2021.09.17
高飛込・西田玲雄選手から学んだ「ノースプラッシュ」の技術を応用してグラビア撮影してみた
- Kindai Picks編集部
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飛込競技の「男子10m高飛込」で東京オリンピックに出場した近畿大学の西田玲雄選手。飛込は、踏み切りの高さやフォームの安定性と美しさに加え、水しぶきをできるだけ上げない「ノースプラッシュ」が高得点となる競技ですが、その技術を応用して、今回は被写体の後ろで水しぶきを上げるグラビア撮影に挑戦します。
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どうも、ダジャレを言ってその場を水を打ったように静まり返らせるのが得意な男、岡シャニカマです。
今日は「高飛込」という競技で、東京オリンピックに日本代表として出場したスーパーアスリート、近畿大学経営学部3年の西田玲雄選手と会うためにやってきました。
この競技は最大10mの高さからプールに飛び込み、難易度の高い技を決めながら、水しぶきを上げない「ノースプラッシュ」で入水するんだとか。
ところで、西田選手は……
はッッッ!?
え……なんじゃ今の!?
腰を抜かす筆者。
間違いありません。
あの方が今回の主役、東京オリンピック男子10m高飛込代表西田玲雄選手です!
ちょっと話を聞いてみましょう。
失敗すると超痛い! 骨折もアザも当たり前……!?
2000年7月16日生まれ。近畿大学経営学部3年生で体育会水上競技部所属。東京五輪予選の最終6回目に大技を決め、初の五輪代表をつかんだ。水しぶきが上がらない入水と空中感覚の良さが持ち味。中学時代に世界ジュニア選手権で優勝。高校時代に2018年、2019年「日本選手権シンクロ高飛込」連覇を達成。東京オリンピック最終予選を兼ねたW杯男子高飛込で予選18位になり代表に内定。
初めまして、今日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします!
あの、まず聞いてみたいんですが、10mの高さから飛び込むって怖くないんですか……?
怖いですよ(笑)。結構ビビりな方です。
そもそもこの「高飛込」ってどういう競技なんですか?
「飛込」は、飛び込み中に繰り出す演技の「難易度」と「ノースプラッシュ」が決まったかどうかで点数がつけられる競技です。助走をつけて1mと3mの高さから飛び込む「飛板飛込」と、5mと7.5mと10mの高さから飛び込む「高飛込」があり、それぞれ「宙返りの回数」や「ひねりの回数」の組み合わせで演技が決まります。
左が「前入水」、右が「後ろ入水」。高飛込は5mと7.5m、そして10mの飛込台があり、10mは一般的なビルの3〜4階に相当する。
さっき逆立ちして飛び込んでましたよね。
あれは、6つある飛込開始技のうち、一番難易度の高い「逆立ち飛込」です。更に、空中のフォームも自由型を含めると4つの型があり、実は腰や膝を曲げずに両足をそろえる「伸び型」が一番難しいんです。
地上10mで逆立ちすること自体恐ろしいんですが、決まったフォームで回転しながら、入水も綺麗に決めなきゃいけないって相当難しいですよね……?
そうですね。偶然回転が多くできたから点数が追加されるかというとそうではなく、開始姿勢や空中のフォームと、ひねりや回転の回数は先に決めた通りにやらなければいけないんです。
なるほど。ちなみに、それって失敗すると超痛いんですよね……?
痛いですよ。3年前に入水の衝撃に手が負けちゃって、親指の付け根を骨折しました。
親指の付け根にある傷はその時の手術跡。
うわ……痛そう!
これ以外にも、入水に失敗してアザができるなんてしょっちゅうですね。
ようやるわ……。あえて「飛込」をやろうと思ったキッカケってあるんですか?
元々は水泳に加えて体操もやっていたんですが、小学校の時に横のプールで飛込をしている大人たちが楽しそうに見えたんです。
私は西田選手の飛込怖かったですけどね……。最初は低いところから始めるんですよね?
そうですね。10mに初めて挑戦したのは小学校3年生でした。
はッッや!! さすがに当時は怖かったでしょ?
怖かったという記憶しかないです(笑)
ですよね(笑)
怖すぎる…! 高さ10mからのGoPro落下映像
ということで、10mの高さから飛び込むってどんな感覚なのか、実際に10mからGoPro(小型アクションカメラ)を落としてみようと思います!手に持っているのは選手目線で飛び込む映像を撮影する専用機材です。
ここが10mです。
無理無理無理! あの……自分「高所恐怖症」なんです……!
大丈夫ですよ、ここは滑ったりしないですから。
ダメです、もうほんとに……代わりに投げてもらっていいですか……?
はい、じゃあいきまーす。
余裕だ……。
スンッ!
私のリアクションが嘘くさいと思った皆さん。
実際の映像をご覧ください。
10mの恐ろしさが伝わったでしょうか……?
実際に入水する瞬間は、時速50kmくらいになるらしい。
ここから逆立ちしたり、回転しながら落ちていくということを理解した上で、インタビューの続きをご覧ください。
ノースプラッシュのテクニックとは?
西田選手は「ノースプラッシュ」で飛び込むために、色々と技を磨いているんですよね?
はい。ノースプラッシュが決められた時は、手だけに水が当たって、身体のどこにも水が当たらないんです。真っ直ぐ吸い込まれていくような感覚で気持ちいいんですよ。
どうすればノースプラッシュができるんですか?
一番下にくる両手を頂点として、自分が「V」の字の中に入るイメージです。ただし、指の先からまっすぐ入ると衝撃で指が折れてしまうので、両手を重ねて左手で右手を握るような形で入水します。入水後の水中での動きも重要です。
指を伸ばした状態だと衝撃で指が折れ曲がってしまうため、衝撃を抑えながら入水面積を最小限にする。
水中での動きとは?
入水した後は、手を離して水をかき、素早く身体を回転させます。全身で衝撃を吸収させると同時に水しぶきを抑えているんです。
入水面積に加え、飛び込む高さが高いほど衝撃も大きい。水中で素早く回転して衝撃を吸収させているという。
GoProをつけて10mから飛び込むのは危険なので、3mの高さからの映像です。ちなみに、3mからの衝撃でも、GoPro固定バンドが1回で壊れました。
入水してからのテクニックも必要なんですね。やっぱり落ちる高さが高ければ高いほど、水しぶきは上がりやすいんでしょうか?
そうですね。実際に、3mで失敗した時より10mで失敗した時の方が水しぶきは高く上がります。やはり、高いほど衝撃が大きく、身体も水中に深く沈みますから。
ということは、太っていたり、身体が大きい方が不利?
うーん、飛込の選手で太っている人がいないのでわからないですが……体重が重い方が高いところから落ちた時の衝撃は強いでしょうし、肩幅やお腹など入水面積が広いほど水しぶきは上がりやすいと言えるかもしれないですね。
なるほど。入水時の面積と高さが影響し、そして入水時の衝撃を抑える動きをすることが大事……と。では、真逆のことをすれば、特大の水しぶきが作れるっていうことですよね。
……まあ、そうでしょうね。
私は広告業界でプランナーをしているのですが、実は「水しぶき」ってよく広告に利用されるんです。スポーツドリンクとか、グラビア撮影とか。つまり水しぶきはお金になるんです。
水しぶきがお金になる……。
水しぶき職人としてネットで話題になったカメラマンゆっkeyさん。私のがんばりの結果です>>RT pic.twitter.com/yHusyqWloK
— ゆっkey@ (@snowfairy88) July 8, 2015
その証拠に、グラビア撮影の現場ではアシスタントやカメラマンが自らプールに飛び込んで、被写体の後ろに映える水しぶきを作り出しているんですよ。特に身体の大きい人が「水しぶき職人」として重宝されているとか……。
初めて知りました(笑)
私、身長186cmあるので、大の字で飛び込んだらかなりの面積があるはずなんです。要するに「水しぶき職人」に向いているはずなんですよ。ノースプラッシュはできませんが、西田選手から学んだテクニックの真逆をやって、特大スプラッシュに挑戦したいと思います。
……。
逆原理で特大スプラッシュは上げられるのか?
はい、というわけで私も水着に着替えました。
大変ですね。
あと、せっかくなので被写体も用意しています。
撮影会モデルとして活動する兎谷みちゃめろさん。
とにかく、面積を広げて全身を水面に当てれば沢山水しぶきが上がるはずですよね。あと、高いところから飛び込むこともポイントでしたが、飛込台は1mでも怖いので、自力でなるべく高くジャンプしたいと思います。
がんばってください。
とりあえずやってみましょう! トリャ!!
足から入っちゃってますね。あと、ジャンプも低いです。
もっと高くジャンプして全身を水面に当てないとですね……。
相当痛いと思うので「痛みを恐れない」ことも重要だと思います。
なるほど。
さっきよりいい感じです!
痛い……痛すぎる……。
んー、あともう少し水しぶきの粒を細かくして、面積を広げたいですね。
なぜか西田選手の求めるクオリティが高い……。
どうすればもっと沢山水しぶきが出せるんでしょう。
あの、成功するかはわかりませんが、昨日水しぶきについて色々調べる中で、千葉県の「鴨川シーワールド」でシャチが観客を水浸しにするパフォーマンスを思い出したんです。
シャチってイルカほど高くは飛ばないんですが、その巨体を横から水面に叩きつけるようにして特大の水しぶきを上げるんですよ。たしかこんな風に……オリャ!
バッシャーン!
すごい、粒がめっちゃ細かくなりました!
よかった……。シャチになったつもりでやればイケそうですね。「岡シャチカマ」ということで。
……。
…………いきます!!! トウッッ!
ど、どうですか!!
シャチカマさん、バッチリです!
うわ、すごいグラビアっぽい!
水しぶき職人ですよ。
ちょっと西田選手もやってみたら?
え???
本当にやってくれた優しい西田選手。
なんかクセで「ひねり」の演技入ってる……?
西田選手が次に狙うのは「パリ五輪」
西田選手はノースプラッシュの達人ですが、特大スプラッシュを上げるのは私の方が上手だったということを認めていただけますか?
何を張り合っているのかよくわかりませんが、全然認めますよ。
ちなみに、西田選手は今までの選手人生で挫折したことってないんですか?
小学生の頃に1日だけ、毎回同じ失敗を繰り返して辞めたいと思ったことがあるんですが、「何でもすぐできるようになるわけじゃないな」と思って乗り越えました。
そこで辞めてしまう子もいると思うんですが、なぜ続けられたんでしょうか?
好きでやってるというのが大きいですね。何度失敗しても、結局次の日は練習に行って改善しようとするので。
かっこいい……。最後に、今後の目標を聞かせてください!
まずは「パリ五輪」で決勝まで残ることですね。前半の「後ろ宙返り」系の演技に課題があるので、そこで高得点を出せるように練習していきたいと思っています。
目標にしている選手はいるんですか?
誰か他の選手に寄せていくというよりは、自分らしい演技の質を高めていくことが必要だと考えています。
なるほど……。応援してます! これからもがんばってください!
はい、ありがとうございました!
では、最後に「発破をかける」という意味を込めて「水しぶき」をかけて終わりましょう。
え?
撮影:山元裕人
GoProテクニカル撮影:地村俊也
企画・編集:人間編集部
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