2022.03.15
「商談の場は大喜利」ヘソプロダクション稲本ミノル社長の"ヒット作量産"の方程式【突撃!近大人社長】
- Kindai Picks編集部
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今回の「突撃!近大人社長」で伺ったのは、大阪の商品開発メーカー、ヘソプロダクション。「忖度まんじゅう」や「平成の空気缶」、「はちみつアラビックリ!?ヤマト」など、見た人が思わず「なにそれ!」と反応してしまうような企画を生み出し、数々の“バズ”を生み出し続けています。そんな話題に事欠かない会社の社長であり、近大OBの稲本ミノルさんに、経営学部 商学科 1年生の辻口美咲さんがインタビューを行いました。
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面白い企画が大好きだという経営学部 商学科 1年生の辻口 美咲さん。
ヘソプロダクションは2014年に、大阪は福島区の大開にて設立された商品開発メーカーです。雑貨のみならず、お菓子と融合させた「雑・菓」企業として、ユニークな商品をプロデュースしてきました。そのアイデア・企画力で稲本社長が手掛けた商品が、テレビやネットニュースなどで話題になることも多々あります。
そんな稲本社長のお話をお伺いするべく、ヘソプロダクションのオフィスに足を運んでみました。いったいどんな人物なんでしょうか?
オフィスの一角にある打ち合わせスペースの周りには、今までに企画したたくさんの商品がズラリ。まるでおもちゃ箱のような空間で少し待っていると、奥から颯爽と稲本社長が現れました。
「僕らはヘソで世を沸かす」稲本社長が語る“ヘソ”とはいったい!?
1976年京都府生まれ。近畿大学 文芸学部 芸術学科 演劇芸能専攻(現・文芸学部芸術学科舞台芸術専攻) 卒業。テレビ制作会社、玩具卸会社などを経て、2014年に株式会社ヘソプロダクションを設立。株式会社ヘソプロダクション、株式会社ねこのてプロダクション、株式会社そもそもクリエイト3社の代表取締役。「やりたいことで世界を切り開く」をコンセプトに、日々「やりたいこと」を本気で表現し続けている。2017年「忖度まんじゅう」のプロデュースを行い、「2017ユーキャン新語・流行語大賞」年間大賞を受賞。著書『そんな夜あんな夜こんな夜に』(文芸社)、絵本(共著)『ミーの黄色い自転車』(文芸社)。
近大マスクをつけてインタビューさせていただきました。
こんにちは。今日はよろしくお願いします。まず、社名がとても変わっているなあって思いまして。
よくいわれます。ヘソってなにかの中心を表現するときによく使われる言葉なんですけど、企画やものづくりをして、自分が渦の中心になって面白いことを巻き起こしたいっていう思いを込めて付けました。最終的には国内だけじゃなくて、世界的、むしろ宇宙的に活躍して、「地球のヘソ」になる企業を目指してます。
宇宙的に……! すごく面白い商品をたくさん作られていますよね。事務所にある中で、「これはヒットしたな」っていう商品をお教えいただけますか?
そうだなあ。この『マジックふりかけ』はいろんな芸能人もSNSで取り上げてくれて、すごい話題になりました。皆さんにお馴染みの『マジックインキ』とコラボさせてもらったんですけど。
『マジックインキ』を開発した寺西化学工業株式会社さんとのコラボで実現した『マジックふりかけ』。左から、塩ラーメン味、紅しょうが味、海軍カレー味。
見たことあります! ふりかけが入ってるんですよね?
そう。「どんなものにもよく書ける」が元々の『マジックインキ』のキャッチフレーズなんだけど、ふりかけだから、「どんなものにもよく掛ける」っていう言葉遊びをしました。これは100万本以上売れて、結構バズりましたね。
100万本も!
あとは、フエキ糊の不易糊工業株式会社さんとコラボして、フエキショップという店舗を構えたり、どうぶつのりキャラクターのフエキくんグッズをたくさん企画しましたが、中でも『フエキくん綿棒』が人気ですね。
昔懐かしいフエキ糊の『どうぶつのり』。帽子を取ると……
フエキくんカラーの応援メッセージ付き綿棒が!
この入れ物、すごい懐かしいです! 綿棒には「がんばるです」「フレーフレーです」とか、ひとつひとつに応援メッセージが書かれてるんですね。この言葉は誰が考えたんですか?
僕が考えましたよ。かわいいでしょう。
とってもかわいいです! でも、こういった企業さんとのコラボって、どうやって実現しているんですか?
『マジックふりかけ』は、閃いた瞬間に企画書を作って、すぐ寺西化学工業さんに話を持っていきました。他にも、液状のりの『アラビックヤマト』の容器に蜂蜜が入っていたら面白いんじゃないか!? と思いついて、製造・販売をしているヤマト株式会社さんに企画書を送ったんですけどしばらく返事がない状態で。後日、展示会でたまたまヤマトの社長にお会いしたときに直接お願いして実現しました。
蜂蜜のやつ、知ってます。それにしても、すごいスピード感と行動力ですね。
僕は、アイデアを思いついたときに「世界で3人同時に同じことを閃いている」って思うようにしているんですよ。過去に、自分が持っていたアイデアを他の誰かに先を越されて悔しい思いをしたことがたくさんあったので。だから、誰が一番最初に行動を起こすかが大事だと思っているんです。どんなにいいアイデアがあったとしても、アクションを起こさないと、結果はなにも生まれませんから。
たくさんの企業とコラボ商品を作られていますが、それぞれの企業に共通点はあったりするんですか?
マジックインキ、フエキ糊、あとはパインアメなんかともコラボしているんですが、これらのコラボ先の3社には決定的な共通点があります。ちょっと考えてみてください。
えっと……、文具メーカーだとパインアメは違うし……教えてください!
すべて大阪の企業ということです。全国的に有名な商品を作っている会社なのに、大阪の会社ということがあまり知られていないんです。なので、「大阪ってイイもの作ってるぞ! 」っていうことを発信したかった。ビジネスの上でも、自分たちの強みを出して勝負をしないと成功しませんから、まずは地元の大阪で地盤を固めるっていう意味もありますね。だから、ここ3〜4年は積極的に大阪の企業とコラボしてきました。
大阪の力を全国へ届けるために新しい名物を作り上げるということですね。先程、ヒットした商品を教えていただいたんですけど、個人的に思い入れのある商品とかありますか?
そうですね、このお箸なんかは結構気に入ってますね。
幼少期に誰もが使ったことはある、クーピーペンシルのデザインを踏襲したお箸。
クーピー懐かしいです!お箸って同じ色で一対のイメージがあったんですが、これは全部色が違う?
そう。その日の気分で色を変えてもいいし、色の組み合わせを楽しめるっていうお箸です。お箸は一対で同じ色じゃなくてもいいと思うんです。めんどくさいじゃないですか、これはお父さんの、とか。新しい価値観を発信することは、ものづくりで自分が表現したいことのひとつなので。他の商品に比べて、飛ぶように売れたわけではないけど、社会的に問いかけができた思い出深い商品ですね。
“夢は潰していくもの”。マインドの切り替えで人生が動き始めた。
稲本社長は、近大でどんな学生生活を送っていたんでしょうか。
芸術学科で演劇芸能を専攻してました。将来、脚本を書いたり、映画を撮りたいと思っていたから、そのためには役者の立場に立って勉強したほうがいいと思って。映画が見放題だからビデオ屋さんでアルバイトもしていました。
演劇を学んでいた、近大芸術学科時代の稲本社長(写真左から2番目)。
学生時代で、なにか思い出に残ってるエピソードはありますか?
自分はあまり真面目な学生ではなかったんだけど、ある日ゼミの先生に「もっと技術を学びたかったら本を読みなさい」っていわれました。僕が「本から得た知識はパクリになるから読まない」って反論したら、「パクリでも、やりたいっていう思いがオリジナルなんだよ」っていわれて。全部がオリジナルなものなんてこの世の中にはないんだって気づかされたんですよね。この言葉はすごく腑に落ちて、今でも大切にしています。
目指していた脚本家と、今されているものづくりとは結構離れたお仕事のように感じるのですが、どのように現在のお仕事にいきついたのでしょうか。
大学を卒業したあと、映像に携わりたいと思って報道番組のADをしました。プロデューサーになって、将来は自分の番組を作りたいと考えていたんです。でも、上司に「この会社では上に上がれない」といわれて挫折しました。当時は20代前半で、テレビ以外でなにかの表現者として成功するという根拠もない自信がありました。なので、挫折はしたものの、表現の幅を広げるためにいろいろなことを経験しようと思って、やりたいことや夢もたくさんあったんです。でもあるとき、夢がたくさんあることがすごくカッコ悪いと感じたんです。
夢がたくさんあることはよいことのように思えますけど、どうしてでしょうか。
夢に向かって本気でぶつかりますよね。そうすると、その夢が自分に合うか合わないかがわかる。本気でぶつかると自然と夢って自分で潰したり減らしていけるものなんですよ。当時の自分は、やりたいことや夢がたくさんあった。つまりは、なにも本気でやっていなかったんだって思ったんです。そう気がついたときに全部本気でやってみようっていうマインドに切り替えたんです。
なるほど……!
前職の玩具の問屋に入社したのも、いつか商品づくりをやってみたいって夢があったからで。1年でトップをとれなかったら退職しようっていう覚悟を決めて働き始めました。このマインドの切り替えがとてもよかったと思っています。
すごい覚悟ですね……。今まで携わった映像関係の仕事からの転職。結構勇気がいりそうです。
本当は大手の玩具メーカーに入って、おもちゃを企画して作るっていうことをやりたかったんです。辻口さんがいうように異業種からの転職で大手メーカーに入るのは難しそうだった。だから、まずは問屋に入って、サラリーマンでヘッドハンティングされるくらいの実力を付けるのが、近道のように思ったんです。結果として入社して1年で営業成績トップに立つことができました。
どうやってトップに上り詰めたんでしょうか!?
問屋には企画・開発の部署はなかったんですが、自分で勝手に商品の企画を考えて提案したんです。初めは社長に「どこに売るかもわからんもんはアカン!」って反対されたけど、「だったら自分で売り先を見つけてくればいいんですよね」って啖呵を切って。そこからは通常の業務に加えて、自分で商品を企画して、売り先を見つけるために営業して……の繰り返しです。そうしたら、段々と売上が増えてきて。
「ものすごい新入社員が入ってきた!」ってなりますね。
入社して2年が経った頃には企画分野の別会社ができて、その会社の社長に任命されました。でも、雇われの社長だから、自分が好きなようにものづくりはできなかった。そこに限界を感じてしまい、10年で退職して……。
退職後は何をされていたんですか?
仕事を辞めたあと、ありがたいことにいくつもの会社からオファーをいただきまして。今までお世話になっていた分、少しでも役に立てるならと、アドバイザーという形で、いろいろな会社とお仕事させてもらっていました。でも、僕がアイデアをいろいろだしても、結局サラリーマンのときと同じなんですよ。
同じというのは……?
結局、リスクを怖がって話がほとんど進まないんですよね。当然ですけど、経営の考え方も自分とは違うし。やっぱり、結果がよくても悪くても自分にかえってくるような、手応えのある人生を送りたいって思い直して。そのときはお世話になっていた方などから「店舗プロデュースやものづくりの現場に戻ってこい」といわれ続けていました。丁度そのタイミングで店舗プロデュースを任されることになって、「ああ、これはいよいよ会社を立ち上げる流れなんだな」って。
流れで会社を作ることを決意したんですね。
流れに逆らうと、たいていろくなことがないって人生の中で知っていたので。自分がこの流れに呼ばれているんだな、と。そんな経緯で、このヘソプロダクションを設立しました。
企画は大喜利。アイデアを生み出すには、まず考え抜くこと!
辻口さんは、商品企画に興味があるっていっていたよね?
はい! そのために商学科で勉強しているんですが、稲本社長はどういったときにアイデアを閃くのかお聞きしたいです!
ものづくりって特殊能力じゃなくて、誰でもできると思ってるんですよ。まずやってみることは、1を10にする感覚を学ぶこと。あるものとあるものを掛け合わせてっていう考え方を鍛えれば、新しいものはいくらでも生み出せると思ってます。僕はこのことを料理によく例えるんですけど。
料理ですか。
そう。料理を作るときに材料がなかったらなにも作れないですよね。企画やアイデアも同じで、材料がなければ作れない。だから、日常の中でアンテナを張り巡らせて集めておく。食材の数が多ければ多いほど、複雑で難しい料理も作れるし、誰も想像つかないような新しい料理も作れるかも知れない。企画って大喜利みたいなもので、商談の場で、「こういうものを作りたい」っていうお題を出されたときに、その場でどんなワクワクする答えを返せるかだと思っています。
とても勉強になります……!
あとは考え方の訓練はマスターしたほうがよいと思います。僕は常に、頭の中で100個くらいのことを考えてまして。
100個……!? どうやったらそんなことができるんでしょうか。
考えるってすごいしんどいことだけど、それをやめないで、最後までトコトン考え抜くこと。そして、行き詰まったら別のことを考えるんです。大事なのは行き詰まった考えを、頭の真上に放り投げることなんです。
あの、放り投げるってどういう感覚なんでしょうか?
頭の中から一旦抜いて、真上に放り投げておくイメージ。面白いことに、あとになって違うアイデアになって落ちてくるんですよ。でもこれは考え抜くことをしないとわからない感覚だと思います。しんどいけど、限界まで考え抜くこと。これをマスターするといろいろなことを閃く人間になれると思うから、今は考える訓練をすればいいと思いますよ。
すごくためになるアドバイスをありがとうございます!
稲本社長が見据えるこれからと、学生に向けてのメッセージ
ところで、ヘソプロダクションでは、毎年会社のコンセプトを変えてるそうですが、それはどうしてでしょうか?
僕は5年後、10年後の目標を立てるより、毎年、自分の足元や周りの状況を見て、目標を決めるほうが重要だと考えているんですよ。会社で会議をほとんどしないんですが、今年のコンセプトを掲げることで、もしなにか悩んだりしてもこのコンセプトに立ちかえることができるように、まあ、マインドセットみたいなものですね。でも、たまにコンセプトが響いてウチと取引したいっていってくれるお客様がいて……。そのときはすごく嬉しくなりますね。
今年のテーマは“『えいやぁdays』 Vibrant days – 感性領域の拡大 –”ですが、どんな思いが込められているのでしょうか?
綱引きみたいに、自分たちの勢いで「えいやぁ!」とビジネスをこっちに引き込むイメージです。やっぱりコロナでモチベーションが下がりがちだけど、そんなときこそ毎日文化祭前夜みたいな感じで、めっちゃ楽しいことをしようって決めて。勢いで駆け抜ける1年にしたいっていう思いを込めました。
コロナに負けず、私も「えいやぁ!」と気合いを入れて学生生活を送りたいです!
なにか、今の大学生に向けてアドバイスはありますか?
そうですね。とにかくいろいろなことに触れること、ですかね。なにかひとつのことに没頭することも、もちろん大切なことですが、苦手なことでも一度その世界に触れてみること。たった1ミリだけでもカスったことが、将来自分の助けになったりするので。世の中に無駄なことなんてひとつもないと思います。学生だからこそ、垣根なくいろいろなことにチャレンジしてもらえたらなと思います。
ありがとうございます! 本日はお忙しい中、ありがとうございました!
対談を終えた、辻口さんの感想は?
ヒット商品が企画されてから売り場に並ぶまでの開発秘話や裏話。商品開発に関わってみたいと考えている私にとって、とても興味深いお話を聞くことができました。たくさんのお話の中でも「面白いことを閃いたら、それを形にするためにいち早く行動すること」「ひとつのことだけではなく、多くのことに広く少しでも触れてみることが大切」というお話に心を打たれました。なにごとも初めの一歩を踏み出すことに臆病な私も、これから積極的にチャレンジし、たくさんの経験を積むことによって自分の視野を広げていけるよう頑張っていきます。
改めまして、稲本社長、ありがとうございました!
取材・文:関戸ナオヒロ
写真:西島本元
企画・編集:人間編集部
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