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雑学・コラム

2022.03.29

「気」って結局何なの?手かざしで不調は治る?東洋医学の先生に聞くスピリチュアルと科学の違い

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
東洋医学

健康を維持するにはさまざまなケアの方法がありますが、中には「気を送って治す」というような「これって医学的にどうなの?」と疑ってしまうようなものもあります。これらは医学的な根拠があるのでしょうか? 近畿大学病院にある東洋医学研究所の先生に聞いてきました。

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こんにちは、百瀬ガンジィと申します。

皆さんは、漫画や映画などで気やオーラなど「何かしらの体内エネルギー」を放出する表現って見かけたことはありませんか?

『ドラゴンボール』のかめはめ波、『ONE PIECE』の覇気、『BLEACH』では霊圧など……少年漫画の世界なら割とよくある表現ですよね〜!



そういう表現が出てきても「まぁ、現実にはないフィクションだよな」と思いつつ、昔のバラエティ番組でも見た覚えがありませんか?人が急にバタバタ倒れるやつ!
動画サイトなんかで、気の達人? 的な人が「ハーッ!」と気を外に放って人を吹っ飛ばすみたいなものもありますよね……。

「気」って本当に手から出したりできるの!?

実は私、以前通っていた整骨院で、手をかざして「気」を送ることで不調を治すという治療を受けたことがありまして……。





最初は「詐欺なのでは?」と半信半疑で通っていましたが、そんな物理法則とかまるで無視な治療にもかかわらず、施術後は肩が回るようになったり、症状がよくなっている気がすることもありました。だんだん「本当に気を操っているのでは?」と信じるように……。

気を操る整体師に通っていた話

更にその整体師さんは、住所を聞いただけで遠隔で気を送って治療するという技も持っていたんです。しかし、しばらくしてこの整体師さんが整骨院を辞めてしまったので真相がわからないままに。

その数年後、近所で「気を操るトレーニング」をやっている道場を発見! 体験レッスンを受けてみると……



ここでは「足を揉むことで気が流れる」ということを学んだんですが(あまりに高額だったので体験レッスン1回で辞めてしまいましたが)、それって「気」なの!? 血行と何が違うの!?

というか、結局「気」ってなんなんだーーーー!?

そんな風にモヤモヤしていたら「近畿大学の東洋医学研究所の先生に、気の治療について色々聞く?」とお声がかかりました! えっ⋯⋯いいの??

ナゾの体験を引っさげ、「気」とはなにか、東洋医学研究所・所長の武田先生に教えてもらいました。


昔受けた手かざしの治療は本当に「気」で治ってた?

武田 卓(たけだ たかし)

東洋医学研究所 教授/所長

漢方・産婦人科・腫瘍・内分泌の専門医として、女性のヘルスケア全般を西洋・東洋医学の両面から研究。特に、心身症(更年期・PMS)、女性アスリートがん患者の愁訴、冷え症、子宮筋腫について研究を深めている。





ガンジィ

今日はどうぞよろしくお願いします! まずは私個人の経験なのですが、以前「手かざしで気を送って不調を治す」という治療を受けてまして……。東洋医学的な面から見ると「気」ってどういうようなものなのでしょうか?





武田先生

ふふっ(笑)





ガンジィ

鼻で笑われた!





武田先生

説明するのは難しいのですが……少なくとも我々は手をかざすだけの治療はしておりません。





ガンジィ

ええ~~~!!? いきなり否定された(笑)






武田先生

医師免許をもっている方でも、そういった治療を行う方がいらっしゃるのも事実なのですが……私としてはそういうことするのは正直、まことに遺憾なんですよ。というのも、我々がやっている東洋医学というのは科学的な根拠も加えて行っているからなんです。





ガンジィ

え、科学的根拠があるんだ……!





武田先生

東洋医学は、6世紀ぐらいに中国から朝鮮半島経由で伝わった日本独自の伝統医学で、当時の医学として発達していったものなんです。「気」「血」「水」という言葉を聞いたことがありませんか? 東洋医学の考え方として、体を構成する要素を三つのカテゴリに分類したものです。





ガンジィ

なんか聞いたことはあります!






武田先生

漢方系の特集などでもよく出てくるワードですね。当時は血液検査も画像診断もなかったので……体の中でどうやって病気が起こるかにこじつけて作られたものなんです。でも屁理屈は屁理屈で馬鹿にならなくて、2000年以上の歴史があると言われているんです。





ガンジィ

え、屁理屈??





武田先生

例えば気がたりない状態のことを「気虚」といいます。現代的に言ってしまえば元気がないということですね。他にも気持ちが落ちてしまった「気鬱」や、気が逆転してしまった「気逆」といった症状もあります。昔の人は便宜的に体の中を気が巡っていて、その巡りが悪くなると色んな不調が起こると考えたんです。そうですね、更年期障害って知っていますか?





ガンジィ

えっと……歳をとると出てくる不調みたいなもの、ですよね?





武田先生

はい。正確には女性の場合は、閉経の前後で卵巣からホルモンが出なくなることによって起こる自律神経の失調症状ですね。でも、昔の人はホルモンを知らないわけです。なので、普段なんともないのに急に顔がほてってくるような症状があると、「それは気逆の症状だね」などと診断したりしていたんですね。つまり「気」というのは診断方法の一つの概念なんです。






ガンジィ

思ってた「気」と違う……!
じゃあ、気功師が「気」を使って人を吹っ飛ばすみたいな映像も見たことあるんですが、そういうのは……。





武田先生

気で人を飛ばす? へー、そんなのがあるんですか? 私は知りませんけど(苦笑)





ガンジィ

(めっちゃ苦笑いされた……)。「気を操るトレーニング」にも行ってみたんですが、足を揉みながら独自の呼吸法で気を巡らせて……というような内容で。「気」は感じなかったけど、体はすっきりした気もしたんですよね。





武田先生

それは足をマッサージして、深呼吸することによって血行がよくなったとかの、リラックス効果ではないでしょうかね。脳波でも調べないことにはなんとも言えませんが。





ガンジィ

そりゃ血行よくなったら体はすっきりしますよね……!





武田先生

うーん、そもそも「健康法」と「医学」は違うんですよ。




医学と民間療法がごっちゃになってる!? 東洋医学=「怪しい」ではない





武田先生

別に、気をかざしたい方はそういうことをしたらいいと思うんですが、手をかざすというような医学的根拠のない「気」と、我々が漢方のお薬を処方して気を増やすというのを、同じレベルで話されるのが一番困るんですよね。





ガンジィ

うっ、申し訳ございません!





武田先生

そのせいで東洋医学のメインである漢方までも、怪しいものだと思われてしまうのは遺憾です。漢方薬はちゃんとした「薬」。あ、ネガティブなものではなくて、動物実験などもしていますし、効果に関しては科学的にも証明されているんですよ。





ガンジィ

動物実験もしているんですか!





武田先生

はい、もちろんです。ただ漢方の治療を取り扱うところで、昔からそういう「手をかざす」といったことを信じて行っている先生もいるのは事実なんです。ですが、私個人としてはそれは納得できないですね。





ガンジィ

ちなみに、「気配」とか「殺気」なんていう言葉もありますが、あれも見えない何かを察知してるってことになります?





武田先生

でも気配がしても、誰もいないこともありますよね? 何か生き物がいれば、かすかな音や風の動きがあるので、それを感じているんじゃないでしょうか? 体から発せられている微弱な電気信号が影響しているという話も聞いたことがありますが、原始的な感覚としては、ひょっとしたらあるのかもしれません。





ガンジィ

漢方の「気」とか、気功的な意味合いの「気」とか……なんで色々な「気」がごっちゃになってしまうんでしょうか?





武田先生

「気」というものを都合よく捉えてしまっている例が多いということ、そしてそれをビジネスのネタとしてお金儲けしようと思う悪い人がいるからではないですかね。変なものを売り付けるのと同じだと私は思います。





ガンジィ

ということは、東洋医学は正当に効果があるのに、色々風評被害を食らっているってことですか?





武田先生

はい、本当にそうですよ! 東洋医学に怪しいイメージを持っている方もまだまだ多いですよね。医学的根拠のない民間療法とごっちゃになっている人が多いのだと思います。






ガンジィ

(ギクッ!)





武田先生

そういった治療をやりたい人はやっていいと思います。信じてお金を払うのは自由なので。有効成分が入っていない偽薬なのに病気の症状が改善してしまう「プラセボ効果」などもありますし、人間の体は意外といい加減なものです。もし、そういった治療法で本当に治るんだったら、そんな副作用のない安全な方法はないですし。






ガンジィ

私の体験もプラセボ効果だったんだろうか……。





武田先生

プラセボ効果で体調がよくなった人は「手かざしは効く!」と思うのは当然でしょうし、「手かざしはインチキだ」と思う人とはずっと平行線になってしまいますよね。





マクロで見るかミクロで見るか、東洋医学と西洋医学の違い


ガンジィ

なんでちょっと怪しい療法にハマる人が出てきちゃうんでしょう。病院というか西洋医学の治療が嫌、とかなのでしょうか?





武田先生

そうですね。私たちの身近にも漢方に大きな信頼を寄せる方もいらっしゃいます。だけど、なんでもかんでも漢方で治すことはできないんです。世の中には「漢方でがんが治る」とうたうお店もあるようですが、医学的根拠がないものは駄目ですね。詐欺になるので。





ガンジィ

がんは、色んな治療法みたいなものをよく見かけますね……。





武田先生

ちなみに私は、近大では産婦人科医と兼任で、がん治療の認定医などの資格も持っています。そのため、東洋医学研究所では、がん患者の方には症状によって抗がん剤使用や手術といった西洋医学のアプローチをお勧めしています。






ガンジィ

つまり先生は東洋医学と西洋医学のエキスパートってことですね!
そもそも東洋医学と西洋医学のそれぞれの特徴ってどういうところなんでしょう?





武田先生

一言で言うには難しいのですが、ミクロで見るのが西洋医学、マクロで見るのが東洋医学と言えるかもしれません。西洋医学は、内科、外科、産婦人科など色々な診療科がありますよね。西洋医学は病気の原因を細かく分析して、病名を定義し、治療していくんです。特に手術などの外科治療は、西洋医学の特徴ですね。





ガンジィ

ふむふむ。





武田先生

東洋医学は、細かく検査をするわけではなく、全体を見て、「気」「血」「水」のどのカテゴリに不調があるのかをパターン分類します。病名がわからなくても、その中でその人のパターンに当てはまりそうな薬なり治療なりを選ぶといった感じですね。






武田先生

西洋医学は細かい分析を行うと言いましたが、それで全ての病気がわかるかといえば、正直そういうわけではないんですね。西洋医学では埋められないところを、幅広く治療する東洋医学で補うのが理想的なイメージです。





ガンジィ

それぞれで長所短所の方向が異なるんですね。
東洋医学ってなんかもっと神秘的なイメージでした。





武田先生

私の意見ですが、過剰に東洋医学に心酔する方がいる背景には、東洋医学だけを学んでいる人が、バイアスをかけて東洋医学を神格化させているきらいがあるかもしれません。でもそれはおかしい。西洋医学と同じところ、有効性などを見るべきなんです。





ガンジィ

ちなみに、手かざしに科学的根拠がないということはわかったんですが、鍼灸などはどうなんでしょう?





武田先生

そうですね。近畿大学の東洋医学研究所は、漢方を専門にしているところだといううえでの見解にはなるんですが、鍼灸には一定の効果があると言われています。





ガンジィ

足の裏に全身のツボがあるとか、胃もたれや生理痛に効くツボがあるとかも、不思議ですよね〜。





武田先生

いわゆる「経穴(けいらく)」と呼ばれるものですね。長い歴史の中で、効果があるというところまではわかっているのですが、もともと東洋医学はマクロで物事を捉える考え方のため、まだ詳細にメカニズムがわかっていない分野でもあります。





ガンジィ

そうなんですか!





武田先生

ただ、ここ数年で鍼灸や経絡に対しては科学的なアプローチがどんどん入ってきています。中国は国全体の経済発展もあって、伝統医学の科学検証がものすごく進んでいるんです。細かく分析されることによって、東洋医学と西洋医学はより、お互いを補完しあいながら多くの不調や病気を改善していくことに繋がると思います。





ガンジィ

なるほど〜大変勉強になりました!





武田先生

医学的根拠や、東洋医学・西洋医学の特徴をしっかり知って、病状に合わせた正しいケアが大切です。手かざしで「気」がよくなるということはありませんが、根拠のないものに振り回されないよう「気」をしっかり持ってほしいですね!





正しい「気」を理解して、心身の改善を!

東洋医学研究所では手をかざして治すような「気」の治療はしておらず、そういう治療は推奨していない……むしろ世間のさまざまな「気」のイメージ像が悪影響になり、風評被害も受けているとのこと!

ごっちゃに認識していて、ご、ごめんなさい。

では、西洋医学が万能かといえばそうでもなく、東洋医学の漢方の効果はきちんと科学的な実証がされていますし、西洋医学も不得手がある模様。どっちかが完全に正解というわけじゃないのが、なかなか難しいですね……。

生きているといずれ体が弱ったり病気になったりすることもあるハズ!
そんな時、東洋医学と西洋医学の2つの視点があるということを知っておいたらちょっとだけ視野が広がるかもしれませんね。

でも、科学的根拠がない療法には「気をつけ」ながら、「元気」に過ごしてまいりましょうね〜。


この記事を書いた人

百瀬 ガンジィ(ももせ・がんじぃ)

イラストレーター兼デザイナー。レポ漫画などを制作している。趣味で3DプリントやARなどを使った工作なども手掛ける。


編集:人間編集部

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