主催者側からの仕掛けが大切になってきます。

松原:確かに、推しが絡んでいれば興味を持ちます。でも、移動してまで……と思ってしまうんですよね。

岡本先生:回る前から景品がもらえるイベントもあります。たとえば、VTuberの周央サンゴさんと志摩スペイン村がコラボしたスタンプラリーは、台紙自体を有料販売しました。各ポイントのスタンプを押すことで台紙が完成します。「推しが実際に紹介した場所を巡る」という文脈がセットになることで、参加すること自体が"ファンとしての喜び"として設計されているわけです。


2023年に実施された周央サンゴ×志摩スペイン村コラボイベント 「みなさま~(広報大使)志摩スペインゴ村へ、来て!」のスタンプラリー。

関連記事:来場者が急増したその後は?「周央サンゴ×志摩スペイン村」炎上なしで成功したコラボの裏側

松原:参加賞のように景品があるなら参加してみたくなります。そうやって景品がもらえるかどうかは参加者の心理に関係しますか?

岡本先生:景品の有無は大きいですね。スタンプラリーには景品が動機になるものと、結果として景品がもらえるものの二種類があると思います。

松原:景品が動機か結果か?どのように違うのでしょうか。

岡本先生:景品が、スタンプラリー実施者が「強く欲しいもの」になっている場合は、とにかく回るモチベーションはとても高くなります。一方で、結果としてもらえると嬉しい、くらいの場合、スタンプラリーを回ることそのものに価値を見出だしていないと、最後まで続きません。



松原:体験の設計、なるほど……。御朱印も似たような「集める文化」だと思うんですが、スタンプラリーとはどう違うんでしょう?

岡本先生:行動的には似ていますが、違いはどういう意図があるかです。御朱印は神社・お寺側が主体で、参拝した証としていただくものです。スタンプラリーとは異なる位置づけのもので、商業的なコラボとはなじみにくい部分があります。一方のスタンプラリーは、主催側がどこにどういった人を送り込みたいかを設計できる。つまり「文脈をつくる力」が強い。どこにスタンプを置くかが、ファンへのメッセージにもなるんですよ。

松原:主催者側からのメッセージまで考えたことがなかったです。その視点から見ると、楽しめるかも!


海外でも人気! お土産にもなる体験コンテンツ

松原:ちなみにスタンプラリーって、海外の方にも人気なんですか?

岡本先生:はい。日本特有の文化ではありますが、御朱印も人気ですし、インバウンド向けのものもよく見かけますね。和製英語ですが、観光施設などでは「スタンプラリー」と言えば通じることが多いようです。

松原:SNSでは大阪府箕面市にある勝尾寺のスタンプラリーがバズってるみたいです。ポストカードの台紙にスタンプを押していくと少しずつ絵が完成するみたいで。


境内の6つのスタンプ設置場所を巡り、順番にスタンプを押すことで「勝ちダルマ」の絵が完成する。

岡本先生:そういう「重ね捺しスタンプ」はシヤチハタさんが提案しているサービスで、いろんなところでやってますね。完成したイラストを記念品として持って帰ることができるので人気です。スタンプラリーの文化が広まったのは、シヤチハタさんが関与した1970年の大阪万博の「スタンプコレクション」がきっかけと言われています。

松原:2025年の大阪・関西万博でも話題になっていましたね。あとは、全部制覇したら表彰されるものもあると聞いて、それも動機付けになっているのかなと。

岡本先生:「道の駅」のスタンプラリーなど、達成者として公式ホームページに名前を掲載して表彰してもらえるものがありますね。

松原:VRとかデジタルスタンプラリーも増えてますよね。



岡本先生:実は私も近畿大学のオープンキャンパスで、ARを使ったデジタルスタンプラリーを実施したんですよ。学術系VTuberの等身大パネルを学内8箇所に設置して、専用アプリで回ってもらう形にしました。

松原:QRコードをスキャンするとかですか?

岡本先生:そこが工夫した点で、QRコードを読み込むのではなく、等身大パネルのキャラクターイラスト自体をARマーカーにしたんです。パネルにスマホをかざすと、紹介文がポッと出てそのキャラクターのイラストを取得できる。アプリ上では取得した順にキャラクターが並ぶようになっていたので、8か所回り切った後に並び方の違いを楽しめるようになっていました。


岡本先生も学術系VTuber「ゾンビ先生」として登場。(パネル内のQRコードは各VtuberのYouTubeチャンネルのもの)

松原:それはデジタルならではの楽しみ方ですね。

岡本先生:デジタルは紙を使わなくていいし、ARや謎解きと組み合わせた新しい体験を作ることができる。でも「手元にものが何も残らない」のは弱点です。「物理的に手元にものが残る」という良さはたしかにあるので、オープンキャンパスのイベントでも、最終的にポストカードとステッカーを別途用意しました。一方、アナログのスタンプラリーは、幅広い年齢層が楽しめますし、手で紙にスタンプを押す作業という物理的な体験が、デジタルにはない魅力です。

松原:確かに、スタンプは「押す」行為そのものに魅力を感じるかもしれません。

岡本先生:少しずれたり、うまく押せたりする偶然性や一回性を楽しめますよね。


経済効果5億円!? 狙いは「滞在時間の延長」



松原:『ゆるキャン△』×静岡県のスタンプラリーが約5億円の経済波及効果を生んだというデータを見たんですが、なぜそこまで大きな効果が生まれるんですか?

岡本先生:狙いは「滞在時間の延長」と「周遊範囲の拡大」にあります。スポットを複数回ってもらうことで、お昼をまたいで食事する、夕方まで残って夕飯を食べるといった消費が積み上がっていく。1日で回りきれなければ宿泊する人も出てくる。静岡県内で展開したコラボだったので、県内各地への波及も大きかったようですね。

松原:でも、移動が大変すぎるという声もあったそうです。

岡本先生:そこがゲームバランスの問題です。きついスタンプラリーに熱狂する人がいる一方で、期間・箇所数・移動手段のバランスが崩れると「誰向けなのか」が見えなくなる。ゴールデンカムイのスタンプラリーは北海道全土を舞台にしたもので、あれはわざときつく設計していましたけど、作品の世界観が「過酷な冒険」だったからこそ許された面もあった。


松原:私があまり参加しないのは、主催者側の意図が透けて見えるからかもしれないです。「とりあえず回らせたいんだな」というのを感じると、乗り気にならなくて……。

岡本先生:それはするどい指摘です。スタンプラリーをやっている人から見ると、その「設計の本気度」は意外とよく見えているんですよ。景品がそこまでほしくないものだったり、行く価値に対してコストが見合わなかったりすると、やっぱり動かない。

松原:作品を愛しているからこそ、そう思うんですよね。



岡本先生:鷲宮の『らき☆すた』の飲食店スタンプラリーが面白かったのは、代表的な聖地である神社への訪問だけで終わらせずに、商店街の個人商店にも人々を誘導していた点です。「スタンプラリーだから入る」という言い訳が、普段ハードルが高い個人経営の飲食店に入るきっかけになった。

松原:それは街にとっても良い効果だと思います。ファン層が違う作品のコラボ企画もありますよね。『Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜』のスタンプラリーも話題になっていました。

岡本先生:そうですね。『ゆるキャン△』と『ラブライブ!』は客層が異なりますが、どちらも静岡に愛着があるファンが多い。その静岡への感謝という共通点が、コラボをうまく機能させた部分があると思います。


「未完成」こそが動機に。コンプリートしたくなる心理現象



松原:収集欲って、そもそも人間に備わっているものなんでしょうか?

岡本先生:かなり古い欲求だと思います。博物学にもつながっていて、日本に限らず、富豪が宝石や美術品をコレクションしたり、江戸時代の温泉番付やお遍路など、最大の数が決まっているものをコンプリートしたい、という欲求が感じられる文化は、様々な場面で見られますね。

松原:ゲームでもよくある手法ですよね。

岡本先生:レアなものを集めたいという欲求もありますよね。虫取りなんかもそうで、そこから着想を得たゲーム「ポケットモンスター」シリーズでも幻のポケモンを集めたり図鑑をコンプリートすることを重視していて、30年続く人気シリーズですよね。



松原:人間の心理を刺激するんですね……! 日本に来た外国人観光客が「あえて一つ、行きたい場所を残した状態で帰国して、次に日本に来るモチベーションにしている」というSNS投稿も見ました。

岡本先生:完成しそうでしていない状態って、その空白を埋めたくなりそうですね。なんでもそうですが、途中のままになっていると、それが気になってしまう。スタンプが一つだけ押されていない台紙を持って帰ったとして、家でそれを見るたびに「あの一つ、また押しに行きたいな」と思う。物理的なものが手元に残るから、余韻が続くんですね。

松原:「終わらせたくない」という心理もありそうですね。

岡本先生:日本人はゲームをラスボス手前で辞める人が多いという話を聞いたことがあって、「この世界に浸り続けたいから終わらせたくない」という心理があるようです。スタンプラリーも同じで、全部集めてしまったら終わってしまう。あえて最後の一つを押さずに残しておくのも一つの楽しみ方かもしれませんね。



松原:先生のお話を聞いて、スタンプラリーが単なる「ハンコ集め」ではなく、深い戦略と心理に基づいたものだとわかりました。私のような初心者におすすめの楽しみ方はありますか?

岡本先生:まずは動物園や博物館など、一つの施設内で完結するものから始めてみてはどうでしょう? スタンプ台を探して歩く途中で、普段なら気づかない展示や立ち寄らない場所に出合えるはずです。その「道中の発見」こそが、スタンプラリーの本当の価値ですから。

松原:あえて一つ残してみる、というのもありですか?

岡本先生:ありです! 最後の一つを残しておくと、「次また来ようかな」という気持ちが自然に生まれます。完成させることだけがゴールじゃない。その不完全さを楽しむのも、スタンプラリーの醍醐味だと思いますよ。

松原:岡本先生、ありがとうございました!


実際に行ってきた! 勝尾寺のスタンプラリー体験レポート



岡本先生のお話を聞いて、「よし、自分でも体験してみよう!」と思い立ち、スタンプラリーがあると噂の勝尾寺(大阪府箕面市)へ実際に行ってきました。元々スタンプラリーにあまり乗り気じゃなかった私が、台紙を片手に境内を歩いてみたら……正直めちゃくちゃ楽しかったです! その体験を、ありのままにレポートします。

「全部押さないと!」完成させたくなる



勝尾寺のスタンプラリーは、境内のあちこちにあるスタンプ台を全部まわって台紙のだるまを完成させる、シンプルな仕組みです。最初は飽きずにできるかな……という印象でしたが、1個押すごとに台紙が埋まっていくのが楽しくて。気づいたら「完成させなければ!」という気持ちになってました。

自分で作った「作品」だという感覚



全部押し終えた時、完成した台紙を見て感じたのは「自分が作ったものだ」という達成感でした。印刷されているわけじゃなく、自分の足で境内を歩いて、1個ずつ押して作り上げたスタンプラリー。スタンプのにじみ具合も、ちょっと傾いた押し跡も、全部その日自分が作った記録として残っています。

回ることでお寺の全体像がわかった!



もう一つ気づいたことがあります。スタンプを押して回っているうちに、境内の「構造」が自然とわかるんです。どのお堂がどこにあって、参道から奥の院までどんなふうにつながっているのか。地図を見てもわかりづらいところが、歩いて押して進むうちに頭に入ってきた感じでした。

スタンプラリーがなかったら、きっと目立つ場所だけ見て終わっていたと思います。でも台紙を手に持つことで、普段ならチラ見しかしないであろうところでも、素通りしそうなところでも、立ち止まってじっくりと見ることができました。


スタンプラリーは「行くきっかけ」をくれる



取材を始める前は、スタンプラリーに対して「ただ回らされるだけ」「景品目当てはなんか違う」というイメージしかありませんでした。でも岡本先生のお話を聞いて、勝尾寺で実際に体験してみて、そのイメージはすっかり変わりました。

スタンプラリーは、普段は縁遠い場所に対して「ここに来てください」という物語と理由を用意してくれるもの。

もしまだスタンプラリーを「なんかめんどくさそう」と思っている人がいれば、私と同じように、まずは施設の中で完結する小さなものから試してみてください。台紙を手に取って歩き始めた瞬間、きっと「あと何箇所?」ってワクワクしている自分に気づくはずです。


この記事を書いた人
松原 萌仁香(まつばら もにか)
近畿大学国際学部国際学科グローバル専攻3年生
近畿大学広報室でインターンシップをしています。好きになったらとことんハマるため、数種類の推し活に大忙し。6匹の犬と聖地巡礼旅をしています。

編集:人間編集舎

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