2019.07.18
超学歴社会の中国から脱出!日本留学で「健康」と「なりたい自分」を手に入れた僕が日本人に言いたいこと
- Kindai Picks編集部
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日本では少子化が進み大学の定員割れが問題となり、大学では積極的に留学生を受け入れています。その中でも圧倒的に多いのが、中国人留学生。日本と中国両方で暮らした経験を持つ留学生からみた、学業成績至上主義・中国の実態と中学人留学生増加の理由を語ります。
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こんにちは。近畿大学国際学部 グローバル専攻3年生の謝 銘哲(シャ・メイテツ)です。
僕が初めて書いた、中国人の「爆買い」をテーマにした記事が閲覧数10万を超え、沢山の方から感想やコメントをいただけてとても嬉しいです。本当にありがとうございます。
▼前回の記事
中国人が「爆買い」する理由とは!?日本人の知らない中国の裏事情を近大の中国人留学生が語る!
今回は、僕を含め日本に留学する中国人が年々増加している理由をお伝えしたいと思います。
僕は高校進学のタイミングで日本に留学しましたが、今、日本では少子化が進み、大学の定員割れが問題になっています。そのため、大学側が積極的に留学生を受け入れています。
そして、留学生の中で圧倒的に多いのが中国人。年々その人数も増えているのです。
参考:外国人留学生在籍状況調査(日本学生支援機構)
日本学生支援機構(JASSO)によると、2018年5月1日の留学生総数は、298,980人。そして、そのうちの38.4%の114,950人が中国からの留学生です。
まさに「爆留学」の時代なのです。
では、どうして中国人は祖国を離れ、わざわざ日本に留学するようになったのでしょうか。
中国は「超学歴社会」によるストレスだらけの教育環境
いきなりですが、これは小学6年生の頃の僕です。
実は、中国で暮らしていた小・中学生の頃はかなり太っていたんです。中学3年生の頃には、体重が100kg(身長175cm)を超えていました。
しかし、これは僕だけではありません。当時、クラスでは男女問わず半数以上の学生が僕と同じようなぽっちゃり体型でした。
今、中国では「肥満」が深刻な問題となっています。
その原因として、暮らしが裕福になったということや、一人っ子政策による両親(祖父母)の甘やかしなども挙げられますが、中国の教育制度による「ストレス」や「運動不足」も切り離せない大きな原因です。
中学の頃の担任の先生に撮って頂いた、現在の中学校の様子。
中国も日本と同じく学校の制度は基本的に 小学校が6年制、中学校が3年制、高校が3年制、大学が4年制ですが、学生生活は日本と大きく異なります。
そして、中国は「应试教育(受験教育)」でもあります。「それも日本と同じじゃないか!」と思う人がいるかもしれませんが、全然レベルが違います。
極端な言い方をすると、「中考(高校入試)」「高考(大学入試)」、この2回の進学試験で人生が決まります。
日本では勉強以外にも、スポーツや芸術面での評価を受けることができますが、中国は完全に学業成績至上主義。
地域や学校による差はありますが、部活動や文化祭はほとんどなく、あっても日本のように力を入れることはありません。
小学校で強制的に参加させられる校外履修。
中国の学生は普段から大量の課題やテストをこなしていますが、受験生になるとさらに増えます。つまり、受験に受かるための詰め込み教育です。
僕が通っていた上海の中学校では、3年生の頃は毎日、深夜3時まで勉強して朝5時に起きて登校するという生活でした。
僕が通っていた中学校では、日本でいう副教科(体育、美術、音楽、家庭科など)の授業はほとんどなく、基本的には国語、数学、英語、物理、化学。授業の合間の10分間休憩は次の授業の予習に奪われ、週に1回しかない体育が模擬試験に変えられることもありました。
中国の大学入試は、「普通高等学校招生全国统一考试」と呼ばれ、略して「高考(ガオカオ)」。中国全土で一斉に行われ、日本でいうセンター入試に近いものですが、日本のように大学ごとの個別試験はなく、この1回の試験のみ。
船山区で行われた高考の様子。受験生の保護者は試験終了まで会場前で待つ。
中国の高校生たちは、この1回の試験のために毎日必死で勉強しています。
たとえ高校3年間で、ずば抜けて成績が優秀でも、このたった1回の高孝でミスをすれば、人生が台無しになる可能性もあるのです。中卒や高卒で高収入で安定した仕事を見つけようとするなんて、中国では無理な話。
なので、学校の壁には「恋愛禁止」のポスターや「勉強し過ぎて死ぬことはないから、死ぬほど勉強しよう」というスローガンが貼ってあったりするほど。
こういった教育方針を進めてきた結果、ただ学歴を持つ人だけの人ばかりになってしまい、本当に現代社会で必要とされている、クリエイティブな思想を持つ人間が育たないという結果になってしまっています。
小学校の卒業式。
そして、冒頭にも書きましたが、中国にいた頃の僕がそうだったように、中国では学生のストレスによる肥満が問題となっており、目を背けることができなくなっています。
2017年のWHOのデータによると太り過ぎの子どもの割合は、日本が14%なのに対して、中国は29%と倍以上なのです。
参考:肥満の子、世界で1.2億人!? 日本は「やせ形」増加も
中国の学生は深夜3時まで勉強して朝5時に起きて登校するような毎日で、こんな生活を続けていれば、誰だって精神に負荷がかかります。
なので僕を含め、学生たちはストレス発散のために、学校や塾の帰りにお菓子を大量に購入して食べていました。
ただでさえ不健康な生活なのに、体育の時間も削られ、体を動かすことなく生活しているのです。
人口約14億人の国で仕事争奪戦!高学歴でも就職難
受験教育がもたらす影響はそれだけではありません。中国では毎年数百万人の4年制の大学生が学校を卒業し、進学または就職に向けて闘います。
参照:日中両国の4年制大学における卒業者数の推移(1990-2016年)
しかし、大学を卒業して就職する人のうち、約3割の人が「満足のいく仕事に就けそうにない」と、声をあげているのが中国の現状です。
参考:中国で新卒の就職難が問題に 18年卒業生820万人、3割が「期待通りにはならない」
自身の「高学歴」にあった収入を得られず、お金に文句を言う人もいれば、実際企業に入ってみて自分にマッチしている会社ではないと気づき、モチベーションを失う人もいます。
それと、中国の莫大な人口に対して仕事の数が足りていないのが最も大きな問題です。それはたとえ名門校の卒業生でも同じことで、「中国の東大と呼ばれる清華大学を卒業した学生でも仕事を見つけることができず、就職浪人生活を送っていた」という話を中学校時代の先生から聞きました。
環境問題も深刻!親が心配して留学を推奨
まず、大気汚染の話をすると、近年中国国内だけでなく、世界中で話題になったPM2.5があります。
現在は改善されてきていますが、僕がまだ中国の学校に通っていた頃は、街中を歩くとマスクをしていない人を見つける方が難しいほどでした。
大気汚染で白く霞んでいる中国・上海
さらに、食事の衛生問題もよく新聞やニュースで取り上げられていました。
人気のレストランから学校の食堂に至るまで、次々に食品衛生問題が報道されていました。肉まんの具材にダンボールが混ぜられていたり、病死した豚の肉が販売されているというニュースは日本でも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
そのため、今や中国のどのレストランへ行っても、必ず玄関口やゲートのところに「食品安全監督公示(食品衛生安全チェック)」の看板や表示があります。
「教育制度」を筆頭に、「就職難」や「環境汚染」、さらには「食品衛生問題」もあり、母国とはいえ中国で暮らすにはかなりのストレスに悩まされます。なので、留学という選択肢を選ぶ人が増えているのです。
実際、僕が中学校2年生の頃、一気に5人のクラスメイトがアメリカやヨーロッパへ留学をするために学校を辞めました。母親の友人にも、子どもたちを海外に留学に行かせる人は少なくありませんでした。
明徳義塾高等学校のサマースクールで、初めて日本の文化に触れた僕。
僕の母は日中企業で通訳官の仕事をしていたので、僕も小さい頃から日本に馴染みがあり、小学校6年生の夏に、日本の明徳義塾高等学校のサマースクールに参加したことがありました。
そういった影響もあり、僕が中学3年生の時、母から日本への留学を提案されました。
中国の環境から逃げ出したくて仕方がなかった僕は、即答で「OK」を出しました。こうした偶然が重なって、僕は日本に留学することを決めました。
日本に来て「健康」と「なりたい自分」を手に入れた
自身の意思もなく、ただひたすら学校での成績や点数を上げるために勉強してきた僕は、日本に来たことで人生が大きく変わりました。
一番最初の変化は、2ヶ月で100kgから85kgまで体重を落としたことです。
減量後に中国へ帰国すると父親が「一瞬自分の息子だとわからなかった」と、話すほど。ダイエットに成功したことが、僕が日本に来て一番最初に達成したことでした(笑)。
日本に来て2ヶ月で15kgが落ちた。
バランスの良い食事と運動。そして22時就寝・6時起床という規則正しく健康的な生活を送ることができたおかげでした。
中国で十数時間も家でひたすら勉強していた頃とは異なり、自由にやりたいことをして、自分の目標に時間をかけられるようになったことで、僕は初めて健康な生活を送ることができました。
しかし実を言うと、ただ日本に来ただけでは僕の人生がこんなにも大きく変わることはありませんでした。
緑に囲まれ、健康の心配をすることなく過ごせる日本が好きなことは、当たり前のように聞こえるかもしれませんが、僕は日本でなりたい自分を見つけることができたから、日本が好きなのです。
大阪駅からヒッチハイクで富士山に行った、忘れられない思い出。色んな出会いがあった。
日本での高校生活では、部活動でチームメイトと一緒に汗を流し、僕は仲間の大切さを知りました。そのまま日本の大学に入り、その在学中にアメリカ留学を経験したことで、世界から見た日本を見ることもできました。
自分自身の弱さと未熟さに気付かされ、何度も一人で考え込んだ時もありました。自分自身で行動すると決め、日本に帰国した直後に会社訪問をして、インターンシップにも参加しました。ヒッチハイクで富士山にも行ったし、日本で出会った友人と中東にも旅に出ました。
色んなことを経験して、僕が今最も興味を持っているのは写真と映像制作です。大学のキャンパスで写真の個展を開いたり、外部の企業と動画制作のビジネスを始めたりと、クリエイティブな生活を楽しんでいます。
これらのすべては、日本に来なければ得るはずもなかった人生一度だけの貴重な経験です。僕は日本に来たおかげで、自分の意思で動くようになり、本当の自分と出会うことができました。これらのことは中国にいた頃の自分では一生できなかったことなのです。
日本は「脱ゆとり教育」、中国は「素質教育」の流れ
近大国際学部の仲間たち。大学でたくさんの友だちができた。
中国と比べると、日本は健康や食への心配も少なく、学歴だけでなく個性が評価される国だと思います。
学校では芸術や運動に触れる授業や部活動があり、大学入試では推薦入試、AO入試、一般入試など、様々な進路や受験方法を選ぶことができる日本の教育システムは、なんて心と体に優しいんだ!と思います。
しかし、高校や大学では、テスト直前に友人からノートを借りて、ある程度暗記すれば進級できてしまい、自分のためにならないシステムでもあると思います。
言い換えれば、本当に何かに挑戦したいと考えている学生たちにとっては、試験のための勉強に無駄な時間を割くことなく、自分のやりたいことに没頭できるのです。
最近は中国でも、日本の「ゆとり教育」と同じように、子どもの様々な素質や人間性を育てようとする「素質教育」が推進され始めています。
しかし、一人っ子政策の影響もあり、一人の子どもに対する親からの期待が大きく、子どもへの強い学習圧力がなくならないのが現状です。
日本の学生は、中国の学生のように毎日勉強漬けの日々ではなく、部活動や文化祭などに参加して、健康的な生活を送ることができます。
大気汚染もほとんどなく、レストランや食堂では当たり前のように安全な食べ物を食べることができます。
日本の学生たちは自分の夢を追いかけ、自分たちの世界を切り開いています。中国では想像もできないことが、日本なら可能なのです。
やりたいことに挑戦しよう
2019年3月の近大オープンキャンパスで実施した写真展の様子。
沢山の中国人が日本に留学する事情をご理解いただけたでしょうか?
僕は日本で、フォトグラファーやビデオグラファー、つまり「クリエイター」という、自分が本当になりたいものを見つけることができました。
これは中国にいたままでは見つけられなかったことです。そして思います。「日本は恵まれている国だなあ」と。
多くの中国人留学生が日本の教育制度を羨み、日本に留学しています。
しかし、日本の学生の多くがこの自由な環境を当たり前のように思っており、自分がやりたいことに挑戦していないのが現状です。
日本の学生にないものを、中国の学生が持っていることもあります。
中国人と日本人、お互いのいいところを見習いながら夢を見つけたり、追いかけたりできる関係性が広がればいいなと思います。
(終わり)
ライタープロフィール
謝 銘哲(シャ メイテツ)
中国上海出身、高知県明徳義塾高等学校卒業
近畿大学 国際学部 グローバル専攻2年
15年間上海で生活し、その後来日。現在はアメリカで正規留学等を経験し、ネイティヴ話者に負けない日本語力も身につけたトリリンガル。写真・旅行・筋トレ好きな負けず嫌い。
Instagram:@mingzxie
Blog:PETER BLOG
企画・編集:人間編集部
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