2016.06.03
自分の髪の毛から分身を!?まるで『西遊記』の世界
- Kindai Picks編集部
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iPS細胞やES細胞などを使った「再生医療」を実現するための研究が、世界中で盛んに行われている。再生研究が急速に進むなか、ジュラシックパークの世界や分身の術は実現可能なのか。
再生研究・クローン研究の最先端をのぞいてみた。
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【プロフィール】
宮本圭(みやもとけい)
近畿大学生物理工学部 講師
2004年京都大学農学部卒業。2009年京都大学農学研究科博士後期課程修了。同年、英国ケンブリッジ大学ガードン研究所ガードン研究室の博士研究員に。その後、日本学術振興会海外特別研究員を経て、2012年よりハーチェルスミスリサーチフェロー、及びケンブリッジ大学ウォルソンカレッジフェロー。2015年より近畿大学生物理工学部常勤講師として研究グループを牽引。卵子内での初期化機構を解明し、サイエンス誌等に論文が掲載された実績を持つ。
細胞もコンピューターと同じように初期化できる。
近年、ES細胞やiPS細胞を使った「再生医療」が注目を集めている。その最初のカギとなるのが「初期化」、英語ではリプログラミングと言われているものである。
「コンピューターの動きが悪くてイライラして、初期化してみたら快適に動くようになった。そんな経験を誰もがお持ちかと思います。コンピューターでは、山積みになっているデータを消去して一旦ゼロに戻すことを初期化と言いますよね。実は私たち哺乳類の細胞も、同じようにデータを消去して初期化することができるのです」
そう語るのは、近畿大学生物理工学部で細胞の初期化の研究を行う宮本圭講師。私たちの体を作っているほぼ全ての細胞は同じ遺伝子を持っているが、筋肉や骨や血管など、役割はそれぞれ異なる。それは遺伝子の情報に基づいて、細胞ごとに特定の生体機能を持つタンパク質が作られるから。これを‘遺伝子発現’という。
遺伝子発現をリセットして、受精卵のように「どんな種類の細胞にでも変化できる状態」にするのが細胞の初期化。例えば、iPS細胞を作る際は、山中ファクターと呼ばれる4つの遺伝子を細胞に送り込むことで、細胞を初期化させている。
ヒトのiPS細胞やES細胞から「始原生殖細胞(卵子や精子の元になる細胞)」を作ることには既に成功しており、現在は、そこから卵子や精子を作るための研究が盛んに行われているとのこと。「ヒトiPS細胞から卵子や精子を作ることに成功!」というニュースの見出しを目にする日は、近いのかもしれない。
ジュラシックパークも、孫悟空の分身も、将来的には実現できるのか?
映画『ジュラシックパーク』では、こんな方法で恐竜を蘇らせていました。まず琥珀(天然樹脂の化石)の中に閉じ込められている大昔の蚊の死骸を取り出し、その蚊の血から恐竜のDNAを採取する。そしてDNAが壊れている部分はカエルのDNAで補完して、それをワニの卵に注入して恐竜を産ませる。
「現実的には、DNAの半減期(半分壊れるのに要する期間)は約500年といわれていますので、琥珀の中の恐竜のDNAはほとんど壊れているでしょう。しかし、永久凍土のように凍った状態で保管されたサンプルなら可能性はあるかもしれません」(宮本)
また、『西遊記』の主人公である孫悟空は、自分の髪の毛を抜いてそれに息を吹きかけることで分身を作ることができる。そんなのは物語の中だけの話ではなく、髪の毛から分身を作り出すことも理論的には実現可能とのこと。
「まず、孫悟空の髪の毛の根っこにある毛包(もうほう)と呼ばれる部分の細胞を初期化して、iPS細胞を作ります。それを他のサルの胚(受精卵が細胞分裂を始めた直後の状態)に混ぜて仮母に移植すればキメラサルを産ませることも可能と考えられます。キメラサルを交配させれば分身が産まれる可能性があります」(宮本)
キメラサルというのは、2種類の遺伝子を持つサルのこと。今回の場合は、元々の胚の遺伝子と、iPS細胞(孫悟空の細胞)の遺伝子が体の中で混在することになる。体の部位によってどちらか片方の遺伝子が使われることになるため、例えば、右足の膝は元々の胚から、左手の手首はiPS細胞(孫悟空の細胞)から作られるということだ。
ただし、恐竜を復活させるのと同様に、こちらも現実的には難しいようだ。なぜなら、このプロセスをすべて完了させるためには5年以上の年月が必要になるからである。
しかし、今まさにそれぞれのプロセスを効率化する研究が行われている。その技術が確立されれば、そもそもの目的である「再生医療を使って病気や怪我を治すこと」が実現され、多くの人が救われるはず。夢のような医療は、もはや夢ではなくなってきている。
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