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2019.12.17

インフルエンザ早期流行で昨年の5.6倍の患者数!南半球との関係は?耐性ウイルスの影響は?

Kindai Picks編集部

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インフルエンザ

例年より早めにインフルエンザが全国的に流行期に入ったとの発表があり、インフルエンザ対策への関心がますます高まってきています。けれど、普段心がけている予防法って本当に効果があるのでしょうか? 検査キットで陰性が出ればインフルエンザではないのでしょうか?? そんなインフルエンザにまつわるいろんな疑問を、近畿大学医学部教授であり感染対策室室長の吉田耕一郎先生にお聞きしました。


吉田耕一郎(よしだ こういちろう)
医師/博士(医学)/近畿大学医学部教授/感染対策室室長
専門:感染症、深在性真菌症、院内感染対策
感染症の診断と治療、特に真菌による感染症を研究。抗菌薬耐性菌対策など、院内感染対策についても実践。


そもそもインフルエンザとはどんな病気?


――風邪とインフルエンザの違いはどこにあるのでしょうか?

風邪はさまざまな種類のウイルスによって起こりますが、インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染することで起こります。また、症状にも違いがあります。インフルエンザの流行時期に流行地域にいる人で、急に高い熱が出て、筋肉痛や関節痛、全身倦怠感がとても強いとか、そういった全身症状をともなう場合はインフルエンザが疑われます。


風邪とインフルエンザの違い

病名風邪インフルエンザ
原因ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスなどインフルエンザウイルス
症状が現れる部位鼻やのど全身
症状の進み方ゆるやか急激
おもな症状発熱(37~38度)、くしゃみ、鼻水、のどの痛み、咳など発熱(38~40度)、鼻水、のどの痛み、咳、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感など

風邪は局所的な症状ですが、インフルエンザは全身にいろんな症状が出ますし、重症化したり合併症を起こしたりするので注意が必要です。

――とくに注意が必要なのはどんな方ですか?

高齢の方や幼児、妊娠中の方、基礎疾患をもつ方などです。重症化しやすく、合併症を起こしやすいことがわかっています。

インフルエンザ合併症のリスクが高い患者
  • ● 5歳未満(とりわけ2歳未満)の幼児
  • ● 65歳以上の高齢者
  • ● 慢性の、肺疾患(気管支喘息を含む)・心血管疾患・腎疾患・肝疾患・血液疾患・代謝性疾患(糖尿病を含む)・神経疾患(脳脊髄障害、末梢神経障害、筋障害、てんかん、脳卒中、精神遅滞、中等度以上の発達異常、筋萎縮、脊髄外傷を含む)
  • ● 免疫抑制状態の患者(免疫抑制治療を受けているあるいはHIV感染を含む)
  • ● 妊婦および出産後2週以内の産褥婦
  • ● アスピリンまたはサリチル酸を含む薬物治療を受け、ライ症候群のリスクのある18歳以下
  • ● BMI 40以上の肥満者
  • ● ナーシングホームなどの長期療養施設入居者
日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」より

――インフルエンザでも熱が出なかったりする、いわゆる「隠れインフル」の方もおられると聞きます。

「隠れインフルエンザ」や「隠れインフル」というのは医学用語ではありませんが、インフルエンザにかかっていても症状が軽い方を指すようです。症状の出方には個人差がありますし、症状があまり出なかったりする方もおられます。特に高齢の方は免疫反応が弱いので、熱が上がりにくいですね。

▼関連記事
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――インフルエンザの検査はどのようにして行われるのでしょうか?

細長い綿棒のようなものを鼻に入れて粘液を採取するキットを使いますが、それで陰性だからといってインフルエンザではないとは限りません。

――そうなんですか?

検査キットはあくまでも補助的なもので、その結果だけでインフルエンザを診断するわけではないんです。

● 急な発熱や倦怠感、全身の痛みなどのインフルエンザの症状があるかどうか
● 周辺の地域で流行しているかどうか

この2つに加え、もしインフルエンザ患者との明らかな接触があった場合は、より積極的に疑います。こうした条件が揃って、さらに検査キットで陽性が出ればほぼインフルエンザですね。発熱後すぐだと陽性が出ないこともありますので、それ以外の条件が揃っていればインフルエンザと診断してもいいと僕は思います。


ついに流行期に突入! どう予防する?


――インフルエンザはなぜ冬に大流行するんですか?

寒くて乾燥している冬は、インフルエンザウイルスにとって快適な環境なので活発になります。逆に人間にとっては外の寒さがツラい季節。室内で過ごすことが多くなるぶん、感染リスクも高まります。また、忘年会やお正月、新年会など大勢で集まる機会も多くなって、感染者が増え、全国的な大流行につながります。



全国5000カ所の定点医療機関を受診した患者報告数が、2019年37週(9月9日~9月15日)に5,738人に達しそのうち沖縄が2,895人と警報レベルの流行となった。最新の49週(12月2~8日)の患者報告数は47,200人で、昨年同期の約5.6倍。特に北海道の患者報告数5,550人で警報レベルに達している。
参考:インフルエンザに関する報道発表資料(厚生労働省)



――今季早い時期にインフルエンザが確認された原因として、ラグビーのワールドカップの影響も考えられると耳にしたのですが……

う~ん、確かに9月頃インフルエンザの患者さんが出ましたよね。南半球は冬のおしまいでしょうから、南半球から来た方がインフルエンザのウイルスをもっていて、それが影響している可能性もあるかもしれませんが、はっきりしたことはわかりません。

――来年のオリンピックでの影響も気になるところですね……南半球の流行状況から、日本での流行をある程度予想できたりするんでしょうか?

それはそうだと思います。専門家が南半球の流行状況をもとに、日本でも流行が早まりそうなどと予想することはあります。とはいえ、インフルエンザの流行時期を正確に予測するのはとても難しいですね。




――例年より早く流行期に入り、マスクをつける人も増えてきました。そもそもマスクに予防効果はあるんですか?

インフルエンザウイルスを吸い込まないためにマスクをするのなら、その予防効果は極めて限定的です。飛沫……つまり、唾液や鼻水の水分を含んだウイルスの粒子が飛んでくるわけで、それくらいの大きさになるとマスクを正面からすり抜けることはないとは思います。

ただ、マスクをして眼鏡をかけると眼鏡が曇りますよね? それは、針金でぴったり密着させているつもりでも、そこから呼気が出て吸気が入っている証拠。そのすき間からインフルエンザウイルスが入ってくることもあるでしょう。

――では、マスクにはあまり意味がないんでしょうか?

いえ、マスクをつける一番の目的は、自分が感染源になってまわりにうつさないようにするため。発症後はもちろん、インフルエンザは発症する前から感染力をもっているので、その潜伏期間でも周囲にうつさないようマスクをするんです。

――先生方はインフルエンザの患者さんを診られることもありますし、感染する機会は多いですよね……どのように予防されているんですか?

かかる人はかかりますよ(笑)でも、日本ではおよそ5~10%がインフルエンザにかかるわけですが、かからない人のほうが多いんですよね。

予防法としては、やはりワクチンを接種すること、人混みを避けることです。あと、予防効果は限定的ですが手洗いやマスク、うがいの習慣づけ。そして、栄養バランスのよい食事や十分な睡眠をとって、ウイルスに負けないよう抵抗力を保つこともとても大切です。


最新情報をチェック! 薬は飲んだほうがいい? ゾフルーザの耐性ウイルスは大丈夫??



参考:令和元年度 今冬のインフルエンザ総合対策について(厚生労働省)


――病院ではどんな治療をするんですか?

インフルエンザと診断されれば、抗インフルエンザウイルス薬(インフルエンザ治療薬)を処方したり、熱が高い場合は解熱薬を出したりします。

薬の名前投与の回数(成人)投与の仕方
タミフル1日2回、5日間経口
リレンザ1日2回、5日間吸入
イナビル1回吸入
ラピアクタ1回点滴
ゾフルーザ1回経口

――薬を飲んでも、治るのが1日早くなるだけという話も聞きます。それでも薬を飲んだほうがいいのでしょうか?

重症化や合併症のリスクがない若い方で、症状が軽いのであれば、薬を飲まなくてもいいという考え方もあります。ただ、リスクがない方でも重症化することがあるんですよね。インフルエンザの早期の段階で、その方が重症化するかしないかを見分けるのはとても難しいんです。

米国感染症学会のガイドラインでは、インフルエンザの診断が出たら基礎疾患があるような方には薬を処方しなさい、もともと健康な方であっても薬の処方を考えてもいいとなっています。

日本の場合は、病院に行けばほとんどの人が検査を受けますし、陽性になれば大体薬が処方されていると思います。ただ現在は、検査が陰性であったとしても、インフルエンザが強く疑われる場合は早めに薬を飲んでいいのではという考えに変わってきています。

――1回飲めばいいという手軽さから昨シーズン多く使われたゾフルーザですが、一方で服用した方からゾフルーザが効かない耐性ウイルスが検出されたとの報告がありました。

日本感染症学会は、まだ十分なエビデンスに乏しく使用方針に変更の可能性があるとしながらも、ゾフルーザについて次のように提言しています。

  • 1. 12~19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
  • 2. 12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。
  • 3. 免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。
日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」より(※耐性の基準がまだ定まっていないため、提言では耐性ウイルスではなく「低感受性株」と表記されています。)

大人は子どもよりインフルエンザウイルスにさらされた期間が長いので、抗体が多いんです。なので、子どもと比べて耐性ウイルスが検出されにくいんじゃないかという指摘もあります。ゾフルーザについては、慎重に経過をみていく必要があるでしょうね。

――すぐ病院に行ったほうがいいと思われる症状はありますか?

大人の方で次のような症状がある場合は、重症化の恐れがあります。いずれかに当てはまる場合はすぐに病院を受診してください。

首相官邸「インフルエンザ(季節性)対策」より


――そこまでしんどくなくても、病院には行ったほうがいいんでしょうか?

診断が出てないからと、インフルエンザの疑いが強いのに普通に出歩くと、まわりにうつす可能性がありますよね。仕事を休むと経済に与える影響も少し出てくるし、薬を飲まないと、たった1日かもしれませんが治るまでの期間も周囲にうつす期間も長くなります。

また、少ない頻度ですが、なかには重症化する方もおられるわけで、薬を飲むと重症化や下気道感染症の合併、入院のリスクが下がりますし。僕はやっぱり、早めに病院を受診して、診断が出たら薬を飲んで、家で安静にしているほうがいいんじゃないかなと思います。

――自分は重症化しなくても、リスクが高い方にうつしてしまう可能性もありますよね。

そうそう。マスクの質問のときにも触れましたが、ワクチンの接種もそうなんですよね。自分が感染源になって、うつった方が重症化したり合併症を起こしたりするかもしれない。

例えば、風疹の予防接種もそうです。あれは風疹にかかった方が妊婦さんにうつしてしまうと、赤ちゃんが先天性の障害をもって生まれてきてしまうかもしれない、だから予防接種を受けて周囲にうつさないようにしようという考え方で。インフルエンザの予防接種もそれに似ていると思います。

――マスクも、予防接種も、自分を守るためだけじゃないんですね。

そうなんです。自分が感染源になりうることを十分に考えてワクチンなどで予防して、インフルエンザにかかってしまったら周囲にうつさないようにする。そうやって一人ひとりが行動して、社会全体をインフルエンザウイルスから守ることがとても大切だと思います。


(終わり)


取材・文:藤田 幸恵
イラスト:九月タロウ
企画・編集:人間編集部

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