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雑学・コラム

2019.12.23

長瀬駅の注意喚起アナウンスがKINDAI GIRLSの声に!近鉄職員による試行錯誤の混雑対策

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
鉄道
長瀬駅
KINDAI
GIRLS

近畿大学の最寄り駅であり、多くの近大生が利用する近畿日本鉄道(通称「近鉄」)大阪線長瀬駅。1日約3万人が乗り降りするこの駅に「KINDAI GIRLS」を起用した放送が登場しました。思わず耳を傾けてしまうこの放送は何がきっかけで生み出されたのか、長瀬駅の管理を行う布施駅駅長の澤井良春さんに聞いてみました。すると、長瀬駅をめぐる近鉄の数々の対策が明らかに……

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こんにちは、総合社会学部2年生の浅野 圭佑(あさの けいすけ)です。

駅の放送は会社、路線、駅によってさまざま。中には他では聞けない、駅独特の放送もあります。

そんな中、近畿大学の最寄り駅である長瀬駅で2019年11月から始まったのは、現役近大生のアイドルユニット「KINDAI GIRLS」のメンバーの声が採用された構内アナウンス。大学の最寄り駅とはいえ、大学生とのコラボで、更にはアイドルの声による構内アナウンスって一体どういうこと!? ということで、実際に調べてみました。


駅構内アナウンスとはどういうものなのか


駅構内のアナウンスは、大きく分けると「入線放送」「到着放送」「発車放送」「次発放送」「啓発放送」「広告放送」の6つで構成されています。


1日に数百本の電車が行き交う大きな駅では案内のわかりやすさと正確性が必要不可欠。特に同じ見た目の車両がさまざまな運用でやってくる近鉄では正しい案内はますます重要になる。

例として近鉄大阪難波駅の放送を挙げてみます。

1番のりばに、大和西大寺いき快速急行が6両編成でまいります。」と流れるのが入線放送、「大阪難波、難波です。近鉄電車をご利用いただきありがとうございました。お忘れ物の無いようにご注意ください。」というのが到着放送、「2番のりばから大和西大寺いき区間準急が発車します。」というのが発車放送。更に近鉄であまり聞くことはありませんが「次に、3番のりばにまいります電車は、尼崎いき快速急行です。」と流れるのが次発放送です。

これらの電車の案内放送に加えて、電車がいない、もしくは長時間停車する場合に「駅構内は終日禁煙です。」というような啓発放送や「伊勢志摩へは近鉄で、詳しくは駅のパンフレットをご覧ください。」といった広告放送が流れるようになっています。

なお、一般的に何か外部団体の放送を行う場合は広告放送という扱いになっています。事業者によっては電車内の案内放送の声を広告用のコラボ仕様に変えるといった方法をとる場合もあります。

近鉄の場合、流れる外部放送はすべて「広告放送」にあたり、加えてその広告放送も近鉄グループの放送がほとんど。

ただし、今回のKINDAI GIRLSとのコラボ放送は外部団体の「啓発放送」にあたり、かなり珍しいものです。


実際に聞きに行ってみる



左が国際学部4年生の布川 夏帆さん、右が薬学部4年生の中屋 美咲さん。男子校上がりの私は同世代の女性が非常に不慣れ、正直かなり緊張した。

実際に声を担当したKINDAI GIRLSのメンバーと一緒に放送を聞くために長瀬駅へ。

今回同行してくれたのは、国際学部4年生の布川 夏帆(ふかわ かほ)さんと、薬学部4年生の中屋 美咲(なかや みさき)さん。 

放送が始まって数日経ってからでしたが、実際に聞いたのは私もこの時が初めて。
個人的には駅の放送ではあまり聞かない女の子の声が音楽と共に流れている点が物珍しい印象を受けます。更に、この放送は繰り返して流れており、広告放送以上に自然と耳に入ってくると感じました。



――実際にアナウンスが流れているのを聞いてみてどうですか?


布川夏帆

正直、自分の声が流れているのはちょっとむずかゆい感じです(笑)





中屋美咲

楽しそうな感じで駅の放送とは思えないなって思いました。曲もポップで聞きやすいかなって。




――あの放送はKINDAI GIRLSのうち4人が担当されているとのことですが、どのように決まったのでしょうか?


収録時の様子。アナウンスを担当したメンバーは中屋 美咲さん、布川 夏帆さん、泉 真純さん、皆木 彩寧さんの4人。


布川夏帆

元々収録の日時が決まっていて、先着順だったんです。私は元々アナウンサー志望でラジオ局に内定が決まっているんですが、声の仕事ということで速攻応募しました。自分の声が長瀬駅のアナウンスになるなんて思ってもいなかったですが、嬉しいですね。




――この放送に関して何か印象深いことはありましたか?


中屋美咲

収録の時に近鉄の方が実際に見に来ていて、その中での収録だったので結構緊張しました。





布川夏帆

来年3月に卒業するのでKINDAI GIRLSでの活動は今年で終わりですが、自分の声がしばらく残るというのも不思議な感じです。でも一生に一度のことだと思うので貴重な体験になりました!




――放送に起用されたことで何か反響はありましたか?


中屋美咲

特に友達から「声でわかったよ」とか「聞いたよ」とか言われます(笑)。ちょっと恥ずかしいです。





なぜ放送をKINDAI GIRLSの放送に変えたのか、布施駅駅長の澤井さんに聞いてみた



布施駅駅長、澤井 良春(さわい よしはる)さん。元々は運転士で、当時残っていた旧型車のブレーキ(800系。この形式はブレーキの方式が他と異なっていた)をかけるのには苦労したとのこと。その後駅務となり、布施駅の前は南大阪線の藤井寺駅で駅長を務めていた。

――長瀬駅の放送を「KINDAI GIRLS」のものに変更することになったきっかけは何だったのですか?

長瀬駅の混雑はずっと大きな問題となっており、近大の知名度が年々高くなって今後色々な人が長瀬駅を使うことになっても、ホームはこれ以上広げられないという危機感がありました。

それを構内放送でなんとかしようと考えたのがきっかけで、実はそのきっかけは私なんです
以前から長瀬駅員が注意喚起の放送をしていたのですが、電車内の放送も同じでごく普通の放送に乗客は耳を傾けてくれない。でも駅員が噛んだり、間違って放送したりするときは気づくでしょう?

そのことから、駅員ではなく近大生の声のアナウンスなら注意して聞いてくれるのではないかと思いつき、「長瀬駅構内の注意喚起アナウンスを近大生にやってもらいたい」と、私と課長で近畿大学へ提案とお願いをしに行きました。

そして、近大総務部の方から「それならKINDAI GIRLSを起用しましょう」という話が出ましてKINDAI GIRLSにお願いすることになりました。


気さくな雰囲気で話す澤井さん。KINDAI GIRLSの放送を閃いた当人で、別の対策や啓発も構想中。前にも道明寺線で普段は走らない特急車両を走らせる企画を立案するなど、アイデアマン気質な一面が見えた。

――なるほど、てっきり近大側が持ち掛けた話だと思っていましたが逆だったんですね。今回のKINDAI GIRLSの放送のようなコラボアナウンスは近鉄社内では他にあったのでしょうか?

これが初めてです。近鉄がこういった外部と関わった放送を流す場合は「広告放送」となり、近鉄のグループ会社の場合でも他所に委託して作成してもらい使用します。つまりお金をいただいているわけですね。

しかし、今回のコラボ放送は近畿大学へ「お願い」をして行ったものですので、広告費は発生していません。こういった形での放送は近鉄社内としても初めての試みでして、社内でも注目されています。

――近鉄全体としても新しい試みなのですね。このKINDAI GIRLS放送は期間限定で行う予定なのでしょうか?

長期的にしたいと考えています。ただしずっと同じ放送だとマンネリ化してしまい結局アナウンスの意味が無くなってしまうので、アナウンスへの関心を持ち続けてもらうため時期ごとに更新していくことも考えています。


もっと放送にインパクトがあってもいいと話す澤井さん。今後、KINDAI GIRLS放送はどう変わっていくのだろうか。

――更新はどのようなものを考えられているのでしょうか?

今は元々あった放送と同じ文面ですが、ここから文言を変えたり、マナー啓発放送を追加したりすることなどを考えています。
特に近大生のマナーについては近隣住民の方々からもご意見をいただいているので、近大生のマナー向上のために啓発放送をやってみたいと思っています。


あの手この手!長瀬駅の混雑対策


――KINDAI GIRLS放送の他、長瀬駅の混雑対策のために行っていることはありますか?

朝に近大生が一斉に降りる下り線ホーム(1番乗り場、八尾・高安・河内国分方面)はホーム後ろの敷地が近鉄の用地なので拡張工事をしました。

一方の上り線ホーム(2番乗り場、布施・鶴橋・大阪上本町方面)は大規模な拡張工事ができないので、ベンチや自販機、待合室の場所を移動してスペースを広げました


上り(大阪上本町方面)のりば改札機。写真左側の改札機は16時から出口専用となり、線路側に行かないように導線を作っている。(右側は終日出口専用)


そのため帰宅ラッシュが始まる16時から路側の改札機を出口専用に変更したり、足元に誘導ステッカーを貼るなどして分散乗車を行ってもらえるような導線を作りました。

更に混雑が酷くなった場合、駅から通過する列車に対して通過時に注意を呼びかけています。また私が駅長になる前ですが、長瀬駅の横にある踏切を改修して歩道と道路を分離する工事も行いました。




長瀬駅改良工事前後の概略図。上が下り側の改良工事を行う前のもので、下が2019年冬現在のもの。特に下りホームは敷地だけ見るともはや別の駅かと思うほどに激変している。

――なるほど……長瀬駅を利用していると下りホームの乗車位置誘導ステッカーが設置されてからは特に分散乗車が行われ効果が大きいと感じています。あの誘導ステッカーの貼り付けは駅側で対策として行ったものなのですか?


足元に貼られた水色の乗車位置誘導ステッカーと緑色の通路ステッカー。視認性が高く直感的に認識できるもので、効果は絶大。

あの誘導ステッカーは本社から提案されたものです。長瀬駅の混雑対策は本社も大きな課題として見ており、設備の改修や移設などのハード面の対策は本社が行っています。駅側では改札機の入出場設定や注意喚起の放送などのソフト面での対策を行っています。


水色の乗車位置誘導ステッカーが貼られていない後ろ5両目、6両目の部分にも乗車位置ステッカーが貼られている。近鉄大阪線で各駅停車のみ停まる駅に、乗車位置案内がある例は珍しい。△印は3ドア車用。


誘導ステッカーと一緒に貼られた線路側の通行禁止ステッカー。後ろの柵も2018年3月に設置されたもので、少しでも線路側を通行してもらい転落する事故を防ぎたいという意図が読み取ることができる。

――今後考えている対策などはありますか?

この駅は路線の特徴上ホームに柵を付けることができない(近鉄大阪線はドアの数が異なる車両がある)のでやはり導線の確保や注意喚起で事故を起こさないようにしなければなりません。今後、近大が更に大きな学校になっても、近大生を始めとする利用客が安全に利用できるように今回のKINDAI GIRLS放送が役立てばと思っています。


夕方ラッシュの電車を見送るKINDAI GIRLSの2人。安全のために何かできることは「混雑時は次の電車を待つ」「奥の車両にも分かれて乗る」ことを、乗客みんなが自主的に心がける必要があるとコメントをくれた。

ただ、今後更に混雑が膨れ上がるなら列車の運用を変更する必要があるかもしれません。
また、近大生のマナー向上を考えて駅の地下通路に啓発ポスターを掲示したいなと考えています。


おわりに


KINDAI GIRLSの放送が導入されたきっかけは、長瀬駅の慢性的な混雑を少しでも緩和したいという近鉄側の強い思いだと知ることができました。特に長瀬駅の混雑対策は都心部の大きな駅と同じレベルに等しく、長瀬駅を安全に利用できるよう放送以外にはどんな対策が行われているのか、発見してみるのも帰宅時の楽しみになるかもしれません。

KINDAI GIRLSの放送は平日の16時から19時、上りの大阪上本町方面いきホームで流れています。


(終わり)


この記事を書いた人


浅野 圭佑(あさの けいすけ)

浅野 圭佑(あさの けいすけ)

近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 環境まちづくり専攻
通勤電車しか推せない鉄道オタク。ただし最近はライブの方が熱心らしい。ジャンルは撮り鉄と描き鉄、好きな車両は大阪環状線の103系。


    企画・編集:人間編集部

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