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雑学・コラム

2026.07.06

クマ被害はなぜ増えている? 動物生態学者に聞く、家族を守るための“対策”とは

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
クマ
アウトドア

2026年に入り、全国的にクマによる人的被害が急増。環境省の発表では、4月のクマの出没件数は1759件(速報値)。これは、記録が確認できる2009年度以降で過去最多で、昨年4月の800件と比較し2倍以上の件数となっています。今、なぜクマの出没が相次いでいるのか。動物生態学や里山の生物多様性に詳しい近畿大学農学部環境管理学科 准教授 澤畠拓夫に、近年のクマ事情と対策について聞きました。

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澤畠 拓夫(さわはた たくお)

近畿大学農学部 環境管理学科 准教授
専門:動物生態学、土壌生態学、菌類学、樹病学

線虫から哺乳類に至る様々な野生動物の生態、動物と菌類との相互関係を研究しています。
教員情報詳細


環境省の発表によると、2026年度のクマによる死亡事故は、4〜6月で東北エリアにおいて5件発生(6月23日発表時)。2024年度の年間3件を上回るペースで被害が発生しています。
近年、クマが人里に頻出する理由は何か。また一般の人でも気づくことができるクマのわかりやすいフィールドサインとは。動物生態学や里山の生物多様性に詳しい近畿大学農学部環境管理学科 准教授 澤畠拓夫が解説します。

環境省:クマに関する各種情報

動物生態学が見る、近年のクマ事情

——近年のクマによる被害を受けて、動物生態学の立場からどのように見ていますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
近年、里山の自然が回復し、さらに里山の人口減少により脅威が減ったため、クマをはじめ多くの野生動物が食べ物がある人里で餌を獲得している、「非意図的な餌付け状態※」となっています。この餌付けにより、野生動物の栄養状態が良くなることで、クマに限らず多くの野生生物で出生率の増加や子供の致死率の低下が起こっています。その結果、里山で増えた野生動物が、どんどん人間の生活圏に進出していることが、近年のクマ被害の原因と考えています。

※人間による野生動物の餌付けには、意図的なものと非意図的なものがあります。前者は、人が餌を野生動物に与える餌付け、後者は、人家の庭先の柿の木や畑のなりものや作り捨ての農作物などに餌付いてしまうことがあります。


——ここ数年のクマによる被害傾向はありますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
以前は、山菜やきのこ狩りの際にクマと出会い、人が襲われるという事故が起きていました。つまりクマの生息圏に人間が入ることで起きていた事故でした。ただ、今では人間の生活圏に入り込んだクマによる事故が増えています。

——クマが人里に出てきているわけではないのでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
これまでは、食べ物がない時期に山から人里にクマが降りてくるという印象でしたが、現在はアーバンベアと言って、クマがそもそも人里を生活圏とし、日常的に餌場として利用していることが多いです。このように非意図的な餌付けにより、クマが人里に餌付いてしまい、そこで増えたクマが生息圏を拡大しているような状態です。
ただ、山中にクマがいないわけではありません。春の山菜が多い時期は、クマは山の中で餌をとっています。夏には、山中の餌が少なくなるので、人里に集まり、秋には、再び山中で餌をとるクマも増えてくると思います。

——クマが人里に出てくるエリアに共通点はあるのでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
30年近く前は、クマが人里に居ついていた地域は限られていましたが、今では全国的に起きており、地域性はあまりないのではないかと思います。

——里山の荒廃は、クマの行動に影響はあるのでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
今のように里山に緑がなく、(荒廃して)はげ山だった頃には、大型獣が住める環境ではありませんでした。つまり、里山が荒廃したのではなく、里山の自然が回復したために山の生き物が本来の生息場所に戻ってきたと考える方が事実に即しています。


クマの生態について

——クマの活動時間や性質、地域性を教えてください

澤畠先生
農学部・澤畠
クマの生息密度の違いがあるだけで、人間の生活圏を餌場と認識しているアーバンベアの存在は、各地で普遍化しており、地域により違いはなくなりつつあります。また、一般的に夜行性と呼ばれている哺乳類に、真正の夜行性は少なく、クマに関しても、人間を避ける目的で主として夜間に活動しているだけで、日中に活動しないわけではありません。クマの主な活動時間は夕暮れから早朝ですが、夜通し活動しているわけではなく、深夜には一時休憩する様子もみられます。

——“人慣れしたクマ(アーバンベア)”という言葉を聞きますが、どう違うのでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
人里に日常的に出入りして農作物などを餌として利用しているクマのことで、アーバンベアとも呼ばれ、人間を恐れなくなった状態を指します。人間に対し、「恐怖心をあまり感じなくなった」というだけで、クマの本質的な性質に変わりはありません。

——近年、冬眠しないクマがいるのは本当ですか?

澤畠先生
農学部・澤畠
クマの冬眠は、ヤマネのように外気温にあわせて体温を調節し、呼吸数や心拍数も低下させて仮死状態にするような冬眠ではなく、休眠に近い状態で、ちょっとした刺激で起きて活動ができます。クマは、餌のない冬季に、エネルギー消費を抑えるために休眠しているだけなので、冬眠というより冬籠りという表現があっている印象です。そのため、積雪がなく、餌がある状態では、クマは冬籠りする必要がないわけです。
そのため、冬眠しないクマには、秋に餌が取れず太れなかったから冬眠ができない場合と、冬でも餌がとれるから冬眠しない場合の2パターンあると考えます。

——クマはどのくらいの範囲を行動するのでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
クマの1日の移動距離はおおよそ1〜3kmくらいです。ただ、5〜7月はクマの繁殖期で、特にオスはその期間かなり行動範囲を広げます。

——人を襲ったクマは再び人を襲いますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
人間を襲ったクマは、人間を恐れないばかりか、人間を簡単に手に入る”餌”として認識した場合、一度捕獲すると大量の餌が手に入るわけですから、再び襲う可能性は高いと思われます。


クマ被害に合わないための予防策

——夏にかけて、キャンプ、登山、釣り、ゴルフなどのアウトドアで特に注意すべき時間帯や場所はありますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
キャンプ場や登山道の休憩所などは、ゴミの存在によりクマが誘引されやすい場所です。また渓流もクマが好んで利用する環境です。人がたくさんいるときはクマと遭遇する可能性は低いですが、利用者の少ない時間や夜間は遭遇する可能性が高くなりますので注意が必要です。

——子どもと一緒に山や自然公園へ行く場合、親は何を確認すべきでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
まずは、行き先をホームページで確認し、情報を集めることです。また利用者のほとんどいない場所、利用者のいない時間帯は、なるべく避けるのが良いでしょう。

環境省:クマ出没情報地域別一覧

児童向け動画(環境省発表)
【クマ出没に注意!】クマにおそわれないための3つのお約束

——犬の散歩や早朝ランニングは、クマ出没地域ではリスクになりますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
早朝は、クマの活動時期と重なる可能性があります。ただし、犬の散歩は、歩道に犬の匂いをつけて回ることにもなるので、クマに警戒心を持たせるのには有効です。

——車で移動中にクマに遭遇した場合は?

澤畠先生
農学部・澤畠
車で移動中にクマに遭遇した場合は、クマを刺激しないよう、停車せずにそのまま走り続けることです。人を恐れない“人慣れしたクマ”は、車をも恐れていない可能性がありますので注意が必要です。

——クマの痕跡、足跡、フン、爪痕など、一般の人でも気づけるサインはありますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
フンや爪痕はわかりやすいフィールドサインです。

クマの糞


クマが木登りした時についた爪痕

また、クマがスギやヒノキなどの樹皮を剥ぎ、その下にある甘皮に蓄えられた糖分や養分を食べる「クマ剥ぎ(くまはぎ)」という痕跡もクマが出没しているサインになります。
ニホンジカやニホンザルなどによる良く似たような痕跡もありますが、樹皮を口に咥えて引き剥がしたり、前足でめくるようにして剥がした跡は、クマ特有のものといえます。


クマ剥ぎ

クマは木に登り枝の先にある実を食べる際に、枝を折って手繰り寄せます。その結果、折られた枝が束になって木の上に「棚」や「鳥の巣」のように積み重なります。これを「熊棚(くまだな)」と呼びます。新しい熊棚を見つけた場合、その周辺にはクマが滞在している可能性が高いので、絶対に近づかないようにしましょう。


熊棚


——実家や空き家の庭に実のなる木がある場合、今後、管理方法を変えるべきでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
クマがそこを餌場にする可能性が高い場合には、管理強度を高める必要があると思います。特にカキ、クリ、クルミは要注意です。


もしもクマに遭遇したら

——クマに遭遇した場合、まず何をすべきですか?

澤畠先生
農学部・澤畠
対策方法は、クマとの距離により異なります。クマからある程度(50m以上)距離が離れている場合は、大声を出さないなどクマを刺激しないように見守り、やり過ごすこと。逆に、目の前にクマが迫っているなど、クマとの距離が近い場合は、熊スプレーを使用するか、うつ伏せになり顔や腹部を守る防御姿勢をとり致命傷を受けるのを防いでください。これは、クマが人間を餌と認識していない場合に有効な方法です。

——“走って逃げてはいけない”と言われますが、なぜ危険なのでしょうか?

澤畠先生
農学部・澤畠
走っても、クマから逃げ切ることはできませんし、かえってクマを刺激して、襲われる可能性が高くなってしまいます。

——クマ鈴、ラジオ、熊スプレーはどの程度有効ですか?また最も有効だと思う対策はありますか?

澤畠先生
農学部・澤畠
クマ鈴やラジオは人間がいることをクマに知らせるのに有効とされますが、そもそも人間を恐れない“人慣れしたクマ”に対しての有効性は正直わかりません。熊スプレーは、クマに襲われた際に有効となります。最も有効な対策は、単独行動など、クマに襲われやすい状況を作らないことです。



いよいよ夏本番。自然を相手にするときは、「たぶん大丈夫」ではなく、「念のため確認」が正解です。お出かけ前には周辺情報をチェックし、現地では単独行動を避ける――そんな小さな備えと心がけが、夏の思い出をより良いものにしてくれます。この夏、持ち帰るのは思い出と写真、そして少しの日焼けまで。安全第一で、すてきな夏をお過ごしください。


取材・執筆:近畿大学広報室

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