2020.05.22
オンライン授業はじまってどう?先生と学生に現状や課題点を聞いた
- Kindai Picks編集部
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5月11日からオンライン授業が始まり、約2週間が過ぎました。ビデオ会議ツールに不慣れな先生も得意な先生も、試行錯誤をしながら授業をつくっています。実際にオンライン授業が始まってみて、先生方にはどんな発見や課題が見つかったのでしょうか?
オンライン授業開始前にインタビューをした、国際学部・柴田先生と、経営学部・熊谷先生に「オンライン授業はじまってどうですか?」と現状をインタビュー。また、学生の目線でもオンライン授業のいいところ、改善点を話し合ってみました。
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多少は慣れても解決できない部分にまだ狼狽することも
柴田 直治(しばた なおじ)
国際学部 国際学科 グローバル専攻 教授
ジャーナリスト。元朝日新聞記者でマニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任。ハフィントンポストWEBサイトなど執筆記事多数。著書に「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」(めこん)など。
経営学部商学科 3年の山本夏香です。前回はありがとうございました。今日もよろしくお願いします。早速ですが、前回の取材時と比べると、格段に先生の画面が見やすくなったような気がするのですが……?
ありがとうございます。前回はゼミ室にあるテーブルを使用していたのですが、授業での見やすさを考えて、高さが調整できるPC台を導入してみました。私、顔が大きいんですが、PC台のおかげで見やすくなったかなあと思います(笑)。
左が前回取材時。右がPC台を使用したもの。
画角が違うとこんなに見やすさが違うものなんですね。それに、ヘッドセットも導入されたんですね!音声が聞き取りやすくなりました。
柴田先生が使用するPC台とヘッドセット。
それはよかったです。まだまだ慣れないことも多いのですが、できることから少しずつ改良しています。
先生はオンライン授業に不安を感じていらっしゃいましたが、はじまって1週間と少し、授業開始してみて、いかがですか?
私にとっては艱難辛苦(かんなんしんく)でした。Zoom自体には多少慣れましたが、スムーズに対応できないこともまだあり狼狽することもたくさんあります。なんせ私、もう60を過ぎていますから……(笑)。
確かに長年ずっと対面式の授業でやってきた、大ベテランの先生方は合わせるのが大変そうです……。
学生も、対応できている人とできていない人の差がありますね。「音声が聞こえません!」とか「ラグがあります!」といったコメントがZoomのチャットにつくことがあるのですが、正直申し上げて学生側の通信環境が影響している部分も多いですね。なるべく早く学生全員のネット環境が整備されればいいなと思います。
なるほど……。先生はZoomを使った双方向性の授業を行なっていますよね。具体的に、どういった教え方をされているのでしょうか。
Zoomを使って話すのは40分程度、他はパワーポイントで作成した資料を学生に配布して、こちらで事前に録画した解説を見ながら学習してもらっています。本当は板書しているところなども含めて90分すべてZoomを使いたいのですが、通信容量が多くなってしまうことや、画面を見続けることは学生たちの目に負担を与えてしまうので、難しいところですね。
そうですね……。途中で見られなくなっても大変ですし。
ただ、映像データも決して軽い訳ではないんですよね。20分で100MBくらいにはなってしまうので、現在はそれを圧縮したものを配布しています。圧縮するとデータは軽くなる分、音声や画像が荒くなってしまうので、逐一学生にはスムーズに聞こえるかどうかを確認しながら行っていますね。
オンライン授業は学生にとってメリットもデメリットもある
先生はもちろん大変ですが、学生にとってオンライン授業はメリットもあるなと感じていて。私は一人暮らしなので、家事と学習を両立しやすいのが嬉しいです。
通学時間がなくなるというのは学生にとって大きなメリットですよね。山本さんは家事の時間と学習を両立できるというポジティブな意見ですが、中には通学時間がなくなったせいで授業開始ギリギリまで布団の中にいて、生活リズムが乱れ続けてしまっている学生の声も聞いています。
なるほど。通学時間があるおかげできちんと朝起きるルーティーンをつくっていた学生もいる訳ですね。
また、これも難しいところですが、教室で出席を取らなくなったので、レポート課題の提出をもって出席とする授業も増えましたよね。それに伴って、学生たちが課題に圧迫されているという話も耳にします。
確かに。3年生までは比較的授業が忙しいので課題ばかりになるのは大変です。
オンデマンド型の授業は時間にとらわれずに学習ができる反面、授業動画を見て学習したかどうかの判断は課題提出が必須になりますよね。双方向型授業も、Zoom自体はアカウント名を視聴者側が任意で変えられるので、その特徴に対応した出席の取り方が必要です。
何事もそうですが、いい面と悪い面はそれぞれあるなと感じますね。
また、対面で会えないので充実感に乏しい学生は多いんじゃないかなと思います。とくに1年生は知り合いも少ないでしょうし、どれだけ魅力的なオンライン授業をする先生がいらっしゃっても、顔を合わせることでしか得られないものはやはりあるでしょうね。
ゲスト講師の呼びやすさなど、対面授業に戻っても取り入れたい要素はある
対面授業になったら、先生はオンラインでの学習環境はどう生かす予定でしょうか?
そうですね、遠方から通っている学生などは、対面授業がはじまってもオンラインで遠隔学習をする方がいい場合もあると思います。キャンパスが開放されたとしても、新型コロナ流行の前のようにはならないでしょう。たとえば教室で授業を行いつつ、傍らでカメラを回しておいて、それを遠隔学習用に使うなどの可能性はあるでしょうね。
オンライン授業で得たものをどう生かすかは、今後、自粛が解かれた大学でとても重要だと思います。
私は授業の中で、過去に何度かゲスト講師を招いて登壇していただいていたのですが、これをZoomで行うことは構想の中にあります。海外在住の方などでも、コストを気にすることなくお願いができますから。せっかく大きな変革が起きたのだから、変革後にどういった図を描くのが学生や世の中にとってベターか、思考しながら進めていく必要はあるでしょうね。
柴田先生、ありがとうございました!
YouTubeで学習動画を配信、課題に取り組んでもらうスタイルが確立
熊谷 哲哉(くまがい てつや)
経営学部 教養・基礎教育部門准教授
ドイツ文学を専門とし、第二外国語としてドイツ語の授業を担当している。著書に「ミニマムドイツ語(朝日出版社)」、「言語と狂気―シュレーバーと世紀転換期ドイツ(水声社)」など。
今日はよろしくお願いします。先生はオンデマンド型の授業を予定されていましたよね。
そうですね、YouTubeで授業の動画を作り、公開範囲を学生たち限定して公開しています。それを見て学習してもらい、課題を与えて取り組んでもらっています。
学生の皆さんは、スムーズに授業に取り組みはじめられたのでしょうか。
授業開始にあたり、Youtubeの公開動画で「Googleクラスルームの使い方」と「ドイツ語をPC入力する方法」を公開して、見てもらうようにしました。ドイツ語は英語にない文字もあるので、それをどうやってタイピングするか知っておく必要があるなと思って。
そうか。今までは紙にペンで書いていましたもんね。でも、今後ドイツ語を学んだ学生たちがドイツ語を活用するとしても、タイピングでの入力が主になると思いますし、逆に現代のライフスタイルに合っていてよいのかも……?
そうかもしれませんね(笑)。
授業動画の製作で気をつけていることはありますか?
普通、大学の授業は90分ですよね。授業動画は各個人でいつでも好きなタイミングで見られるため時間の縛りはあまりないのですが、授業の動画は長くても30〜40分くらいに留めるようにしています。
あまり長いと学生たちの集中力も続かないですもんね。
また、動画の中にも作業時間を設けています。一時停止して、手を動かしてもらう時間ですね。これを動画内に設けることで、メリハリが出るのではないかなと。
通信料の負担も軽減されるので、まだネット環境が整っていない学生にもありがたいですね。課題の提出はどんな風にされていますか?
WordファイルやGoogleドキュメントなど、こちらが確認できるものであれば自由です。もちろん、課題を書いたノートを写真に撮って送ってくれるものでも。授業の反応や課題を見る限りですが、学生たちはとても柔軟に対応してくれていると感じますね。
授業動画製作には様々な機材を使用
上の動画は現在授業で使っているものなのですが、編集や撮影などだいぶ工夫しています。
以前見せていただいた「授業動画の作り方」の動画よりも、クオリティが上がっている気がします。テロップのつけ方にも技術の向上を感じる……!
ありがとうございます。最初は動画編集アプリの「iMovie」で製作していたんですが、やっているうちに、もっと動画を作り込んでいきたい気持ちが芽生えて、いまはよりプロ向けのソフトウェアである「Final Cut Pro」を使用しています。
ソフト以外にも、撮影にはどんな機材を使っていますか?
液晶が180度可動するバリアングルモニターを搭載した「LUMIX DC-G9」
もともと持っていた一眼レフに三脚とマイクを取り付けて撮影しています。マイクはこのオンライン授業開始にあたって新しく購入しました。バリアングルモニター」が搭載されているので、自分で映った画面を確認しながら撮影できるところが便利ですね。
なるほど!カメラ自体はお持ちの先生も多いでしょうし、この機会に動画撮影にチャレンジするのはすごくいいですね。
あと「富士フイルム FUJIFILM X-H1」も所持しています。こちらはバリアングルモニターではないので、画角を調整してから撮影する必要がありますが、画質はこちらの方が綺麗ですね。
カメラでの撮影も覚えたので、前回お話ししていたiPadの画面録画機能を使って、板書にあたる内容をメモアプリで書きつつ、カメラに向かって解説をおこなう私を撮影して、2つの動画を1つの画面に編集しています。
私もiPad持っています!授業の資料がPDFで送られてくることもあるので、データに別売りのペンで直接書き込みできるiPadがとても便利です。
iPadは便利ですよね。僕の授業で最も必要なツールです。画面録画機能は非常に役に立つ機能なので、他の先生方にもおすすめです。
今後はリアルタイムでコミュニケーションが取れるツールも導入したい
今後の課題はなにかありますか?
動画配信の方がいいです!と評価してもらうこともあるのですが、やはり学生とリアルタイムでのコミュニケーションを取れないところに今後の改善点があるかなと思います。対面式での授業の頃は、クラスの人数に応じて進め方やペースを調整していましたが、今学生一人ひとりがどんな状況なのか、隅々まで判断ができる状況ではないのが正直なところですね。オフィスアワー的な時間をWeb上に設けるとか、YouTubeでのリアルタイム配信も考えています。
YouTube配信ですか!確かにチャット機能があるので便利かもしれない。
オンライン授業にしかない利便性もありますから、もし対面式の授業が復活しても、授業のどこかでオンラインで学習ができる要素は残ると考えています。何事もやってみて改善点が見つかりますし、今後もいろいろと試してみようとは思いますね。
どんどん新しい授業の可能性が見えてきて楽しみです。熊谷先生ありがとうございました!
学生はオンライン授業をどう感じている?
最後に、オンライン授業を学生はどう感じているかも聞いてみました。
総合社会学部社会マスメディア系専攻3年生の岡島さんにも話を聞きました。
今日はよろしくお願いします。岡島さんは、オンライン授業をどうお考えですか?
よろしくお願いします。私はかなりオンライン授業をポジティブに捉えていますね。もともと私、聴覚が過敏で小さな音がすごく気になるんです。教室でコソコソ学生が私語をしていると、せっかく授業を聞いていても気が散ってストレスだったので、集中して授業を受けられる点はすごくいいなと思っています。
私もオンライン授業にはおおむね満足しているんですよね。一人暮らしなので、家事の時間をしっかり取れるのはありがたいなと思って。
私は実家ですが、家事の時間を取れるようになったというのはわかります。親が日中働きに出ているので、手伝いができるようになりました。なんにせよ、時間を有効活用できている感はありますね。
ちなみに個人的な興味で、SNSを使って近大生を含むいろんな学生に「オンライン授業どうですか?」とアンケートをとったんです。
へえー!すごい!
結果は、オンライン授業をポジティブに捉えている人、ネガティブに捉えている人が半々でした。大学の対応速度・学生側の通信環境や学習意欲など、回答にはいろんな背景が絡み合っていると思いますが、全体としては一長一短なのかと思いますね。
学生が感じるオンライン授業の良い点・悪い点
ポジティブな面でいうと、オンライン授業のおかげで勉強しやすくなったという学生はいるでしょうね。
そうですね。そもそも、いろんな特性を持つ人たちがひとつの場所に集まらないといけない授業環境に、個人的に疑問を抱いていました。私のように聴覚が過敏なタイプや、不特定多数の中で発言するのが難しい人もいます。そういった人は、チャットで個別質問ができるオンライン授業の方がいいのかなと思います。
私も閲覧者が指定できるZoomチャットの「限定コメント」はけっこう活用していますね。また、画面を通じてのコミュニケーションは対面と違って対等な感じがあるというか……。
ネガティブな部分でいうと、一部の学生が荒らし行為をすることでしょうか。200人以上が集まる大きな授業だと、学習意欲の低い学生もどうしても出てきてしまうでしょうし。
あ〜、それは……ありますよね。Zoomにリアルタイムで画面にコメントを流せる「パパパコメント」機能を導入された授業で、授業とは関係のないコメントを流す学生とか。
わざとなのか何なのかわからないんですが、ゲームの音楽が後ろで流れているのにミュートを解除し続ける学生とか……。もちろん勉強に励むだけが大学の楽しみ方ではないですし、オンライン上ではどうしても集中できない学生もいると思うんです。でもだからといって、授業の進行を妨げていいものではないですし。単純に、他の人がどう思っているか想像力が希薄なのかもしれません。
なるほど……。
あとは、私はどうしても先生の方を心配してしまいますね。新型コロナウイルスによってWebのリテラシーの高低関係なく、強制的にオンラインで授業を実施せざるを得ない状況になった。必死に授業を作っている先生に対して、個人を特定できないアカウントからイタズラなどは、本当に心が疲弊してしまうだろうなと。
正直そこまで気を回していませんでしたが、確かにそうですね。
全学生に対してメディアリテラシーを学ぶ授業を行うとか、もしかしたら同じ授業項目でも学力や学習意欲に準じたクラス分けがあってもいいのかもしれません。現状のオンライン授業は、一人でも自主的に学習ができる子だけが伸びる環境です。そこを授業そのものの構造や、私たち学生の意識を変えることで全体のボトムアップができるのではないかな。
他の大学に比べて、近畿大学はオンライン授業の環境が整っています。難しいことかもしれませんが、いろんな価値観を持つ全ての学生の学びに繋がるようなオンライン授業へと発展できるといいですね。今日はありがとうございました!
(おわり)
取材・文:平山靖子(おかん)
企画・編集:人間編集部
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