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2017.05.19

ゲノム医療最前線。AI×iPS細胞×遺伝子編集が実現させる治療の未来

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
医療
コラム

私たちの身体はDNAに書かれた設計図(遺伝子情報)に基づいて作られている。つまり、その設計図次第で健康にも病気にもなりうるということも。DNAの遺伝子情報を読み取れるようになった今、医療はどのように変化しているのだろうか?

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●プロフィール
西郷和真(サイゴウカズマサ)
近畿大学 理工学部 生命科学科 准教授
医学博士
専門は生命科学、特に頭痛、片頭痛、遺伝子診断、神経遺伝、遺伝カウンセリング、ゲノム医療遺伝子診療、医療経営について研究している


●細胞の中に、身体の設計図がある。

これから、DNAの仕組みとそれを活用した最先端医療の話をしていきます。まず、脳や皮膚、内臓といった私たちの身体はすべてタンパク質からできており、そのタンパク質の設計図がDNAです。
DNAの一部の情報からRNAと呼ばれる分子が合成され(転写)、RNAからタンパク質が作られます(翻訳)。この一連の流れを「セントラルドグマ」と呼んでおり、DNAからいきなりタンパク質が作られることはありません。

では、DNAはどこにあるのでしょうか。私たちの身体を作っている細胞には核があり、その中には染色体があります。染色体は、学校の理科の授業で習ったことがあるかと思います。この染色体は、実はDNAが束のような状態になったものです。

【参考】DNA、ゲノム、遺伝子、染色体の違い


●AIで、がんの原因遺伝子を見つける。


病気には、遺伝的な要因と環境的な要因があります。ひとつの遺伝子のみが原因で発症するものを「単一遺伝病」と言います。そして糖尿病やがんのように、複数の遺伝子と環境因子によって発症する病気は「多因子遺伝病」と呼ばれています。


図 あるガン遺伝子のタンパク質立体構造(模式図)
赤い場所(タンパク結合部位)に特異的に結合する薬剤(分子標的薬)を治療に用いる。


近年、スーパーコンピューターを使ったAI(人工知能)によって、どの遺伝子が、どのがんの発症に関係しているかを調べる研究が盛んに行われています。がんに関する論文と、人の遺伝子の情報を、それぞれ大量に読み込ませることで、原因となる遺伝子がわかり、適切な薬を処方できるようになります。

これが可能になった背景としては、遺伝子の配列を読み取る装置「シーケンサー」の進化も挙げられます。2000年にはヒト一人の遺伝子をすべて読み取るのに1億ドルくらいかかっていましたが、2015年には1,000ドルくらいまで下がっています。実に10万分の1。また、測定のための所要時間も格段に短くなりました。


●遺伝子情報を「編集」できる時代へ。

今までは、同じ病気に対しては同じ治療が行われてきました。例えば肺がんであれば肺がん用の決まった抗がん剤を使います。しかし、肺がんの中にも原因となっている遺伝子はいろいろな種類があり、その遺伝子がわかれば、悪いがん組織だけを狙って治す薬「分子標的薬」を使って、より自分に合う治療を受けることができます。
従来の抗がん剤は、どの程度の効果があるのかわからずに投与し、その後に効果が判断できる、ある意味で運まかせの治療でした。しかし、癌の原因となる遺伝子を解析して、その遺伝子に効果が高く副作用も少ない薬を選択して治療することが可能になってきているのです。



また、人の遺伝性疾患では、異常がある遺伝子の機能を補うために、これまで無毒化したウイルスを使って正常な遺伝子を体内に運ぶ治療が行われてきました。しかし、今は自分の細胞を採取し、その中にある遺伝子を切ったり貼ったりして正常な状態に編集し、iPS細胞を使って培養した異常がなくなった細胞を体内に戻すことができるようになりました。
この遺伝子を切ったり貼ったりする「ゲノム編集」の方法については、数年以内のノーベル賞が期待されています。

実際にこういった技術を使った動物実験は既に始まっており、今後はヒトにも適用されていくでしょう。そのため、遺伝子検査の専門家や遺伝カウンセラー、研究者といった医師以外の人材育成が求められています。
病気(症状)を診断して、お薬を処方する時代から、ゲノム情報をもとにしてDNAレベル、たんぱく質レベルでの病気の原因をピンポイントでなおす方法で、劇的に効果のある治療ができる時代になってきています。

【参考】DNA、ゲノム、遺伝子、染色体の違い

DNA:デオキシリボ核酸の略。デオキシリボース(五炭糖)とリン酸、塩基 からつくられた化学物質である。数千、数万と集まって、塩基配列を作り、遺伝子を構成する。

RNA: リボ核酸の略。RNAはリボース、リン酸、塩基からつくられた化学物質である。酵素によって、DNAを鋳型にして合成(転写)される。さらにRNAの種類の中でメッセンジャーRNAがたタンパク質の合成(翻訳)の設計図となる。

遺伝子:生物がタンパク質を体内で合成する時の元となる遺伝情報(設計図)のこと。通常、DNA塩基配列が100万単位で集まっている。

染色体:DNAが多数集まったものと、タンパク質が巨大な複合体を形成している構造物。通常、細胞分裂するときに、顕微鏡で観察できることが多い。

ゲノム:DNA、遺伝子、染色体すべてを含む総称。すべての遺伝情報のことを示し、生物にとって必要な遺伝子全体を示すセットのこと。


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