2018.04.11
原子力って何なの!?根っからの文系女子が近大の原子炉に潜入してみた
- Kindai Picks編集部
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近大東大阪キャンパスには原子力研究所があるのをご存知でしょうか?そもそも、大学に原子力研究所っていったいなにをしているんだろう……!近大の施設でありながら、ごく一部の学生しか入ることのない謎に包まれたミステリアスな研究所に、化学も数学も苦手な文系女子が潜入取材してきました!
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突然ですが、皆さんは近大に原子炉があることを知っていますか?
かくいう私は入学して学内案内地図を見るまで全く知りませんでした。なんでも、東北大震災の後にできた新基準に適合するために3年間運転停止していて、去年3月に運転再開したんだとか。
テレビやネットでよく耳にする原子力という言葉……。
なんとなく、放射能は怖い……というイメージはあるけど、そもそも原子力研究所ってどういうものなんだろう?特に、文系の学部だと利用することがない施設だし、せっかくあるなら一度は見学してみたい!
というわけで、化学と数学から逃げてきた、根っからの文系女子が、原子力研究所に直撃してみました!
来てみたものの、原子力研究所ってやっぱり放射能とか危険なんだろうな。ちょっと怖いなぁ。
こんにちは!連絡してくれた学生さんですか?
こんにちは、総合社会学部2年生の吉尾円満です!今日はよろしくお願い致します!早速なんですが、ここの研究所ではいわゆる、電気の発電みたいなことをしているんですか……?
残念ですが、ここではいわゆる発電みたいなことはしていないんですよ。
えっ……?「原子炉=発電するためのもの」だと、思ってました……!じゃあ、近大の原子炉は何のためにあるんですかね……?
まぁまぁ、せっかくですから中で説明するので。まずはお入りください。
発電しない原子炉とは?
今回原子炉を案内してくださった伊藤所長(写真右)と若林さん(写真左)
冒頭にもお伺いしたんですけど、発電しない原子炉っていったいどういうことなんですか?
近大の原子炉は、出力が1Wしかないんですよ。だから、発電もしないし、熱も出ないんですよ。
えっ……1Wって……!白熱電球ですら60Wくらいはあるのに、少なすぎません!?ちなみに、普通の原子炉はどれくらいの出力なんですか?
一般的な原子炉は30億Wですね。だから、近大の原子炉の30億倍ってことです。
えぇっ!そんなに違うんですか!?ってことは、やっぱり普通の原子炉とは違う仕組みになっているってことなんですか?
構造は一緒ですよ。原子炉の出力というのは核分裂の量のことなんです。簡単に例えると、近大の原子炉は赤ちゃん、一般的な原子炉は大人みたいなものなんです。両方とも体の構造は一緒ですよね、でも活動量が違う。そういうことなんですよ。
なるほど!構造は一緒なんですね。でも、発電もせず熱も発しない原子炉って、いったい何に使われてるんですか?
主に物理学と化学、生物学の研究に使うという目的ですね。中性子をサンプルに当てて、どのように変化するのか観察するんです。中性子でサンプルの中に含まれる微量な成分を分析したり、放射線がサンプルに与える影響を観察したりするんです。近畿大学の学生では、理工学部電気電子工学科の生徒が使います。卒業研究では生命科学科の学生も使っています。大学が研究目的で持つ原子炉は京都大学と近畿大学にしかないので、全国から人が集まるんですよ。
たしかに、原子力研究所を持っている大学ってあんまり聞かないけど、そんなに貴重な施設なんですね!
なぜか、原子力研究所にゆるキャラが……!
……ちなみに、そこにいるゆるキャラみたいな子はなんなんですか?
これは1Wくんというキャラクターです。
伊藤所長がおもむろに持ち上げた、謎のゆるキャラ1Wくん
1Wくん……。1Wしか出力しない原子炉とかけているっていう単純な感じが否めないキャラクターだけど、なんかかわいい!
これは9〜10年前に、所長の還暦の記念に作ったんですよ。
ちょうど私が60歳の還暦だったんで、赤いちゃんちゃんこを模して体を赤くしたんです。ちなみに顔が原子核で、頭の上にある青い球体が周りにある電子を表しているんですよ。
……還暦だから赤い体。色んな意味で原子力研究所のイメージが崩れてきました……。せっかくなので、原子炉も見学させていただけますか?
是非是非、見ていってください。早速、原子炉に向かいましょうか。
近大の原子炉は防護服なしで入れちゃう!?
原子炉という危なげな施設にも関わらず、なぜか壁紙が青空で幼稚園みたいな通路が入口に
なにこれ!壁紙が青空!!
近大の原子炉の運転再開を記念して、気分を一新するために新しい壁紙にしたんです。あまり深い意味はありません。
あ、そんな緩い感じなんですね。近づき難い原子炉のイメージがいい意味で変わってきました!
そんなに怖がらないでも大丈夫ですよ。なんせ、1Wしか出力していませんからね(笑)。では、原子炉に入りましょうか。
ちょっと待ってください!防護服とか着なくていいんですか?放射線とか危険ですよね?
防護服は放射線が体内に入るのを防ぐものではなくて、放射性物質が体に付着するのを防ぐものなんです。近大の原子炉には防護を必要とするような放射性物質が外にないので着なくてもいいんですよ。
すごい基礎的だと思うんですけど、放射線とか放射能とか放射性物質とかの違いがよくわからないんです……。
放射能っていうのは放射線を出す能力のことなんですよ。放射線は出ているエネルギーのことです。ホタルを例に出すと、ホタルの光を放射線とします。ホタルには、元気のいいホタルとそうでないホタルがいますよね。強い光を出す元気なホタルは放射能が強いといえます。逆に元気のないホタルは放射能が弱いんです。そして光、つまり放射線を出すホタルそのものが放射性物質なんです。
なるほどー!近大の原子炉は1Wしかないし、放射性物質が外にないから、防護服を来なくてもいいってことか!
そうなんです。でも、入るときに確認のため放射線量を測る機器をつけて入りましょう。
近大の原子炉「UTR-KINKI」
これが近畿大学の原子炉です。名前は「UTR-KINKI」です。大学での研究と教育を目的に作られた原子炉です。1961年にこの原子炉が作られて、そのときは0.1Wだったんです。1974年に出力を増強して1Wになりました。それでもたった1Wですけどね。高さは2メートルで、円の直径は4メートル。だいたい、相撲の土俵と同じぐらいの直径ですね。
この原子炉にAmericaって書いてあるのはアメリカ製ってことなんですか?
そうなんです。アメリカンスタンダードという会社が作っていて、その会社は今トイレを作る会社なんです。だから、日本で言えばTOTOが原子炉作ってた感じです。
へぇー!じゃあ、輸入したってことですね!
実は、輸入ではないんです。1959年に東京で国際見本市というのがあって、そこにこの原子炉が展示されていたものを買ったんですよね。ちなみに、そのときに昭和天皇もご視察されているんですよ。
天皇が見に来てるなんて!なんだか、すごいっ!
昭和天皇が原子炉を視察する写真。見本市では実際に運転して展示されていた
その原子炉が運転している様子を近畿大学初代総長の世耕弘一先生が見て、将来のエネルギー問題を解決する原子力技術者を育てるために、購入を即決されたようですよ。もちろん、反対もあったみたいですけどね。
原子炉の購入を即決するとは……!恐るべき行動力ですね!周りの壁にもいろいろ説明が書いてありますね。
難しい核分裂の説明で頭がパンク寸前…!!
これは核分裂の説明です。ウランに中性子がぶつかると核分裂反応がおこってエネルギーがうまれます。このときに、2〜3個中性子が生まれるので、これを利用して様々な研究をしています。そして、この中性子がまた新たにウランにぶつかって核分裂を起こすのを連鎖反応と言います。この連鎖反応をコントロールするのが原子炉の役目です。
はぁ……。
この2〜3個の中性子のうち1個がちょうど次のウランにあたって、連鎖反応が続いていくことを臨界状態といいます。出力をあげるときは1個以上のの中性子をウランに当てて、核分裂の数を増やしていきます。近大の場合は1Wの状態を臨界状態として保っています。
文系の私には全く理解できません……とほほ……。ちなみに、研究でもっとたくさん中性子を浴びせたいときは、どうするんですか?
その場合は長い時間当てることで調整しています。時間はかかりますが、十分成果は得られますよ。
なるほど、1Wゆえの大変さはあるけど、むやみに出力を上げるより、時間をかけて安全性を担保するのは大切ですよね。
核燃料の模型。アルミの板が重なってできていて重かった。
これは核燃料の模型です。中にウランとアルミの合金が入っていて、1グラム使うのに3,000年必要なんです。だから、核燃料の交換は不要なんですよ。
3,000年!?ほぼ永遠に使えるじゃないですか!
確かにそうですね(笑)。では、原子炉の中も見てみましょうか。
原子炉の内部まで見ることができた!これも1Wしか出力がないからできること
へぇー、原子炉の中ってこんな風になってるんですねー!
教育・研究目的の原子炉だから研究しやすい工夫も施されている。
ここに研究のサンプルを入れて中性子を当てるんです。
なるほど!ちゃんとサンプルを入れるスペースが空いているんですね!
原子炉を操作するところ。学生が手動で操作する練習をすることで、原子炉の仕組みをより詳しく学習できるようになっている
ここで原子炉を操作するんですよ。
わぁー!難しそうですねー!私は絶対できないなぁ……。……あ、こんなところにも1Wくんがいる。
よく気づきましたね(笑)。原子炉についての説明はこれくらいですね。原子炉を出る前に最初につけた測定器をチェックして浴びた放射線量を見てみましょうか。
測定器を見てみると、原子炉に入っていたのに私が浴びた放射線量はなんと0!
わ!ほんとに0だ!これって、全く放射線浴びてないってことですよね?
もっと細かく測定できれば検出するかもしれませんが、数字に表れないぐらい少ないということですね。
ほんとに安全な原子炉なんですね!ちょっと怖かったので安心しました……!
思っていたイメージと違って原子炉って全然怖くなかった!
至る所に潜んでいた1Wくん。ちょっとリアルなタイプもかわいい!
今回、潜入してみてわかったのは、近大の原子炉は日本に存在する、数少ない研究目的の原子炉として、多くの学生の研究や教育にとても役立っているということ。
そして、怖いイメージしかなかった原子炉ですが、とても安全に作られていて、いい意味でその期待を裏切られました!
全く化学のわからないザ文系女子な私でしたが、今回の原子炉見学で少し原子力のことがわかった気がします!
この記事を見て興味を持った人は是非、下記の原子力研究所ホームページもご覧ください!
▼原子力研究所 - 近畿大学
http://www.kindai.ac.jp/rd/research-center/aeri/
(おわり)
ライタープロフィール
吉尾 円満(よしお まるみ)
近畿大学 総合社会学部 社会マスメディア専攻 2年
10月12日生まれ 雲雀丘学園出身 英語研究会所属
小学校から高校まで水泳を続けるものの、日焼けしすぎて嫌になり、大学からは文化系女子になることを決意。英語研究会ではディスカッションセクションに入り、最近はディスカッションを楽しんでいる。広報室インターン生として4カ月間過ごし、今回初めてライターとして記事を書く。
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