2016.05.12
目指せメリハリボディライン 話題の「スロートレーニング」に挑戦
- Kindai Picks編集部
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自分で立って歩けない、垂れたおしりに飛び出た下っ腹…そんな状態を防ぐのは「筋力」「神経機能」「骨強度」「関節機能」の強化です。少ない負荷で効率よくできる「スロートレーニング」のメカニズムと方法について、テレビでも人気の谷本道哉准教授に教わります。
<近畿大学公開講座「100歳まで元気に!!生涯歩ける身体作り」より>
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監修者:
生物理工学部人間工学科
准教授 谷本道哉(たにもとみちや)
1972年静岡県生まれ。大阪大学工学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。国立健康・栄養研究所の研究員。2010年、近畿大学生物理工学部人間工学科の講師に着任。2013年准教授へ。スポーツトレーニングと健康運動指導の現場に精通した研究者であることをモットーにしている。著書は『35歳からのカラダルールBOOK (ベースボール・マガジン社)』『学術的に「正しい」若い体のつくり方 - なぜあの人だけが老けないのか?(中央公論新社)』など多数。
筋肉細胞は年々失われ、死滅していく
自分で自分の身体を動かす生活と続けるための要素として、「筋力」「神経機能」「骨強度」「関節機能」の4つがありますが、その中でも最も重要で、すべての基本となるのが「筋力」です。みなさんご存知の通り、歳を取っていくと筋力が弱っていきますが、これを加齢性筋萎縮症、もしくはサルコペニアと言います。実際に、加齢に伴って筋肉細胞の数がどんどん減っていってしまうこと、そして筋力が低下してしまうことはデータでも示されています。しかも、身体を支える大事な筋肉ほど、より衰えてしまうのです。歳を取ってからでも筋肉は鍛えられますが、筋肉細胞は脳と同じく再生系の組織ではありません。多少の再生機能はありますが、失われた細胞は戻らないので、できるだけ早く対策を始めるのがお勧めです。
筋力低下を防ぐために最も効果的な手段は筋トレです。ただし1日に何時間も何百回もやる必要はありません。筋トレにも効果的なやり方がありますので、それをぜひ覚えていただければと思います。
通常は何とかギリギリ10回できるくらいの負荷で行う筋トレが一番効果的なのですが、強い負荷をかけると、身体を故障したり血圧が上がったりするデメリットもあります。そこで軽い負荷でも筋肉がつく方法として考案されたのが、「加圧トレーニング」です。こればベルトで腕や脚を縛ることで血流を抑制した状態で行う筋トレ。通常は70%から85%くらいの負荷がないと筋肉はつかないのですが、加圧した状態なら15%でもみるみる筋肉がつくことがわかり、10年くらい前にブームになりました。ただし、専用のベルトが必要で締め方にもコツがいりますので、ご家庭でやっていただくのはちょっと難しいかもしれません。
スロートレーニングで無理なく筋力増強
「加圧トレーニング」の理論を応用した方法で、私たちの研究グループで効果を検証したのが「スロートレーニング」です。簡単に言うと、ゆっくりした動きで力を入れ続けることで血流を抑制した状態で筋肉を鍛えることで、軽い負荷で高い効果が期待できます。もちろん、重たいものを持つ必要はありません。
具体的に一つ、スロートレーニングの方法をお教えしましょう。自分の身体を支える筋肉をつけるために一番大事なスクワットです。運動する際に心臓が低い位置にあるほど血圧が上がりますが、スクワットは心臓の位置が高い状態のままトレーニングをしますので、血圧が上がりにくいというメリットもあります。
1.力を入れやすいよう膝を曲げた状態からスタートします。
2.脚にグッと力が入った状態になっていると思いますので、その力を入れたまま、ゆっくりと膝を伸ばして身体を持ち上げ、膝を伸ばしきらずに、力を入れたままゆっくりとしゃがみます。
*立つのに3秒、再度しゃがむのに3秒かけてください。また、呼吸は止めないようにしましょう。
*1セット8回から10回くらいできるくらいの負荷が調度良く、筋肉が熱くなってパンパンに張ってきたら、上手くできている証拠です。
*背筋を伸ばしたままで、膝が前に出るようにスクワットをするのは間違いです。後ろに置いてあるイスに座るように、お辞儀をしながら、おしりを引いてしゃがむようにしましょう。
*痛い時は動作が間違っているか負荷が強すぎるため、そのまま続けてはいけません。
目指せメリハリボディライン
筋トレは、3カ月しっかりと全身を鍛えれば、基礎代謝が100kcalくらい上がります。これは小一時間散歩した際の消費カロリーと同じ。つまり、筋肉をつければ、毎日何もしなくても小一時間散歩をするのと同じくらいのカロリーを余分に消費できるということです。さらに、筋トレをすることで、自然と日常生活での活動量そのものが増えるという報告もあります。
歳とともにおしりやお腹が気になってきたという人は多いと思いますが、筋肉をつけることで、ボディラインにメリハリを持たせることができます。おしりの筋肉がないと垂れてきて平たくなってしまいますが、筋肉は丸みがあるためおしりの形が良くなり、さらに脂肪も一緒に引っ張り上げてくれます。お腹の腹筋が弱くなると臓器が垂れてきて下っ腹が出てきますが、これも筋トレで防げます。
何十年も先の「歩けるか歩けないか」という話の前に、今すぐかっこよくてメリハリのある身体にするという目的で、筋トレを始めるようにしましょう。
関節は消耗品。全身の筋力アップでケアを
ここまで筋肉の重要性をお伝えしてきましたが、歩ける身体作りをするためには、他にも大事な要素があります。その一つが関節です。関節の機能も歳を取るに従って衰えていきますが、関節の中には血管が通っておらず回復力が極めて低いため、鍛えるのではなく「いたわる」「温存する」という考え方が大切です。関節は消耗品で、スポーツ選手が引退するのも、多くは関節が原因です。ジョギングでは、着地の際に体重の3倍くらいの力が膝にかかるので、分厚い靴を履いて膝を守ってあげてください。また、強い衝撃がない自転車でのトレーニングもお勧めです。
なお、スロートレーニングで筋肉を鍛えれば、筋肉で衝撃を受け止める着地ができるようになります。筋力が弱い方は膝を伸ばしたままドンっと着地してしまいがちで、膝を痛めやすいのです。また、筋肉があることで関節がしっかりと固定されるため、靭帯を守ることにも繋がります。
それに、関節をよく動かして物質の出入りを促してあげることも大事です。動かさないと関節の結合組織が固くなって、もっと動かなくなっていきます。膝や肘は動かしやすいのですが、体幹は動かしにくいので、ラジオ体操がお勧めです。「首周り」「背中と胸」「腰と股関節」と、大きく3箇所に分けて、それぞれの場所を、きちんと伸ばしたりひねったりするようにしましょう。
いくつになってもあきらめないで 筋トレで数値改善
自分で身体を支えて生活をするためには、バランス能力も欠かせません。それを司るのが神経機能です。特に、高齢の方は転んでしまうと骨折して寝たきりになる恐れがありますので、まずは何よりも転ばないようにすることが大事です。
若くて筋力が十分に強い人は、筋トレをしてもバランス能力は上がらないことがわかっていますが、筋力が低下しているお年寄りの場合は、筋トレでバランス能力が改善します。それに、筋力が上がると動く量も多くなり、さらにバランス能力を高めることに繋がります。
そして最後は骨。骨密度は30歳くらいが一番高いというデータがありますが、それ以降は上がらないというわけではありません。カルシウム、マグネシウム、タンパク質を摂るのも大事ですが、骨に強い力を加えることで骨密度は上がります。ボディービルダーは骨に強い負荷を与え続けるので、実は20代よりも50代の方が骨密度が高いということもあります。
ここでもやはり、筋肉をつけることで骨に強い負荷をかけられるようにし、日常生活での運動量も増やすのが大事、ということになります。ただし、強すぎる負荷は関節には良くないので、程々にしておきましょう。
効果的な筋トレで豊かな人生を
ここまで、筋肉を鍛えることで関節にもバランス能力にも骨にも良いことがあるというお話をしてきましたが、運動量を増やすために、まずは車に頼りすぎないようにしましょう。電動アシスト付きでも構いませんので、自転車がお勧めです。また、歩く時は腕を振ると速く歩けるようになり、スピードが1.5倍になれば消費カロリーは2.5倍にまで増えます。メタボリックの予防にもいいですね。カバンを手に持っていると、手を振りにくいので、リュックサックが良いと思います。最近はビジネスでも使えるおしゃれなリュックサックもありますので。
そして効率的に身体を動かすための、もう一つの方法が、「よいしょ」と言うこと。特に立ち上がる際は、前に一瞬しゃがみ込んだ瞬間に「よいしょ」と言うと、バネの力を上手く使って力が入りやすくなり、動きも良くなることがわかっています。階段を登る時に「よいしょ」「よいしょ」と言いながら上るのも良いですね。
いずれにせよ、すべての基本となるのが筋力です。今からスロートレーニングによって効率的かつ安全に筋肉をつけることで、見た目が美しく、100歳になっても自分で歩ける身体作りをしていきましょう。
●近畿大学公開講座とは
近畿大学では、一般の方を対象にした公開講座を実施しています。主に大学で取り組んでいる教育や研究成果に基づいたプログラムが開催されており、生涯教育の場を提供することを目的として、リアルな参加型の講座とインターネット上でどこからでもご覧いただけるWeb講座をご用意しています。詳細は、近畿大学公開講座のホームページをご覧ください。
http://kouza.kindai.ac.jp
▼関連動画 谷本道哉准教授による“シャキッと”姿勢改善、近大流どうぶつ体操講座 (YouTube)
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