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2026.07.16

バーベキューのトングから食中毒に!?アウトドアで気をつけたい予防ポイントとは

Kindai Picks編集部

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生物理工学部
食中毒
感染予防
アウトドア

バーベキューやキャンプなど、外で食事をするのが楽しい季節になりました。みんなで食材を焼いて、取り分けながら食べるのもバーベキューの楽しみの一つです。でも、その何気ない行動の中に、実は食中毒のリスクが潜んでいることをご存じですか?せっかくの楽しい時間を台無しにしないために、アウトドアで気をつけたい食中毒予防のポイントを、近畿大学 生物理工学部 食品安全工学科教授の江口陽子が解説します。

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江口 陽子(えぐち ようこ)の写真
江口 陽子(えぐち ようこ)

近畿大学 生物理工学部 食品安全工学科 生物理工学研究科 教授
専門は微生物学、分子生物学

細菌が環境に適応するために必要な情報伝達系である二成分制御系について研究しています。二成分制御系は病原菌の病原性などの発現に関わり、抗病原性薬の標的としての候補になります。

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夏に食中毒が増えるのはなぜ?

インタビューを受ける江口先生の写真

——梅雨が始まる6月ぐらいからニュースや自治体の広報などで「食中毒に注意しましょう」という呼びかけを目にします。これからの季節に起こりやすい食中毒にはどんな種類があるのでしょうか。

生物理工学部・江口
食中毒の種類には、大きく分けてノロウイルスなどによるウイルス性食中毒と、細菌による細菌性食中毒があります。気温が高くなる季節に起きる多くは、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどの細菌が原因の食中毒です。これらの細菌は、35~40℃くらいで最も活発に増殖します。気温が上がると食品自体の温度も高くなり、その表面に付着している細菌も増えやすくなるんです。なかには増殖するだけでなく毒素を作る細菌もあり、それを食べてしまい食中毒になるケースもあります。
普段から食品を低温下で保管するのが、食中毒予防の第一のポイントです。


細菌性食中毒が起こるしくみ “増える”細菌

——細菌が増殖すると食中毒が起こるんですか?

生物理工学部・江口
食中毒は、細菌が増えるだけで起きるわけではありません。問題になるのは、増殖した大量の生きた菌が体内に入ってしまうことです。たとえば生の魚についている腸炎ビブリオ菌では、10万~100万個くらいの菌が、生きた状態で口から入った場合に食中毒を起こします。食べ物は胃を通ります。胃の中では胃酸が出ており、pH2.5~3の強い酸性の環境です。腸炎ビブリオ菌は酸に弱いため、10個や100個など少量であれば胃で死んでしまい、腸に到達しても悪さはできません。
ところが、10万個、100万個となると、一部が生きたまま胃酸をすり抜けて腸まで到達します。腸は中性の環境ですから、そこで菌が増えて食中毒を起こします。気温が高くなると食品上で菌が増えやすくなり、その結果、生きた菌が大量に体内に入ってしまうことが夏に食中毒が増える理由ですね。


——では、少しくらいの量なら細菌を体内に入れても、食中毒にはならないのでしょうか。

生物理工学部・江口
必ずしもそうではなく、細菌の種類にも関係していて、O-157などの腸管出血性大腸菌は少し事情が異なります。O-157は酸に強いため、胃の中でも生き残って腸まで到達してしまいます。しかも、100〜500個程度と非常に少ない菌数で食中毒を起こすことがわかっています。

O-157は牛の腸内に存在する菌で、衛生的に食肉加工されていても牛の生肉には割と付着しているものなんです。たとえばバーベキューで生肉をつかんだトングで、焼き上がった肉をそのまま取ってしまうと、生肉についていたO-157が加熱済みの肉に移ることがあります。しかも少数の菌でも発症するため、こうした何気ない行動が食中毒につながることがあるのです。


アウトドアでついやりがちの行動…“移る”細菌で食中毒リスクが高まる

バーベキューでトングを使って肉を焼くイメージ

——普段は食中毒にならないように気をつけていても、アウトドアというレジャーの場だと気が緩んでしまうこともありますね。

生物理工学部・江口
バーベキューの場面でよくあるのが、トングを介して食中毒を発症してしまう例です。生肉についている細菌がトングを介して焼き上がった食べ物に移ることは、バーベキューに限らず焼き肉店でもよくあります。だから最近は、生肉をつまむトングと、食べるための箸を必ず分けるように案内する店も増えています。

日本で起こる細菌性食中毒の中で最も多いのが、カンピロバクター菌によるものです。主に生の鶏肉を汚染している菌で、比較的少ない菌でも食中毒を起こすといわれています。特に鶏肉は厚みがあるので、中心まで十分に火が通らないまま食べてしまって、食中毒につながるケースが少なくありません。

例えば、バーベキューで、生の鶏肉をつかんだトングで焼き上がった肉を取るとします。熱々の部分をつかめばトングについていた菌は熱で死ぬこともありますが、少し冷めた部分をつかんだ場合は、菌が残ったまま加熱済みの肉に移ってしまいます。結果、焼いた肉はトングについていた菌で再び汚染されて食中毒が起こるのです。


——少しの菌でも場合によっては食中毒を起こすんですね。

生物理工学部・江口
そうですね。少ない菌数でも発症する食中毒菌は、特に意識しておきたいですね。焼肉ではO-157が代表的ですが、最近はサルモネラ菌も少ない菌数で発症するケースがあるといわれています。サルモネラ菌は牛肉だけでなく、鶏肉や豚肉にも存在しているため、こちらも気をつけたいところです。


——トングや箸のほかに、まな板や包丁などの調理器具にも注意が必要ですね。

生物理工学部・江口
汚染された食品から別の食品や食器などに菌が移ることを「交差汚染」または「二次汚染」と言います。たとえば、鶏肉を切ったまな板を軽く水洗いしただけで、その後サラダ用の生野菜を切ると、そのサラダが原因で食中毒になるということも起きています。まな板が 1枚しかない場合は、生で食べるものを先に切り、生肉を切った後は生で食べるものを扱わないようにするだけでも予防になります。


——まな板の上に敷く使い捨てのシートもありますね。

生物理工学部・江口
そういうものを使うのもいいと思いますし、泡タイプの次亜塩素酸ナトリウムを持っていけば簡単に殺菌できます。ちなみに私は、トマトやキュウリなど、生で食べる野菜は家で切って、すぐに食べられる状態にして、クーラーボックスで4~10℃に保って持っていきます。食品は低温で保管するということがとても重要なんです。


——肉も切っていくほうがいいのでしょうか。

生物理工学部・江口
大きなブロック肉を現地で切るのもアウトドアの楽しみの一つだと思います。ただ、肉を切った包丁やまな板には菌がついている可能性がある、という意識は持っておいてほしいですね。交差汚染に気をつけて適切に扱えば問題ありませんが、リスクをできるだけ減らすなら、家で切っていく方が安全だと思います。

あと、生肉と生で食べる野菜を近くに置いていると、生肉から出たドリップが何かのはずみに野菜に付くことがあります。たとえば、生野菜の上に肉のトレーを持っていった時に、ドリップが1滴落ちただけでも、O-157やカンピロバクター菌だと食中毒につながる可能性があります。


おにぎりにも注意が必要!

素手でおにぎりを握るイメージ

——ほかの食材はどうでしょう。たとえばおにぎりを持っていく人は多いと思います。

生物理工学部・江口
素手でにぎると、手についている菌がおにぎりに移ることがあります。代表的なのが黄色ブドウ球菌で、30℃以上になると比較的早く増殖します。厄介なのは、毒素を作ること。夏の暑い日に長時間常温で置いていると、付着した黄色ブドウ球菌が増えて毒素を作ることがあるため、なるべく冷やした状態で持っていく方がいいですね。


——おにぎりって、アツアツの状態で握りますよね。その内部の熱も原因になるんでしょうか。

生物理工学部・江口
部屋に置いていれば、その熱は時間とともに室温と同じくらいになります。問題なのは室温の方です。室温が高い環境では菌が増えやすくなるので、夏に5~6時間も常温で置いておくのは少し心配ですね。


——ビニールの手袋やラップを使ってにぎるとどうでしょう。

生物理工学部・江口
かなり効果はあります。黄色ブドウ球菌は手に傷があると増えやすいので、そういう状態で素手でにぎるのはやめたほうがいいですね。手洗いをして、手袋を使ったりラップ越しににぎったりすると、おにぎりへの菌の付着を減らせるので、安全性は高くなります。


魚介やジビエは?食材ごとの落とし穴

バーベキューでイカやエビ、貝などを焼くイメージ

——魚介類でも食中毒になる菌は潜んでいるんですか?

生物理工学部・江口
海産物で注意したいのは、腸炎ビブリオ菌です。これは水温の高い海水中にいる細菌で、その海域でとれた魚や貝に付着していることがあります。この菌は35~37℃くらいの温度で非常に速く増えます。そのため、自分でとってきたサザエなどを暑い屋外にしばらく置いたままにして、刺身で食べるのは危険です。バーベキューで十分に加熱するのであれば、基本的には問題ないと思います。


——最近人気のジビエも気をつけた方がいいですか?

生物理工学部・江口
ジビエも動物由来なので基本的に豚肉や牛肉と考え方は同じです。中心まで十分に加熱すること、そしてトングなどを介した交差汚染を避けることが大切です。


——同じものを食べていても、食中毒を発症する人と発症しない人がいます。発症しやすいのはどんな人ですか?

生物理工学部・江口
一概には言えないのですが、子どもや高齢者、免疫不全の人、体の状態が弱っている人、免疫力が低下している人は特に気をつけた方がいいですね。食中毒菌が体内に入ったときに発症しやすくなりますし、発症したあとに重症化しやすいこともあります。そういった方が一緒にいる場合は、より気を配ることが必要ですね。


食中毒を防ぐカギ「つけない・増やさない・やっつける」

食中毒予防3原則 1.つけない 2.増やさない 3.やっつける

——起きる原因を知って、注意して行動すれば食中毒は防げるのですね。

生物理工学部・江口
食中毒の予防三原則は、「つけない・増やさない・やっつける」です。「つけない」というのは、しっかり手洗いをして、手から食品に菌を付着させないこと。そして、生肉から別の食材や調理器具に菌が移る交差汚染を防ぐことです。「増やさない」は、食品を気温の高い場所に長時間置かず、菌を増殖させないこと。「やっつける」は、十分に加熱して菌を死滅させることです。
この3つを意識するだけで、バーベキューでの食中毒のリスクを大きく減らすことができます。

また、食中毒の原因菌は、どんな食品でも同じように増えるわけではありません。菌によって、増えやすい食品に特徴があります。どんな食材に、どんな菌のリスクがあるのかを知っておくことも、食中毒予防につながります。


バーベキューで特に注意したい菌は?

O-157
牛などの腸内に存在する病原性大腸菌。胃酸に強く、100〜500個程度の少ない菌数でも発症するとされる。激しい腹痛や血便の症状が出て、子どもや高齢者では重症化することもある。

サルモネラ菌
牛肉、豚肉、鶏肉など幅広い食材に存在する菌。少ない菌数でも発症するケースがあるとされ、加熱不足や交差汚染に注意が必要。

カンピロバクター菌
日本で最も多い細菌性食中毒の原因の一つ。主に鶏肉に存在し、加熱不足や交差汚染で感染する。比較的少ない菌数でも発症する。

黄色ブドウ球菌
人の皮膚に存在する菌。高温環境で増殖すると毒素を作ることがあり、加熱しても毒素がなくならないため注意が必要。

腸炎ビブリオ菌
海水中に存在し、魚介類に付着していることがある菌。35〜37℃程度で急速に増殖するため、魚介類を高温下で長時間放置しないことが重要。


——こういった知識があると効率的に予防ができますね。

生物理工学部・江口
はい。ほかには、肉のどこに食中毒菌がいるのかを知っておくことも大切ですね。たとえば鶏肉のカンピロバクター菌は、もともとニワトリの腸内にいる菌です。それが食肉に加工される過程で、肉の表面を汚染すると考えられています。胸肉やモモ肉の塊肉であれば、菌は内部よりも表面により多く付着しています。だから、表面をしっかり焼くのが大切です。ただ、中心部まで移動している菌の存在も否定できないので、中心部まで完全に加熱して、菌を確実に死滅させることが重要になります。

「中心部まで十分に加熱する」
「焼けた肉を生肉用トングで取らない」
「食材は低温で保管する」

こうした基本を徹底したいですね。アウトドアでは不便さもあって、家庭のキッチンではやらないようなことをやってしまいがちです。だからこそ、どこに危険が潜んでいるのかを知り、一つ一つの行動を意識することが大切です。手洗いなどの基本的な衛生対策も含めて、少し注意するだけで、食中毒は十分予防できると思います。
食中毒対策を習慣にして、夏のイベントやアウトドアを楽しみましょう。


取材を終えて

今回のお話で印象的だったのは、何気ない行動の中に食中毒のリスクが潜んでいるということでした。特に、生肉をつかんだトングで焼けた肉を取り分ける行動は、親切心からついやりがち。その場で「そのトングは使わないで」とは言いづらいので、最初に「生肉用と食べる用を分けよう」とさりげなくルールを共有しておこうと思いました。「つけない・増やさない・やっつける」という基本を意識した行動が、安心してバーベキューを楽しむことにつながるのですね。


この記事を書いた人
松田 きこ
編集者兼ライターとして、知識人や文化人、経営者など3,500人以上を取材。生活文化・観光・ものづくりを軸に、独自のネットワークで情報を掘り起こします。美味しいものやお酒、旅が大好きで、出会いを大切に、心に残る瞬間を積み重ねています。


取材・執筆:松田 きこ
編集:アール・プランニング


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