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2016.02.26

まだ使ってないの?知らなきゃ損する、漢方薬のヒミツ

Kindai Picks編集部

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医療
健康
オリジナル記事

中国の薬?ホントに効くの?…聞いたことはあるが、実はよく知らない漢方薬。そのヒミツに迫るため、漢方薬、西洋の薬の双方に詳しい近畿大学東洋医学研究所の日置智津子講師にお話を聞いた。

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【プロフィール】
日置智津子(ひおきちづこ)
京都府立医科大学附属病院、独立行政法人国立病院機構京都医療センター臨床研究センター、東海大学医学部医学科漢方医学を経て、2015年に近畿大学東洋医学研究所の講師に着任。多くの人が日常生活の中に東洋医学的生命観を取り入れて、活力ある人生を送る超高齢化社会を作ることを目指す。この時代に漢方薬や生薬を活用するため、基礎研究や臨床研究はもちろん、その実態や重要性をわかりやすく伝える活動にも力を入れている。臨床漢方薬理研究会代表。


漢方は正真正銘、日本の伝統医学だった



――漢方薬には「中国のお薬」というイメージがあるのですが。

 「漢方薬は中国の医学で使用する薬」というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、実はそうではありません。現在、特に医療で頻繁に使われている漢方薬というのは、日本の歴史の中で構築された見立て方、診断法によって使われています。日本人に適した日本の伝統薬なんです。漢方薬を構成する生薬の植物起源や、医薬品としての生薬成分基準も日本で定めています。同じ名前の処方薬(生薬、漢方薬は日本で使われる用語)でも、中国と日本では異なる場合があるので注意が必要です。




 たしかに漢方理論は中国医学の古典である『傷寒論(しょうかんろん)』『黄帝内経(こうていだいけい)』『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』を根幹としています。これらを礎にして日本の時代の流れと共に、もちろん日本人の文化や嗜好性、日本という土地柄にも影響されつつ築かれたのが伝統医学「漢方」です。漢方は、日本の時代、時々の色を反映している伝統医学と言えるかもしれませんね。そして21世紀、私達日本人は今、患者様や自分自身、つまり人間をよく観察しながら、近代科学の知識を用いて古典的漢方理論を解釈し後世に伝える伝統を作っていると思います。

――中国の古典がルーツなんですね。

 簡単に言いますと、『傷寒論』は中薬(漢方薬)を用いた実践的治療の古典医学書、『黄帝内経』は東洋医学の総合理論書であり、鍼灸術について記述されています。そして『神農本草経』には漢方薬に用いられる生薬のこと(本草)が書かれています。現在、保険適用で処方できる漢方薬は148種類あり「医療用漢方製剤148処方」と呼ばれているのですが、そのおよそ半分が後漢の頃に書かれた『傷寒論』に記されている薬です。『傷寒論』では、身近な例では風邪など、急性熱性疾患の病状の進み具合を6つのステージに分けて、それぞれの段階に合った処方を説明しているんです。


人間の身体の調子も、そして漢方薬の成分系も季節によって変わる!?


――西洋の薬と漢方薬は、どのような違いがあるのでしょうか?

 西洋医学の薬は、再現性・普遍性・客観性に重点が置かれた近代科学のもと、人間が合成した、もしくは生命体から抽出分離された単一成分が特徴です。複数の成分が混合されているものもありますが、その比率はいつも一定です。一方、生薬を水で煎じて作った漢方薬は、変化する自然環境の中で植物が自ら生き抜くために作った物質(成分)を抽出しています。いわば必要に応じて植物の体組成の一部を取り出したようなものです。植物の生育環境が変われば、それに応じて植物体の状態が多少変わるのは、生きるためには摂理でしょう。ですから煎じ薬の成分比率がいつも緻密に一定とは限りません。植物と同じで、人間の体の正常な状態というのは、季節や様々な環境変化に順応して、うまく対応できる状態だと思います。生命体は皆、変化に対する柔軟性が大切なのだということを、漢方生薬の薬理を通じて学ぶことがあります。

――成分が変わると困らないのでしょうか?

 処方される生薬は、日本薬局方により一定の効果を目的に有効成分が定められ、どの成分、もしくは成分系をどれくらい含有しなければならないのかが幅を持って決められています。効果に大きな変化がないように決められていますから大丈夫です。
 ただし同じ生薬名が記載されていても、生薬植物の産地ごとで成分含有比が違うことがあります。結果として効き方にも違いが見られることがあります。これを逆に匙加減として活用することもできます。医師や薬剤師は、そこも見極めて処方する必要がありますね。

――薬を出すための診断方法にも違いはあるのですか?

 あります。例えば血液を調べる時、西洋医学ではその「成分」に着目しますが、漢方では血がきちんと全身を巡っているかという「流れ」に着目します。この違いは、検査という手技が無い時代に構築された医学であることが背景にあるからかもしれませんが。
 人間は体重の60%くらいが水分で、体重1㎏あたり血液がおよそ80㎖であるということが知られています。患者様をよく観察して血液や体液、組織の検査をして病名を定め、検査の値が正常な範囲に収まるように、薬を処方したり異常な部分を取り除いたりするのが西洋医学の特徴。一方、東洋医学は人間の心身状態や変化を観察して、これら液性成分系(血)・(水)の循環が滞っていないか、そしてこれらの流れを悪くする要因として気というエネルギー概念を理論に加えますが、これら「気血水」の順当な体内循環に障害がないかを判断して、改善させるように治療するのが漢方です。ですから西洋医学が人体の動きの瞬間を断面的に見て判断するとすれば、東洋医学は人間の心身を一として、その変化や動きの状態を見て治療すると言えるでしょう。自然界に生きる生命体は、一瞬たりとも静止せず変化し続ける存在であることを、東洋の見地では重要視しているのかもしれません。人間も植物と同様に、自然界の一つの構成要員なのですから。


謎多き漢方薬の効能を、科学の力で解き明かす。




――漢方の効き目は、科学的に説明できるのでしょうか?

 漢方薬は経験則の積み重ねがほとんどと思われがちです。しかし、学際的視点から切り口を考えれば科学的説明は可能だと考えています。ただし人間自身もずっと未科学な存在でしょうから、常に追っかけっこでしょうね。だから追及したくなる。
 複数の生薬を組み合わせた処方が漢方薬です。生薬は自然環境を生き抜いた生命体ですから、人間でいう自律神経系のようなシステムを持ち合わせています。いわば調整機能かもしれません。これら植物の複雑系を方円の器に入れられた水のような変化の営みをする人間の身体に投与するのですから、効果の全貌を見るのは困難です。なぜそういう生薬の組み合わせで飲むのか、体の中で何が起きているのかなど、まだ明らかになっていないことが多いのも事実です。しかし全貌がわからなくても、焦点を絞ってメカニズムを解明することは可能です。今まさにそういった研究が進められています。

――例えば、どのようなことがわかっているのですか?

 生薬成分が、人間の体に入って作用する様子についてお話ししましょう。生薬の多くの有効成分は、水溶性が高い配糖体という化合物として生薬植物中に存在しています。甘草(かんぞう)という生薬の主成分、グリチルリチンは糖が2分子ついた水に溶けやすい状態で存在しています。私たちはこれを水で煎じだして飲むのです。このグリチルリチンが大腸に到達した時に、近年着目されている腸内細菌の存在が重要になってきます。グリチルリチンの糖鎖を切る酵素をもつ腸内細菌によって、糖は切り放されます。菌はその糖分子を取り込んで生存しています。一方で、糖がなくなり脂溶性が高い「グリチルレチン酸」になった成分は、私たちの細胞膜を通過し吸収されて身体に働きかけます。この他にも大黄やセンナの主成分「センノシド」、人参の「ギンセノシド」、クチナシとして知られている山梔子の「ゲニポシド」などが同様のシステムで私たちの身体に働きかけます。私たちの腸内環境が漢方薬の効き目を左右するとも言えます。




――体内に取り入れてから、いろいろな変化が起きているんですね。

 そのままでは効かない成分が、体の中の環境によってうまく変化して身体に働きかける。こういう薬を「プロドラッグ」と言うのですが、漢方薬の有効成分の多くがプロドラッグです。もちろんスイッチを押すように直接働きかける成分もあります。移動できない植物が自然の中で生き抜くために作りだす香りの成分、味覚を刺激する成分は私達の神経系を介して心身に働きかけます。

――漢方薬はどんな時に使えますか? どんなことに気をつければいいの?

 普段の健康管理に使えますよ。健康管理とは、イコール日常生活における自己管理ですが。でも変化激しい社会に生きる生真面目な日本人は自律神経系や胃腸の不調を訴えがち。西洋医学では正常だと言われるけれど、心身の不調や活力低下を訴える方々は多いのです。手足や腰など部分的な強い冷え、便秘、腹部膨満、いつも感じる胸のつかえの症状、取れない疲労感など、病気に未だ至ってはいなくても、何かのきっかけで病気になりそうと心配なときは、漢方薬がおすすめです。
 また、糖尿病予備軍であった肥満症患者さんを対象に行った私の研究経験からですが、なかなか脂肪を減量できない肥満症に有効な漢方薬があります。近年では、テレビでも宣伝されている防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)です。18種類の生薬で構成された漢方薬ですが、食事や生活習慣を見直しながら服用することで、体脂肪が減少し、結果、糖やインスリン代謝が改善しました。食事制限だけの場合、治療3か月後くらいから減量効果が止まりリバウンドしがちなのですが、防風通聖散の服用を合わせることで基礎代謝を下げずに、6ヵ月間の脂肪減量効果がありました。特に腹部内臓脂肪減量が見られました。どうしてそうなるのかというと、防風通聖散を構成する麻黄など、複数の生薬が助け合いながら、熱を発散してエネルギー消費を促す褐色脂肪組織を刺激し、肥大化すると血圧を上げる、インスリン抵抗性を引き起こす生理活性物質を出す白色脂肪細胞を分解して、肥満症やメタボリックシンドロームを治す効果があるという結果が実験で得られました。



 18種の生薬による交感神経と脂肪組織の連携刺激、胆汁分泌促進、血行促進効果があります。しかし芒硝や大黄などは、緩下作用があります。便秘でない方、下痢気味の方には適しません。服用により急激に代謝を変化させる可能性が高いので、虚弱者、冷えのある方が痩せ薬のようにして服用されることは避けてください。特に、生薬「麻黄」は西洋薬にもある「エフェドリン」という成分を含有しています。西洋薬との飲み合わせにも注意が必要ですから、特に甲状腺機能で治療を受けておられる方などは本剤の服用に際しては医師、薬剤師に相談されることをお勧めします。痩せようと思って、たくさん飲んだりしないでください。


――漢方薬は、体内で変化もするし、複数の成分がお互いに影響を及ぼし合うのですね。

 漢方薬は、やみくもに多くの成分を体内に取り入れる健康食品のようなものではありません。生薬植物が生きるために持っているシステムとエネルギーの源を人間に活用する治療法、もしくは予防法と考えられます。これらを現代人にどのように活用するか、できるかを探索する研究がこれからのテーマとなるでしょう。

漢方を上手に使って健康に。


もっと知りたい方はこちらもご覧ください
▼近畿大学東洋医学研究所
 http://www.med.kindai.ac.jp/toyo/

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