2019.04.16
堀ちえみさんが公表した食道がん。その症状や予防法は?
- Kindai Picks編集部
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タレントの堀ちえみさんが4月15日、ステージ1の食道がんと診断されたことを公表しました。
食道がんとはどんな病気なのか?その原因と病状について、近畿大学病院上部消化管外科の安田卓司教授に聞きました。
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安田 卓司(ヤスダ タクシ)
近畿大学病院 上部消化管外科 医学部教授/医学博士
専門:上部消化管(食道・胃)外科
食道がんとは?
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胸部食道扁平上皮がんの特徴は以下の4点です。①非常に進行が早い(症状を自覚して約3か月で水分も通りにくくなる)②生命維持に関与する重要臓器に接しているため、容易に食い込んで(浸潤)切除不能になりやすい③非常に早期の段階から広範囲(頸部・胸部・腹部)にリンパ節転移を伴う④手術リスクが非常に高い。従って、早期発見はもちろん、症状があればすぐに専門医を受診することが重要です。
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早期発見のために
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食道の検査には、X線による造影検査と内視鏡検査があります。しかし、早期発見という意味では圧倒的に内視鏡検査の方が有効です。一般には検診といえば造影検査と思われがちですが、胃内に造影剤を溜めて様々の方向に体位を変えながらじっくりと検査できる胃検診と異なり、食道の検診では造影剤が食道から胃へ流れ落ちる僅か数秒の間に異常を指摘しなければなりません。しかも狭窄もなく、粘膜の僅かな不整を呈するのみの早期食道がんでは造影剤に水没する形になり、発見は極めて困難です。
一方、内視鏡検査は直接粘膜の変化を咽頭から胃までくまなく観察することができるので早期がんの発見率が格段に高くなります。また、食道の粘膜はヨード散布で濃い茶色に染まりますが食道がんは染まらないという特徴があり、ヨード染色を用いた内視鏡観察は早期がんをあぶり出してより確実に発見する極めて有用な検査法です。ただ、ヨードアレルギーの方には適用できない欠点があります。しかし、近年NBI(Narrow Band Image)という特殊な波長の光を内視鏡観察に応用することでヨード染色同様に早期がんを発見することが可能になっており、更にこの方法では微細な血管構造の把握も可能でより正確ながんの深さ(深達度)の診断もできるようになっています。NBIは特別な内視鏡ではなく、通常内視鏡の観察時にボタン一つで波長を変えて、患者さんに負担なくNBIによる検査を行うことができるようになっています。食道がんの早期発見という観点では、内視鏡による定期的な検診を受けることをお薦めします。
手術方法と術後経過、予後
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また、食道がんが周囲の重要臓器に食い込んで切除不能であるときは、放射線と抗がん剤を組み合わせた化学放射線療法で強力に腫瘍の縮小を図ります。進行癌でも約2割程度の確率で腫瘍の消失が得られますが、残りの症例に関しては切除可能にまで腫瘍が縮小したと判断すれば手術での切除で治癒を目指します。ただ、化学放射線療法後の手術はサルベージ手術を呼ばれ、特別に難易度とリスクが高いため、その適応に関しては慎重な判断が求められます。
さて、今回堀ちえみさんが公表された、ステージ1の食道がんに対しては3つの治療法があります。内視鏡による切除、手術、化学放射線療法です。この中で内視鏡による切除はがんが粘膜内にとどまる早期がんと診断され、リンパ節転移もなく、かつ全周性でない病変に対して行われます。2つの手技があり、簡便で短時間で処置が終わるけど病巣が分割で切除される可能性が高い内視鏡的粘膜切除(EMR)と時間はかかるけど病巣を一括切除できる内視鏡的粘膜剥離術(ESD)です。
前者は細いワイヤーで病巣を締め上げた後に通電して切除する手技ですが、前述の様に分割切除となることが多く、正確な病理学的検索が困難なことが欠点です。後者は内視鏡の先端から細い特殊なメスを出してまず腫瘍を含む粘膜を全周にカットした後に粘膜を粘膜下層で剥離することで一括に腫瘍を切除する手技で、正確な病理検索とその診断に基づいた追加治療も可能となる利点があります。病変の大きさにもよりますが、今回堀ちえみさんが受ける内視鏡治療は後者の方法と思われます。
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さて、内視鏡的に切除された食道がんの場合、病理検査でその後の治療の追加の有無が検討されます。がんの深さが術前診断通り粘膜内にとどまっており、腫瘍内のリンパ管にもがん細胞が流れた痕跡もなく、切除断端も陰性に切除できていれば完全治癒切除として追加治療はなく、治療は完了です。しかし、病理結果でがんの深さが粘膜下層にまで進展していた、あるいは腫瘍内のリンパ管にがん細胞が流れている像が確認された、切除断端にがん細胞の遺残を認めた場合はに追加治療として手術または化学放射線療法が追加されることが通常です。同じく2012年の全国登録の内視鏡切除後の5年生存率は、がんが粘膜内にとどまっていれば86%、粘膜下層にまで進展していると75%と報告されています。
いずれにしても悪性度の高い食道がんですので治療後も定期的な検査による再発チェックが必要です。
食道がんの予防やセルフチェック
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では、何故舌がんと同じ扁平上皮がんなのかというと、舌も食道も粘膜は扁平上皮細胞から成っており、その細胞ががんになるとどちらも扁平上皮がんと診断されます。舌がん、食道がんという名称は、がんが発生した場所を表した表現方法で、扁平上皮がんはその発生母地となった細胞の病理学的な名称です。例えでいうと、前者は住所で、後者は出身地ということです。
さて、舌がんと食道がんは関係ないのか?ということですが、関係は大いにあります。堀さんがどうかはわかりませんが、扁平上皮がんは飲酒、喫煙と非常に強い因果関係があり、舌がんに限らず咽頭がんや喉頭がんなどの頭頸部がんと食道がんの合併は非常に多く稀ではありません。したがって、頭頸部がんの患者さんでは内視鏡で食道がんの検索を行うことが、食道がんの患者さんでは頭頸部がんの検索を耳鼻科医に依頼して行うことが必須となっています。
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また、つかえ感まではないかど、飲み込む際に喉に違和感を覚えることもよくあります。この場合、多くの方が耳鼻咽喉科を受診されて検査を受けるのですが異常なしと診断され、症状があるにも関わらず更に増悪するまで放置される場合が少なくありません。耳鼻咽喉科で観察できるのは咽頭までで、咽喉頭に異常はないと言われただけで、食道に関しては検査を追加しなければ異常の有無はわからないと理解して頂ければと思います。耳鼻咽喉科で異常なしといわれても症状が続くときには必ず内視鏡検査で食道の観察をしてもらうようにして下さい。
いずれにしても100%の検査はありません。身体のSOSに耳を傾け、早め早めに検査をすることで早期発見に努めることが肝要です。
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