2023.03.07
「ヘンテコな動きをすると元気になる」って本当?ラッキィ池田さんと検証&論文を医学的に解説!
- Kindai Picks編集部
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「ヘンテコな動きをすると落ち込んでいても元気になる」というニュースが、昨年何度も話題になりました。サンフランシスコ州立大学が発表した実験結果だそうですが、本当なんでしょうか? 数多くの独創的な振り付けを生み出してきた、ある意味「ヘンテコな動き」のプロであるラッキィ池田さんと検証! 笑いが人に及ぼす効果を研究している医学部・阪本亮先生に、医学的な視点で解説いただきました。
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高校時代のあだ名は鈴木福くん、近畿大学 総合社会学部 4年生の岡泰聖です。

突然ですが、皆さんは元気がないとき、どう過ごしていますか?
コロナ禍の自粛モードが解け、徐々に動き出している社会ですが、そんな流れについていけずストレスをため込んでしまっている人もいるのではないでしょうか。暗いニュースも多く、気づかないうちにダメージを受けている……なんてことも。
そんなときにストレス発散や元気を出す方法って、人それぞれあると思います。
音楽を聞く? カラオケ? 筋トレ? 恋愛?
でもなんかそれって、ちょっとハードル高くないですか? 恋愛とか特に……!
頑張り過ぎない、とっておきの元気を出す方法とかないかな……?

「ヘンテコな動きをすると落ち込んでいても元気になる」?
あった……! これや。
なんでも、アメリカのサンフランシスコ州立大学エリック・ペパー博士の2012年の研究で、「ヘンテコな動きのチーム」と「しょんぼりした姿勢のチーム」に分けて、アクションのあとの元気度に違いが見られるのか調査したというもの。
その結果、ヘンテコな動きのチームは元気度が大幅に向上した結果がみられたのだとか。
ヘンテコな動きをするだけで元気になる、そんなことって本当なの?
検証するために、実際にやってみたいと思います!
そもそも「ヘンテコな動き」ってなんだ……?
ヘンテコなポーズや動きを知っていそうな人……ヘンテコで、元気があって面白そうな人……それって小学生? お笑い芸人? 誰に話を聞いたらいいんだ………。
そんなことを思いながらキャンパス内を歩いていると……

「こんにちは! ラッキィ池田です!」
このポーズ、そして頭のジョウロ! ピッタリな人にばったり遭遇したではありませんか。

すみません、これはあまりにもでき過ぎた展開ですよね。
今回「ヘンテコな動き」のスペシャリストとしてお越しいただいたラッキィ池田さんです。
1959年生まれ。1980年代に振り付け師としてのキャリアをスタート。独創的な振り付けが各界の注目を集め、テレビ番組、CM、映画、舞台など数多くの作品を手掛ける。アニメ『妖怪ウォッチ』の『ようかい体操第一』や、NHK Eテレ『いないいないばぁ』をはじめ、子供向け番組や戦隊モノ、アニメの主題歌にもキャッチーなダンスを提供。そのほか作詞、ラジオレポーター、吉本総合芸能学院(NSC)の講師を務めるなど、多彩なシーンで活躍中。
ラッキィ池田さんといえば、あの『ようかい体操第一』の振り付けから、AKB48、モーニング娘。などのアイドルの楽曲の振り付けまで、幅広く行っていらっしゃる振り付け師。独創的で面白いダンスを生み出し、日頃から「ヘンテコな動き」を研究しているラッキィ池田さんに、「ヘンテコな動き」とは何なのか、レクチャーしていただきます!!!
「ヘンテコな動き」は非日常だから面白い

もみあげがまぎらわしいですが、左がラッキィさんで右が岡です

ラッキィ池田さん、よろしくお願いします! ヘンテコな動きで元気になるって本当だと思いますか?

難しいことはわかりませんが、僕は元気ですよ。

ずばり、ヘンテコな動きってなんだと思いますか?

日常から脱却した「非日常」だね。

ど、どういうことですか?

例えば、僕は今日地図を見ずに学生のみんなの流れに乗って、駅から大学まできたんだけど、初めての道を歩くことは、旅と同じ「非日常」でしょ。

確かに、知らない道を行くのは冒険っていうか……。

そう。旅と同じで、先が想像ができない非日常。ヘンテコな動きもそれと同じ。だから面白いんじゃないかな。例えば、子供の動きってすごいよね。

子供ですか。予測できないという感じですね。

そうなんだよ! 生まれたばっかりで全てが新しく見えるわけ。僕たちはダンスするにしても次の動きがある程度予測できるし、型にはまった動きをしちゃうじゃん。そうじゃなくて、子供たちは瞬間瞬間で動いているんだよね。


生き物でも、チンアナゴとかウナギとか変な動きしてるじゃん。けど、あれって一生懸命生きてるだけだよね。

確かに…固定観念にとらわれないような、普段と違うことや予測できないことに遭遇すると、面白いし楽しいです。


じゃあそろそろ、実際にやってみようか!
既存の動きの逆をやってみよう! 「ヘンテコバレエポジション」

まずは「ヘンテコバレエポジション」だ! クラシックバレエって左右の爪先を外側に開くでしょ。「ポジション」といって、足を置く位置も決まっているんだけど、「ヘンテコバレエポジション」は、その反対のことをするよ。

はい!


「ヘンテコバレエポジション」の1番! 爪先を内側に向けて、手は真横にしちゃおう。

こうですか!?

いいぞ!!


ちょっとしんどいけど、片足をあげて!!

こうですか!?

次は頭を手で挟んじゃおう。いい! とてもいい!


褒め過ぎです……嬉しい。


これが「ヘンテコバレエポジション」の1番から5番。「バレエとはこういう動きだ」という、もともとのイメージとは真逆のことをしてみました。既存の動きとは逆のことをしたり、ちょっと変えてみたりするだけで面白いでしょ?

はい! 型はあれど、決まりきった感じがなくて楽しいです。それに、普段はこんな動き、絶対しないですね。

普段とは違うことをやってみるというのは、挑戦している感じがあるよね。じゃあ、もっと挑戦してみよう! 次は自分で「ヘンテコな動き」を考えてみようか。
意味のない言葉から動きを考えてみよう!

さっきは「バレエ」という既存のイメージからポーズをとってみたけど、今度は「意味なしワード」といって、意味のないヘンテコな言葉の組み合わせから動きを自分で考えてもらうよ。じゃあ早速、お題はこれだ!


「フンドシ肉まんじゅう」!? 意味わかんねぇ~!!

与えられた意味からの脱却だ!!

えっ、えっと……フ、フンドシ……


肉まんじゅう〜!!


いいですね、素晴らしい。意味がなくて、どうでもいい感じが伝わってくるよ! どんどんいこう! じゃあ次は「鶏そぼろマーメイド」はどうかな!?

こうですか!?


いいよいいよ! 次は「夕暮れ猫パンチ」!

夕暮れ猫パンチ! 夕暮れ猫パンチ!


せっかくだからマグロを使って、岡くんがワードも動きも考えてみて!

えっ!? マグロ!? えっとマグロ……マグロと……


マグロと立ち話!

いいね! マグロと立ち話!

よし、どうだった? なんか達成感あるよね?

やった感あります! それに、100%真似できなくてもいいっていう敷居の低さがあって楽しめますね。

お題自体に意味がないから、自由な発想で動きを考えられるよね!
最高に元気が出る「ヘンテコな動き」はこれだ!

よし、最後に僕が考えてきた、一番元気が出る「ヘンテコダンス」をやってみよう! まずは足を踏み鳴らしながら、腕を象の鼻のように左右に振って〜……


「ヘンテコバレエポジション」のように手首をまげて、指先を前に突き出して、このポーズ! 左右に動いていこう。


膝に手を置いて足をクロス〜……


この動き、ちょっと難しい!

腰を引いて、右に腕を突き出して〜……


腰を前に持っていく!

右! 前! 左! 前! もう一度同じ繰り返し〜!


さぁ、指さして好きな方に行ってみて〜!!


あっちだ〜、次はこっち〜!!


よーし、じゃあ最後はぐるっと回って変なポーズ。


ヘンテコ〜!!!

いいぞ〜!!
というわけで、ラッキィさんから伝授された「ヘンテコな動き」はこちら!
皆さん、どうですか!?
ヘンテコでしょ!!!
医学的な裏付けはあるの!? 実際の論文は……
今回、ラッキィ池田さんに教えてもらいながら、普段やらないような動きをやってみたり、自分で「ヘンテコな動き」を考えてみることで、楽しい気持ちになりました!このことが精神的な「元気」につながるという裏付けはあるのでしょうか?
「笑い」が人の健康に与える効果を研究している、医学部の阪本 亮先生に聞いてみました。

阪本 亮(さかもと りょう)
専門:心療内科
ストレス関連身体疾患としての心身症を専門とし、笑いが及ぼす効果を医学的に研究。がん患者のメンタルケアなど緩和医療にも携わる。
教員情報詳細

「ヘンテコな動き」をすることで元気になる効果って、科学的根拠はあるんでしょうか?

「ヘンテコな動きをすると落ち込んでいても元気が出る」というニュースが拡散されているようですが、実際のエリック・ペパー博士の研究は「ヘンテコな動き」についての研究ではありません。

えっ!? そうなんですか?

元の論文を見ると、この研究は「クロスクロール」と「姿勢」の研究なんです。

クロスクロール??

右腕と左腕、左腕と右腕の順に動かすことです。この動きによって、右脳と左脳の活動が活性化すると言われています。

初めて知りました!

この研究ではそれぞれのグループに「クロスクロール・スキッピング(クロスクロールを取り入れたスキップ)」と「うつむいた姿勢でだらだら歩行」をしてもらって、そのあとにエネルギーレベルがどう変化するかを調べています。クロスクロール・スキッピングを行うとエネルギーレベルが増加し、逆にうつむいた姿勢でだらだら歩行をすると、人によってはエネルギーレベルが減少してしまうという結果も出ました。


出典:Peper E, Lin IM. Increase or Decrease Depression: How Body Postures Influence Your Energy Level. Biofeedback (2012) 40 (3): 125–130.

ということは、例えば「ゾンビみたいな動き」はある意味ヘンテコな動きだけど……それだと元気にならないってことですよね。

身体の姿勢は、ポジティブまたはネガティブな記憶の想起に大きく影響するのではないかと言われています。例えば、正座をして上を向くとポジティブな記憶、うつ伏せで下を向くとネガティブな記憶を思い出しやすい……といった感じです。

そういうことだったんですね! 元の研究をよく知らないまま「ヘンテコな動き」を習得してしまいました。でも今回、ラッキィ池田さんに教えてもらいながら、普段やらないような動きをやってみたり、自分で「ヘンテコな動き」を考えてみることでも楽しい気持ちになりましたよ。

普段と違うことをすることで、脳の前頭前野が活性化します。その結果、思考力や集中力、記憶力、意欲の向上がみられます。また楽しいことをしているときは、ドパミンという脳内ホルモンが分泌されます。皆さんも快楽ホルモン、報酬ホルモンとしてご存知かもしれませんね。ドパミンにも意欲や集中力を向上させる作用があります。これらの結果、元気になることはあるかもしれませんね。

なるほど。

また、私は、吉本興業と「笑い」の医学的効果を検証する共同研究を行っているのですが、2017年に実施した第1弾の検証で、笑いが「緊張・不安」「怒り・敵意」「疲労」のスコアを改善することがわかっています。ヘンテコな動きをすることで、笑うことにつながり、結果的に元気になる……ということもあると思います。

体の動きや脳の活性化など、いろいろな要素が「元気」につながるんですね。
自分を解放することで元気になる!


ということで、元の論文には「ヘンテコな動き」とは書かれていなかったようです。でも、笑うことや、普段と違うことをすること自体にいい効果もあるみたいです。

なるほど……。でも、そういう意味では、今回の「ヘンテコダンス」は、動きも姿勢も脳をポジティブに活性化するものになっているかもね。

今日やったことは決まりきった感じがなくて、めちゃくちゃ楽しかったです。自分で考えてやってみるのも面白かったなぁ。

実は、自分で何かを決定してみんなに発表することって、元気がある状態じゃないとできないんだよ。

「フンドシ肉まんじゅう」を考えるだけで、そんなすごいことだったんですね。

内面を見られる恥ずかしさというのもあるからね。でも、その恥ずかしさから脱却することで元気になるよ。ところで、岡くんは岡本太郎さんの「太陽の塔」を見たことある?

あります!

僕は「太陽の塔」が大好きなんだけど、あんなすごいものを作った岡本太郎さんは「芸術は転がっている石ころと同じだ」ということを言っているんだよね。

石ころ……?

評価されることや、高く売れることなど、芸術作品は見返りを求めて作るものではないということだね。岡本太郎さんは常々「人に好かれないことを前提に、無償・無目的に自分のエネルギーを宇宙に解放することが芸術だ!」とも言っている。だから人に好かれるかどうかや、恥ずかしさや固定概念を取っ払って、エネルギーを解放することが大切なんだと思うよ。

どうしても、人にウケるかとか、好かれるかって考えちゃいます。

僕もまだまだですよ。例えば「ゲッツ!」とか「そんなの関係ねぇ!」とか、これまで流行ってきたギャグを思い浮かべると、多分「人にどう思われるか」とか考えてないんじゃないかな。

近大OBの、霜降り明星のせいやさんの「せっせっせいや」もそうかも。

あれとか、売れようと計算してやってることじゃないよね(笑)。そういう純粋なエネルギーが広がって、やっている人も見ている人も元気になる。それが「ヘンテコな動きで元気になる」ってことだと思うよ!

そういうことですか!


そう! 恥ずかしさなんか捨てて挑戦してみること! 普通のことから違うことをやってみようという勇気。その勇気を持ってやってみるだけで人生がひらけると思うんだよ。少なくとも元気になるし、考え方も変わるし、「これでいいのだ」と思えるんじゃない?

なんでも挑戦してみることか! このヘンテコな動きは挑戦することへの第一歩なのかもしれないです。

そこにリスクがあっても失敗しても、経験やデータになって次のステップにつながるよ。ぜひ、なんでも挑戦してみてください!! まずはヘンテコな動きから!

はい、ありがとうございます!

日常を過ごしていると、いろいろと悩みごとや悲しいことがあると思います。そんなときは普段とはちょっと違うことをしてみたり、思いっきりエネルギーを解放させてみたりするのはどうでしょうか? 実際にこの取材を通して、僕も考え方や気持ちが明るくなりました。
「そんなこと急に言われても難しいよ!」という方は、レッツヘンテコダンス!
きっと楽しい気持ちになれますよ!

後日、ゼミの友達と「ヘンテコダンス」をやってみました。
阪本先生は、吉本興業との共同研究で、「笑い」の医学的検証に取り組んでいます。
現在、4週間の「お笑い」研究に協力してくれる被験者の方を募集しています。
現状では、がん体験者の方々のHRQOL(健康関連の生活の質)を向上させる方法は確立しておりません。本研究は、被験者の方に毎日お笑いDVDを鑑賞していただき、HRQOLや酸化ストレス、精神症状にどの程度の有益な効果を与えるかについての検証を目的としています。
対象:がんと診断されている方で、がんが治癒している、または病状が安定している方
内容:約4週間の間、毎日15分程度「お笑いDVD」を鑑賞していただき、心理検査を含む質問表とアンケートへの記入をお願いします。
・検査初日と最終日の合計2回、近大病院への来院が必要となります。
・酸化ストレス測定のため、指からごく少量の採血を行います。
・ご参加いただいた方には、ご自身の酸化ストレス、抗酸化力のデータを提供させていただきます。
募集締切:2023年3月末
申し込み・問合わせ:
メール(ryo-sakamoto@med.kindai.ac.jp)
※定員になり次第、締め切りとさせていただきます。
詳しくはこちら
この記事を書いた人

岡 泰聖(おか たいせい)
2000年京都生まれ。近畿大学 総合社会学部 4年生。特技は、武田鉄矢、ルパン三世、バズライトイヤーのものまね。趣味はおえかき。いつも通る風景の写真に「いたらいいな」と思うキャラクターや人物を描くのが好き。顔が、鈴木福くんにとても似ている。
instagram
写真:西島本元
編集:人間編集部
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