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雑学・コラム

2026.07.08

命にかかわる熱中症。後遺症が残ることも? 本格的な夏を前に知っておきたい対策

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
健康
医学部
熱中症

2026年4月、気象庁は最高気温が40℃以上となる日の名称を「酷暑日」と定めました。気象庁が発表した夏の3カ月予報(6月〜8月)によると、今年も、全国的に気温が平年より高い厳しい暑さとなる見込みで、熱中症には十分な注意が必要です。本格的な夏の暑さを前に、専門家に熱中症対策や注意点について伺いました。

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植嶋 利文(うえしま としふみ)の写真
植嶋 利文(うえしま としふみ)

近畿大学医学部 講師
専門 救急医学一般

頭部の外傷診療を中心に、幅広く救急領域の診療・研究に従事しています。

≫教員情報詳細


体の中で何が起きている?熱中症発症のメカニズム

インタビューを受ける江口先生の写真

——天気予報でも「熱中症に注意」という言葉が飛び交う季節になってきました。まず、熱中症になってしまう体のメカニズムを教えてください。

救急医・植嶋
熱中症とは、暑さによって体温調節がうまく働かなくなり、体に熱がこもったり、水分や塩分が失われたりすることで起こる全身の障害です。重症になると、脳や肝臓、腎臓などに障害が及び、命にかかわることがあります。
基本的には、涼しい環境にいれば熱中症のリスクは下がります。蒸し暑い時期に炎天下に長くいると、体温の調節機能が破綻して、熱中症になります。
重症の熱中症では、極端な高体温によって細胞が直接傷つくだけでなく、全身に強い炎症反応や血管・血液凝固の異常が起こります。その結果、脳や肝臓、腎臓など複数の臓器が障害され、命にかかわる状態になることがあります。


——風邪で熱が出るのと、どう違うのでしょうか?

救急医・植嶋
風邪やインフルエンザ、肺炎などで体温が上がるのは、ウイルスや細菌をやっつけるための防御反応で、体の中からおこります。それに対して熱中症は暑い環境から受ける熱や、運動で体内に生じる熱を十分に逃がせなくなることで体に影響を及ぼすもので、健康な人でもおこり得るから怖いのです。健康な人ほど油断してしまいますから。


——体がどんな状態だと熱中症になりやすいのでしょう?

救急医・植嶋
体調が悪いときは熱中症になりやすいです。寝不足のときやお酒をたくさん飲んだ次の日、高血圧や心臓病、糖尿病などの持病をもっていてお薬を飲んでいる人に、症状が出やすくなります。


“そこまで暑くない日”にも熱中症?気温だけでなく湿度の上昇にも要注意

暑さで体調を崩す女性のイラスト

——これからどんどん暑くなっていきますが、いつごろから熱中症に注意すべきでしょうか。

救急医・植嶋
本格的に暑くなる前の初夏から注意が必要です。真夏になる前は油断しがちですが、体がまだ暑さに慣れていない時期は体温調節機能が十分に働かずに熱中症になる可能性があります。
特に梅雨に入ると湿度が高くなるので、さらに危険です。気温だけでなく、湿度の上昇も熱中症のリスクとなります。熱中症予防のために気温・周辺の熱環境・湿度をもとに算出した「暑さ指数」や「熱中症警戒アラート」といった指標が発表されていますので、チェックしながら暑さ対策をしてください。


——なぜ湿度が高いと熱中症になりやすいのでしょうか?

救急医・植嶋
体内の熱が空気中に発散しないからです。乾燥しているときに汗をかくとすぐに蒸散しますが、湿度が高いと体から気化熱が奪われず、熱がこもるんです。湿度の高い日は、室内や夜間でも熱中症の危険性があります。


真夏を前に、今からできる熱中症対策 「暑熱順化」とは?

よく晴れた屋外を歩く女性のイメージ

——梅雨時期から熱中症のリスクがあるということですが、本格的な夏の前にしておくべきことはありますか?

救急医・植嶋
「暑熱順化(しょねつじゅんか)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、体が暑さに慣れることです。運動などで汗をかいて体を暑さに慣らしておくことで、真夏に入る前の時期の熱中症のリスクを下げることにつながります。健康な人ならば、比較的涼しい朝夕の時間に適度に運動すると、ある程度、暑さに耐性ができます。


——おすすめの運動はありますか?

救急医・植嶋
筋肉をつけるような運動ではなく、軽い負荷で時間をかける運動、いわゆる有酸素運動がおすすめです。手軽に始めるなら、朝や夕方の比較的涼しい時間にウォーキングするのが一番でしょう。体調がよくないときは無理せず休むようにしてください。


——入浴も汗をかきますが、熱中症予防に有効でしょうか?

救急医・植嶋
温度に慣れるという意味ではある程度有効ですが、疲れてしまわない程度の時間が目安で、のぼせるほど入っているのは逆効果です。40℃以下の比較的ぬるい温度で、半身浴がおすすめです。一般的には入浴よりも適度な運動のほうが良いと言われています。


——汗をかくのが大事というわけではないのですね。

救急医・植嶋
汗をかく練習も大事ですが、汗をかきやすい体質の人は、特に何もしなくても汗をかきます。ただ汗をかけばいいというのではなく、体温調節できる体にするのが大事なんです。たとえばマラソン選手は日頃のトレーニングによって、汗をかき始めるタイミングや皮膚の血流調節が効率よくなり、同じ運動をしても体温や心拍数が上がりにくくなるので、適度に水分補給すればマラソンを走りきれます。一般の人でも、運動習慣を持続することで、体温調節できる体に近づいていきます。そして、汗をかいたら水分と塩分を補給してください。


——夏場はどうしても食欲が落ちますが、たとえば夏野菜を多く食べるなど、食に関して気を付けるべきことはありますか?

救急医・植嶋
夏野菜、特にリコピンの豊富なトマトを加熱して油と一緒に摂ると良いなどと言われますが、それ以上に大事なのは、栄養バランスのとれた食事をすることです。食事からも水分や電解質を補えるため、夏こそ、主食・主菜・副菜をそろえることが大切です。ただ、夏場は食欲が落ちて体力も低下しますから、タンパク質については意識的に摂るほうがいいかもしれません。タンパク質は、肉類や魚介類、大豆製品などに多く含まれています。ミネラル分も食事から摂取するよう心がけてください。たとえばミネラルが豊富な飲料といえば、麦茶を思い出す方も多いと思いますが、食事で摂れるミネラルに比べれば、ごくごくわずかです。ミネラルは、海藻類や豆類、ほうれん草や小松菜などの野菜類にも多く含まれています。


熱中症リスクが高いときに心がけたい対策とは

——熱中症警戒アラートが出るような、熱中症リスクが高い日にできる対策をおしえてください。

救急医・植嶋
直射日光に長時間当たると、体温が調節できなくなり、熱中症の大きなリスクになります。炎天下で長時間過ごさないといけないときは、日傘をさすとか、こまめに日陰で休むとか、意識的に日光を避けてください。


——「熱中症かもしれない」と気づくサインにはどのようなものがありますか。

救急医・植嶋
いつもより異常に大量の汗をかいた時は要注意です。暑くなると汗をかくのは体の外に熱を逃すための正常な反応ですが、汗を流しすぎると、ミネラルや塩分が一緒に抜けてしまいます。初期症状はだるさを感じるくらいですが、放っておくと頭痛、めまい、吐き気、集中力の低下、強いだるさといった症状が出始めることが多いです。「この症状はちょっとおかしいな」と感じるのに無理をしていると、さらに体温が上がり、意識が朦朧となり、足が痙攣をおこすなどの重症になってしまいますから、そうなる前に空調の効いた室内など、涼しいところに避難してください。初期症状が出ているだけならば、それだけで症状がおさまる場合もあります。


——重症化させないためにはどうすればよいでしょうか。

救急医・植嶋
重い熱中症にならないためには、涼しい場所での休息と、水分補給の両方が大事です。ただ、のどが渇いたからと、塩分やミネラルが十分にふくまれていないお茶や水を多量に摂取すると、血液のバランスが崩れてしまい、体温がそれほど上がっていなくても、頭痛、吐き気、こむらがえりなどの症状が出ることがあります。水分だけでなく、塩分も意識して摂取する必要があります。


水を飲む男性のイメージ

——水分と塩分は、どのように取ればよいのでしょうか。

救急医・植嶋
駅まで歩いてちょっと汗をかいたくらいならば、水やお茶を飲むだけで大丈夫です。屋外に長時間いたり、運動したりして、大量に汗をかいたりした場合は、水分だけでなく塩分も補う必要があります。汗をかいてもすぐに蒸散してしまったりして、どれほど汗をかいたか自覚しづらいので、めまい、頭痛、吐き気、強いだるさなど、脱水を伴う熱中症が疑われる場合には、経口補水液を飲んだり、水やお茶と同時に、塩分をとれる飴やタブレットを舐めたりするほうがいいでしょう。
ただ、飴やタブレットは注意も必要です。舐めながらお茶や水を飲む習慣のある人は、知らず知らずに塩分を摂り過ぎてしまうことがあるのです。高血圧や心臓病・腎臓病などがある方は特に、塩分の摂取しすぎはよくないので、お菓子がわりに食べたり、経口補水液をジュース代わりに飲むのは、やめたほうがいいでしょう。


——経口補水液ではなく、スポーツドリンクではいけませんか?

救急医・植嶋
スポーツ飲料は、経口補水液より塩分が少なく、糖分が多いんです。日常的な水分補給にはよいのですが、熱中症のリスクが高い時には、市販の経口補水液の方が適しています。経口補水液が手に入りにくい場合には、500mlの水に塩1.5gと砂糖20gをよく混ぜるだけで経口補水液に近いものが作れますが、レモンやグレープフルーツ(※)の果汁を加えると爽やかさが増して飲みやすいですし、クエン酸やカリウムも摂取できます。また、砂糖のかわりにはちみつ(※)を大匙1~2杯入れても風味がよくなるうえ、カリウムやカルシウム、鉄分が摂れます。
※一部の薬剤は、グレープフルーツとの同時摂取で副作用のおそれがあります。薬を服用中の方は、薬剤師にご相談ください。
※はちみつは、1歳未満の乳児には与えないでください。


——最近では、ハンディファンや空調服など、いろいろな暑さ対策グッズが出ていますが、有効なのでしょうか?

救急医・植嶋
気温が体温より高いときでも、空調服は風によって服の中の湿度を下げて、汗を蒸散させるので意味がありますが、ハンディファンの風は、気温が高い場所で使うと、周りの熱い空気を巻き込んで熱風になるので、逆効果になる場合もあります。濡れタオルを体にあて、そこにハンディファンの風をあてると、気化熱の効果で体温が下がりやすくなります。
首には頸動脈や頸静脈など太い血管が走っていますし、首を冷やすのは効果的ですが、湿度が高い時には、濡れタオルを巻いてもあまり効果がありません。凍ったものをタオルなどで巻いて、首にあてると良いでしょう。また、片面で吸熱して、反対面で発熱するペルチェ素子を使用したネッククーラーも商品化されていますので、うまく活用してください。


“気づきにくさ”が危険 高齢者や子どもは特に注意

暑さで体調を崩す子どもや高齢者のイラスト

——高齢者が熱中症になる事例をニュースなどでよく聞きます。高齢者や家族が注意すべきことはありますか?

救急医・植嶋
一般に、70代を超えると、のどの渇きに対する感覚が鈍ってくると言われています。また、暑さも感じにくくなっているので、いつのまにか体温が上がっていることも少なくありません。高齢者と同居している方は、定期的に水分をとっているか、室温が高すぎないか注意してください。
また、一人暮らしの高齢者や、高齢者だけでお住まいの場合は、とにかく暑い環境を避けてください。暑いと思わなくても、室温が30℃をこえるようならエアコンをつけましょう。自分では大丈夫と思っていても、周囲から見て様子がおかしい場合は、早めに休ませて冷やすことが大切です。

もしできるなら、食事の内容や、水を何杯飲んだかなどを記録して、かかりつけの医師に熱中症対策が十分か相談してみてもよいでしょう。
また、夜間にトイレにいくのがいやで、水分をとらない高齢者もいますが、人は寝ている間にたくさんの汗をかきます。寝る前にコップ一杯の水を飲む習慣をつけてください。


——お子さんの熱中症も心配です。

救急医・植嶋
ベビーカーに座っているお子さんは、地面すれすれのところにいるわけですから、日光とアスファルトの両方から熱を浴びます。親が暑いとき、お子さんはもっともっと暑いと感じているはずです。だから、お子さんと一緒にお出かけする場合は、なるべく朝や夕方に済ませ、炎天下は歩かないようにしましょう。どうしても日中に出かけなければならない場合は、日陰やエアコンの効いた室内などで休みながら移動するように心がけてください。


熱中症になってしまったら?どんな症状なら救急車を呼ぶべき?

熱中症疑いの人と救急車を呼ぼうとしている人のイメージ

——熱中症が疑われる人がいるとき、どんな症状ならば救急車を呼ぶべきでしょうか。

救急医・植嶋
涼しいところで休めばよくなる程度なら救急車を呼ぶ必要はありませんが、判断が難しいですよね。普段から一緒にいる人ならば、明らかに普段と様子が違うと感じたとき。たとえば、ろれつがまわっていなかったり、受け答えがかみ合わなかったり、すぐにぼんやりしてしまったりと、意識が朦朧としている感じがあれば、救急車を呼んだほうがいいでしょう。
また、路上などで気分が悪そうにしている人を見かけた場合、体に軽く触れ、熱が高そうだったり、意識がもうろうとしているならばすぐに救急車を呼んでください。熱がそれほど高くなくて、意識もはっきりしているならば、まずは水分を摂らせ、涼しいところで休んでもらってください。


——熱中症になりかけていると感じたときの、応急処置はありますか?

救急医・植嶋
屋外にいるのなら、日陰や屋内などの涼しいところに移動し、冷たいものを脇の下や首の付け根にあてます。シャワーを浴びられる状況であれば、シャワーで体全体を冷やすと効果的です。ただし、いきなり冷たい水を浴びるのではなく、体の末端、手足から浴びるようにしてください。


救急医が伝えたい 熱中症は命に関わる“病気”です

——最後に、熱中症について伝えたいことがあれば教えてください。

説明をしている江口先生の写真

救急医・植嶋
熱中症を、「重度の立ちくらみ」程度に考えている人もいらっしゃいますが、実はとても怖い病気です。症状が軽ければ、体を冷やすだけで回復しますが、体温が40℃に近づくと命にかかわりますし、命が助かっても、肝臓や腎臓などの臓器や脳が傷つき、さまざまな後遺症が残ることがあります。意識が戻らないこともあり得ますし、腎臓が悪くなって、透析を続けなければならないこともある。熱中症は一歩間違えると本当に怖い病気。“症状”ではなく、“病気”なんです。
我慢強い人は特に注意が必要です。少しくらいのどが渇いても我慢してしまう人、暑くても頑張ってしまう人が、いつの間にか熱中症にかかっていることが多いのです。熱中症の初期症状では、暑いと感じる感覚も鈍るので、自分が熱中症になっていないか、気をつけすぎるくらいでちょうどいいと考えてほしいです。


取材を終えて

熱中症は怖い病気だという植嶋先生の言葉が、強く印象に残りました。なまじ健康に自信があると、「これくらい大丈夫だろう」「もう少しくらい大丈夫だろう」と油断してしまいますが、今年の夏は早め早めに水分と塩分をとり、適宜涼しい場所で休もうと思います。


この記事を書いた人
上江洲 規子
神話や伝説が好きで、古代史や民俗学の観点からの執筆が得意です。学校案内や社内報などで、若い人からお話を聞く機会が多く、若者の文化を知りたいと心がけているのですが、私的なやりとりでは、おばさん構文です。


取材・執筆:上江洲 規子
編集:アール・プランニング


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