2026.10.20
お酒を飲まない人にも影響が!?ビール系飲料の税金一本化に見る税の仕組み

- Kindai Picks編集部
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2026年10月、酒税法改正により「ビール」「発泡酒」「第3のビール(新ジャンル)」の税率が350ml缶あたり54.25円に一本化されました。「ビール」が値下げされる一方、「発泡酒」や「第3のビール」は値上げとなり、各社の発泡酒ブランドが相次いで「ビール」へと格上げされるなど、市場に大きな変化が起きています。なぜ今、酒税法が改正されたのか。そもそも、なぜビールの種類が細かく分類されていたのか。財政学・租税理論を専門とする近畿大学経済学部 教授 角野浩に話を聞きました。
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専門:財政学、租税理論
最適課税理論や租税帰着分析を用いて、主に所得税・法人税・消費税の経済効果について理論分析を行っています。また、地理情報システム(GIS)を活用した分析など、多角的な視点から研究を進めています。
教員情報詳細
ビールが安くなって「第3のビール」は消える? 酒税改正で変わったお酒売り場
――2026年10月の酒税法改正によって、ビール、発泡酒、第3のビール(新ジャンル)の税率は具体的にどう変わったのでしょうか?
具体的には、ビールは約9円の減税となった一方で、発泡酒や第3のビールは約7円の増税となりました。結果として、これまであった税率差が解消された形です。
国は、類似する酒類の税率差が商品開発や消費者の選択に影響を与えているとして、2020年から段階的に税率の見直しを進めてきました。今回の改正は、その最終段階にあたります。
財務省「酒税に関する資料」をもとに作成――税率の一本化によって、店頭価格やメーカーの動きにはどのような変化が出ていますか?
たとえば「第3のビール」に分類されるサントリーの「金麦」が、テレビCMでも大々的にアピールしているように、元々の価格帯に近い形を維持しながら「ビール」として残していくという方針です。実際に今回の改正を受けて、「金麦」のほかにも「本麒麟」「サッポロ GOLD STAR」「クリアアサヒ」など、これまで第3のビールとして親しまれてきた主力ブランドをビールへ移行する動きが広がっています。
これまでビール類は税率の違いによって大きな価格差が生まれていましたが、その差が縮まったことで、メーカー側は、価格だけでなく、ブランドや味、品質で勝負する新たな局面を迎えていると言えます。
今なぜ、税率が変わったのか。そして「公平な税」とは?
――そもそもなぜ、ビール、発泡酒、第3のビールなど、似たような商品ジャンルが存在しているのでしょうか。
アメリカなどの諸外国では、業界への影響が大きい制度変更が議論されると、ロビー活動によって制度変更そのものを阻止しようとする動きが見られます。それに対して日本では、国が決めたルールの中で製品開発や商品開発によって対応しようとする企業文化があります。日本らしい動きですね。
その結果、麦芽の比率を調整し、税制上「ビール」に該当しない商品を開発する動きが進み、「発泡酒」や「第3のビール」が生み出されました。しかし、新たな商品が登場するたびに政府が税制を見直すという“いたちごっこ”が約30年にわたって繰り返されてきました。今回の酒税改正は、「こうしたくりかえしはもうやめて、メーカーは商品開発に集中しましょう」という方向性を示したものではないでしょうか。
――国が「類似するお酒なら同じ税率にするのが公平」として一本化を進めた背景と、メーカーへの影響をどう見ますか?
一方でメーカー側から見れば、これまでのような「麦芽の比率をどうするか」「スピリッツをどう混ぜるか」といった税率を意識した商品開発から解放されることになります。今後は純粋な味や品質、あるいは「糖質ゼロ」といった健康志向の機能を追求した本質的な商品開発に集中できるようになるため、メーカーにとっては商品開発の自由度が大きく高まる改正とも言えるでしょう。
――租税論の専門家というお立場から、今回の酒税法改正をどのようにご覧になりますか?
高価なビールを買える層と、生活防衛のために少しでも安いお酒を求める層とでは担税力(支払う力)が異なります。一律化によって庶民が好むお酒が増税されると、所得の低い人ほど収入に対する税負担の割合が大きくなる「逆進性」の問題が生じます。
国の課税する側からは「同じカテゴリーのお酒なら同じ税率にするのが公平だ」と説明していますが、それは水平的公平性の考え方です。消費者の消費する側からは、垂直的公平性の観点で見れば、ビールと発泡酒などの税率に差があることにも一定の合理性があったのではないか、という見方もできます。

除菌用アルコールやみりんもお酒?税金で見るお酒の種類
――ビール類の一本化ばかりが注目されていますが、チューハイなど他のお酒の税率はどうなっているのでしょうか?
そして今回の改正でビール類全体の税率一本化が完了したわけですが、実はビール系飲料だけでなく、チューハイ(その他の発泡性酒類)の税率も350ml缶あたり28円から35円へと引き上げられています。
今回、改めて調べてみて驚いたのは、酒税法の対象は今挙げたような日本酒やビール、ワインなどの飲料だけではないということです。酒税というとお酒を飲む人の話に聞こえますが、実はお酒を飲まない人の生活にも深く関わっています。

財務省「酒税に関する資料」をもとに作成
――お酒を飲まない人に、どのような関わりがあるのでしょうか?
実は「本みりん」にもアルコールが14%前後含まれるため酒税がかかっています。一方で、「みりん風調味料」はアルコール分が1%未満で酒税がかかっていません。どちらも似た商品に見えますが、酒税法上は異なる扱いになっているのです。みりん以外にも、料理用清酒には酒税が課されますが、塩を加えた料理酒はお酒として飲めない処理が施されているため、酒税は課されません。また、アルコール除菌製品についても、成分によって酒税の対象になるものとならないものがあります。
ここで私が疑問に思うのは、同じような用途で使われる商品であっても、お酒として扱われるかどうかによって消費者の負担が変わることです。本みりんには酒税に加えて消費税もかかりますが、みりん風調味料には酒税がかかりません。2027年4月から食品の消費税が1%に減税された場合、みりん風調味料は低い税率で購入できる一方、本みりんは酒税負担が残ります。魚を煮る際など、本みりんの方がおいしく仕上がると考えて選ぶ人もいるでしょう。そう考えると、この税制が本当に生活者の実態に寄り添ったものになっているのか、私は疑問を感じています。

――みりんや料理酒、除菌用アルコールまでとは驚きです。なぜここまで細かい分類がされているのでしょうか?

「推しのビール」を楽しむべし。税の専門家がすすめるかしこい選択

――今回の酒税改正によって、税率をめぐるメーカーの開発競争は終わりを迎えるのでしょうか。
――「かしこい消費者」としてはどのように行動すれば良いと思われますか。
取材を終えて
今回の取材を通して驚いたのは、酒税法の複雑さです。ここまで細かく分類され、みりんや除菌用アルコールなどにまで酒税が関わっていることを、私は知りませんでした。ビール類の税率一本化によって、税率を意識した商品開発ではなく、味や品質を追求した商品が生まれやすくなることは、消費者にとって大きなメリットと言えるでしょう。一方で、庶民に親しまれてきた酒類や身近な調味料の税負担をどう考えるのかなど、「公平性」をめぐる議論はこれからも続いていきそうです。
今回の酒税法改正をきっかけに、私たちが普段何気なく支払っている税金の仕組みに目を向けてみるのもよいかもしれません。また、毎日の飲酒習慣を見直したり、ビールだけでなくチューハイやワイン、日本酒などさまざまなお酒に目を向けたりすることで、新たなお気に入りに出会えるかもしれません。
取材・執筆 猪狩 協弘
編集 アール・プランニング
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