2020.04.22
【コロナ自粛】通常授業と遜色なく学べるって本当?準備が進むオンライン講義について、先生に聞いてみた
- Kindai Picks編集部
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新型コロナウイルス感染症拡大の影響が社会に広がるなか、近畿大学ではWEBミーティングツール「Zoom」を使って、全ての授業をオンライン化することに。学生の健康と学修環境を守るための新しいチャレンジに向けて、教員たちはどんな準備を進めているのか? 学生たちは何をすればいいのか? 在学生の不安に思っていることを、学生代表として、Kindai Picks学生ライターが先生に全てぶつけてきました。
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江口 充(えぐち みつる)
近畿大学副学長補佐・農学部長・教授
教育改革推進センター長
1982年京都大学農学部を卒業。1985年より近畿大学に奉職。養殖などの人間活動が海や河川・湖沼に与える影響を水質学、物質循環学、微生物生態学の観点から研究する。クロマグロ養殖とサンゴの共存・共栄、干潟の水質浄化力、微細藻類と海洋細菌の有効利用などが主な研究テーマ。授業のオンライン化により発足した、メディア授業ワーキンググループのリーダーも務めている。
休校期間中、教員はオンライン授業の準備に奮闘?
こんにちは、総合社会学部3年のKindai Picks学生ライター堀内菜摘です!今日は、メディア授業ワーキンググループのリーダーをされていらっしゃる先生に学生を代表して質問し、学生が抱くオンライン授業に対する不安を少しでも解消できればいいなと思っています!宜しくお願いします。
「何も心配ないやん!」と、思ってもらえるように頑張ります。宜しくお願いします。
早速なんですが、大学の授業の「オンライン化」って、どのようにするんですか?
そもそも「Zoom」ってなんですか? という学生も少なくないと思いますので、説明してもらってもいいでしょうか?
ああ、そうですよね。「Zoom」はアメリカで開発されたWEB会議用のアプリです。「100人以上で通信できるテレビ電話」だと思ってください。ファイルの送信や画面共有も出来るので、授業の課題やスライドもみなさんの画面に見せることも可能です。それを使って、教員から学生へと授業を配信するイメージです。
なるほど!テレビ電話みたいなもの……「Zoom」は40分でミーティングが終わってしまうと聞きましたがそれは大丈夫なのでしょうか?
近大は、ミーティングのホスト役となる全教員に有償のエデュケーションプランアカウントを配布しています。そのため、オンライン授業の場合は時間が無制限になります。ちなみに、一つのミーティングに300人まで参加可能です。
今回の取材にも「Zoom」を使用。互いの映像やパソコンの画面を共有しながら、通話することができる。
全教員ということは、きっと結構な金額ですよね……。ちなみにオンライン授業では学生も顔を表示しないといけないですか?
私の場合は必ずしも表示しなくてもいいようにします。プライベートな自室が表示されるのも困る人もいるでしょうし。そういう場合は近大から提供しているオンライン授業用のバーチャル背景を使用できますし、ビデオの機能をオフにしても構いません。出席は他の方法で取れるので問題ありません。
ちなみに、先生方って週に何コマくらい担当されているのですか?
1週間で数えると、私は10コマ以上あります。
けっこう多いですね。
私の場合は、授業の前後にそれぞれ1〜2時間準備や提出物のチェックもしていますが、今はオンライン授業の準備もあるので大変ですよ。私はこのために作られたワーキンググループのリーダーなので、授業のオンライン化にあたってのルール作りや、教員への周知。学生にどうやって「Zoom」の使い方を教えるか……なども考えているから、本当に時間がなくて。
大学の先生ってもっと悠々自適なのかと思っていました……。オンライン化に向けて、大変な準備をしてくださっていたんですね……
私だけではなく、全教員がかなりの時間と労力をかけていると思います。
オンライン授業と、学生へのサポート
「Zoom」のオンライン授業は、どうすれば受けられますか?
学内掲示板の「UNIPA(ユニパ)」にも詳細の案内が出ますが、基本は各講義ごとに毎回新しいオンライン授業のURLが告知され、そこにアクセスする形になります。URLの告知については、各講義ごとの指示に従ってください。
ちなみに、「Zoom」はパソコンからじゃないとアクセスできないのでしょうか? きっと新入生の中には、まだパソコンを持っていないという人もいると思います。
もしPCを持っていないという学生さんであれば、PCに比べると不便さは付きまといますが「Zoom」のアプリをダウンロードしたスマートフォンからも受講することができます。ただ、これからの時代は個人のPCが必要不可欠になってくるので、この機会に購入することをおすすめしたいですね
なるほど。パソコンが苦手な学生にとっては、少しだけ不安かもしれません。
そこは安心してください。大学ではそういった不安を抱える学生の相談には、まず所属する学部の担任の先生やゼミ・研究室の先生が対応することにしています。もし先生方で分からない技術的な接続トラブル等の問題が生じたときは、4月20日〜5月30日までの期間は、電話でも技術的な相談を受け付けています。この電話窓口は非常にか細いライフラインです。学生が頼りにする先としては、所属学部の教員が最も確実です。
近畿大学ICT授業支援センター TEL:(06)4307-4301
〈営業日:月~金 8:30~18:15 / 土 8:30~12:15 ※日曜祝祭日を除く〉
〈設置期間:4月20日~5月30日〉
よかった!もし困ったらまず先生に相談し、それでも分からない時にはここに電話したらいいんですね。
はい。今はまだ明言できませんが、これから先、緊急事態宣言の解除を前提に、「3密」対策を徹底した上での学内施設のPC利用などについても、状況を見ながら検討します。
いろんな学生へのサポート体制も、準備されているんですね。講義資料などはどのように準備されるんでしょうか?
これも、各講義の指定された場所からダウンロードしてもらう形になります。実はこの「講義資料をダウンロードできる」というのは、画期的なことなんですよ。
というと……?
画面越しに、講義資料についての書類を見せてくれる江口先生
大学の授業で使用する講義資料は、論文や書籍から図や論拠を引用するケースが多いんです。対面式の授業で紙への印刷であれば、著作権に触れずに使用可能。しかし、WEB上に無許可でアップロードしてはいけないと法律で決まっていました。だから利用者と利用目的に制限が多かったんです。しかし、今起こっている未曾有の事態への対応として、教育機関は小中高大問わずオンライン授業を余儀なくされているわけです。そのため、2020年度限定という特例措置がなされました。
引用:文化庁公式サイト
上の資料にあるように著作権法35条が改正され、オンライン授業の配布資料に論文などを引用できることになったんです。これで、教室での講義と同じ濃密な授業をすることができます。2020年度の特例として、講義資料のインターネット配信も、無償で行うことが可能になりました。
オンライン授業ができるように、制度も柔軟に対応されているんですね。
オンライン授業のメリットとは……?
かなりオンライン授業のイメージが掴めてきたんですが、やっぱり「オンライン化できない授業」というのもあると思うんです。
確かに、実験やフィールドワークを伴う授業をオンラインだけで行うのは難しいですね。ただ、実験科目については、実験=作業と思われるかもしれませんが、実は実験の理論や背景をシッカリと理解しておくことがとても重要です。実際、実験科目ではその説明に相当時間を割きます。スポーツでいうイメージトレーニングと同じで、この部分をオンライン授業で徹底的に行っておくと、手を動かす作業自体は本当に短時間で済ませることができますので、理論や背景をオンライン授業で事前に行い、緊急事態宣言の状況に応じて、実施時期を調整することになります。
いずれにしても緊急事態宣言により学生のみなさんが不利益を被ることのないように対処します。
ちなみに、オンライン授業がベースになることで、進級の妨げになることはないんでしょうか……?
学生のみなさんは、それも心配ですよね。でもその心配は無用です。
本当ですか!
ただ、補講が多くなることは覚悟しておいてください。変化する社会状況に応じて、7月、8月に補講を行うことで前期の学修を補っていくことになります。従来の補講であれば、教室の使用状況などに鑑みて、実施の日程を調整するわけですが、オンライン補講であれば、必ずしも対面の授業が必要ではなくなります。キャンパスを訪れる手間もないので、ロスのない補講が可能になるんですよ。
それは、いいですね!
先生、成績評価などもオンライン化で変わる部分はあるんでしょうか?それも、学生として気になるところです。
原則、特に変わることはありません。課題やレポートなどの提出物や、試験によって成績評価がつけられます。各科目によっても評価方法は異なるので、講義がスタートする前に必ず「UNIPA(ユニパ)」等に明記されるはずですよ。
安心しました……!
オンライン授業でクリアすべきセキュリティ面と、オンラインだからこそのメリットとは?
教員のみなさんは、すでにオンライン授業の経験はあるのでしょうか?
ある人もいれば、ない人もいると思います。ですが先日、教員に向けたオンライン授業の説明会がZoomで開催されて、そこでZoomの使い方や、学生へのサポートの仕方、Zoomの接続が切れてしまったときの対処についても、アナウンスされました。ちなみに、WEBリテラシーの高い教員はすでに仲間の教員にオンライン授業を実施する上でのノウハウなども共有し始めています。
なるほど、それなら安心ですね。「Zoom」は参加URLやパスワードを不特定多数に共有できるのが特徴なので、突然ミーティングに参加し、卑猥な画像などを画面共有する「Zoomボマー」という人たちが現れていると聞きます。
そうなんですよね。セキュリティを万全にすることはもちろんですが、学生が悪意を持ってURLなどを広めないようにも徹底していく予定です。もしもそういった人がオンライン授業に入ってきたとしても、画面共有に制限をかけた状態で授業を行うことも可能なので安心してください。
なるほど。
その他にも、毎回の授業ごとにURLとパスワードを変えること、授業開始時刻になると、「Zoom」への参加を制限できること。これは遅刻者への対応にもなりますね。
学生が授業を妨害するということも考えられませんか……?
教員側がオンライン通話のホスト(主催者)になっているので、ある程度のことは制限できます。教員のみが音声配信をオンにするということも可能です。
いろんな設定ができるんですね……!講義をオンライン配信することのメリットはありますか?
私は、オンライン授業によってより濃密な学修と、学生との双方向的なコミュニケーションができると考えています。
それはどうしてでしょうか?
例えば100人規模の大教室で授業をしていると、質問しづらいこともあるでしょう。発言を頻繁にする学生や意欲のある学生は認知しやすいですが、そうでない学生をよく知ることは難しいんです。しかし、オンラインなら学生がチャット機能を使って教員に質問を投げかけることも可能ですし、顔を見て対話することもできます。今までよりも一人ひとりに丁寧に対応することができるはずです。
チャット機能があるから、学生から教員へのコミュニケーションが気軽に取れるようになるんですね!
そうですね。このとき、ティーチングアシスタント(授業補助の大学院生)に手助けしてもらえば、授業中にチャットで寄せられた質問にオンタイムで対応することができるかもしれません。オンライン授業によってより高い品質の講義ができるかもしれないと、正直ワクワクしているくらいです。
よかったです……! それから気になるのは、授業のオンライン化によって、大学側から学生への連絡事項が増えるのではないかと思っています。メールを使うのが苦手なので、全部きちんと確認できるか不安です。
大学からの授業関連の連絡は、全てメールで届きます。出欠確認も入学時に大学から付与されたメールアドレスを使うことでスムーズに進みますし、いずれ始まる就職活動などでも必須となる、メールをきちんと確認することに慣れてほしいと願います。
ただ、メールだと見逃しやすい、という声も最近は学生からよく聞きますね。そのため近畿大学では、チャットのように気軽に情報共有ができるコミュニケーションツール「Slack」の導入も考えられているんです。すでに教員の間では、導入されているんですよ。
「Slack」ですか?
コミュニケーションツール「slack」の画面イメージ
「LINE」のようなものだと考えてください。チャットのようにメッセージが送れて、テーマごとにスレッドも立てられる。カテゴリーごとや個人宛のメッセージに対しても通知が届く。見逃しを防ぎやすいように設計されているのも、いいところですね。こうして大学側も、メールに抵抗のある学生がより情報に接しやすいよう、対策を考え続けているんです。
そこまで考えてくれていたんですね。正直、大学の授業が全てオンラインになるなんて初めてのことなので、不安がありました。
初めてのことなので、仕方がないと思います。不安な学生さんたちにお伝えしたいのは、「心配するな、大丈夫、なんとかなる」ということです。これはかの有名な一休和尚が言ったとされた俗説なんですが。
(一休ってとんちの……?いきなりなんの話だ……?)
室町時代の禅僧の一休さんが亡くなる前、「どうしても困ったときに、この手紙を開きなさい」と弟子に手紙を残した。そして寺にピンチが訪れたとき、手紙を開くとこの言葉が書かれていたそうです。私はこれに一言足して、「心配するな、大丈夫、なんとかなる。今よりも頑張って良くします」と学生の皆さんにお伝えしたい。
オンライン授業以外にも不安ばかりだったので、今日は少しだけ安心できました。自宅で受ける授業も、楽しみにしています!
(おわり)
取材・文:乾隼人
企画・編集:人間編集部
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