2023.07.20
体をぶつけたときにできるあざは、なぜいろんな色があるの?小学生の疑問に医師が答えます【それってなんなん?相談所】
- Kindai Picks編集部
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体の一部をぶつけたときにできるあざ。よく見てみると、赤、青、紫、黄色っぽいものなど。「どうしていろんな色のあざができるんだろう?」小学5年生の女の子から寄せられた疑問に、近畿大学メディカルサポートセンターの医師が回答します。また、彼女には将来の夢があり、ほかにも先生に聞いてみたい質問があるようで……。
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私は普段から気になったことをすぐに検索する癖があります。人から雑学を聞いたら本当かどうか調べてみたり、聞きなれない言葉を聞いたら方言かどうか調べてみたり……。
そんな「なぜ?」「ほんと?」があふれる毎日ですが、ネットの情報だけでは答えがわからないこともありますよね。そんなときに、専門分野の先生たちが正しく疑問に答えてくれるのが「近大それってなんなん?相談所」なのです!
今回、疑問をぶつけてくれた相談者は、小学5年生の恋斗梨(ことり)ちゃん。
おぉ、確かに! 言われてみれば、痛々しい赤っぽいものや、うっすら青いもの、なぜか黄色いものまで……いろいろあるよなぁ。
あざ※、私もよくできるよ。でも色について気になったことなかった! ちゃんと見てるんだね。
自分でも調べてみたけど、よくわからなくて。直接先生に聞きたくて、「それってなんなん?相談所」に投稿しました。
すごい探究心! よし、早速先生のところに行ってみよう!
※日本皮膚科学会では、生まれつきまたは生後間もなくからずっと残ってしまう皮膚の色の変化を「あざ」と定義していますが、本記事ではぶつけたときなどにできる「出血斑」を便宜上、「あざ」と呼んでいます。
上着を脱いだら、たまたま服装がおそろいだった2人
ということでやってきました、こちらは近畿大学メディカルサポートセンター。
近大生の健康管理のために、内科を中心とした保険診療、健康相談、応急手当、カウンセリング、健康診断など、学生の心身の健康をサポートする施設です。
そして今回、恋斗梨ちゃんの疑問に答えてくれるのは、医師の藤本美香先生です。
近畿大学 医学部 准教授、メディカルサポートセンター センター長代理
専門:健康教育、プライマリ・ケア、大学保健、肥満、食育、内分泌代謝、糖尿病、病態栄養学
将来の生活習慣や考え方が確立していく大切な時期である大学生活。学生のみなさんを、大学保健・健康教育・栄養教育を通じてサポートします。
教員情報詳細
ぶつけると、なぜ「あざ」ができる? いろんな色のあざがある理由は?
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。じゃあ恋斗梨ちゃん、あらためて質問をどうぞ!
ぶつけたときにできるあざはどうして、いろんな色になるんですか?
はい、なかなか難しい質問ですが、これを「なぜ?」と思ったことがすごいですね。どうして疑問に思ったのかな?
階段から滑り降りたり、鉄棒から落ちたりして、しょっちゅうあざができてるから。でもなんで、青くなったり黄色くなったりするのかな〜って。
恋斗梨ちゃんは活動的なんですね。では、ぶつけたときや怪我をしたときにあざができる仕組みを、皮膚の成り立ちからお話しますね。
皮膚にはいくつかの層があります。それぞれにたくさんの毛細血管が走っていて、ぶつけると毛細血管が傷つき、血液が皮膚の内側に出血します。それを、皮膚の表面から見ると「あざ」ができたように見えます。
そっか、皮膚の内側で出血しているから「内出血」っていうんですね。
そうなんです。そして、あざの色が変化するのは、赤血球に含まれる「ヘモグロビンの変性」によるものです。
変性??
ヘモグロビンは、鉄を含んだタンパク質です。タンパク質は温度変化や酸、圧力などによって性質や機能が変化していくんですが、これを「変性」といいます。まずは赤血球のお話から始めましょうか。恋斗梨ちゃん、赤血球ってどんな働きをしているかわかるかな?
酸素を運ぶ。
そう、そのとおり! これが赤血球を顕微鏡で見たイメージです。
丸い……。
そうなんです、赤血球は丸くて扁平な細胞です。そして、赤血球の中に含まれる「ヘモグロビン」の働きによって、肺で取り込んだ酸素を頭のてっぺんから足先まで、体の各組織に運んでいます。この赤血球には120日の寿命があるの。
4ヶ月くらい頑張ってくれるんですね。
赤血球は寿命がくると壊れて、ヘモグロビンが溶け出し、以下のように分解されて変性します。この分解の段階によって、色が変わっていくんです。
わっ、聞き慣れないカタカナがいっぱい……! 恋斗梨ちゃん、大丈夫?
うん、図を見ながら説明してもらえたので、わかります!
すごすぎる。
えーっと、えーっと、皮膚の下のヘモグロビンがどんどん変化する中で、それぞれの段階で、見えているあざの色も変わっていくということですか?
そうですね。毛細血管が傷つくと、赤血球が壊れて、ヘモグロビンの変性が起こっちゃう。それが、あざの色が違う理由です。初期のあざはヘモグロビンの色が出ていて、赤い色。時間が経って「ビリベルジン」に分解されると緑色、さらに変性して「ビリルビン」になると黄色になります。また、傷ついた血管のある場所が表皮、つまり皮膚の表面に近い場所か、真皮という奥のほうかによっても色の見え方が変わります。
黄疸の症状で皮膚や粘膜が黄色くなるのも「ビリルビン」によるもの。
青いあざは?
皮膚自体の色も影響しますが、ヘモグロビンがビリベルジンに変性する途中かもしれませんね。ちょっとした怪我の出血って、すぐに止まるじゃないですか? あざによる内出血でも、血を止めようとする反応が皮膚の下で起きているんです。止まった血が青く見えているのかも。
ぶつけると、ちょっと腫れてくるときもありますよね?
あります、あります!
それも傷ついた血管を修復して炎症を止めようとしている作用のひとつです。治そうとして血管が開いてるから、赤くなる。そして、腫れる。例えば、交通事故が起きたら救急車や警察がワーッと集まってくるでしょ? そして仕事が終わったらサーッと去っていく。あんな感じのことが皮膚の下で起こっているわけです。
そうだったんだ。
あざが最初から黄色いときがあるんですけど、なぜですか?
出血が少なくて、ヘモグロビンの変性も早かったので、皮膚表面から内出血が見えたときにはすでに黄色くなっていたということが考えられますね。
そっか。同じタイミングでできたあざでも、場所によって赤黒くなったり黄色い部分があったりするのは?
ヘモグロビンたちが「よーい、どん!」で変わっていくわけじゃなくて、徐々に変わっていくので、色が違うことがあるんだと思います。
部位の出血量や、出血の広がり具合によっても、退色の仕方が変わります。
ちょっと違う質問なんですけど、頭を打ったときは、あざじゃなくて「たんこぶ」ができるのはなんでですか?
頭だと、すぐ下に硬い頭蓋骨(とうがいこつ)があるので、出血すると骨側ではなく表皮側に腫れあがって、表面がぷくっとふくれる。これがたんこぶなんですね。たんこぶも、あざと同じように皮膚の下で出血しているので、皮膚の色も変わっています。でも、頭部の皮膚組織や毛細血管の多い真皮層は、ほかの部位にくらべて薄いので、色の変化がわかりにくいのでしょう。
ちなみに、骨の中に出血すると「頭蓋骨内血腫」という危険な状態になるので、頭をぶつけた場合は迷わず病院へ。
あざの色で赤、青、黄、緑、いろいろ説明してもらったんですけど……私、過去に青あざの中心が白くなったことがあるんですよ。そんなことってあるんですか?
ときどき、青あざの真ん中だけ白くなることはあるようです。動脈は中心部から細部に流れていくので、修復のときも中心部から回復したのでしょう。だんだん血液がもとに戻ってくるにつれて、全体が綺麗になったんじゃないですか?
確かに、最終的には全体が普段の肌色に戻りました。でも、あれは初めて見るタイプで逆に怖かったな……。
足の親指が青あざにならないのはどうしてですか? 関節のところに重いものを落としてしまったことがあったけど、数日経ったら青あざにならずに治ってた。
いろいろな理由があるかも。看護師の池崎さんにも聞いてみましょうか。池崎さん、どうかなぁ?
メディカルサポートセンター 看護師の池崎 友紀(いけざき ゆき)さん
筋肉量が多ければ多いほど、損傷を保護してくれるので……。足はよく動かすところだから、筋肉が保護してくれたのかもしれないですね。
あとは、さっきの頭のたんこぶの説明と同じように、関節の部分も皮膚組織や真皮層が薄くて、出血量が少なかったからかもしれません。
あざのできかたも、体の場所によって違うんだ。
もっと複雑な理由や、細かい変化もあるかもしれないけど、ぶつけたときにできるあざの色についての質問に対する答えだけでいうと、伝えることはこのくらいかな。
ありがとうございます。
恋斗梨ちゃんのメモ
あざができたら冷やして対処、日頃から体の状態をチェックするのも大切
先生、ぶつけてできたあざは、どう対処するのが一番良いんですか?
冷やしてほしいですね。体は、温かいと汗をかいて熱を冷まそうとして、そのときに血管が開きます。あざは皮膚の下で出血が起きてる段階だから、温めて血管が開くと、さらに出血しちゃうので。
なるほど。恋斗梨ちゃんは、あざができたときに冷やしたりした?
してなかった。青あざできたな〜って思っただけ。
恋斗梨ちゃんくらいの年齢なら、あざができたときは親御さんに伝えたほうがいいですね。大人でも子どもでも「ぶつけた覚えがないのに、あざができている」ってこと、ありませんか?
よくあります!
ぶつけたことに気づいていないだけのパターンもありますが、体の中で重大な異常が起きているサインかもしれません。大人なら健康診断の採血で、血小板の異常などを見つけやすいですが、子どもの場合は採血の機会があまりないので。「おかしいな」「なかなか治らないな」というときは、気にしてみてください。「確認する」ということも、健康管理のために大事なことです。
ちゃんと治ってるかな? あ、ここは治りかけてるあざ。
ぶつけたところを見せてくれる恋斗梨ちゃん。はやく治りますように。
あざじゃなくて、出血するような怪我をしたときは押さえて止血をしてね。ただし、傷を治してくれる血小板も血流に乗って運ばれるから、その流れを止めないように適度に押さえてくださいね。
軽く押さえる?
そうそう。出血は止めるけど、押さえ過ぎないように。
皮膚ってなんか薄い気がするんですけど、なぜあざの血は外に出てこないんですか?
確かに赤ちゃんや子どもは特に皮膚が薄いです。でも、皮膚は表皮、真皮、皮下組織と、何層かに分かれているので、内側で出血しても、その上の層にある皮膚が傷ついていなければ、血は外には出てきません。
ただ、何回もぶつけて繰り返しあざになっている場所は、皮膚が分厚くなったり、色素沈着といって皮膚が黒ずんだりしますよ。表皮には、皮膚の色に影響を与えるメラニン色素を生みだす細胞があります。ぶつけたときに、この細胞がつぶれてメラニン色素の分泌が刺激されたり、排出されなくなったりすると、色がついてしまうんです。
傷が治っても「跡」が残っちゃうのは、そういうメカニズムなんですね。
そうですね。表皮は新陳代謝で生まれ変わるけど、皮膚の奥の真皮層が傷つくと、一度ついた傷の形が残ったままになってしまうんです。だから、怪我をしたら傷口を開かせないように安静にしてね、ということです。
かさぶたができると、すぐにめくりたくなっちゃうんですけど、やっぱりダメですか?
痒く感じると思うけど、我慢してね。触ると皮膚が分厚くなったり、色が残ってしまうこともあります。体が傷を治そうと頑張っているところだから、その頑張りを止めないようにしてあげてね。
先生はどうしてお医者さんになったの? 将来の夢は変わっても、なりたい自分に
プライベートな質問をしてもいいですか?
どうぞ、どうぞ!(笑)
なんで、外科じゃなくて内科の先生になろうと思ったんですか?
ふふふ。どうして外科に行かなかったかというと、当時はまだまだ、女の人にとってちょっと肩身が狭い世界だったの。研修で全部の診療科を経験するんだけどね、外科の研修で一緒だったのが、みんな背の高い男の人で。私、背が低いでしょ? そうすると、実習中の様子も十分に見えなくて。「お前、ちゃんと見てんのか!」なんて指導医に怒られちゃってね。
そうなんだ……じゃあ、どうしたんですか?
踏み台を5段くらい積んでもらってた(笑)
たいへん!(笑) じゃあ、そもそもお医者さんになろうと思ったきっかけは?
おじいちゃんが入院していて、病院が身近だったこともあるかな。それと、私たちの世代は、女性が働くには専門分野の資格を持たないと、という考え方が強かったの。それでも昔のほうが今よりずっと、女性の医師は少なかったです。恋斗梨ちゃんの世代は、女性が仕事を持っていることは特別じゃないし、好きな職業を選べます。今では、お医者さんのなかで女性の割合は約20%。5人に1人くらいかな。
半々くらいがいいな。私は女の先生の方が安心する。
そうね。女性の場合は妊娠、出産もあるから……むしろ男性よりも多めにいてくれた方がいいくらいかな! ただ、外科だと手術が立て込んで体力勝負みたいなところもあるから、生理のような体の仕組みや体力面から考えて、女性には難しいことがあるかもしれない。でも今は、生理痛をコントロールできる薬もあるし、これから変わっていくと思います。
恋斗梨ちゃんは、将来の夢はあるの?
えっと、年長さんのときはクッキー屋さんになりたかった。でも、小学1年生のときに、医療系のドラマの手術シーンを見て「私がやりたいのはこれや!」って思った。
手術シーン! 怖いってならなかったんや。
元気じゃなかった人が手術で元気になるのを見て、やりがいがあるなって思った。だから、お医者さんになりたくなった。でも、今なりたいのは救急救命士。ドクターカーに乗りたい。
うんうん、いいじゃない!
ちょっと前までは臨床検査技師になりたくて……コロコロ変わってるけど、大丈夫かな。
大丈夫よ。実は私も、コロコロ変わってたの。世の中には、ほかの学部を出てから医学部に入る人もいるし、お医者さんから別の職業に就く人もいる。進路はいつでも変更可能。その時々でやりたいことは変わっても、自分がしたいことを目指していけば、なりたい自分になれるんじゃないかな? 大変なこともあるけれど、諦めずに、一緒に頑張りましょ!
興味を持ったことや、疑問に思ったことを探求しよう
疑問は解決した?
うん!
実はね、今日、恋斗梨ちゃんとお話をしていて、自分の子どものころを思い出してたの。
私が恋斗梨ちゃんくらいのときに、ある本を読んで「どうして?」って思うことがあって。今回のあなたみたいに、編集者の人に手紙を出したの。そしたら、返事が返ってきた。子どもからの質問に丁寧にお返事をくださったのが、すごく嬉しくて、今でも心に残ってる。だから、今日はドキドキしたけど、こうやって答える側になれたんだなって思って、光栄でした。
気になったことは、自分で調べてみてもいいね。恋斗梨ちゃん、これからも不思議に思ったことは、どんどん調査して解明していってくださいね。
いつか、先生側の椅子に座ってるかもしれないね。
ふふふ。
白衣をお借りしました。藤本先生、池崎さん、ありがとうございました!
まとめ
難しい話だったけど、恋斗梨ちゃんの理解が早くてすごかったな。いろいろ教えてもらえてよかったね。
知らなかったことが知れて、嬉しかった! あと、怪我しないように気をつけないとな〜って思いました(笑)。
楽しかった?
ハイッ!!
あはは、いい返事。楽しんでもらえてよかったです。
取材が終わって、恋斗梨ちゃんは気になっていたアカデミックシアターへ。
興味を持ったことに対して、どんどん自分で調べる恋斗梨ちゃん。そして、また次々と疑問が出てきます。アカデミックシアターでも、いろんな棚をくるくると移動して、本やマンガを手にとっていました。
気になることや興味があることに飛び込んでいけるのっていいですよね。それはもちろん子どもだけじゃなくて、大人でも!
みなさんも、ふと気になったことや「これってどこの専門分野かな?」ということでも、ぶつけてみてください。さまざまな分野のスペシャリストが、あなたの疑問や相談、お願いごとを解決します。
この記事を書いた人
狸山みほたん
地下アイドル兼ライター。趣味は漫画を読むことと潰れるまで飲むこと。難ありアイドル『オタフクガールズ』のリーダーとしても活動中。豚に尻をかじられたり、自身のユニットの収支を公開したり、ちょっぴり体当たり系の記事が多い。将来の夢は人気者。
写真:大越はじめ
編集:人間編集部
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「外来種って悪者なの?」「お餅ってどうして伸びるの?」そんな「?」を大募集。素朴な疑問も、思わず頭をひねってしまう難題も、近大の先生や学生が一緒になって考えます。「子どもの自由研究に役立てたい」「あの研究室に潜入したい!」「◯◯について、専門家の意見を聞きたい」などなど、スタイルは不問。まずは一度、私たちに託してみてください。その道を究めたプロが、真剣かつ丁寧にお答えします。
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