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2022.08.31

関西人にこれほど愛される秘訣は?「旭ポンズ」高田社長の味へのこだわり【突撃!近大人社長】

Kindai Picks編集部

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OB・OG
旭食品
旭ポンズ
高田悦司
社長訪問
突撃近大人社長

「関西のポン酢」といえば、どの家庭からも必ず名前があがる「旭ポンズ」。1967年の発売以降、半世紀以上も関西人から支持され続けるロングヒット商品の人気の秘訣とは? 「突撃!近大人社長」第13回は、旭ポンズの製造元である「旭食品」代表・高田悦司社長に、総合社会学部 社会マスメディア専攻3年生の中橋里瑚さんがインタビューしました。

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大阪・八尾市に本社を構える「株式会社旭食品」は、主力商品である「旭ポンズ」をはじめ、「うどんだしの素」「そばつゆの素」など、調味料の製造・販売を行う会社です。

戦後まもない1948年に、うどんや素麺など乾麺の製造を行う「太子乾麺所」として創業。1958年に、当時まだめずらしかった既製品のかけつゆや、希釈用のだしの素などの製造・販売をスタートし、1967年に発売開始した「旭ポンズ」で一躍有名に。

「八尾市中小企業地域経済振興功績者顕彰」の受賞や、「KANSAIモノ作り元気企業100社」に選ばれたこともある、八尾市が誇る企業です。



現在の社長である高田悦司さんは、小学生の頃から家業を手伝い、近畿大学卒業後はすぐに旭食品に入社。40年以上自ら現場に立ち、製造を続けていた生粋の職人です。

今回は、2020年に完成した新工場を訪問し、「旭ポンズ」の誕生秘話や、人気商品になるまでのエピソードを伺いました。


先代の味を、半世紀以上守り続ける。旭ポンズの開発過程が記載された「研究ノート」




高田 悦司(たかだ えつじ)

株式会社旭食品二代目社長。1952年大阪府八尾市生まれ。1975年農学部食品栄養学科卒業。1974年旭食品入社、2000年に代表取締役に就任。2020年工場(株式会社旭食品本社)を新設。



中橋里瑚

本日はよろしくお願いします! 私は石川県出身なんですが、取材の前に関西生まれの友人たちに話を聞いたら、全員が「実家では旭ポンズを使っている」と話していて、びっくりしました!





高田社長

ありがとうございます。おかげさまで、お客様からは50年以上のご愛顧をいただいております。





中橋里瑚

一体、どんな経緯で大人気の「旭ポンズ」が誕生したのでしょうか?





高田社長

弊社は、もともと乾麺などを扱う麺の会社だったんです。1958年から麺につける「冷やしだし」や「だしの素」も販売するようになりましたが、売れるのは夏場。「冬場の主力商品を開発したい」と考えた父が目をつけたのが、ふぐ料理専門店として有名な「づぼらや」のポン酢だったんです。




近大マスクをつけてインタビューさせていただきました。


高田社長

父は「づぼらや」の常連客で、新世界の店舗によく足を運んでいました。「てっさ(ふぐ刺し)」や「てっちり(ふぐ鍋)」に使うあのポン酢の味に惚れ込んで、この味を家でも楽しめるようにしたい! と考えたのがきっかけです。





中橋里瑚

今は色んなメーカーのポン酢がありますが、当時は家庭用のポン酢って一般的じゃなかったんでしょうか?





高田社長

まだ家庭用のポン酢は普及していなかったんです。関西ではふぐ料理に使うものとしてなじみがあったけど、全国的に鍋料理に使うものではなかったですね。





中橋里瑚

そうなんですね! 今では食卓の調味料の定番ですよね。






高田社長

ポン酢が全国区で使われるようになったのはミツカンさんの功績ですけどね。今では九州発祥の「水炊き」も鍋の定番になっていますが、昔は家で水炊きとかしなかったですから。




※当時の商品名は「ミツカン 味ぽん酢」。1964年に「ミツカン ぽん酢<味つけ>」として関西で試験販売された。



中橋里瑚

づぼらやのポン酢を参考にしたというお話でしたが、どうやって「旭ポンズ」の味を開発したんでしょうか?





高田社長

夏場の主力商品だった「うどんだしの素」「そばつゆの素」は、昆布やかつお節、スルメやイワシの混合節などを、父親が自分の味覚だけを頼りにブレンドして作った商品でした。そのだしをベースに、合わせる柑橘類の種類とバランスを1年かけて研究したみたいです。




先代が残した、昭和37~39年当時の研究ノート。「中華丼の素」など、主力商品以外のレシピを研究した痕跡も残されている。


中橋里瑚

お父様がお一人で研究なさったんですか?





高田社長

当時は、一人で開発に奮闘していたみたいですね。父親は研究熱心な性格だったので、ご近所さんや親戚に味見してもらって、何度も試作を繰り返して材料の配合を調整して、「旭ポンズ」を完成させました。





中橋里瑚

今も当時の味のままなんでしょうか?





高田社長

基本的な配合は今でも変えていません。柑橘類はスダチ・ユコウ・ユズの3種。父親が残したレシピ通りに調合しています。年によって果物そのものの味が違うときがあるので、そういう場合は分量を変えていつもの味になるよう調整します。





薄利でも天然材料にこだわり続ける。手書きのラベルのデザインまで手作りの、旭食品こだわり





中橋里瑚

「旭ポンズ」のこだわりは何ですか?





高田社長

昆布も柑橘類も、材料はすべてふんだんに使用することですかね。昆布は主に北海道の利尻から取り寄せたものを、柑橘果汁は徳島県の特定生産者さんから取り寄せたものを使用しています。そのほか、サバ・イワシなどの混合節や、乾燥しいたけも国産の厳選したものを使用しています。





中橋里瑚

すべて天然材料にこだわると、すごくコストがかかりそうですが……。





高田社長

だから、生産体制をあまり大きくできないんです。父親が社長の時代に、製造を担当していた母親が「経費がかさんで利益が減るから、もう少し材料の量を減らしたら?」と持ちかけたことがあるそうですが、父親は「材料は絶対に天然物で、量も減らさない」と譲らなかったそうです。「会社を大きくしても、商品の品質が下がったら意味がない」というのが父のポリシーでした。




現在、旭食品が販売を行う4種の調味料。


中橋里瑚

ラベルも特徴的ですよね。





高田社長

実は、あのラベルもすべて父親が一人で考案してデザインしたものなんです。





中橋里瑚

そうなんですか!? お父様はデザインの知識や経験がおありだったんでしょうか?





高田社長

父は「旭食品」を創業する前に、親戚が経営していた東京の出版社で丁稚奉公(でっちぼうこう)をしていたんです。勉強熱心な父でしたから、職場で色々な本を読んで、デザインの知識も身につけたんじゃないかと。




社内には先代が描いた歴代の販促用ポスターと、イラストが飾られている。


中橋里瑚

一目で「旭食品の商品だ!」とわかるデザインが魅力的ですよね。





高田社長

私の友人なんかには「儲かってんねやろ? ええデザイナーさん雇って、新しいデザインにしたらええやん!」なんて言われますけどね。お客様からは「このデザインこそ旭ポンズだから、変えないでほしい」と言っていただけるので、今後も変更する予定はないんです。





中橋里瑚

特に関西地方で愛されている「旭ポンズ」ですが、同じく関西人に絶大な指示を得ていた歌手のやしきたかじんさんも、旭ポンズの大ファンだったそうですね。





高田社長

ご愛用いただいてましたね。今から40年くらい前に、たかじんさんがラジオで「うまいポンズがある!」と紹介してくださったんです。そのおかげで売り上げが急に伸びて、一時は「店頭で買えない幻のポンズ」なんて言われていました。その後も、ことあるごとにラジオやテレビで名前を出してくださってね。関西だけでなく、全国的に名前を広めていただいたんです。




鮮度を落とさないために、瓶の容器と王冠の蓋を使用。半世紀以上変わらないこだわりの一つ。


高田社長

以前までは、ボトルの蓋である王冠の中に内キャップがあったんです。たかじんさんが「これが取りづらい!」とおっしゃっていたのを聞いて、改良しました。





中橋里瑚

普通、ポンズやその他の調味料といえば手で引き抜けるキャップが一般的ですよね。なぜ、旭食品の商品は王冠で蓋をしているんでしょうか?





高田社長

今は容器も蓋もプラスチックを使用することが多いですが、風味・品質を落とさずに商品を流通させるためには、やはりガラス瓶に王冠が一番なんです。送料がかさんだり、破損の危険性があるので、大手メーカーさんはあまりガラス瓶を使用しなくなっていますが、弊社は香りや味を保つために従来のやり方を守り続けています。





双子の弟と毎日麻雀!?高田社長の大学生活





中橋里瑚

高田社長は、どうして近畿大学に進学されたんですか?





高田社長

高校3年の夏までサッカー部でクラブ活動に専念していたので、大学受験のことは何も考えてなかったんですが……周りから「近畿大学の推薦を受けたら」と言われまして。





中橋里瑚

推薦の話がくる以前に、近大のことはご存知でしたか?





高田社長

私には双子の弟がいて、弟が近大附属高校に通っていたんです。なので、近大のことは知っていましたよ。
弟とは、中学までずっと一緒で、高校だけ別々で。一緒に近大に進学したら「麻雀ができるな」と思って近大への進学を決めました。





中橋里瑚

えっ(笑)。農学部の食品栄養学科を卒業されたと聞いたので、家業を継ぐための勉強のために選んだのかと……。





高田社長

もちろん、私は長男なので家業を継ぐつもりではいましたが、大学時代は正直勉強よりも麻雀に専念していましたね(笑)。農学部も東大阪キャンパスにあった頃です。同じ学部に進学した双子の弟と私、あと二人集めればすぐ麻雀ができたので、大学の近くの雀荘によく行ってました。




20歳の頃、島根旅行の写真。一番右が高田社長、左から2番目が双子の弟・高田益男さん。


高田社長

双子なので、弟は顔も背格好も私にそっくり。今思えば、悪いことも良いこともすべて共有していました。弟も卒業と同時に入社し、そこからはずっと一緒に働いていましたよ。一人では辛い作業も、弟と協力して乗り越えてきました。私一人では、途中でくじけていたかもしれません。





中橋里瑚

素敵な兄弟関係です。近畿大学時代の同級生とは、今も交流はありますか?





高田社長

たまに「ポンズ送ってくれよ」なんて電話がありますよ(笑)。コロナ禍でなかなか友人たちとは会えませんが、お互いに「元気してる?」なんて電話で連絡を取り合っています。





中橋里瑚

お父様や弟さんと会社を切り盛りされてたということですが、「旭食品」は今もご家族だけで運営されているんですか?





高田社長

いえ、現在はありがたいことに20人ほどの従業員さんと共に運営しています。私と妻と弟、私の3人の息子も弊社の社員です。





中橋里瑚

ご子息全員が旭食品にお勤めなんですね。





高田社長

長男が専務、次男が常務、三男が工場長を務めてくれています。2020年に新工場が稼働しはじめてからは、ポンズの配合調整も息子たちに引き継ぎました。





設備が変わると味が変わる……プレッシャーと闘いながら、新工場へ移転



2020年5月に竣工し、6月から本格稼働を開始した「旭ポンズファクトリー」


中橋里瑚

今日訪問している新工場は2020年に完成したんですよね。





高田社長

はい。工場は新しく綺麗になり、安心安全のために国際基準を満たす衛生管理システムも新たに導入しましたが、使っている設備や調理器具はほとんど昔のままなんです。先代からの味を守るために、製造に関するほとんどの設備を旧工場からそのまま移設しました。プレッシャーも大きかったですね。移設する際、もし設備が故障したら二度と同じ味が作れなくなるかもしれないので。





中橋里瑚

半世紀以上続く旭ポンズの味を守るためには、新工場の移転作業にも大変な苦労があったんですね……。





高田社長

だしの味は、わずかな火力、空調の変化に影響をうけます。旭ポンズの味を細かくデータ化し、新工場でも以前とまったく同じ味が再現できるように何度もシミュレーションしました。 テスト期間中、だしの味が強くなりすぎたり、柑橘の味と香りが飛んでしまったり、何度も失敗を繰り返して、完全に新工場での製造に切り替えるまでに、2年もの期間を費やしました。




清潔感あふれる新しい工場の内部。3階建ての工場は、2841.44平方mの延床面積を有する。


中橋里瑚

今では多くの業務を息子さんに引き継がれているそうですが、旧工場では社長が自ら製造現場で作業されていたんですか?





高田社長

約40年前の入社当時から数年前まで、毎日現場で作業していましたよ。味の調整も、私が実際に味見をして行っていました。





中橋里瑚

どのようなタイムスケジュールで勤務されてたんですか?





高田社長

冬場は夜の10時に仕込みを開始しても、すベての作業が終わるのは次の日の昼12時くらい。そこから配達に出て、仕事終わりは夕方17時ごろでした。繁忙期はほとんど休みがなかったです。双子の弟と協力して、なんとか頑張っていましたよ。





中橋里瑚

そんなに激務で、当時はものすごくしんどかったのでは……?






高田社長

うーん、覚えてないかな。性格上、いいことしか覚えてないんです。悪いことはすぐ忘れちゃう(笑)。実は、業務を息子に引き継いだのは病気をしたことが原因でもあるんですが、大手術をしたときも「ええようになる」としか思ってなかったです。大変なときもあるけど、遊べるときに遊べたらそれでうれしいって性分です。





中橋里瑚

すごく明るい……! そんな社長だからこそ、大変な業務の中でも高品質の商品を作り続けることができたのかもしれませんね。





コロナ禍で思い出の店が閉店……。高田社長が見据える旭食品の未来とは





中橋里瑚

2020年、ちょうど新工場を建設された頃に新型コロナウイルスの感染拡大が始まりましたが、旭食品さんにもコロナの影響はありましたか?





高田社長

皆さんの在宅時間が増えた影響か、360mlの家庭用旭ポンズの売り上げは少し上がりました。ただ、弊社では飲食店向けの業務用として一升瓶の旭ポンズも発売していて、そちらの売り上げは減少しました。飲食店がのきなみ営業休止したのが原因だと思います。





中橋里瑚

休業要請が相次ぎ、飲食業界がうけたダメージは重大なものでしたね。





高田社長

旭ポンズ誕生のきっかけをいただいた「づぼらや」さんも、2020年4月に臨時休業し、再開しないまま8月に閉店してしまいました。父親に連れられて、私も何度もお店に足を運びました。家族との思い出がたくさん詰まったお店の閉店は、こたえましたよ。





中橋里瑚

社長のお気持ちを思うと、すごく悲しいです……。





高田社長

づぼらやさんに、父は旭ポンズ開発のヒントをいただき、私はたくさんの思い出をいただきました。本当に、感謝の言葉しか出てこないです。






中橋里瑚

でも最近では、飲食店も通常営業に戻りつつありますね。





高田社長

私はお酒が好きだから、コロナ前はよく友人たちと飲食店を飲み歩いていました。コロナが収まったら、また飲食店をはしごしたいです。お酒は、お医者さんから止められてるんだけど……。





中橋里瑚

大丈夫なんですか!?(笑)。お酒以外には、なにか趣味はありますか?





高田社長

ゴルフが好きです。こちらもコロナ前までは、友人たちと月1ペースで出かけていました。





中橋里瑚

ゴルフは健康的でいいですね!





高田社長

まあ、ゴルフに行くときもお酒は飲んでるけどね。友人と連れ立って、よく車で行くゴルフ場までの道中にコンビニがあるんです。そこでお酒を買って……。





中橋里瑚

えっ、車内で飲んでるんですか!?





高田社長

はい。運転役はほかの誰かに任せて、私はお酒を飲んでいます。





中橋里瑚

社長のお酒好きがよくわかるエピソードです(笑)






中橋里瑚

3年後には大阪・関西万博の開催もありますが、旭食品さんは万博に向けてなにか取り組みをされていますか?





高田社長

息子たちが色々考えているみたいですね。ただ弊社だけでは大掛かりなことはできませんから、八尾に拠点を構えるほかの企業とコラボして、万博に関連した企画などを模索中だそうです。八尾市で創業して、今年で74年目。地元の方に「旭ポンズの八尾」と自慢に思ってもらえるように、頑張りたいですね。





中橋里瑚

最後に、大学生や若い世代に向けてメッセージをお願いします。





高田社長

先ほどもお話ししましたが、私は先代から「細く長く、目の届くように仕事をしなさい」と教えられていました。事業の拡大を考えたこともありましたが、商品の品質が保てなくなることを考えたら「自分の目が届く範囲で、お客様に喜んでいただける仕事がしたい」と思い直しました。学生の皆さんも、就職したら大変なことがたくさんあると思います。でも、すぐに諦めてあれこれ手を出すのではなく、少しだけ腰を据えて頑張ってみてください。自分なりのこだわりを持って働いて、自分の仕事に自信が持てるようになれば、きっと働くのが楽しくなるんじゃないかな。





中橋里瑚

高田社長、本日はありがとうございました!





対談を終えた中橋さんの感想は?




はじめは緊張していて不安でしたが、いつの間にかインタビューを笑いながら楽しんでいる自分がいました。伝統の味を守るために社長が行ってきた努力は、並大抵のものではないと思います。先代が残したレシピノートも、表紙だけ見ても伝わってくる熱いものがありました。

相当な努力の末にお客様に愛される会社を作りあげたにも関わらず、決して鼻高々ではなく、楽しそうにお仕事のお話をされる高田社長の姿は、すごくかっこよかったです。私も社会人になったときに、壁にぶち当たっても笑って乗り越えられる強い自分でいたいと感じました!


取材・文:トミモトリエ/渡辺あや
写真:大越はじめ
編集:人間編集部

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