2017.05.16
まだリプレースで消耗してるの?クラウド化で目指す近未来型キャンパス
- Kindai Picks編集部
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完全養殖マグロ、エコ出願、国際学部……様々な話題が取り上げられてきた近畿大学。実は学内のITシステムにおいても先進的な取り組みをしている。今回はその中でも「クラウド化」について、学内の情報システム担当者に話を聞いた。
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【PROFILE】
●髙木純平/近畿大学 総合情報システム部
民間SEを経て2007年に近畿大学に奉職。
近畿大学のクラウド化を牽引。全業務システムのクラウド完全移行や教育研究系システムのAWS移行プラン、SaaS/PaaS等の導入を先導してきた。嫌いなものは、いも系、甘いもの、そしてシステムリプレース。
――なぜ近畿大学は、クラウドを導入することにしたのでしょうか?
以前は学内で大量のサーバ群を管理しており、障害やトラブルが発生したら自分たちで対応しなければなりませんでした。5~6年ごとにサーバの更新作業も必要。2007年から2013年の7年間だけでも、大規模なサーバリプレース案件(サーバの更新)は39件もありました。それに場所代も電気代もかかります。
これではいつまで経ってもコストや手間が増える一方だということで、まずは2012年にGmailを導入したんです。その結果、メールシステムにかかっていたコストが1/10程度になりまして。それ以降、メール以外もクラウドをどんどん導入していこうという流れができました。基幹業務システムは2018年度までにすべてクラウドに移行する予定です。
──コストダウンが目的ということでしょうか?
もちろん組織内で承認を得るためにはコスト削減も必要ですが、私がクラウド化を推進しているのは、リプレースという「膨大な稼働とコストがかかる割には報われない”くだらない仕事”」をなくしてやろうと思ったからです。
そもそもの背景からお話しますと、日本の組織は、ITがどれだけ進歩しても情報システム部門に投資しない文化があります。なぜならシステム部門はお金を生み出さない部署だから。
システム部門は少ない人材で、旧態依然としたくだらないハードウェアリプレース案件に忙殺され、現場から言われたことだけをやり、徐々に考える力を失っている。システムに詳しくない現場主導でIT化を行った結果、逆に非効率になったり無駄にコストがかかったりする事案も散見されますし、非IT系企業のシステム部門にいる管理職以上は、「システム部門は現場からの依頼を受けるだけ」だと本気で思っていることもある。
そんな中で「どのようにITを使えば効果が出るのかを考え、提案する」という我々の本来の仕事をするためには、まずは膨大な稼働とコストがかかるリプレース作業をなくす必要があるのです。
――近大内部の反応はいかがでしたか?
常に良いものを求め先頭を突き進む近大ですから、学内の理解は得やすかったと思います。特にコスト削減さえ実現すればなんでも挑戦させてくれる社風なので、稟議で困ったことはあまりありません。業務システムのクラウド化に関しても「コストカットが実現し、システム部門のメンバの稼働が減り残業をなくせるなら賛成する」と経営層は前向きな反応でした。
一方、システム部門内の反応はあまり良くなく、本学の業務系システムを担当しているSIerさんには大反対されました。彼らが今まで行っていたリプレースや保守業務がなくなってしまいますからね。あの手この手で「クラウドは危険!導入は時期尚早!」というアピールをされまして……。でも、実際に運用が始まって安定稼働していることがわかってからは、手のひらを返したようにクラウド導入に賛同いただいております(笑)
――AWS(アマゾン ウェブ サービス)を選択されたのはなぜですか?
よく言われているように、AWSはあらゆるシステムに対応できて、セキュリティや拡張性も高い。他社のビジネスでの導入実績も豊富です。さらに、近大とAmazonは教科書の販売で連携協定を結んでいたのも大きかったですね。
【参考:超絶便利!近大×Amazon使ってみたらすごかった!】
――クラウド化を実現したことで、実際にどういった変化がありましたか?
まず、コストについては、イニシャルで70%・トータルで20%削減することに成功しました。これは2015年から2024年までの10年間でかかるハードウェアの投資・維持・保守コストから算出した数字です。
モノを買わないのでイニシャルは当然下がりますね。ただし、ランニングコストは自分たちでサーバを持って6年以上使い続けた場合と比べると、トントンかクラウドの方が少し高くなるかもしれません。
AWSは使った分だけ課金されますので、近大ではアクセスの少ない夜中はサーバの台数を減らすなどの工夫をしてトータル20%減を実現しました。しかし、24時間365日ずっと同じ台数のサーバを使い続けるようなシステムの場合は、使った分だけ課金されるという意味でのクラウドの恩恵は受けにくいと思います。
コスト以外の面については、ハードウェア故障の対応やメンテナンスがなくなり、クリエイティブな業務に時間を割くことができるようになりました。ただ、クラウドにしてもインフラ設計は必要になるので、そのための勉強や情報収集にかける時間は増えましたね。
クラウドは特にイニシャルコストがかからないことが良いところなので、常に最新の情報を追いかけ、よい製品がでれば切り替えを行うようにしています。また、最近話題のIoTやAIはクラウドを活用していることが多く、そういった最先端の技術に触れる機会も多くなりました。
――今後の展望をお聞かせください。
今のところ、クラウドを使うことで私たちの稼働が減り、保守・メンテナンスのコストも削減できました。しかし本来は、ただクラウドに移行してコストを下げるのではなく、「クラウドだからこそできること」をやっていきたいと思っています。例えば2017年4月の入学式では、未来の近大を予測した「AIのあるキャンパスライフ」という動画を披露しました。
4:05~「AIのあるキャンパスライフ」
今はまだ妄想ですが、このような未来を創造したいと強く思っています。ITをどう利活用したら学生さんや教職員が喜ぶのかを考えながら、これからも近大のために粉骨砕身頑張りたいと思います。何をやるにも他部署や経営陣の説得が必要ですので、しっかりコスト削減しつつ…ですね!
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