2017.09.27
「長くて退屈」だった校長先生の話、大人になってから聞くと面白いのか
- KindaiPicks編集部
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みなさん。小学校の時、朝礼で校長先生が喋ってた話って覚えてますか? 私は全然覚えてません……!
とにかく「長くて退屈だった」ということは覚えています。もしかして、校長先生って毎朝しょうもないこと喋ってるの……?
というわけで真相を確かめるため、近畿大学附属小学校で「校長先生の朝礼」を聞いてきました。
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みなさん。小学校の時、朝礼で校長先生が喋ってた話って覚えてますか?
そういえば、全然覚えてなくないですか……?
とにかく「長いな〜」「退屈だな〜」と思っていたということだけは覚えてるのですが、どうしてでしょう。
あんなに何度も聞いたはずの校長先生からのお話、覚えてる話がひとつもないということに、最近気付いてしまいました!
校長先生って、毎週の朝礼でいったい何を話していたんだろう。
もしかしてめちゃめちゃしょうもない話をしてたんじゃないの……?
いやいやでも、学校の長が人前でしょうもない話をしていいのか?
でもでも実際、何話してたか全く覚えてないし……。
気になる……。
というわけで!
小学校の朝礼に! 潜りこんでみました〜〜!!
15年ぶり! 小学校の始業式に潜入!
潜り込んだのは、近畿大学附属小学校。
校庭がオール芝生! 校舎がピッカピカ! な、奈良県にある私立の学校です。
お邪魔したこの日は二学期の始業式。
ぎえ〜〜〜!!背の順に並んで校歌歌っとる〜〜〜!!
座っとるだけでかわええ〜〜〜!!!!
いやはや、15年前には私もあの場にいたと思うと感慨深いですね。
何より、離れてみてわかる、この子ども達の……
尊さ……。
全員で一斉にお辞儀する小学生、めちゃめちゃかわいいな……。
というわけで、いよいよ「校長先生からのお話」のお時間です。
校長先生のお話って、本当にしょうもない話をしているのでしょうか? 生徒もめちゃめちゃ無感動だったりするのでしょうか?
ここで、暴いてやりたいと思います……!
2017年度最新版! 校長先生のお話
その日のお話は、始業式のひと月前に105歳で亡くなられた医師「日野原重明さん」の生涯についてのお話でした。
日野原先生は50代の時、とある事件で危うく命を落としかけたことがきっかけで、「これからは自分の命を人のために使おう」と決心されます。
それから、1日の働く時間が18時間・睡眠時間は5時間という生活を100歳を過ぎても続けられた日野原先生。80歳を超えたころ、自らが院長を務める「聖路加国際病院」の改築を行いました。
東京大空襲で病院に入りきれずに亡くなっていったたくさんの方々のことをずっと忘れられずにいた日野原先生は、「何かの災害が起きた時にはきっと救うことができるように」と、聖路加国際病院をどこもかしこもだだっ広く改築したのです。
その3年後、「地下鉄サリン事件」という大事件が起きたとき、聖路加国際病院は見事に大勢の人を救うことになります。700人もの人を受け入れて治療したということで、一躍 日野原先生は時の人に。
人のために時間も、そして自分の気持ちも使っていくと、やはりそういう出来事に遭遇することがある。
二学期、私たち一人一人も、誰かの役に立つということを心がけていってほしい。
最後に、
「でもね、そんな大きなことは出来なくていいんです。みんな、本当に身の回りのお友達であったり、そしてお父さんお母さんであったり、本当に身の回りの身近な人のために役に立つ人になってほしいな、という風に思います」
という言葉で、校長先生のお話は終わりました。
※今回の校長先生のおはなしを全編撮影した動画はコチラ!
小学生に戻った気持ちでぜひご覧ください。↓
【結論】めちゃめちゃ良い事言ってた
いやいや、めちゃめちゃいい話じゃなかったですか?
子ども達の価値観に影響を与えそうな人徳あふれるエピソード。また、話の内容には戦争や歴史的な事件という、小学生にとっては新しい事柄についても知るきっかけが盛りだくさんで……。
……朝礼って、こんな良い話してたんだ……!?
校長先生のお話はちょうど8分。驚くことに、8割方の子ども達はかなり真剣に耳を傾けていました。
感想も聞いてみると……。
「こわかった……」
「かなしかった! いっぱい人が死んだから」
「すごく良い人だなと思った」
「僕も!」
「戦争で色んな沢山の人が死んだりした、というのがわかった」
しっかりした感想から、小学生なりにちゃんと話を聞いていたということが窺い知れます!
あれー!? 私たちもこうだっけ!? 私たちがちゃんと話を聞いていなかったから、校長先生のお話を忘れてしまっただけなのか……?
というわけで、小学生たちにも「いままでの校長先生のお話で覚えてるものはあるか」を聞いてみたんですが……。
「……なんか、ご本のお話し?」
「ときどきかなしいお話で、なんか〜……わからん!」
「おぼえてる、けど……うーんでてこない……!」
「本のお話!『飛鳥へ、まだ見ぬ子へ』っていう」
割とあやふやですが、もしかして、小学生の時点で校長先生の話を忘れちゃってたりする……!?
そんな諸々含め、校長先生である森田 哲先生にお話を伺うことに!
全国の校長先生みんながこんな話をしているの? そもそも、生徒が話の内容をあんまり覚えてないみたいだけど、いいの〜!?
小学生全体に話すのは、そもそも難易度が高い
「今日はありがとうございました、始業式のお話をしっかり聞かせていただきました!いやぁ驚きました、『太平洋戦争』とか『サリン』とか、割と難しいお話もされるんですね……!」
「そうですね、その塩梅が難しいところです。一年生と六年生で、解る言葉が全然違うので」
「確かに! 全部一年生に合わせようと思うと、言えることも限られそうですね」
「はい。ただ、あんまり気にしすぎると伝えたいことが喋れなくなるので、担任の先生に『解りにくかったら、あとで翻訳してあげてくださいね』とお願いしています。
実は私、小学校の校長先生になってからまだ数ヶ月しか経っていないんですよ。その前は、30年ほど高校で教諭と、校長代行をしていました」
「そうなんですか! そりゃ小学生に話すのが難しいわけだ!」
「はい、何を話すか未だに悩みます。でも面白いんですよ、小学生ってすごく感覚がストレートに伝わってくるので」
「確かに、真剣に聞いてるか聞いてないかって一目でわかりますもんね」
「そうなんです。高校生たちは聞いているフリが出来るので、その辺が逆に難しかったですね。『先生、今日の話はまぁ良かったけど、引用が多かったね』って批評の目で見る子もいたりとか(笑)」
「なにそれー! 生意気!(笑)」
森田先生と、ほかの校長先生がするお話との違いって?
「校長先生って、みんな森田先生みたいなお話をされるんでしょうか?」
「うーん、実はあまり知らなくて……」
「最近まで高校の先生でしたもんね。森田先生の場合、お話のコンセプトは何なんでしょう」
「僕の場合、二つありまして。自分が良いなと思ったことや、『こんな子になってほしい』と思うようなことがあった時に、解りやすく話をするというのがひとつ。今日みたいなお話ですね」
「ほうほう」
「それから、本の紹介もしているんです」
「あ! それ、子ども達も覚えてるって言ってました」
「本を読むということは、ものすごく子どもの将来を豊かにすることだと思うんですよ。
ただ、本って『読みなさい』と言われてもなかなか読みたくならないじゃないですか。でも、子ども達の心に残るような一節だけでも教えられたら、『どんな本だろう?』と自分から気にして読んでくれるんじゃないかと思っていて」
実際に、以前紹介した本「飛鳥へ、まだ見ぬ子へ」の一節を紹介してくださる森田先生。
「実際に本を朝礼で紹介した時、その本を借りたい子ども達が図書室に大勢押しかけたということがあって。借りれないから買ったという子もいたくらいだったんですよ。
そうやって子ども達の読書のお手伝いができたら、と思いながら、朝礼で話すことは決めてますね」
「だめだ、沁みる……。 私がボーッとしていた朝礼の間、校長先生はこんなに考えて話してくださっていたのかと思うと……!」
「結局は、自分が良いと思ったものごとを紹介してあげたい、という気持ちが一番だと思ってます。私はこんなお話の考え方ですが、どの校長先生も子ども達を想って伝えたいことを話されていると思いますよ。」
校長先生のスピーチは「忘れちゃってもいい話」
「ところがですね。小学生の子どもたちのほとんどは、先生のお話をはっきりとは覚えてなかったんですよ。また私の身の回りの大人にも聞いてみたところ、全員が『校長先生が話していた事を覚えてない』、という結論になりまして……」
「そ、そうなんですか……!」
「そうなんですよ! それでいいんですか、先生!?」
「……実は僕も覚えてないんですよ(笑)」
「覚えてないんか〜い!」
「ただ、まぁ、忘れててもどこか無意識で残っていたり、僕が紹介した本を読んで、本から影響を受けるいうこともあったりすると思うので。話自体は忘れちゃってもいいんじゃないかな。
僕が一番したいのは、子ども達をできれば泣かせてあげたいんです」
「な……泣かせてあげたい!? それって感動的な意味ですよね?」
「はい。本でも映画でも、実体験でも良いんですが、涙を流すほど感動できるものに触れる、ということがとても大事だと思っていて。特に子どもの時は、嫌な話ばかりを聞くんじゃなくて、『次の日の行事が楽しみで眠れない』とか、とにかく楽しい事がたくさんあると良いと思うんですよ。
なぜかというと、『自分の生まれてきたこの世界がすごく素晴らしい世界だ』と思うことができるから」
「……。」
「大人になって社会に出たら、いつか苦労する時が来る。
でもその時、この世界が本当に素晴らしい世界だと思えたり、周りの人たちが自分を助けてくれたという経験があったら、絶対に乗り越えていけると思うんです」
「だから、できるだけ『すごいなぁ』と思えるような話をしてあげたいし、そういうものを紹介してあげられたらいいなと思って、生徒たちに話をしています」
「……はい。私ちょっと泣いてるんですけども。グスッ……」
「泣かないでください!(笑)」
「いや、本当に感動してしまって……! 子どもってまっさらで、大人が『世界はこうだ』と言うとそのまま書き込める状態だと思うんです。そんな時に、こんなに子ども想いな大人が周りにいてくれるって、とても重要ですね。幸せなことですね」
「小学校ができることって、そういうことなのかなぁと思うんです。大人たちは、少しでも彼らにとってプラスになればという思いで、何かしていけたらいいですね」
最後に。校長先生って、どんなお仕事をしているの?
「最後にひとつ。個人的な興味なんですが、校長先生って何をするお仕事なんですか?」
「……何なんでしょうかね……?」
「校長先生もわかってないの!?」
「いや、たくさん仕事はあって。毎日本当に忙しいんですが、何と言えばいいんでしょうか……。毎朝、校門の前に立ってみんなに挨拶をしたり」
始業式の前も、登校してくる子ども達ひとりひとりに挨拶をされてました。
「あ、いいなぁー。 私が居た小学校って、こんなの無かったですよ」
「僕もなかったんですが、うちは歴代の校長先生がやっていらして。私が子どもたちと触れ合えるのはこれくらいしか無いので、挨拶は大切にしてますね。
あとは何だろう、苦情対応とか……?」
「校長先生ってそんな事もするんですか!?」
「します、します。あとは来客がいらっしゃったり、会議があったり、PTAの方々との打ち合わせがあったり。書類に目を通したり、塾の説明会に顔を出したり、出張で会合に出たり……あとは、講演を頼まれたりとか……」
「かなりハードスケジュールなんですね! すみません、めちゃめちゃヒマだと思ってました」
「はい、意外と忙しいんです(笑)」
校長室に掲示されていた、校内のスケジュール。毎月これだけイベントがあると校長先生も大変そう。
「でも、そうですね。一番大きな仕事は『決断』ですね」
「決断?」
「ものごとの最終判断をするのは基本的に私なんです。会議などでのあらゆる決め事すべて、双方の意見をよく聞いて、最終的にどうするか決断をする。それが校長先生の一番の仕事じゃないでしょうか」
「そうか、組織のトップになるとそういう仕事になってくるのか。権力はあるけど、責任はめちゃめちゃ重そうですね」
「はい。会議とかでも下手に口出しをすると、反対意見の人が喋れなくなったりするので……身の振り方もなかなか難しいですね。校長先生歴は短いですし、まだまだ勉強ですね」
校長先生、実はめちゃめちゃ良い事言ってた説
みなさん、いかがでしたでしょうか?
いやぁ……私たち、校長先生にこんなに大切に想ってもらえていたんですね……。
いや、もちろん学校ごとで多少の差はあると思うのですが、子どもを想う校長先生の思いは全国共通だと信じたい!
お世話になった校長先生達、ありがとうございました……! 朝礼の間、校庭の砂を弄ったりウトウトしたりして、すみませんでした〜〜〜!!
私たちが小学生だった頃も、気付かぬうちにこうやって周りの大人に大切にされていたんでしょうか。
私たちが今触れているものや、見たものに対して抱く感情にも、昔聞いた校長先生のお話が回り回って生きていたりするんでしょうか?
小学校時代というともはや記憶の彼方ですが、森田先生とお話していると、昔を思い出して暖かい気持ちになることができました。
そんな感覚が皆さんにも伝われば幸いです!
また、森田先生がいつも朝礼でされるお話の原稿、全てこちらにアップされています!
近畿大学附属小学校 − 校長室だより
朝礼の動画で森田先生がお話されていた「金の教え、銀の教え」のお話もこちらに掲載されていますよ。
これ、森田先生の子ども思いなところがめちゃめちゃ伝わってきて、大人が読むとマジ泣きしますから……。 心が荒んだ大人たち!ぜひ読んでみてください!
以上、近畿大学附属小学校から社領エミがお送りしました。
森田先生、ありがとうございました!
(おわり)
取材協力:近畿大学附属小学校
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