2016.07.11
シーズン到来!間違いだらけ、雷にまつわる都市伝説
- Kindai Picks編集部
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「地震・雷・火事・親父」古来雷は、怖い物の代表として名を連ねています。落雷がピークを迎える夏本番を前に、雷のプロフェッショナル、近畿大学理工学部 森本健志准教授にその対策について聞いた。
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雷の仕組み
雷とは、雲内で分離した正負電荷が、激しい音や光を伴って放電する現象で、この電荷分離は、雲の中であられと小さい氷の粒が衝突することで起こります。
特に夏の暑い日によく見かける上空高くまで発達した積乱雲(入道雲)では、電荷分離が活発で多くの電気エネルギーが蓄えられることから、大雨とともに気象ニュースで頻繁に取り上げられようになります。
雷によって大小様々ですが、大まかに言って落雷一回の電気エネルギーは、一般家庭で消費される電力の凡そ1ヵ月分。これが数百分の一秒にも満たない一瞬のうちに、雷雲から大地に下ろされます。放電路の温度は局所的に2~3万℃に及ぶとされています。
気象ニュースの他、稲光や雷鳴を実際に目や耳にするため、雷は比較的身近な存在として、皆さんも知っている気になっているかもしれません。
次からの章では、雷に関するクイズを通して、意外と知らない雷に関する知識と雷から身を守る方法について説明します。正しい知識を身に付けて安全行動をとってください。
雷○×クイズ
次の説明が正しいかどうか、○×で回答してください
*答え合わせは次の章で
1 稲光から雷鳴まで時間があれば、今いる場所は当面安全だ。
2 雷鳴は時々聞こえるが、頭上に黒い雲がなく晴れ間も見えるので、ここは当面安全だ。
3 近くに逃げ込む建物がないときは、取り急ぎ木の下に隠れるべき。
4 近くに橋があれば、その下にすぐに逃げ込むとよい。
5 ゴム長靴を履いていれば電気を通さないので安心。
6 メガネやアクセサリー、ヘアピンなど身に付けている金属を外した方が安全。
7 雷注意報は「雷が鳴る可能性がある場合」に発令される。
雷にまつわる誤解の数々
○×クイズの正解は、、、全部×です!
雷に関する都市伝説や誤解がはびこっていていますが、誤った知識は非常に危険です。
一つずつ解説していきますので、この機会によく確認しておいてください。
1 稲光から雷鳴まで時間があれば、今いる場所は当面安全だ。
2 雷鳴は時々聞こえるが、頭上に黒い雲がなく晴れ間も見えるので、ここは当面安全だ。
雲がなければ雷が起こらないのは事実ですが、稲光から雷鳴まで時間がある場合、真上に黒い雲が来ていない場合、そして晴れ間が見えているような場合でも、次の瞬間その場所に落雷する恐れがあります。
電気が溜まっている箇所から、落雷する地点まで水平方向に10km以上も進む雷は、それほど珍しくなく、遠くの雲からの雷が上空が晴れている地点まで進んで落雷になることがあります。
周りの環境にもよりますが、雷鳴が聞こえるのは十数km程度です。つまり、雷鳴が聞こえるということは、雷の射程圏内に入っていると考え、真上に雲がなくても安全な場所に避難するべきです。
3 近くに逃げ込む建物がないときは、取り急ぎ木の下に隠れるべき。
木の下などで雨宿りをしている際に雷撃を受ける事故が多く発生しています。
雷はより高いところに落ちやすいので、木の下にいる人間よりは木の方に落雷します。しかし、その後地面へ大電流が流れていく途中で、木よりも電流を流しやすい人間の方に飛び移ってくる「側撃」と呼ばれる現象が発生します。
そのため、近くに木がある場合は、枝も含めて木の一番近い部分から少なくとも4mは離れておく必要があります。
登山等で森や林の中にいる場合、空模様の変化に気づくのが遅れることもあります。このような場所では、避難にも時間を要することが多いので、継続的に最新の気象情報を収集し、早めの避難を心がけましょう。
4 近くに橋があれば、その下にすぐに逃げ込むとよい。
雷から身を守るという点では、橋の下に逃げるというのも一つの方法です。一方で、雷が発生する時は近隣で豪雨となっていることも多く、遠くで降った雨が一気に川に流れ込み、急な増水や鉄砲水が起こることもあり得ます。そういう意味では、落雷の危険から逃れられても橋の下に下りて川のそばにいることは危険です。
5 ゴム長靴を履いていれば電気を通さないので安心。
6 メガネやアクセサリー、ヘアピンなど身に付けている金属を外した方が安全。
電気を流さない筈の空気を数キロメートルに渡って通ってきているような雷からすれば、厚さ数ミリメートルの長靴のゴムなんてあってないようなものです。同じように、金属を身に付けているかどうかも、落雷のしやすさとは関係ありません。
一旦雷を受けてしまうと、その電流は金属を流れることが多く、更にそうなると金属は熱くなるので皮膚に火傷ができます。結果、「ネックレスに落ちた」のように表現されることもありますが、金属を身に付けていなければ落雷の危険性が下がるという訳ではありません。
7 雷注意報は「雷が鳴る可能性がある場合」に発令される。
「落雷により災害が発生するおそれがあると予想される場合」に発令されます。また、雷警報はなく、雷については注意報が最大の注意喚起です。注意報だからと油断しないようにしましょう。
雷とうまく付き合うために
発雷時、最も安全な退避行動は、鉄筋コンクリート造りなどの丈夫な建物や車の中に避難することです。
ただし、電灯線や通信線、テレビアンテナ線を通して雷電流が屋内に流れ込む危険性はありますので、屋内では家電製品や壁などからできるだけ離れるようにしましょう。電子機器の故障やパソコン等のデータ消失等も増えているので、これらの対策や、物理的にケーブルを抜くことも必要です。
建物や車など避難する場所が近くにない屋外で雷活動に遭遇してしまった場合は、送電鉄塔などの完全接地(アース)された電気をよく通す構造物の近くであれば比較的安全と言えます。
しかし、木に代表されるような電気を通しにくいものの近くでは逆に大変危険であり、接地されているかどうかを見分けるのも簡単ではありません。
安全である確信が持てない高いものからは離れ、できるだけ姿勢を低く、足を閉じてしゃがみ、鼓膜に傷害を受けるのを避けるために耳を抑えましょう。
やはり大切なのは、そのような状況になる前に安全に避難することです。
夏になると毎日のように入道雲ができ、夕方になるとどこかで雷鳴を耳にすることもあり、雷鳴が聞こえる度に屋外活動を中断していたのでは何もできないということは理解できます。
ですが、万が一にも雷撃を受けてしまった場合、無事で済むことはまずありません。雷活動が1時間も続くことは、あまりありませんので、雷鳴が聞こえたら屋外活動を中断して早めに非難する勇気を持ってください。屋外活動再開の判断には、雷鳴が聞こえなくなって30分を目安にしてください。
このように、完璧に身を守る方法はありませんが、正しい知識と、適度な恐れをもって、雷のシーズンをお過ごしください。
▼関連リンク 雷から命を守るための心得(日本大気電気学会)
PROFILE
森本健志(モリモトタケシ)
近畿大学理工学部電気電子工学科准教授。電磁波で対象物を遠隔測定するリモートセンシング工学に関する研究に従事。特に、雷放電や積乱雲等が対象の中心で、人工衛星等による宇宙からの地球環境観測も実施。雷の研究歴は15年以上で、自ら観測装置を開発し、雲内のどこにどのように電荷が溜まって、何をきっかに放電が開始するかに迫っています。
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