2020.02.13
はあちゅうは「血液クレンジング」を忘れてなかった!医学的根拠・拡散の罪を専門家にインタビュー
- Kindai Picks編集部
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2019年、SNSで大炎上したトンデモ医療「血液クレンジング」。健康効果が“ほぼ無い”どころか命への危険性があるにも関わらず、インフルエンサー達がSNSで拡散していたことで話題を呼びました。今回はそんな血液クレンジング騒動の渦中に居た”はあちゅう”に、「血液クレンジングはニセ医療なのか」「ニセ医療を宣伝したら罪に問われるのか」を調査してもらいました!
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(▲イメージです)
ところが2019年のある日、
「血液クレンジングは健康効果がほぼ期待できない。なんなら、命の危険性もある」との指摘がSNSに登場。
……するや否や、拡散をしたインフルエンサー達は非難の的に。なかでも、集中砲火を受けた人物がこちら。
血液クレンジングについての取材に答えました。
— はあちゅう (@ha_chu) November 3, 2019
血流が良くなり、冷え性が改善する他、あらゆる不調に効くというふれこみを当時信じて体験し、ブログにも書いてしまいましたが...
今回の件で、ニセ医療、ニセ科学が世の中に蔓延していることに気づかされました。https://t.co/044vQBLDTy
はあちゅう(@ha_chu)です。
SNSでは四方八方からバッシングされ……
メディアでは厳しく責任を追及され……
果ては、PR案件の是非まで問われ……
ていたのに皆さん!すっかり炎上を忘れていませんか?
しかしKindai Picksは、はあちゅうと血液クレンジングのことを忘れてはいません。というわけで……!
はあちゅうを近畿大学にお呼び立て。
血液クレンジングは本当に効果がないのかを医学部の先生に。
偽医療を拡散した罪には問われないのかを法学部の先生に。
編集者、オランダの帰国子女・小嶋らんだ悠香が、はあちゅう自身にインタビューをしてもらいました!
血液クレンジングは「何を言っているんだろう」という感じです
まずは近畿大学医学部にやってまいりました!お話を聞くのはこの先生。
谷山佳弘(タニヤマ ヨシヒロ)准教授 / 医学科 / 博士(医学)
谷山先生、今日はよろしくお願いいたします。私は7年前の2012年に「血液クレンジング」を医療機関で受けて、その感想をブログに書きました。しかし2019年、効果が疑わしいということがわかり、SNSが炎上しました……先生、そもそも血液クレンジングは、本当に健康効果がないのでしょうか?
私自身は血液クレンジングなるものに従事した経験がないので、伝聞した情報からの話になるのですが……私からすると全くナンセンス、効くはずがない、治療とは言えないようなものだと思います。
先生ったらバッサリ!
そもそも血液クレンジングって、何をどうしている行為なの?
「血液を100cc~200cc採って、それにオゾンを混ぜて、また体に戻す」という治療を、血液クレンジングと言っているみたいです。血液は酸素を含むと鮮やかな赤になるので、そういった見た目が大衆受けしたのかもしれません。
私は採取する血液量に疑問を感じますね。人間の血液量は体重の8%くらいです。体重60kgの人だと、5ℓ弱くらいの血液が体に流れています。その中のたった200ccを採って、それに何らかの操作を加えて体に戻す行為に効果があるはずがない、ありえないと思います。
血液を採取して再度体に戻す医療行為として「血液透析」があります。その際はどれくらいの血液を処理されるのでしょうか?
腎臓内科で行われる血液透析も、ある意味血液をきれいにするための治療法です。ただ血液透析は、毎分200㎖の血液を4時間処理します。処理量としては単純計算で48ℓ。たった200ccの血液で体を変えようとする血液クレンジングは全然的外れも甚だしい、というか「何を言っているんだろう」という感じです。
1回2万円もしたのに……。
血液クレンジングによる悪影響は?
血液クレンジングに健康効果は期待できないということですが、逆に悪影響はありますか?
あると思います。血液というものは、体の外に出すと必ず固まります。それは出血を止めるために備わっている自然な作用です。しかし仮に固まった血液を静脈に戻すと、肺の血管を詰めてしまい「肺塞栓症」という、命に関わる重篤状態に陥る可能性があります。
医療機関では血液が固まらないよう「抗凝固剤」を使用するとお伺いしたことがあります。
はい。例えば先程の血液透析では、血液を体外の透析機械で処理している間、抗凝固剤を血液に混ぜています。ただ抗凝固剤を使用すると、出血するといつまでたっても血が止まらないというケースが起こりえます。それから抗凝固剤にアレルギー反応をもっている方だと、いわゆる副作用が出る可能性もあります。血液クレンジングも「抗凝固剤」を混ぜているのだと思うんですけど、クリニックでそれらのリスク対策がされているかは疑わしいところです。
それを聞くとすごく怖い施術に思えてきますね……。
また外界はばい菌だらけなので、下手するとばい菌などがついた血液を血管に再度・直接入れるということにもなりかねません。ばい菌が原因で「敗血症」という重い感染症を起こすリスクもあります。
血液クレンジングってお医者さんだったら、ぱっと見聞きしただけで「これやばいだろ」ってすぐわかるものですか…?
はい、やばいです。
どうして偽医療はなくならないの?
なぜ健康被害があるかもしれないものを提供しているお医者さんがいるのですか?
単純にお金儲けのためだと思いますけどね。血液クレンジングは自由診療(保険外診療)で、保険が効かないはずですので。
自由診療はお医者さんが儲かるんですか?
そうです。自由診療の対にある保険医療は、医師が個人的に「この医療に対してお金をいくらとる」というのを勝手に決めることができません。誰がどこの病院で診てもらっても同じ値段で同じ医療が受けられるというのが、日本の保険医療の制度なんです。
「自由診療はそうではなくて、医者が好きに値段を決められる。だからお金目的で自由診療をする医師も増える」、ということですか?
そういう人もいるのではないかな、と個人的には思っています。
なぜそんな自由診療が認められているのでしょうか?例えば私は妊活中に、妊活に効果があるとお医者さんに勧められた10万円のマクロファージ注射というものを自由診療で打ってしまいました。まだ保険適用にはなっていない最先端医療なのだろう、と納得してしまったのですが……。
法律的な部分に関わってくるので理由は明言できないのですが、個人としては「それでも自由診療は認めるべきだ」と考えています。自由診療を一切合切禁止にしてしまうと、新しい治療法が生まれる余地もなくなってしまうと思うんです。どんな治療でも最初は誰にも処置したことがなくて、保健医療として認められるまで時間がかかります。「自由診療は絶対にダメです」としてしまうと、新しい医療が発展しなくなる可能性があります。
ただし当然のことながら、科学的妥当性・安全性あるいは倫理性が確保されていることが前提です。何でもかんでも試せば良いということにはなりません。
なるほど……では様々な医療があるなかで、信頼できる医療サービスを見抜くポイントはありますか?
大まかな判断基準としては「保険診療になっているかどうか」というのが一つの基準だと思います。保険診療は「きちんと効果がありますよ」と医学的に証明されているものが該当するんです。一方でそういう保険が全くきかないようなもの、それからテレビとかですごくコマーシャルをしているものに関しては、ちょっとどうかな。
コマーシャルをしているとつい信用してしまいそうになりますが、そういうものがダメなんですね…。
医師は「詐欺罪」、インフルエンサーは「共犯罪」
次に来たのは法学部!
「ニセ医療をサービスしてたクリニックは法的に刑罰対象にならないの?」
「ニセ医療を拡散したインフルエンサーも同罪なの?」
ということをお伺いに来ました。お話を聞くのはこの先生。
辻本典央(ツジモト ノリオ)教授 / 法学部 法律学科 / 博士(法学)
辻本先生、よろしくお願いいたします。早速ですが、血液クレンジング含め、医学的な根拠がないニセ医療をサービスしていたクリニックは、何かしら法的に罰せられる可能性はありますか?
そのクリニックが、全く医学的根拠もない・医療的効果もないということをはっきり自覚している。にも関わらず「こういう効果があるんですよ」と宣伝をして治療を行なっていたとすると、法的な責任を負うと思います。詐欺罪で、刑事責任に問われるでしょう。
法律を犯した者(犯罪者)に対して、国から罰が与えられる責任のこと。
今までに血液クレンジングを7万人の方が受けたと言われています。今後、血液クレンジングに医療的根拠がないと証明された際、受診者が集団訴訟などをできるのでしょうか??
患者さんが個人または集団で訴訟を起こして、賠償責任が認められる事案が出てくる可能性はあります。これは民事責任を問うものです。刑事責任は、先程言ったように「自分のやってることが嘘である」とクリニック機関側が認識している際に罪が成立するんですけど、民事の場合は“過失”でいいんです。
個人対個人の争いごとで、損害賠償という形でお金を支払う責任のこと。
医療機関の詐欺罪は、民間の詐欺罪よりも罪が重くなるんですか?
はい。資格を持っているということは、相手を信じさせやすい要素になります。患者さんは、「医師だから」という理由でサービスを信頼しています。だとすれば社会的な責任も大きいし、刑罰も自ずと重くなっていきます。
偽医療を拡散したインフルエンサーの法的責任はある?
今回の炎上でインフルエンサーの拡散責任も問われたので、そこについても教えて下さい。私は自腹で血液クレンジングを受けて、それをブログに書いたのですが、詐欺罪に問われますか……?
インフルエンサーさんが詐欺罪の責任を問われることは、ほとんどないと思います。仮に医療機関が詐欺罪に当たるようなことをしていたとしても、それを拡散したインフルエンサー個人が違法取引をしているわけではありません。インフルエンサーがSNSなどで発信する場合、それは医療機関の行為を助ける立場にあたるので、共犯の罪に問われる可能性がありますね。しかしそのような責任も、医療機関の側から「これは嘘なんだ。でも書いてくれ!」と言われて行動したところで、初めて問われることになります。
「医学的な根拠がないことを自覚して、医療側からもそれを説明されていた。しかもPR費も貰っていたうえで拡散した」となると、共犯の罪に問われるということですね。
はい。詐欺罪の話に限っていうと「嘘をつくことで特定の人を騙してそれでお金を使わせる。それによって広告費が入る」と、共犯の関係にあると判断されるわけです。
はあちゅうさんは今回、「お金をもらって血液クレンジングを宣伝していたのでは?」という疑いの目もかけられていましたよね?
はい。実際は、自分でお金を払って血液クレンジングを受けていたのですが……。自腹で体験をしたのは、私がもともと健康法や美容法を試すのが好きだというのと、当時勤めていた会社で美容医療を広めるお仕事をしており、「自分が売るものは、ちゃんと自分のお金で体験しなくては」という思いがあったからです。でも、「クリニック側からお金をもらっていない」ことを証明するのはすごく難しかったです。
何かしらの事実を証明できれば名誉毀損で訴訟を起こせるのですが、今回のような事実証明ができないケースだと難易度は上がります。名誉毀損で訴訟を起こすには「事案と全く関係ない・人格を傷つけるようなこと」をされ、またそれらを証明する事実が必要になりますので。
#PRは絶対に必要なの?
今、ステルスマーケティングがインターネット界で熱いトピックスになっていますが、PR表記がなくても日本では罰せられたりしないのでしょうか?
PRであることを隠してツイッターなどで拡散しても、それだけで処罰されることはありません。ただ、発言内容が現実と著しく乖離しているとか、実際の効果がどれだけなのかというところが問題になってしまうと、処罰対象になる可能性が出てきます。
つまり、PR表記は発信する人・業界が自主的にしているだけであって、法律規制は無いということですか?
はい。#PRをつける・つけないで、刑罰に明確な差がでるわけではありません。また原則は憲法によって表現の自由が保障されているるので、個人が自由に感想を述べる分には問題ないでしょう。
2019年は、ある特定コンテンツをおすすめする投稿をSNSでしたインフルエンサー達が「#PR」をつけなかったことが原因で、強いバッシングを受けるニュースが複数回ありました。でも、インフルエンサー及びインフルエンサーを管理してた事務所は、法律を犯してはいなかったんですね。
そうですね。逆にもし炎上が原因でお仕事が減ったとか、#PRを外すような指示が発注元からあったなどがあれば、民事責任を発注元に問うなどができます。
依頼主と受注側には力関係もあるので、民事訴訟はなかなか難しい課題でもありますね……。
「訴えたら、今後の仕事の依頼がなくなってしまうのでは……」という不安はありますよね。でも、これからはそういったことが起こらないように、公正取引委員会が入ってくると思います。
今は#PRに法規制はありませんが、今後はPRの文脈を含むSNS上での発言に対して、法整備などはされるのでしょうか?
血液クレンジングの例で考えると、患者さんが亡くなってしまうような事案が発生した場合、規制する方向になると思います。それはそれで考えないといけないのですが、ぼく個人としては「法律で過剰に禁止するべきではない」という意見を持っています。SNSは誰もが気軽に発信できる場所です。そこでインフルエンサーにだけ発言を禁止にするというのも違うかなと。
ただ、インフルエンサーの方々に敵が多いというのは、仕事上の大前提なんですよね。強い発信力を持っておられる方は、ある程度の批判的意見も受忍すべき立場にあるといえるでしょう。
敵は多いし、名誉毀損は難しいし、四面楚歌感ありますね……。
「インフルエンサーだから絶対に耐えなさい」と言っている訳ではありませんよ。炎上の余波が実害として現れる……例えば仕事が著しく激減してしまったとか、入院せざるを得なくなったとかになれば、それは一人の人生が傷ついたということになります。そのレベルであれば、名誉毀損ではなく営業妨害で訴えることができるでしょう。
逆にそのレベルまでいかないと、営業妨害とは言えないんですね。インフルエンサーはそういったリスクと影響力の2面を抱えた存在なのですね。
学生と日ごろ接していると、「やっぱりネットの力ってすごいなぁ」「インフルエンサーの影響力ってこんなにあるんだなぁ」と日々思うんです。だから血液クレンジングの件に関しても、「はあちゅうが書いたから、じゃあ自分がやってみよう!」となった人も少なからずいると思うんですよね。それに対して責任があるとかないとかではなく、それだけの力を持っておられる方なんだと自覚して、より慎重さが求められることも間違いないと思います。
最後に「はあちゅう、なんでこの仕事受けたん……?」
今回の取材で「血液クレンジングは効果がない」ということが改めて分かったのですが、はあちゅうさんはなぜこの企画に参加したのでしょうか……?第三者の私からすると、炎の中に自ら飛び込むような行為に見えてしまって。
これまで血液クレンジングの効果を信じて拡散していましたが、ニセ医療だという指摘があってからは、”ニセ医療の指摘があること”を徹底的に発信すべきだと思ったからです。問題発覚後に来た血液クレンジングに関する取材依頼は、炎上して自分に批判が集まるとわかっていても、全て受けているんです。それもまた「売名行為」と言われてしまいましたが……。
「血液クレンジングのような信用性の低い情報は最初から発信しない」、みたいな対応は今後されますか?
明らかに怪しいと感じるものや経験に基づかない情報発信は、これまでもこれからもしません。血液クレンジングに関しては、雑誌やテレビなどでもオススメされていてちょっとしたブームになっていたこと、また複数の医療機関で行われていたことから、冷え性などへの効果を信じていたので体験し、発信していました。
また、前提としてインフルエンサーは専門家ではありませんし、人間なので「絶対に間違わない」というのは不可能だと思います。それに加え、世間的に正しいと信じられていることを拡散しても、数年後に「実はあれ、間違ってました」と発覚するケースもあります。常に正しくあるというのは難しいですよね。
医学や技術の進歩がきっかけで新しい事実や、それに紐づく過去の間違いがわかることは多々ありますもんね。そういったときに、インフルエンサーだけを責めるのは違うかもしれません。
ただ、たとえ専門家でなくても、間違ったことを発信してしまったと分かったら、自分の声で「あの情報は間違っていました」と謝り、訂正情報を広めることが大切だと個人的には思っています。訂正情報を広めるのにも、インフルエンサーの拡散力は有効だと思っています。
今後、発信する際の表現面で心がけようと思われていることはありますか?
例えばある特定商品を紹介するならば良い面も悪い面も、きちんと伝えることを日々心がけています。子供の遊具ひとつとっても、紹介するときは「こういうメリットを感じて私は使っているけれど、こういったデメリットの指摘もあります」と両論併記をしています。
最近は謝罪に出てきた人だけが集中砲火を受ける傾向もありますよね。血液クレンジングしかり、ペニーオークションしかり。それでも今後も、矢面に立って過ちを認め、謝罪し、正しい情報を発信するスタンスを貫かれる覚悟はありますか?
はい。誤って広めてしまったことの訂正情報の発信は、インフルエンサーの責任です。一時的につらい立場になったとしても、フォロワーさんに対して誠実な態度を取ることは、長い目で見たら信用につながると思っています。
ただ、インフルエンサーの影響力を悪用しようとする人がいるのも事実です。そして、ステマが常態化していることにより、情報の受け取り手としての難しさも感じています。そこに対して、インフルエンサーと受け取り手の共通ルールの設定の必要性は感じています。
「情報発信の際、○○をするのはNG」みたいな、発信側・受信側双方に認知されたルールですね。たしかにルールがあれば、発信する側はやってはいけないことがわかるし、受け取る側は指摘(批判)ポイントが分かるようになりますね。そうすれば情報を発信する側・受け取る側のコミュニケーションがより健康なものになりそう。そうやって、ゆっくりと炎上の質が変わっていくといいですね。
インタビューした人
はあちゅう(@ha_chu)
ブロガー・作家。慶應義塾大学法学部卒。電通コピーライター、トレンダーズを経てフリーに。2018年6月にAV男優・しみけん氏と事実婚、2019年9月に第一子出産。イラストエッセイ「旦那観察日記」が好評。最新刊「じゃない、幸せ。」が発売中。
この記事を書いた人
らんだ( 小嶋悠香 )
オランダの帰国子女。グルメ雑誌の編集を経て、デジタルコンテンツディレクターや編集者、ライターをしています。ピンクのロングヘアーを見かけたら、それはあらかたランダちゃん。お笑いと漫画を愛しています。
Twitter:@0919randa_work
Instagram:@randa0919
取材・文・編集:小嶋らんだ悠香
写真:野口寛彰(野口寫眞舘)
企画:KindaiPicks / PLAN-B
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