2026.07.01
本田圭佑さんのサッカーW杯解説はなぜ愛される?専門家が徹底分析

- Kindai Picks編集部
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解説のたびに大きな話題となる本田圭佑さんのサッカー解説 。視聴者の気持ちを見事に代弁するような率直な言葉選びと独特のテンポは、多くの人から熱狂的な支持を集めています。普段はサッカーを見ない層までも惹きつける彼の言葉には、いったいどのような魅力が隠されているのでしょうか 。コミュニケーション理論を専門とする近畿大学総合社会学部 総合社会学科 名誉教授 石井隆之が、本田さんの言葉に秘められた「共感力」の正体をひもときます。
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近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 名誉教授
専門は理論言語学・英語教育
理論言語学、特に英語と日本語の文法を研究しています。また、英語教育やTOEIC 等に関する意見、更に、言葉の面白さや文化の奥深さなど、対照言語学的・比較文化論的な情報も提供できます。
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人気の理由は「同じ目線」にある
令和4年度近畿大学卒業式でのスピーチ
——さっそくですが、本田さんの解説が話題になり、感情をそのまま文字にしたような分かりやすい言葉が流行語のようになっていますが、先生はご覧になってどのような印象を持たれましたか?
それは
・ 関西弁による親しみやすさ
・ ストレートで分かりやすい表現
・ ユーモアが自然ににじみ出ていること
なかでも一番大きいのは、「同じ目線」で話している点です。本田さんの言葉は、上から教えるような解説ではありません。視聴者と一緒に試合を見て、一緒に驚き、一緒に悔しがっているように聞こえます。
たとえば、試合中によく出てくる「ナイス」や「うざい」、チュニジア戦で話題になった「イケイケどんどん」といった表現。これは評論家の言葉というより、テレビの前で試合を見ている人が思わず口にしそうな言葉です。 視聴者が感じていることを、そのまま代弁している感覚があります。だから共感されるのです。
本田さんの言葉は「土のコミュニケーション」
——「視聴者と同じ目線に立つ」というお話がありましたが、本田さんのあの独特な話し方を分析するとどのような特徴があるのでしょうか?
⚫︎ 火「感性型・熱血的」:正義感が強く、自分の意見を熱く述べる
⚫︎ 土「親しみ型・娯楽的」:経験をベースに話し、相手を楽しませる
⚫︎ 金「金言型・芸術的」:決め台詞を持ち、印象的な言葉で引き込む
⚫︎ 水「癒し型・宗教的」:優しく寄り添い、相手のこころを和ませる
その中で、本田さんの話し方は典型的な「土のコミュニケーション」です。
「土のコミュニケーション」とは、知識を一方的に教えるのではなく、自分の経験をもとに話し、相手を楽しませるコミュニケーションです。 本田さんは元サッカー日本代表として、選手の立場も、試合の厳しさも深く知っています。しかし、それを難しい専門用語で説明しすぎるのではなく、自分がその瞬間に感じたことを、視聴者に伝わる言葉に置き換えています。 だからこそ、サッカーに詳しい人にも、普段はあまり試合を見ない人にも届くのです。
「左足ぴょん」に、にじむ自然なユーモア
——自分の経験をもとに相手を楽しませる、ということですね。本田さんの具体的な“語録”の中で、先生が特に「面白いな」「印象的だな」と感じられた表現はありますか?
「左足ぴょん」という言葉は、専門的に説明しようと思えば別の言い方もできるはずです。しかし、あえてその感覚をそのまま言葉にすることで、場が和み、視聴者にも映像の印象が残りやすくなります。
本田さんのユーモアは、人を傷つけるものではなく、きつすぎない。そこに優しさがあります。 強い言葉を使っていても、怒りをぶつけるような話し方ではない。 その絶妙なバランスが、本田さんの言葉を親しみやすいものにしているのです。
関西弁が生む、近さとテンポ
——言葉選びのセンスだけでなく、本田さんの「関西弁」での語り口も非常に印象的です。コミュニケーションにおいてどのような効果を生んでいるのでしょうか?
大阪にはとにかく言葉を短く伝える文化があり、そのテンポのよさが本田さんの解説にも表れています。 スポーツ中継では、試合が止まりません。状況は一瞬で変わり、長く説明している間に次のプレーが始まってしまいます。 だからこそ、「なぜなら」と丁寧に説明するよりも、その場で感じたことを短く言い切るほうが、視聴者には届きやすい。 本田さんの関西弁は、単なる話し方の特徴ではなく、サッカー中継という場に合った表現方法でもあるのです。
解説者ではなく、一緒に戦っている人
サッカーの試合(イメージ)——なるほど、一瞬で状況が変わるスポーツ中継に、関西弁の短いテンポがカチッとハマっているのですね。また、本田さんの言葉からは解説者という一歩引いた立場ではなく、まるで当事者のような熱量を感じますが、選手や試合との「距離感」についてはどう思われますか?
また、本田さんが選手を「○○さん」と呼ぶことにも、注目しています。呼び捨てほど近すぎず、敬語として堅すぎるわけでもない。相手への敬意を保ちながら、親しみも感じさせる絶妙な距離感です。
本田さんの語録には、短くても印象に残る言葉が多くあります。
「これだけでやられるのがサッカーなんよ」
「伊東純也さん、どんだけ走んの。マジで」
「勘弁してや」
「厳しいなぁ」
「前田さんの動き、すごくいいです」
「完璧やったね」
「え、なに?肉離った?(にくばなった)」
「今日はとにかく勝つ、以上」
「ショルダー!ショルダーとショルダーですよ」
どれも長い説明ではありません。けれど、その場の感情や試合の流れが、短い言葉に凝縮されています。
なかでも印象的だったのが、(アディショナルタイムの)「7分いらんってゆうてんのに」という言葉です。試合を見ている日本中のサポーターも、きっと同じ気持ちだったのではないでしょうか。
これは解説というより、一緒に試合を見ている仲間の言葉です。
だからこそ、多くの人が「分かる」と感じるのです。
コミュニケーション教材としての本田解説
令和4年度近畿大学卒業式でのスピーチ ——視聴者と同じ目線でありながら、選手への敬意や仲間意識も忘れない、本当に絶妙なバランスですね。
本田さんは、令和4年度の近畿大学卒業式でも学生に向けて語りかけ、多くの共感を集めました。先生は、卒業式でのスピーチと今回のワールドカップ解説に共通する特徴はあるとお考えでしょうか。
卒業式でのスピーチと今回のワールドカップ解説の共通点は、聞き手の「魂」へのアプローチです。
自分の考えを他人に訴えるのに、3つの方法があります。相手の「頭」、「心」、そして「魂」へのアプローチの3つです。本田さんは聞き手の魂に語り掛けている感じです。「限界を決めるな!」「環境にこだわれ!」などは、私の魂にも刺さりました。
頭と心と魂へのアプローチは、それぞれ「分かる」「つかむ」「悟る」に対応します。つまり、「頭で分かる」「心でつかむ」「魂で悟る」のです。
本田さんの語り口調は、正に、魂が震え、共感度がマックスとなるのです。聞き手は、本田さんのお話に自然に集中することができます。頭で「どういうことだろう」と考えることがないからです。
——こうした本田さんの話し方は、私たちが日常のコミュニケーションを円滑にする上でも参考になりそうでしょうか?
ポイントは、「シンプルに話すこと」「相手と同じ目線に立つこと」「共感を生み出すこと」です。
大学の授業でも、先生が上から一方的に話すより、学生と同じ目線で一緒に考える姿勢のほうが、関心を持ってもらいやすい場面があります。もちろん講義では構成や専門性も大切ですが、最初の数分で興味を引き、「聞いてみたい」と思ってもらうことが重要です。
本田さんの解説は、試合の流れに合わせ、その瞬間に感じたことを、そのまま言葉にしています。そこにプロとしてのすごさがあると見ています。
——ビジネスパーソンや学生が取り入れられる要素はありますか。
多くを語らず、シンプルに主張することが、相手に最も「早く」伝わる。
その2 ストレートであれ
妙に気を遣い過ぎず、素直に言いたいことを言うと、相手に最も「強く」伝わる。
その3 メリハリをつけよ
強調するところをはっきりと言うことで、相手に最も「効果的に」伝わる。
根底にあるのは「共感力」
——ここまで様々なお話を伺ってきましたが、本田さんの持つコミュニケーションの魅力を、あえて一言で総括するならどのような言葉になりますか?
視聴者目線、関西弁、ストレートな表現、自然なユーモア。
これらはすべて、共感を生み出すための要素です。
本田さんは、試合を戦う選手の立場、観戦する視聴者の立場、 そして指導者として俯瞰する立場を自然に行き来しています。だから従来の解説とは違い、 試合が新鮮に映るのです。
ワールドカップは、普段サッカーを見ない人も視聴する特別な舞台です。その場で本田さんの言葉が多くの人に受け入れられるのは、専門知識だけではなく、視聴者に寄り添い、一緒に試合を楽しむ姿勢があるからなのでしょう。
本田圭佑さんの“語録”が記憶に残る理由の根底には、言葉のうまさだけではなく、 人と同じ目線に立つコミュニケーションの力がありました。
取材・執筆:近畿大学広報室








