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研究・教育

2020.12.02

再生可能エネルギー「バイオコークス」って何がすごいの? 焼き芋しながら聞いてみた

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
井田民男
バイオコークス
環境保護
SDGs

近畿大学バイオコークス研究所が研究を進める次世代エネルギー「バイオコークス」。環境問題の原因となる化石燃料を使わずに、茶かす、枯れ葉、もみ殻などのバイオマスを原料として製造される、環境に配慮したバイオ固形燃料として注目を集めています。バイオコークスでエネルギー問題は解決するの? 実用化に向けた課題って? そもそも何がすごいの? 学生ライターがバイオコークス研究所・所長の井田民男先生にお話を伺いました。

近畿大学は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、今夏完全オンライン型オープンキャンパス「クローズキャンパス」を開催。その中でバイオコークス研究所が、バイオコークスを燃料とした焚き火の様子を4時間に渡って生中継するという、シュールな配信を行いました。

そんな焚き火配信の現場にKindai Picks学生ライターが直撃! バイオコークスとは何なのか? 化石燃料と比べて何が優れているのか? バイオコークスの焚き火を眺めながら、バイオコークス研究所所長の井田民男先生にお話を伺いました。

井田 民男(いだ たみお)

工学博士/近畿大学大学院総合理工学研究科 教授/バイオコークス研究所 所長

1987年、豊橋技術科学大学大学院工学研究科修士課程エネルギー工学専攻修了。2005年米国ケンタッキー州ケンタッキー大学工学部機械工学科にて在外研究。2012年バイオコークス研究所副所長に就任。近未来バイオ燃料、脳腫瘍がんなどの再生温熱療法、マイクロ燃焼科学の構築などを中心に、産官学や他学部他学科、異分野研究、さらに国際連携を推進しながら、複合領域での革新的な研究と教育に取り組んでいる。




なぜ化石燃料の代替が必要? カーボンニュートラルでゼロエミッションな燃料とは?



左:井田民男教授、中央:総合社会学部 岡島彩乃、右:国際学部 寺浦成美


寺浦成美

井田先生、今日はよろしくお願いします。早速なんですが、近大と言えば「近大マグロ」というイメージが強いため、「バイオコークス」について知らない人が多いのではと思うんです。





岡島彩乃

私も近大生ですが、実はあまり知らなくて……。そこで今回、バイオコークスを燃料にした焚き火で焼き芋をしながら先生にお話を伺いたいなと。





井田先生

焼き芋しながらですか……?





持参したさつま芋を濡らした新聞紙とアルミホイルで包む。


岡島彩乃

はい。食欲の秋なので。





井田先生

なるほど(笑)。それなら、ちょうど私たちの昼食にピザも用意しているので、一緒に焼きましょう。





寺浦成美

えっ! いいんですか!?





バイオコークスの焚き火の中にさつま芋を投入してからインタビュースタート。ピザまでご馳走になることに。


岡島彩乃

焼き芋をセッティングしたところで本題に入りましょう。





寺浦成美

まずは、バイオコークスとは何なのか教えてください。





井田先生

バイオコークスは、光合成に起因する植物由来の有機性資源(バイオマス)から製造することができる「カーボンニュートラル」な次世代バイオ固形燃料です。圧縮強度が高く1000℃以上の高温で長時間燃焼できるため、製鉄に不可欠な石炭コークスの代替燃料として使用可能で、製造時に廃棄物を出さない「ゼロエミッション燃料」なんです。



※カーボンニュートラル:二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量とが±ゼロの状態になること。

※ゼロエミッション:廃棄物を排出(エミッション)しないという意味で、1994年に国際連合大学が提唱した資源循環型社会の構築を目指す概念。


岡島彩乃

すみません、最初から難しくてついていけないんですが、そもそもなぜ石炭コークスの代替が必要なんでしょうか? あと、カーボンニュートラルとかゼロエミッションとは……?





井田先生

まず、化石燃料が及ぼす害や、なぜ炭素の循環が大事なのか……という話をしなければならないのですが、小学生向けに作ったわかりやすい紙芝居があるので、これを見てください。







寺浦成美

なるほど、化石燃料は枯渇する資源というだけでなく、使うことでCO2が増えてしまう。そのためにカーボンニュートラルであることが必要なんですね。





岡島彩乃

すごくわかりやすかったです。





井田先生

そして、バイオコークスは植物由来の廃棄物をリサイクルできるため、ゴミ問題にも貢献できます。バイオマス原料1kgからバイオコークス1kgを作ることができ(重量収率100%)、廃棄物を排出しません。製造過程で煙も蒸気も出さない環境に配慮した次世代エネルギーなんです。



バイオコークスの利活用による循環システム(炭素循環)


寺浦成美

すごい!!





3000万年を40分で!? 誰もが諦めていたバイオ固形燃料の開発に成功



岡島彩乃

井田先生は、バイオコークスの研究を始めてどれぐらい経つんですか?





井田先生

もう15年ぐらいですね。研究を始めてから5年で開発に成功して特許を取ったのですが、それが世界25カ国に広がって10年経ちます。バイオコークス研究所が創設したのは2012年です。





寺浦成美

バイオコークスの研究を始めたきっかけは何だったんでしょうか?







井田先生

そもそも、話は2002年に地球温暖化防止の取り組みとして「バイオマス・ニッポン総合戦略」というものが閣議決定されたことに遡ります……。当時、バイオ燃料の研究者は日本にほとんどいなかったんですが、「バイオマス・ニッポン総合戦略」によって多くの研究者がバイオ燃料の研究・開発に着手しました。しかし、その研究対象は液体燃料であるバイオエタノールと、有機性廃棄物などを発酵させて作るバイオガスばかりで、バイオコークスのような固形燃料の研究は誰も手を出さなかったんです。



※バイオマス・ニッポン総合戦略:化石資源由来のエネルギーや製品を、カーボンニュートラルなバイオマスで代替することを推進する総合戦略。2010年までに廃棄物系バイオマス全体の80%、未利用バイオマス全体の25%以上の活用を目指すとしていた。


岡島彩乃

それはなぜなんでしょうか?





井田先生

石炭コークスを作るための石炭は自然界で石化するのに1,000〜3,000万年もかかっていたので、当時の常識では「地球のシステムを飛び越えられるわけがない」と、研究者たちが初めから諦めていたんです。私はちょうどその頃、近畿大学に着任したんですが、まわりの研究者は既にバイオエタノールやバイオガスの研究に走り出していて、私は遅れをとっていました。そこで、誰も手を出さなかったバイオコークスの研究を始めたんです。






岡島彩乃

なるほど……。最初はみんな諦めていた研究だったんですね。





井田先生

石炭や石油のような化石資源とバイオコークスの何が違うかというと、できるまでにかかる年数が違います。そこに立っている木だって3000万年経てば石炭になりますけど、それまで人類がまだこの世に存在しているかはわかりませんよね。だから、人類のために化石資源に近いものを作ってあげる必要がある。バイオコークスがあれば、化石燃料がなくなってからも人類は生きていけるはずなんです。





寺浦成美

すごい!





緑茶、コーヒー、靴下……様々なバイオコークスの原料





岡島彩乃

バイオコークスはバイオマス(生物由来の有機性資源)から作られているということですが、具体的にはどんなものが原料になっているんでしょう?





井田先生

実物を見てもらいましょうか。これがバイオコークスですよ。





約18種類の原料から作られたバイオコークス。


寺浦成美

すごーい! たくさん種類がありますね!





井田先生

私が気に入ってるのはレモンの皮と緑茶から作られたバイオコークスですね。ちょっと嗅いでみてください。





ほんのりとレモンの酸っぱい香りを楽しむことができる。


岡島彩乃

本当だ! いい香りがします!





井田先生

緑茶のバイオコークスを使っている豊田自動織機からは、「工場内がいい香りになった!」と喜ばれました(笑)。ほかにも、バイオコークスはいろんなものから作れるんですよ。例えばコットンとか、鉛筆とか……。





寺浦成美

私、所属している団体でオーガニックコットンを作っていて、靴下ブランドのTabioさんとコラボしたりしているので、とてもコットンに興味があるんですが……。この綿の靴下のバイオコークスって、履き古しから作られてるんですか?





緑茶、エンピツ、くつした(綿)、コーヒーからできたバイコークス。


井田先生

これ、まさにTabioさんの靴下ですよ! 廃棄される予定だった靴下を回収して、それを再利用しているんです。





寺浦成美

すごい! 再利用されているんですね。





岡島彩乃

ざっと見ただけでも様々な種類のバイオコークスがありますけど、とくにバイオコークスに適している原料ってあるんですか?





井田先生

難しい話になりますが……バイオコークス製造工程において、原料の中にあるセルロース、ヘミセルロース、リグニンという高分子を分解する必要があって、この3つの成分が均等にあるものがいいんです。なので、お茶やレモンの皮、桜の葉、コーヒー豆かすはバイオコークスに適しています。あとは、竹を原料に加えるとバイオコークスの骨になって、燃料としての強度が上がることがわかっています。




リグニン、セルロース、ヘミセルロースを加熱することで架橋(ポリマー同士を連結し、物理的・化学的性質を変化)させ、高分子の縮合度を上げることにより強度と密度を上げる。


寺浦成美

コーヒー豆かすのバイオコークスは、スターバックスコーヒーと共同で作成されていたこともありましたよね。近大生の中にはスターバックスでアルバイトをしている人も多いので、興味のある人が多そうだなと思いました。





井田先生

そうですね、スターバックスで焙煎された後のコーヒー豆かすを利用して作りました。実際、コーヒー豆かすは原料として最近増えてきています。コーヒー豆からできたバイオコークスは油分が多いのが特徴です。





寺浦成美

本当だ! 触ると少しベタベタしていますね。




バイオコークス製造工程

1.充填過程

数ミリ角に粉砕した原料をシリンダー内に充填する。
2.加圧過程

ピストンにより原料を圧縮する。
3.加熱過程

圧縮した状態のまま、約200℃の加熱を30 分行う。
4.冷却過程

圧縮した状態のまま常温まで冷却し、冷却後取り出す。
※セラミックスの成形等に用いられるホットプレス法(粉体を加熱しながら圧力を加えて焼結させる)の応用。

バイオコークスは、ピザや焼き芋を焼くのにぴったり!



炎の上ではなく灰の中に埋めて、周囲温度200℃以上をキープして焼くのがポイント。


岡島彩乃

薪などと比べて、燃焼の仕方は変わるんでしょうか?





井田先生

バイオコークスは、薪などに比べると密度が高くて含水率が低いため、高い熱量で長時間安定燃焼します。なので、実は焼き芋やピザを焼くのには最適なんですよ。我々の特許で作った製造装置を購入してもらった滋賀バイオマス株式会社では、「バイオフレア」という名前で一般小売りも始まっています。12kg1500円(税別)で販売していますよ。





寺浦成美

家庭にピザ窯がある人や、キャンプ好きの人にいいですね! コンパクトなので、持ち運びもしやすいですし。





井田先生

湿らないので保存もしやすいですよ。





岡島彩乃

いいことだらけじゃないですか。





バイオコークス研究所のスタッフがピザを焼いてくれていました。


井田先生

バイオコークスで焼いたピザができあがったみたいですね。どうぞ食べてみてください。





岡島彩乃

わー、ありがとうございます!





寺浦成美

めっちゃおいしいです……。





岡島彩乃

焼き加減バッチリですね。これがバイオコークスの力!





バイオコークス研究所自慢のピザ。トマトソースも手作り。


井田先生

神戸にあるアズーリっていうピザ屋さんでも、燃料にバイオコークスが採用されているんですよ。





岡島彩乃

先生! 今度は焼き芋ができましたよ。先生も一緒に食べましょう!





井田先生

うん、おいしいですね。焼き時間もちょうどよかったんじゃないかな。





寺浦成美

おいしい〜。





焼き加減が絶妙なホクホク焼き芋。


寺浦成美

それにしても、焚き火で焼き芋をするこの光景って、すごく平和でいいですよね。





岡島彩乃

配信されていたバイオコークス燃焼動画もすごくシュールでした(笑)





バイオコークス実用化の大きな課題は法律!?





寺浦成美

それにしても、環境に優しくて、保存にも適していて、食べ物もおいしく焼いてくれるなんて……。バイオコークスはもっと実用化されるべきだと思うんですけど、やっぱりコストがかかったりするんでしょうか?





井田先生

いえいえ、実はすごく安いんですよ。





寺浦成美

えっ! それならみんなどんどん使うべきだと思うんですけど、難しいんですか?





井田先生

現在日本では、自動車会社が年間30万トンぐらいの石炭コークスを中国から購入しているんです。ビルや橋を建てるために、さらに石炭コークスを2500万トンぐらい買っていたり。もし石炭コークスをすべてバイオコークスに切り替えるとしたら、原料となるバイオマスを年間30万トン集めるのは、現状だとほぼ不可能。日本は温帯地域でバイオマスが少ないので、今はマレーシアなどから集めていますから、経済的な面はクリアできても、原料をどうやって確保するかが、実用化における課題になっていますね。



世界の石炭輸入額 国別ランキング(2019)

1位日本、23,238百万US$、2位中国、22,027百万US$、3位インド、21,104百万US$、4位韓国、14,092百万US$、5位台湾、7,900百万US$、6位ドイツ、4,557百万US$、7位オランダ、4,072百万US$、8位トルコ、3,519百万US$
日本は石炭の輸入大国であり、そのほとんどを海外からの輸入に依存している。
出典:国連貿易開発会議(UNCTAD)



寺浦成美

なるほど……。それなら、今日本ではゴミの多さが問題になっていますし、ゴミをバイオコークスに再利用するっていうのはどうでしょう?





井田先生

それが、今の法律だとできないんです。ゴミは「産業廃棄物」と「一般廃棄物」の2種類に分かれているのはご存知ですよね。例えばコーヒーメーカーがコーヒーを製造するとき、ゴミは豆かすだけなので、分別の必要がありません。しかし家庭から出る一般廃棄物には、食品もあればプラスチックもあったり、いろいろな種類のゴミが混ざっているので、分別の必要があります。法律上、「分別の必要のない産業廃棄物ならバイオコークスに再利用してもいい」ということにはなっているんですが、一般廃棄物は市町村が処理しなければならないと決まっているんです。せっかく各家庭で分別していても、今の法律では再利用できないという……。何とかしたいところなんですけどね。





岡島彩乃

大量のゴミが問題になっているのに、それをリサイクルするのは法律上許されないことなんですね……。





井田先生

一般廃棄物を使って悪さをした人が、過去にたくさんいたせいなんですけどね。それでも今、少しずつ環境省が規制を緩めてくれているところではあります。あとは、世界で実用化するためには現状の装置だけでは賄っていけないので、改良しなければなりません。そのためには大学だけでなく、国やメーカーの協力が不可欠です。





化石燃料の争奪戦を、バイオコークスが食い止める!?





岡島彩乃

バイオコークスの研究者として、今後の目標などはありますか?





井田先生

これから研究者が向かうべき道を示して、後に託そうかなと思っています。バイオコークスの基本的な原料は食品ロスなんですよ。食品ロスは日本だけでなく世界的な問題になっていますが、そこに汚泥資源を加えれば、かなりの原料が得られるはず。今は、そこから作ったバイオコークスを200年ほど長期保存できるような技術を目指していて、化石資源がなくなっても何とかみんなが生きていけるビジョンを描いています。「長期備蓄型再生可能エネルギー」と呼んでいますが、それが完成すれば、私の仕事も終わりかなと。





寺浦成美

近い未来に資源が枯渇するとなると争奪戦が起こりそうですが、バイオコークスが解決してくれるかもしれませんね。そう考えると、平和につながる存在かも。





井田先生

実は今、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やヨルダン大学、JICA(国際協力機構)と提携して、ヨルダンの難民キャンプにバイオコークスを供給することを進めているんです。熱を電気に変えて、機械を動かす燃料として使用される予定で、ストーブや携帯電話の充電などに役立ちます。以前に、難民キャンプに服を寄付したところ、現地の人はそれを使用せず販売していた……ということがあったので、「古着をバイオコークスにして、資源として支援しよう」ということになったんです。





寺浦成美

そんな背景があったんですね……!





バイオコークス研究所のみなさんと一緒に記念撮影。


岡島彩乃

色々勉強になりました!最後にこの記事の読者に向けてメッセージをお願いします!





井田先生

色々なことに興味を持って、勇気を出して一歩踏み出してください。不思議な出会いやチャンスが訪れます。私のこの研究は、スタートがまわりより遅れていたので、初めは相手にされていなかったりもしたけど、「絶対この道の先に答えがある」って信じて取り組んできましたから。その結果、バイオコークスの研究をしているのは近畿大学だけですからね。ナンバーワンじゃなくてオンリーワンの研究に発展しています!





岡島彩乃

自分を信じて進むことが実を結ぶんですね。





寺浦成美

今日は本当に学ぶことが多かったです。先生、ありがとうございました!





まとめ


今や私たちの生活に欠かせなくなった、電気やガスなどのエネルギー。しかしその燃料となっている石油や石炭などの資源は環境に地球環境に負担をかけているだけでなく、近い未来に供給が追いつかなくなることがわかっています。

植物や、私たちの日常で生まれる廃棄物をエネルギーに蘇らせるバイオコークスは、そんな未来の救世主となるかもしれません。近大バイオコークスの発展に、これからも目が離せません!


取材・構成:トミモトリエ
文:藤間紗花
企画・編集:人間編集部

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