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雑学・コラム

2022.03.11

理想の「結婚」って何? 夫婦別姓はなぜ認められない?婚姻制度のナゾと歴史を探る

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
学生ライター
結婚

「選択的夫婦別姓制度」や「同性婚」など、「結婚制度の多様化」を希望する声が高まる昨今ですが、なぜ、世界で日本だけが「夫婦同姓」が義務付けられ、「同性婚」の議論も進まないのでしょうか。 結婚とは? 幸せとは? 家族の絆とは? 結婚観の違う4人の現役大学生が座談会を実施。等身大の目線で意見交換をしました。

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はじめまして。近畿大学 国際学部グローバル専攻 3年生の板谷 亜緒(いたや あお)です。

2021年、ニュースなどでよく目にした「選択的夫婦別姓制度」や「同性婚」といったキーワード。これらについて大学の友人と話していると、「結婚の理想像」の話題になって大盛り上がりになりましたが、ふと「私が思う理想像って、もしかして“幸せ”じゃないのかな?」と感じることがありました。



世間的に幸せとされる理想像のひとつに、国民的アニメに出てくるような「家族で食卓を囲んでいる図」のイメージがあるように思います。

一方で、私の理想像は、毎日一緒に食卓を囲むようなイメージではなく、各々が仕事や趣味を優先していること。

理想の結婚って何だろう? 幸せとは? 家族とは? 多様性が当たり前になりつつある今、私を含む4人の近大生と「結婚」に関する座談会を行い、そこで出た意見や疑問に思ったことを専門家の先生に聞いてみることに。

まず、座談会を開くにあたり、大学生のみなさんにアンケートを取ってみたところ、このような結果になりました。

大学生の結婚観に関するアンケート

回答者:近大生142人(男性60人/女性79人/回答しない3人)

結婚に対するイメージは?



結婚はしたいですか?



絶対結婚したい
・子どもがほしいから
・親を見てて幸せそうだから

できれば結婚したい
・老後孤独に過ごしたくないから
・一人で生きていくより、支え合ったり相談できる相手がいると心強い
・両親から人間が何十年も寄り添うことの難しさを学んだため

結婚したくない
・他人の人生の責任を負えないから
・自由を奪われたくないから

どちらでもいい
・​​結婚がゴールだとも思わないから、そのときが来れば決めたい
・事実婚のような形の方がストレスがないと考えている

わからない
・今の結婚は男女でしかできないから
・まだまだ先のことだから



結婚に対するプレッシャーを感じたことがありますか?



結婚と聞いて、どのような言葉を思い浮かべますか?

・運命
・幸せ
・安定
・契約
・覚悟
・人生の分岐点
・人生最大のイベント
・価値観の共有
・社会の保証
・財産
・出産
・永久就職
・不自由(我慢)
・苦痛
・ハードルが高い
・離婚とセット


結婚に対するイメージについて、ポジティブな回答をした人は、男性が88.3%、女性が74.6%でした。そして、結婚したいと思っている人の割合は、男性が80%、女性が65.8%と、男性の方が結婚願望が強い結果となりました。

これら2つの質問を理由と併せて見てみると、「両親が幸せそうだから、自分も結婚したい」という人もいれば、「親を見てると、結婚したくないなと思った」という人も。結婚観は、自分の家族から受ける影響がなかなか大きそうです。


結婚観や理想の家族像は、生育環境と関係アリ?

いろいろな意見が集まったところで、これらの声を参考にしながら、いざ座談会スタート。集まってもらったのは、結婚観がそれぞれ異なる大学生のみなさんです。



板谷 亜緒(いたや あお)
国際学部 3年生。結婚願望はあるが、どんなタイミングでしてもいいし、しなくてもよいという考え方。理想の結婚や家族像は、お互いが自立し、生活にあまり干渉しないかたち。

福滿 仁(ふくみつ じん)
農学部 4年生。パートナーがおり、結婚も考えている。来年からの就職先や住まいについても、パートナーとの時間を大切に過ごせるかたちを選びたい。

岡 泰聖(おか たいせい)
総合社会学部 3年生。結婚はできればしたいが、正直実感が持てない。現在の結婚に関する制度についてもあまり知らなかったため、今回の座談会を機に情報収集をはじめた。

木藤 千秋(きどう ちあき)
総合社会学部 3年生。親の働き方の影響もあり、ついこの間まで「結婚せずキャリアを優先したい」という考え方だったが、自身のパートナーと話す中で変化が生まれてきている。



板谷亜緒

今日は集まってくれてありがとうございます!早速なんですが、まずはみなさんの「結婚はしたい? したくない?」を聞いてみたいです。





福滿仁

自分は「今すぐにでもしたい!」という気持ちですね(笑)今、付き合っている人がいるんですけど、彼女が結婚したくなったらいつでもできるような状態を作っておけたらベストかなと思ってます。





岡泰聖

僕は「実感がなくてわからない」ってのが正直なところですね。パートナーもいないんで。まあでも、できるんならしたいですね〜。





板谷亜緒

私も最近「できるなら結婚したい」って思ってます。前までは「どっちでもいい」って思ってたんですけど、結婚という制度も一旦は体験して、環境にどんな変化があるのか知りたいです。





福滿仁

「一旦」 ……ってことは最初から離婚も視野に入れてるってこと?





板谷亜緒

そうですね、お互いのことを思ってする離婚なら、かまわないと思ってます。それも“幸せ”に向かうための、ひとつの選択肢かな、と。





福滿仁

すごいなあ。僕にとって離婚って、結構ネガティブなイメージが大きいので。リスクとかメンタルが大変そうだな、って。そうやって前向きに捉えてるのがすごいです。





木藤千秋

私も離婚OK派というか、むしろ、ちょっと前までは「絶対結婚したくない!」って思っていたんですけど、最近、考えが変わりつつあって。





板谷亜緒

どんな風に変わってきたんですか?





木藤千秋

私、もともとは「バリキャリ女子」を目指してたんですよ。結婚を選ばず、仕事に生きる人生がいいなって思ってて。



※​​バリキャリ女子:「バリバリと働くキャリアウーマン」の略。猛烈に働く女性を指し、恋愛や結婚よりも仕事やキャリアを重視しているような女性のあり方を意味する。




木藤千秋

でも、今のパートナーと結婚の話をする中で、仕事や出産をしても、結婚する相手に理解があれば、女性が出世を諦める必要はないのかもと思うようになって。





板谷亜緒

女性のキャリアアップのタイミングは、結婚や出産のタイミングと被りやすいって言いますもんね。男性陣はどう思います?





福滿仁

確かに。僕も昔は、自分がめっちゃ頑張って稼いで妻には家庭に入ってもらって……という「ザ・昭和」な考えだったんですけど、彼女と過ごす中で、自分が大切にしたいのはキャリアより相手との時間だなって思って。なので、給料は少なくてもいいので、二人の時間が作りやすい仕事を探してもいいんちゃうかなって思いながら、就活してます。





岡泰聖

結婚は、自分の収入が安定するまでは遠い話だなーっていうイメージがありますね。僕の理想像って『クレヨンしんちゃん』のお父さん「野原ひろし」なんですよ。家族のために会社員として働いて、家に帰ってきたら、妻と子ども達がいて、一緒にご飯食べて。そんな、何でもない幸せがある家庭を築くのが夢やなって、小さい頃から思ってるんです。






福滿仁

わかるかも……!





岡泰聖

自分が一人っ子やったから、そういう家族に憧れがあるんでしょうね。「クレヨンしんちゃん」はギャグアニメだけど、面白いとかじゃなくて「あ〜いいな〜」って思いながらテレビ見てたもん。





木藤千秋

岡君の「一人っ子やったから」っていう話を聞いて、私がバリキャリに憧れてたのも、子ども時代の環境が大きく影響してるかもって思いました。





板谷亜緒

どんな影響ですか?





木藤千秋

私の父が、毎晩夜中まで仕事するぐらいの働き者で。母もパートで働いてたんですが、どちらかを「一家の大黒柱」的な位置づけにしてしまうと、プレッシャーに感じたり、肩身が狭くなってしまったりするのかな……と。そこから「夫婦対等でいたい、バリキャリになってやる!」という考えに至ってますね。






板谷亜緒

私のところも共働きで、祖母がずっと面倒を見てくれてて。だからなのか「家族とはこういうもの」という理想がそんなにないのかも。家の中でも割と、個人プレーが許される状態が理想的というか。





福滿仁

なるほどなあ。そう考えると、自分の父と母は普通に仲がいいですね。僕からすると、対等なイメージがあります。




4人それぞれ、理想像はさまざまですが、親の働き方や夫婦の関係性が自分の考えに影響している点は共通。また、「親がこうだったから、違うかたちに憧れる」という部分と、「親がこうだったから、同じかたちがしっくりくる」という部分がありました。


「選択的夫婦別姓制度」活用したい? レア名字に関する意見も




ここからは、結婚すると夫か妻、どちらかの名字が変わることについて、話し合ってみました。


板谷亜緒

今の日本では結婚後、95%以上の女性が男性の名字になるそうです。そしてアンケートでは、3割弱の人が「別姓を選びたい」という結果でしたが、みなさんは、もし結婚したら同姓を選びたいですか? 別姓を選びたいですか?



同姓と別姓どちらを選びたいですか?



同姓を選びたい
・結婚して相手の苗字をもらうのが夢だから
・家族になった感じがあるから
・自分は外国人で、日本人になりたいから名字を変えたい
・自分の名字が好きではなく、変えたいから
・同姓で困ることが自分にはないし、旧姓でも仕事ができるから

別姓を選びたい
・結婚することは、一方が他方に所属するのではなく、個人と個人の繋がりだと思うから
・自分のアイデンティティは名字と共にあるから
・20年近く使っているものが急に変わることに違和感がある




木藤千秋

自分の名字にあんまり執着はないので、自分の場合は、同姓でも別姓でもどっちでもいい。





福滿仁

僕もどっちでもいいです。





岡泰聖

もし相手に「私の名字に入って」って言われても?





福滿仁

全然OK。ただ、木藤さんと少し違うのが、自分の名字に対する思い入れはあって。僕のこの「福滿」っていう名字、あんまりいないらしいんですよ。日本で数十人〜100人くらいかもっていう説もあって。






岡泰聖

めっちゃレア! いいな〜!





福滿仁

簡単な字の方の「福満」だったら結構いるんですけどね。だから、そういう理由で、残しといた方がいいんちゃうかな〜と考えたことはあります。それに僕の名字、結婚する上でめっちゃ縁起よさそうじゃないですか?(笑)





岡泰聖

確かに! 「福」が「滿」ちてる!!(笑)






福滿仁

岡さんはどうですか? 相手に「私の名字に入って」って言われたら。





岡泰聖

うーん、難しいな。自分の名字を「失う」っていう感覚になって、簡単には受け入れられないかも。どっかで「女性の名字が変わるのが当たり前」って思っちゃってるんでしょうね。でも、そうか……女性側はずっと、この悩みを抱え続けてるってことか。自分の名字を失うってどんな感じですか?





木藤千秋

私、基本的に「男女平等」の考えが強い方なんですけど、不思議と、名字を失うことにはあまり抵抗がなかったです。私も、潜在的に「そういうもんだ」って思ってるんだなって、今気づきました。





板谷亜緒

私は、自分の名字は「失う」というよりは「変わる」っていうニュアンスで捉えてるかな。





木藤千秋

どっちも変えちゃう、新しい名字を二人で作るというのも、選択肢のひとつになったらいいのかも?





板谷亜緒

面白いですね! 別姓が認められた場合の「生まれた子どもの名字はどちらにするのか」「親と名字が違うことへの心理的負担はないか」というアンケートの声もありましたけど、そのあたりも含めて「平等」を尊重するなら、それがベストアンサーかも??



「選択式夫婦別姓制度」についてどう思いますか?



賛成
・不平等を感じるから
・面倒な手続きが多く、周りが混乱するから
・夫婦の価値観も人それぞれ、多様性の時代だから

反対
・名字の違う親子が実の親子とは認識されにくいのではないか?
・「子どもがどちらの姓を名乗るのか」を起因とした争いや離婚に繋がる可能性があると思う
・苗字変更に伴う申請が大変という話をよく聞くが、
 手続きの煩雑さをアップデートしたらいいのになと感じる

その他
・そもそもその制度の内容がわからない
・なぜこれに反対している人たちがいるのかが、よくわからない



制度があるからできること、困ること。これからの婚姻制度に求める変化は?





岡泰聖

僕ね、今日の座談会に向けて「選択的夫婦別姓制度」のこと調べてて。反対派の意見もいくつか読んで、反対する人達って、どういう背景がある人達なんやろうって思って。で、「家族の一体感が失われる」っていう意見が話題になったじゃないですか。あれ、ちょっとわかってなくて。





板谷亜緒

確かに、もしも「どんなことに家族の一体感を感じますか」というアンケートを取ったとして、「名字が同じであること」と回答する人って、どれくらいいるんだろう……?





福滿仁

「日本の伝統が損なわれる」っていう意見も見たことがあります。夫婦同姓を法律で定めてる国って、世界でも日本だけなんですよね。



※法務省「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」より


木藤千秋

逆に、韓国とかフランスとかは、別姓が原則ですよね。そもそも「フランス人は結婚せずに事実婚が多い」っていうのも有名な話で。結婚しなくても社会的に家族と認められるし、法的に困ることもない。もし私がフランス人やったら、結婚してないだろうなあ。





板谷亜緒

「同性婚」や「パートナーシップ制度」についてはどう思いますか?





岡泰聖

「パートナーシップ制度」って、同性カップルが使う制度っていう認識なんですけど、合ってますか?





板谷亜緒

「婚姻に定義されたものよりも、この制度の定義の方がしっくりくる」などの理由で選ぶ異性カップルもいるみたいですよ。



婚姻結婚すること。夫婦となること。男女の継続的な性的結合と経済的協力を伴う同棲関係で、社会的に承認されたもの。
パートナーシップ制度
(自治体によって異なる。右は鎌倉市の「鎌倉市パートナーシップ宣誓制度」の場合)
互いを人生のパートナーとして、日常生活において経済的、精神的に相互に支え合い、協力し合うことを約束した関係にあることを公に証明するもの。

"同性婚"は本当に必要? LGBTQの「人権」と「結婚制度」の問題を当事者×研究者で徹底討論


岡泰聖

それって、事実婚状態とはどんな違いが生まれるんだろう。





木藤千秋

事実婚だと、例えば片方が死んでしまったとき、遺言がないと相続人として認められない、保険金や遺産が分与されない……とかありますよね。





板谷亜緒

病院で、結婚していれば「家族」として、付き添いや面会、病状の説明を受けられるけど、事実婚だと難しい、とかね。そういう問題に対して、「パートナーシップ制度」が効力を発揮できるように進めている自治体もありますね。あとは、入居できる家の選択肢や、加入できる保険の選択肢が増えたりとか。





福滿仁

なるほどな……。





岡泰聖

いや〜……僕ね、やっぱりまだしっくりこないところがあるんですよ。






板谷亜緒

……というと?





岡泰聖

今って「こういう人のために、こういう制度を増やしましょう」っていう動きがあるじゃないですか。でも例えば、「結婚」と比べて「パートナーシップ制度」ができることってまだまだ少ない。「この制度はこれができるけど、あの制度はできない」「制度Aと制度Bを使えば、制度Cと同じことができる」とかってなると、今の僕みたいに、知識が追いつかない人達は必ず出てくるな、と。





板谷亜緒

新しい制度を作るのにも認知されるのにも、長い時間がかかりますもんね。





岡泰聖

だからやっぱり、今ある「結婚」っていう制度の中身を変えていかなあかんな、って思う。誰もが結婚を選べたり、結婚の自由度を高めたり。新しい制度なんていらなくなるぐらい、そこが改善されればいいなと思う。





福滿仁

キザな話になっちゃうんですけど、そもそも「結婚」って、愛し合う二人が幸せに過ごすためにするもの、ってのがベースですもんね。





木藤千秋

私は、結婚の多様性が学べる時間を、教育現場でもっと増やすのもひとつの手かなって思います。「結婚が全てじゃない」とか、「誰を好きになってもいい」とか。そういう「選択の多様性を伝える教育」が、早い段階から行われるといいな。






昔は新しい名字を作ってOKだった! 日本の婚姻制度の歴史的背景

最後に、近畿大学 人権問題研究所の李 嘉永(り かよん)先生に、「日本では結婚後、男性の名字にする夫婦が多いのはなぜ?」「どうして別姓は認められないの?」などの疑問についてコメントをいただきました。



李 嘉永(り かよん)准教授
人権問題研究所
専門:国際人権法
人権差別撤廃条約、ならびにEUにおける人種差別撤廃指令および雇用差別撤廃指令の実施状況に関する問題、世系に基づく差別に関する国際連合人権理事会の特別手続に関する問題について研究しています。



板谷亜緒

先生、どうして日本では、結婚すると男性の名字にするケースが多いのでしょうか?





李先生

それは、日本の伝統的な考え方が強く影響していると言えますね。日本では「男性と女性が結婚をし、男性が家を継ぐ」という、男性の世継ぎを残していこうとする風潮があります。これはもともと、主に武士の家の風潮で、農業を営む家にも同じことが言えました。今の日本の経済活動とは大きなズレがありますが、こうした歴史の中での相続の在り方も、大きな影響を持っていると思います。





板谷亜緒

では、 日本で「夫婦別姓」が認められないのはなぜですか?





李先生

その伝統文化を大切にしたいという思想や、社会に対して従来の夫婦同姓を求めるイメージが強く作用していると思います。「結婚というものは、家を継承していく仕組み」というイデオロギーが強く作用し続ける限りは、変わらないと思います。

でも、そもそも今の制度が日本の伝統文化かと言われると、非常に怪しいところなんです。例えば、歴史の授業でよく出てくる氏族に「藤原氏」っていますよね。鎌倉時代になると「藤原氏」の人々は、多様な家名を名乗るようになって、名字がどんどん増えていく。新たに名字を作るというのが、かつてはできていたわけです。






板谷亜緒

えっ、そうなんですか!





李先生

今の婚姻制度は、明治時代のものが引き継がれているんですが、日本の長い長い歴史の中で、150年くらいしか歴史のないものを当てはめているわけです。なので、今の制度を変えない理由として「伝統だから」と言われると、「え、そうなの?」と思ったりはしますね。





板谷亜緒

先生、もうひとつ質問です。「特に女性は結婚や出産をすると、仕事でのキャリアアップや収入を諦めなければならない」というイメージを持つ人がいるそうです。結婚は女性のキャリア形成にとって、不利なものでしょうか?





李先生

日本や韓国は、やはり一旦子育てのために退職する人が一定数いますね。理由としては「働き方の問題」と、「家庭環境の問題」があります。「働き方の問題」については、企業側でなかなか、女性の雇用の継続に本腰を入れられていない場合です。「家庭環境の問題」は、女性側がやむなく家庭に入らざるをえない事情がある場合です。夫側が「家庭に入ってほしい」という意向を持っていたり、夫婦以外に子育てを手伝ってくれるご親族が近くにおらず、保育園にもなかなか預けることができない……などの事情です。





板谷亜緒

日本はまだまだ、子育てをしながら女性が働き続けられる環境が整ってないんですね。





李先生

一方で、矛盾した話に聞こえるかもしれないんですが、安定して収入を得ている女性は、かつてよりは増えてきています。男性との差はどうしても出てきてしまうのですが、正社員の女性であれば、男性との給与の差は4分の3くらいに縮まっていて。「経済的な依存をしなくても生きていける」ということで、結婚を選択しない理由にも繋がっていると思いますね。また、平成の不況以降、若者の非正規雇用率がかなり増えました。男性側としては「家族を養っていくほどの経済的余裕がない」という理由で結婚を躊躇する人達もいるのかな、と思います。




出典:内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 令和3年度版』I-2-5図。「女性が子どもを出産し子育てするために、職場から一旦離れている」という状況がわかる。凹みが大きければ大きいほど、家事育児に専念する女性が増えている。



板谷亜緒

「結婚」を選ぶかどうかって、どうしてもカップルの間での、個人的な判断のように捉えられがちですが、でもその判断にも、いろんな社会からの影響があるんですね。





李先生

そうなんです。なので、押しなべて「こう」と言いにくい事柄ではあると思います。もちろん、今の時代、結婚しなくても幸福に生きていけますし、人生を送る中で大切にしたいものは人それぞれですから、カップルの間で、結婚についてどう思うか、どの角度で、どの要素を元に話すかで、結婚生活についてのイメージがより具体的になっていくと思いますね。そのあたりを考えながら話し合っていただければ、いろんなことが見えてくるかと思います。「性格の不一致」による離婚も減っていくかもしれませんよ。





板谷亜緒

李先生、いろいろと勉強になりました。ありがとうございました!






答えがないからこそ見えること。理想像が選択肢になる日まで




「私が思う結婚の理想像って、本当に“幸せ”なのかな?」という疑問からはじまったこの記事。李先生も話されている通り、決まった答えのない話題だからこそ、その人が大切にしたいことがよく見えるテーマでした。

座談会を通して、改めて「幸せだと思う結婚の形はそれぞれにあっていいし、結婚観はどんな風に変化していってもいい」と感じました。そして、「自分なりの幸せとは何か」という問いを再考したり、これからの婚姻制度の理想的な在り方を考えることができました。事例を知れば知るほど、いつか自分にパートナーができ、結婚について話し合うときに、相手のことを思いやりながら選択していけるんだろうな、と思います。

今後、社会において結婚に対する位置付けが変わることを期待しますか?



「社会において結婚に対する位置付けが変わることを期待しますか?」というアンケートでは、変わってほしいという回答が46.5%、変わらなくていいという回答が7.7%でした。

変わってほしいと答えた理由としては、「未婚か既婚かが社会的地位に影響することもあるのはおかしい」「結婚していないと一人前ではないという固定観念が変わってほしい」「就活において、“女性はいつか結婚して仕事を辞める”という考えが強く根付いているように思える」という意見がありました。

そして、「わからない」という回答が45.8%、ほぼ半分を占めたことも興味深い結果です。日本の婚姻制度には課題もたくさんありますが、この記事が「みんな、こんな風に考えているんだな。じゃあ自分はどうかな」と今の大学生世代が考えるきっかけになってほしいです。また、「今じゃ選べて当たり前のことが、2021年では“理想像”だったんだな」と、未来の大学生にも残すことができたら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

※記事公開後に表現の間違いとミスリードを誘発する内容についてご指摘がありましたので、当該箇所を修正いたしました。
①世界で日本だけが「選択的夫婦別姓」が認められず
→世界で日本だけが「夫婦同姓」しか選べず

②実は座談会の中で「新しい名字を二人で作るのはどうか」という意見が出て、斬新だなと思ったんですが、かつて存在した文化だったんですね。
→「夫婦で新しい名字を作るのがかつて存在した」という意味で誤認する表現になっていたため、削除いたしました。

(2022.3.18 19:15追記)


この記事を書いた人



板谷 亜緒(いたや あお)

近畿大学 国際学部 グローバル専攻の3年生。
趣味はサッカー。ファッション産業の社会問題について取り組む学生団体「L.W.W」にて活動中。サステナブルファッションなど、環境や社会に優しい生活にも注目しています。


編集:人間編集部

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