2022.07.28
コロナ禍で注目!アットアロマ片岡社長に聞く「天然植物の香り」を活かした空間演出【突撃!近大人社長】
- Kindai Picks編集部
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天然の香りを用いたアロマ空間デザインや、アロマディフューザーや天然100%エッセンシャルオイルブレンドの企画・販売を手がける香りの専門ブランド「アットアロマ株式会社」。「突撃!近大人社長」第12回目は、アットアロマ株式会社の片岡 郷社長に、経済学部経済学科4年生の時國瑠花さんがインタビューしました。
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東京都世田谷区三軒茶屋にあるアットアロマ株式会社の本社にやってきました。
アットアロマ株式会社は、100%自然素材にこだわったアロマ製品開発とアロマ空間デザインを行う会社です。「ANA」の空港内ラウンジや機内サービス、「伊勢丹新宿店」や「新江ノ島水族館」といった国内の商業施設、ホテルやショールームのほか、ドイツ・アメリカ・中国を拠点としたグローバル展開を行い、全世界5,000 箇所以上で香りのある空間をプロデュースしています。
また、アロマ空間デザインの分野におけるプロフェッショナルな人材を養成するスクールを運営。生活空間の特性や目的に合わせて、ふさわしい香りを選択し演出できる能力を認定する「アロマ空間アドバイザー」の資格が取得できる「アロマ空間デザイン検定」を行っています。
2013年に初の直営店舗である「アットアロマ神宮前店」を東京・神宮前に開店。店舗にて好きな香りをブレンドして、オリジナルのアロマオイルを制作できる「アロマオイルブレンダー®」や、香りをオイルボトルから直接試すだけでなく、空間に広がったときのイメージを体感できるツールなど、画期的な取り組みが話題となりました。
アットアロマ神宮前店
そんなアットアロマ株式会社の代表取締役社長である片岡 郷(さとし)社長は、近畿大学法学部の卒業生。学生時代から「起業以外、考えていなかった」とおっしゃる片岡社長に、現在に至るまでのご経歴を伺いました。
ユーカリの効果に着目……アロマ業界の草分け的企業に
1963年大阪府生まれ。1985年近畿大学法学部法律学科を卒業し、ボッシュ株式会社に入社。同年株式会社環境情報サービス(現 株式会社ディーサーブ)を設立。1998年アース・スタジオ株式会社(現 アットアロマ株式会社)を設立し、「アロマで空間をデザインする」をコンセプトに、全世界で 5,000 箇所以上の商業施設、ホテル、ショップなどで天然アロマによる香り空間を提供。香りサービスをトータルに提案できるサービスカンパニーとして活動を行なっている。
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本日はよろしくお願いします! さっそくですが「アロマ空間デザイン」をはじめたきっかけを教えてください。
アットアロマの前身であるアース・スタジオ(2008年にアットアロマに社名変更)は、輸入雑貨の企画販売や、海外おみやげカタログの商品企画開発を主な事業として1998年に立ち上げた会社なんです。ある時クライアントに「新婚旅行でオーストラリアに行く夫婦の土産物になりそうな商品を考えてほしい」と依頼され、商品開発の過程で「ユーカリ」という植物に出会ったのが、そもそものきっかけですね。
近大マスクをつけてインタビューさせていただきました。
ユーカリにはどんな魅力が……?
ユーカリの成分には抗菌・抗ウイルス効果や、炎症を抑制する効果があり、オーストラリアでは民間療法で傷の治療薬や風邪薬にも使われていました。精神を安定させる効果もあります。日本でも花粉症対策などさまざまなニーズがあると感じ、まずはユーカリオイルを輸入販売しようと思ったんです。同時に、オーストラリアで「アロマディフューザー」を販売している会社があることを知り「これだ!」と。
なるほど。当時の日本で、アロマはどれくらい認知されていたんでしょうか?
600種以上の品種があるユーカリ。
当時、オイルをたらして置いておく「アロマポット」は日本でも売っていましたし、「アロマセラピー(アロマテラピー)」という言葉も知られていました。しかし、香りを空間に噴霧するディフューザーはまだ普及していなかったんです。私たちは、2001年にアロマディフューザーの輸入販売を開始し、香りで空間をプロデュースする「アロマ空間デザイン」の事業を展開しました。
香りで空間をプロデュースするって、どういうことでしょうか?
企業さまのイメージに合わせた香りを調合し、独自のアロマオイルを制作し、ご提供しています。たとえば同じホテルという業種でも、企業さまによって接客スタイルや経営コンセプトなどは全然ちがいますよね。ご注文いただいた企業さまを分析した上で、イメージにぴったりの香りを調合できるよう、日々尽力しています。ロゴの色なども考慮して、香りを作るんですよ。
たとえば、どんな事例がありますか?
たとえば「星野リゾート青森屋」では、利用するお客さまに「青森らしさを感じる香り」を楽しんでいただくために、青森を代表する青森ヒバをはじめ、ヒノキやサンダルウッド、シダーウッド、ホーウッドなど、木々の香りを中心にオリジナルの香りをブレンドしました。五感に刻まれる、柔らかさと深みを感じさせる気品のある香りは、青森屋のイメージにぴったりの香りです。
まさに香りのエキスパートだからこそのお仕事ですね。カタログを見ると、一般向けの商品でユニークなものもたくさんあります。「City series 渋谷」や「S02 ハッピー」が気になります!
「City series 渋谷」は、レモングラス、ブッダウッド、パチュリ、ゼラニウム、コリアンダーなどがブレンドされた、アーバンな香りです。「S02 ハッピー」は、オレンジ、ジャスミンなど多幸感が増すような華やかな香りをブレンドしています。明るく、元気な気持ちになっていただけるようなアロマオイルを目指しました。
自分はどんな香りが好きか、まだわかっていないアロマオイル初心者さんでも興味がもちやすい商品名で、うれしい工夫ですね。
市場の仲卸に、ショーパブで歌!? バイトに明け暮れた大学時代
片岡社長は、近畿大学でどんな大学生活を過ごされたんでしょう?
ありとあらゆるバイトを経験しましたね。中央市場で仲卸スタッフをしたり、小型トラックの運転手をしたり……。ゴルフ場で打ちっぱなしの球を回収するバイトもしていました。あと、ミナミのショーパブで歌も歌っていましたよ。
ショーパブですか! 歌がお上手なんですか?
当時は……上手だったかもしれません(笑)
なぜそんなにいろんなバイトを?
一生涯の仕事を選ぶために、大学生のうちにいろんな仕事を経験しておきたかったんです。いろんな業界の仕事を経験できるのは学生の特権ですよね。就職してしまうと、ちがう業界の仕事はなかなかできませんから。
確かに、私も学生のうちにいろんな経験をしておきたいです。片岡社長はどの仕事が自分にあっていたと思いますか?
……ショーパブかな(笑)。でも、学生時代から「起業する」という目標があったので、ちがう道に進みました。
学生の時から起業を考えていたんですね。
自分の父親が商売をしていて、母親もお店をしていたので、いつかは自分も起業するものだと自然に思い込んでいましたね。大学生の時から「会社勤めは数年だけ」と考えていて、卒業後は自動車機器などの製造で有名な外資系総合電機メーカーのボッシュに就職しました。外資系企業を選んだのは、正直にいうと、かっこよくて女の子にモテそうな仕事がいいなと(笑)。採用されたら東京に行けるっていうのも大きかったですね。
東京への憧れがあったんでしょうか?
憧れというより、使命感ですね。日本全体や世界にビジネスを広げようと思ったら、やはり東京で起業した方が早いですから。
起業のタイミングはいつごろだったんですか?
学生時代の片岡社長(中央)と、高校時代からの友人。一人はアットアロマの役員(中央上)。
最初の会社(環境情報サービス)は高校の同級生と起業したんです。一人は大学も同じ、近大の仲間です。大学卒業後、8年間別の会社に勤めていましたが、ずっと付き合いは続いていて。お互い「一緒にやろう」って思うタイミングが重なった感じですね。いい仲間と出会えたのが、学生時代の一番の思い出ですね。
アロマに秘められた植物の力とは? 世界で支持される高品質天然オイルの製造過程
アットアロマのアロマオイルは、すべて100%自然素材なんですよね。
全商品、さまざまな植物の花や葉、木、果実などから抽出した100%天然の自然素材からできています。世界中の産地からオイル原料を調達して、品質管理から商品検品までを徹底しています。
香水など、人工的な香りとのちがいはなんですか?
合成香料の生成には、体に有害な石油が使われていることが多いんです。また香りがきついため、体質によっては頭痛を引き起こす場合もあります。一方、100%自然素材で作られた香料は香りが柔らかく、植物がもつ様々な効果効能が期待できます。
香りの効果が注目され、アットアロマのサービスがさまざまなメディアで注目されるように。
毎日を健やかに過ごすサポートもしてくれるのですね。
人間も含め、動物が生きていく上では悪臭も必要なんですけどね。「この香りは危険だ!」というように、危険信号として存在する悪臭もたくさんありますから。生き物の体は「この香りは○○だ」というように、嗅覚と記憶が結びつくようになっています。
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片岡社長にも、香りとリンクしている記憶や思い出があるんですか?
私が子供のころ、母親が駄菓子屋さんを経営していて、店舗の隣が畳屋さんだったんです。つねに新品の畳の香りを嗅いでいたので、今でも旅館などで新しい畳の香りを嗅いだら、懐かしい気持ちになりますね。時國さんにも、思い出の香りはありますか?
私は雨の香りや自然の香りを嗅ぐと、故郷の能登半島を思い出します。つねに意識しているわけではないですが、私たちは普段からいろんな香りに囲まれて生活しているんですね。
動物の繁殖も、香りと密接な関係にありますからね。人間にとっても、香りはなくてはならないものです。アットアロマでは、産学連携によりエッセンシャルオイルの機能性の研究も行っています。香りが体にもたらすリラックス効果や、心理的な効果など、科学的なアプローチからも香りの重要性を分析しています。
日本と海外だと、香りに対する意識にちがいはあるんですか?
香水の歴史はフランスからはじまり、今でも「香水のメッカ」といえばフランスですが、日本には香水を使う習慣があまりないですよね。しかし、四季の香りや、伽羅・沈香・白檀などの香木を炊く「お香」など、自然の香りをたしなむ文化は古くからありました。逆に、海外では100%自然素材の香料文化はそこまで成熟していないんです。2018年に開店したニューヨークのアンテナショップでは、ヒノキや柚子など日本独自の香りが人気なんです。
確かに、ヒノキはお風呂やお弁当箱などでも知られていて、海外で人気ですよね。
ヒノキは柔らかい優しい香りが魅力ですね。でも、同じ品種でも、生育環境や採取される地域によって全然香りがちがうんですよ。「ソーシングストーリーオイル」というシリーズでは、清流と緑豊かな山に囲まれた檜原村で育った「檜原村ヒノキ」を使用しました。伐採したての新鮮な間伐材を使用することで、爽やかで透明感のある枝葉の香りがします。現地で蒸留するために、蒸留装置を搭載したトラックもあります。
日本初の蒸留装置を搭載したトラック「モバイルアロマラボ」。
すごい仕掛け! それにおしゃれです。わざわざ現地で蒸留するのは、なにか理由があるんですか?
「100%自然素材」をモットーに商品開発をしている私たちは、原材料である植物や果物のことにも明るくあるべきです。現地に出向いて植物や果物の背景を勉強することも、私たちにとって重要な仕事なんです。あとは、各地で作業実演することで、アロマオイルに興味をもっていただく狙いもあります。
コロナ禍で意識が変わった? 世界中にもっと「新しい香り文化」を
今はどんな香りが流行していますか?
コロナの影響で、抗菌作用が期待できる香りに人気がかなりシフトしました。今まで人気があったリラックスできる香りより「空気を浄化したい」という需要が一気に増えましたね。ホテルなどの商業施設では、ティートリーやユーカリなど抗菌・抗ウイルス作用があると言われるオイルをブレンドした香りの人気が高まりました。空気をクリーンに整える香りの機能に着目した「Clean air(クリーンエアー)」というシリーズも売れています。
実際にどんな効果が期待できるのでしょうか?
※実際の効果は、使用環境や使用方法によって異なります。 ウィルス等を抑制する機能はありますが、感染予防を保証するものではありません。
一般向けだと、どのような商品が好評でしょうか?
心と体に効くサプリメントのような効果をそなえた「Supplement air(サプリメントエアー)」というシリーズが人気です。気持ちが落ち着いたり、集中できるような香りですね。コロナ禍で在宅ワーク人口が増えたことや、家でゆっくりくつろぐ人が増えたからではないでしょうか。
アロマ業界も、コロナの影響を受けているんですね。
あとは、コロナで先行き不透明な世の中になったことにより、不眠に悩まれる方がすごく増えたみたいで。心地よい眠りを促す香りなども人気ですね。ほかにも、時代に合わせて、多様なサービスをご提供しています。近年、定番になりつつあるサブスクサービスも行っていますよ。空間を演出するための香りをデザインするセンティングデザイナーが選んだ、季節にぴったりの香りを定期的にお届けしています。
アロマで季節を感じられるサービス、素敵ですね!
実店舗でも同じ商品を取り扱ってますので、そちらで香りをお試しいただけますよ。店舗でオリジナルアロマを制作できる「アロマオイルブレンダー®」サービスは Web版もあります。サイト上で作成したオリジナルアロマのレシピナンバーを店頭にお持ちいただくと、オリジナルアロマを噴霧で体感できたり、その場で購入したりすることもできます。
頭上からブレンドされた香りが噴射される。
店舗でレシピを作る場合は、アロマに関する専門資格を取得したスタッフと一緒に天然エッセンシャルオイルを使って、お好みや使用シーンに合わせてお好きな香りと「配合」を選択し、オーダーメイドで自分だけのオリジナルブレンドを作ることができます。
今後、アロマの需要は更に高まると思いますか?
アロマ市場規模は年々拡大していて、日本産の精油の需要も高まっています。もっと気軽かつ便利に香りを楽しめる装置を開発すれば、アロマオイルに興味をもってくださる方は更に増えると考えています。たとえば、家に帰ってきた瞬間に部屋をアロマの香りで充満させられる装置や、体調に合わせて自動的に調合してくれる装置など……。一般家庭に適したサイズでの商品化を目指したいですね。
最後に、大学生や若い世代にメッセージをお願いします!
大学生に限らず、学生のうちはお金を払って、教育を受ける立場ですよね。それが、社会人になった途端にお金をもらう側に逆転するわけです。しかも社会人になると、働くと同時に学びを増やすことも要求されます。責任感も持たなければいけません。はじめのうちは戸惑うこともたくさんあると思いますが、切り替えのスイッチをうまく使いこなして、立派な社会人になれるよう頑張ってほしいです。
片岡社長、ありがとうございました!
対談を終えた時國さんの感想は?
今回のインタビューで、片岡社長のお話から「つねに挑戦する姿勢」が大切だということを学びました。世界でもめずらしい、100%自然素材のアロマオイルの開発に尽力したり、大学時代に多数のアルバイトを通して、いろんな職業を知ろうとされていたお話から、何事にも臆せず挑戦する姿勢が、今のアットアロマを作り出したのだと感じました。
アットアロマがアロマオイルの草分け的企業に成長した原動力は「優れた材料で作る良質な香りを、お客さまに届けたい」という、片岡社長の強い信念なのだと思います。来年から社会人になる私も、挑戦する姿勢や自分の信念を大切にしながら、仕事に向き合いたいです。片岡社長、ありがとうございました!
取材・文:トミモトリエ/渡辺あや
写真:中山文子
編集:人間編集部
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