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2017.11.30

挫折を経て辿り着いた、日本人初の世界7大陸制覇。アドベンチャーランナー北田雄夫の「情熱大陸」

Kindai Picks編集部

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2017年11月にアフリカのモザンビークで開催されたUltra Africa Raceを走破し、日本人初のアドベンチャーマラソン7大陸制覇を成し遂げたアドベンチャーランナーの北田雄夫さん。もとは400mの選手だった彼がいかにして、そこへたどり着いたのか。関西の人気情報誌Meets Regionalの編集長で、自他共に認めるアウトドア派な竹村匡己さんに取材してもらいました。

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こんにちは、Meets Regional編集長の竹村です。

みなさん、アドベンチャーランナーという言葉を聞いて、ピンと来ますか?

アドベンチャーランナーとは、地球の果てを走る世界で最も過酷と言われているアドベンチャーマラソンに参加する競技者の呼び名。

レースの会場はさまざまですが、砂漠、南極、ジャングルなど…厳しい自然環境の中を、水以外のレース中に必要となる道具をすべて背負いながら200km超を走るとてつもない競技です。

お笑い芸人のワッキーさんが参加したエジプトのサハラ砂漠マラソンなどが有名で、同じくお笑い芸人の間寛平さんもアドベンチャーマラソンに出場したことがあるそうです。

実は、そんなアドベンチャーマラソンに挑戦し続けて、今年の11月に日本人初の7大陸制覇を果たしたかなりの強者がいるんです!というわけで早速、直撃してきました。



北田雄夫(きただ たかお)
1984年生まれ、大阪府堺市出身。
近畿大学陸上競技部に入部後、選手として主将として日本選手権4×400mリレー3位。その後3年をかけて、国内頂点のトライアスロンレースIRONMAN完走、アフリカ最高峰キリマンジャロ5,895m登頂、山口萩往還140kmマラソン完走などを経て、2014年、アドベンチャーマラソンに参戦しGobi March(中国/ゴビ砂漠250km)を走破。それから、約4年の歳月を掛け、2017年の11月にUltra AFRICA Race(モザンビーク 5日間219km)を走破し日本人初の7大陸制覇を果たす。


多くの挫折が導いた、アドベンチャーマラソンという極地



左:アドベンチャーランナー北田雄夫さん

まずは、7大陸走破おめでとうございます!いやー、すごいですね。



ありがとうございます。でも、僕なんて全然すごくないですから…。



日本人初の7大陸制覇ですし、情熱大陸に取り上げられるなんてすごいじゃないですか。



すごいというより、色んなことに挫折した凡人だったからこそ達成できたことなんだと思うんです。



凡人だなんて思えませんが…。そもそも、どうして過酷なアドベンチャーマラソンに挑戦しようと思ったんですか?



実は、学生時代は、400mの選手だったんです。だからこんな長距離レースに挑戦するなんてことをするとは全く思ってなくて。


400mも短距離では一番辛いって言われる距離ですよね。ジャンルは違えど、やっぱりキツくて限界に挑むっていう点には共通点があるような気もしますね。


確かに、今考えるとそこはつながるのかもしれません。ただ、当時はトップレベルとは程遠い選手でした。それこそ、オリンピックなんかも夢のまた夢っていう感じで、一度スポーツの道を諦めたんです。卒業してからは、メーカーの営業職として働き始めて。

なるほど、でも短距離選手からサラリーマンになって、そこからいきなりアドベンチャーランナーって飛躍したわけではないんですよね?


仕事は一生懸命やっていたんですけど、なにか物足りなくて。そこで挑戦してみたいなと思ったのがトライアスロンでした。短距離とはまた違う、長距離レースならではの自己挑戦だったり、達成感に惹かれました。


400mとトライアスロンも全くの別物ですよね。そこでのギャップは無かったんですか?



それこそ最初は、プールで50メートルしか泳げないレベルからのスタートだったので、本当に底辺というか(笑)。ただ、チャレンジしたいなーっていう思いを糧に、泳げるように、走れるようになっていくのが楽しかった。だから、ギャップを感じることも無くて。

それこそ僕の場合は山が好きなんですけど、トレイルランとかには行かなかったんですか?



1回だけ挑戦したんですけど、自分にはあまり合わなくて。



トライアスロンに挑戦していくうちに、出会ったのがアドベンチャーマラソンということですかね?



まさにそうですね。トライアスロンもそうですけど、挑戦した競技全てで世界レベルと言えるほどにはなれなくて、悔しかった。でも、そこで負けたり諦めるのは嫌だったんです。やっぱり、世界に挑戦できる競技者になりたくて。マイナーなんですけどすごく可能性を感じられて、今まで挑戦してきたどのレースよりも過酷なものを探していくうちに知ったのが、アドベンチャーマラソンでした。


体力よりも、精神力が大切なレース




さまざまな競技や挑戦を経てから別の競技に転向したわけですけど、競技者としての不安よりも、挑戦する楽しさみたいなものが上回った感じなんですかね?


それこそ、アドベンチャーランナーに転向したのは30歳になった頃だったので、多少の不安はありましたね。体力的な面では若い人に勝つことは難しいですし。ただ、通常のレースに比べて、精神力が大切なレースだという認識もあったので希望はありました。

なるほど。アドベンチャーマラソンは一定の距離をを走るラリー形式ですよね?



そうです。毎日チェックポイントを通過していって各日程のゴールを目指す形式。ゴールにはテントが用意されていて、そこで寝泊まりする。で、毎朝他の選手と同時にスタートしていき、最終順位は各日程の合計タイムを集計したタイムで着順が決まります。

最初のレースはどこの国のどんなレースだったんですか?



2014年の6月に開催されたGobi Marchという名のレースで、中国のゴビ砂漠を7日間かけて250キロ走るというものでした。それがめちゃくちゃ楽しくて、同年の10月にはチリのアタカマ砂漠を7日間で250km走るAtacama Crossingにも参加したんですよね。



チリ開催のAtacama Crossingは灼熱の環境ゆえ、頭から水を掛け体を冷やしながら走破。


着順的にはどうだったんですか?



Gobi Marchが51位。Atacama Crossingは64位とあまりいいとは言えない結果でしたね。ただ、この頃には日本人初の7大陸制覇したアドベンチャーランナーになるという目標は決めていました。


アドベンチャーマラソンから”死”を感じ”生”を喜ぶ楽しさを知る



それでも、魅力に取り憑かれてアドベンチャーマラソンという競技にのめり込んでいくわけですよね。やっぱり単純に極地を走ることの楽しさとか達成感がすごかった?


達成感はもちろんありますけど、レースが始まれば、熱中症、脱水症、高山病、幻覚、化膿、凍傷など、想像を超えたトラブルが毎回起こりますし、死の危険を感じることもあります。食べ物もろくにもっていけないからずっと空腹も続くし、もちろんシャワーもありません。本当に生と死の間にいるのを実感できるというか…。レースを終えるたびに「今回も生きて帰れた」と。そして、そんなハードな挑戦にチャレンジできる環境にも感謝しますね。

それはすごくわかります。生や死の感覚が近くにあるという状況にグッとくるんですよね。山が好きなのも美しい景色や自然はもちろんですけど、やはりそういう感覚からくる部分も多いですし。


なるほど、竹村さんがそういう方だから、Meets Regionalに石川直樹さん(23歳で七大陸最高峰の登頂に成功した写真家・冒険家)の連載ページがあるんですね…!


まぁ、多少はそういう部分もあるのかもしれませんね。石川さんは「なんで登るんですか?」ってよく聞かれるらしいんですよ。それに対して「身も心も限界まで追いつめられて、一度リセットされる感覚的があるんです」と、答えるらしくて。それって、現代の日常ではなかなか味わえない、生きた心地を実感する感覚なんですよね。ゴールした達成感というよりも、浄化されたという感じが強くて。それゆえにスッキリするみたいな。

その感覚はすごくわかります。本当にありのままの人間になったというか…、それってやってみないとわからないですしね。


大変だし辛いので、みんなに「やってくれ!」とは勧めないですけどね(笑)



「なんでそこまでするの?」って言われますよね。「そこまでせんでいいやん」って。でも、それの虜になっちゃう。ジャンキーみたいな(笑)。


挑戦するレースの過酷さと比例するかのように着順も上がり始める



2014年以降はどのようなレースに参加していったんですか?



2015年5月には自身最長となるオーストラリアを10日間で521km走るTHE TRACKに挑戦しました。ここで始めて、10位でゴールできたんですよね。2015年8月のFIRE + ICEでは3位になって。競技者としての自信もつき始めました。



自身4大会目の挑戦となった、アイスランド開催のFIRE + ICEでの一コマ。


2017年には、北極圏を5日間で230km走るIce Ultraも参加していましたよね。やっぱり寒さに勝る辛さはないなと思うんですが、あのレースは過酷でしたか?


寒かったり暑かったりっていうのはやっぱり心を折られる要因の一つとも言えますね。例えば、飲み物や食べ物が凍ってしまった場合、氷点下の世界にいたら溶かすこともできないですから。常にマイナスの世界だったので。



北極圏で開催されたIce Ultratでは、凍傷や食欲不振に悩まされた。


環境の辛さだけはどうしようもないですよね。ほんとに食欲がなくなったり、何かを口にしても受け付けなくなったりしますし。




平日と週末で異なるトレーニングをして、気分にメリハリを



レース中はもちろんだと思いますが、普段のトレーニングも結構ハードなんですか?



普段は会社員として働いているので、それこそ平日は多くの市民ランナーの方と変わらない感じですよ。長居公園とか大阪城公園の周りを10キロ走ったりとかですかね。竹村さんも走ったりされてますか?


長居公園のあたり、いいですよね。僕も休日はよく走ってます。平日は会社帰りに走ったり。会社から自宅まで走るルートをいくつか作っていて、いったん守口まで抜けて、内環状線を抜けるルートなんですけど、ちょうど25キロくらいなんですよ。その他にも10キロコースと16キロコースと分けていて、その日のコンディションに合わせてルートを変えてます。

ルートが変わると飽きなくていいですよね。僕の場合は週末になるとリュックに重りを入れて、40〜60キロくらい走ったりもしています。前に連休が取れた時は、中山道を走りました。着るものやテントを背負って毎日65キロほど走り、京都から東京を目指したんですけど、景色を眺めながら走るので、飽きないんですよね。

そういう感じのレースも増えてますよね。僕もそういうのなら出てもいいかなーって思います。僕の場合はフルマラソンで3時間20分をどうしても切れなくて、競技系はやめてしまったという経緯もあって、今キロ何分で走っているということに囚われずに走るほうが楽しめるんですよね。


大公開!カラダを作る食事はこれだ!



アドベンチャーマラソンでは、食料は持参しなければならないわけですが、どのようなラインナップなんですか?やっぱり、ハニースティンガーとかサバスのジェルとかになるんですかね?


僕の定番はミックスナッツ、チョコペーストですね。それに加えてカロリーメイトみたいなものも少し。やっぱり嚙めるものがいいので、ジェル系も持ってはいくんですが少なめですね。


食料は、糖分やカロリーが高いものを中心にチョイス。飽きないようにバリエーションも豊かに。


噛みたいっていうのは分かります。僕も登山するときは、蜂蜜にポッカレモンぶち込んだものとミックスナッツやドライフルーツを合わせたトレイルミックスを持っていくことが多いですね。


とはいえ、もとからこのようなラインナップだった訳ではなくて。初めて出場したGobi Marchでは、7日間の朝晩14食、大好きなカップラメーンを持って行って、最初の3日で飽きてしまい…それから、食事での栄養補給がめちゃくちゃ辛くなるという大失敗をしたこともあって……。そんな失敗を経て今のラインナップで落ち着きました。

ちなみに、普段の食事はどんな感じのラインナップなんですか?



普段はお茶碗一杯の白米、お野菜と、肉料理。それに加えてスムージー。それと健康オイル。昼も夜も似たようなラインナップですね。


極地でのレースに参加するため、体力の温存は必須事項。カーボローディング(トレーニングで筋肉や肝臓のグリコーゲン量を低下させ、高糖質食に切り替える効率的に体力を維持する食事法)みたいに、特殊な食事法なんかも試したりしたんですか?

レースが近くなってくると、空腹に耐えられるカラダを作るために食事の量をギリギリまで減らす逆カーボローディングみたいなことはしてますよ。


なるほど、過酷なレースを走っている人ならではのトレーニングですね…(笑)。



体力も低下して風邪とかもひきやすくなるんですけど、レース中はさらに過酷なので。精神力のトレーニングにも近いですね。



約4年の歳月を掛けた7大陸制覇!そしてこれから…




トレーニングに食事面とストイックに調整をしてきた結果、今年無事に目標だった7大陸制覇を成し遂げられたわけですけど、最後のレースはどんな気持ちで走ったんですか?


7大陸目のレースはアフリカのモザンビークを走るUltra Africa Raceというレースだったんですが、レース中に背負う日の丸に対する思いも強くなってきていて。応援してくださっている方の思いや、日本人としての誇りを胸に走れることへの喜びも強かったですね。だからしんどくても気持ちは前向きにいつづけれて、挑戦する楽しさを感じながら走破できた感覚ですね。


砂浜を走り続けたUltra Africa Raceは総合3位で走破


走破してまだ日も浅いので、次はどんな挑戦をと聞くのもあれなんですが。この先のプランは何か決まっているんですか?


実はすでに決まっていて。トランスピレネーという世界最高峰の山岳レースに参加する予定です。フランスとスペインを股にかけるピレネー山脈が舞台で、距離が866キロ、高低差が6万5000メートル。それを、400時間ノンストップで走るんですが、いまからワクワクしてます。

山岳レースというと、今にも増してアドベンチャー感が増しますよね。実は僕もトランスピレネーの日本版とも言われている、トランスアルプスジャパンに参加たいと思っていた時期がありました。


なんと!どうですか?一緒にトランスピレネー出てみませんか(笑)。



その場合は会社辞めなあかんっすよね(笑)。相当トレーニングもしないと難しいですし、日本から応援させていただきますね…。


残念(笑)。




前人未到の7大陸走覇後でも、更なる挑戦を企むストイックさ!


いかがだったでしょうか? 

短距離の走者だった一人の大学生が、挫折と苦悩を経て30歳で出会ったアドベンチャーマラソンという競技。挑戦することを辞めない姿勢があったからこそ、たどり着いた7大陸制覇。

目標を達成したばかりなのにも関わらず、次の目標も見据えた彼の眼差しを見ていると、これからも”何かスゴイこと”をやってくれるだろうと期待せずにはいられない。

それでは、次回のトランスピレネー走破記事でお会いしましょう。




(おわり)

対談写真:辻茂樹
構成:ロマン


ライタープロフィール
竹村 匡己(たけむら まさき)
1975年、京都市生れ。2001年に京阪神エルマガジン社に入社後、「Lmagazine エルマガジン」、「Richer リシェ」、別冊編集室の編集を経て2014年12月からMeets Regional編集長。グルメ界の人というイメージがあるが、無類の山好きゆえ、トレイルランにも参加するアウトドア派。フルマラソンの出場経験も数多。https://www.lmagazine.jp/meets/


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