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2025.12.02

高校時代の挫折からインフラを守る起業家へ 近大ビジコン最優秀賞受賞者の一年

Kindai Picks編集部

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2025年は12月10日(水)に開催。審査員、200名の観衆が見つめる中、学生がビジネスプランをプレゼンし、起業家への第一歩を踏み出します。今回は、「近大ビジコン2024」グランプリ部門で最優秀賞に輝いた起業家、越智 健心(おち けんしん)さんにお話を伺い「近大ビジコン」が学生に与える成長の機会と、学生起業のリアルに迫ります。

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越智 健心
越智 健心(おち けんしん)

近畿大学 経済学部4年 / TRASS株式会社 代表取締役

京都府福知山市出身。学業と並行して家業の建設業を手伝う中でインフラメンテナンスの重要性が年々高まっていることに気付き、土木インフラの定期点検をアップデートするサービス「TRASS」を開発、提供している。

≫TRASS株式会社 公式サイトはこちら



「起業するから近大!」 家業の課題解決をテーマに、「近大ビジコン」一度目の挑戦

――もともと、在学中の起業について考えていましたか?

越智さん
越智さん
近大への入学を決めたのは、起業するためでした。多様な分野で活躍する卒業生がたくさんいますし、起業支援プログラムが充実していたことも大きかったです。
今いるインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」も、2022年10月のオープン当初から活用しています。会社の登記もこちらの住所でさせてもらっていますし、24時間開いているので、私にとって最高の作業場です。


仕事中の越智さん

――起業を志したきっかけを、教えてください。

越智さん
越智さん
偶然ですが、コロナ禍が進路に影響しています。当時は、少し遠くの高校で寮生活をしながら野球に打ち込んでいたんですが、自宅待機を余儀なくされた時期に、家業の建設業を手伝うことになったんです。
日中は工事現場に出て、夜はテレビを見るだけの毎日でした。そんなとき、夏の甲子園が中止になって涙する高校球児の姿をニュースで見たんです。彼らの涙を見たとき、「自分には野球で生きていく覚悟がなかった」という現実を突き付けられた気がしました。自分もこれほど夢中になれるものを見つけたい、家業を継ぐだけじゃなく、自分で何か始めるのも面白いかもしれないと考えるようになったのが、起業を目指したきっかけです。


――入学直後から起業支援プログラムを受け、2年次に早速「近大ビジコン」に挑戦されたんですね。

越智さん
越智さん
そうなんです。2024年の出場は実は2回目です。「近大ビジコン」は、ビジネスプランが具体化されている学生が対象の「グランプリ部門」と、起業前でビジネスプランがアイデア段階の学生が参加する「チャレンジ部門」に分かれていて、2022年は「チャレンジ部門」に登壇しました。家業でもある建設業を盛り立てたいという想いから、ブラックボックス化しがちな建設業界の情報を可視化し、適材適所な世界を実現したいというアイデアを発表しました。


――2022年の「近大ビジコン」 への挑戦が決まり、大学からはどんなサポートを得ましたか?

越智さん
越智さん
ファイナリスト向けの事前ワークショップなどがありました。登壇者としての心構え、ピッチの基礎や見せ方といった、ビジコンのセオリーを学べたことは大きかったです。そのおかげもあって、「チャレンジ部門」の最優秀賞とオーディエンス賞をいただきましたが、残念ながら、事業は思うように進みませんでした。


2022年近大ビジコンの越智さん


インフラを長く安全に使うための「メンテナンス」に見出した活路

――「近大ビジコン2022」で発表した事業がとん挫した後、どんなことを考えましたか?

越智さん
越智さん
建設業界というと新しく何かを造ることに目が向きがちですが、家業の売上は年々目減りしていました。インフラの新設工事ではなく、既存設備のメンテナンスの割合が高まっている現状に対応が遅れていたためです。人件費・資材費の高騰、業界の人手不足は深刻で、インフラの新設は年々難しくなっています。それなら、既存設備をいかに長く、安全に使えるようにするかが絶対大事になる。インフラの持続可能性を高めるためのサービスをつくりたいと考えるようになりました。
また、メンテナンスについて妙に熱く語ってくる友人と出会ったことも、今思うと転機でした。彼の言葉でメンテナンス事業の面白みを感じられるようになり、インフラの現場が抱える「リアルな課題」を体感するために鉄道会社でアルバイトを始めました。点検の報告書はまだまだ紙とExcelが主流で、報告書などの書類作成に膨大な時間が取られている現状を目の当たりにしました。


――鉄道会社でのアルバイトだけでなく、建設現場の課題解決サービスを提供する会社で、インターンもされていたんですね。

越智さん
越智さん
私のインターン時はまだ社員が少なく、あらゆる業務を担うことになり、ずいぶん鍛えられました。3年ほど働かせてもらう中で、特定の人のスキルや経験に依存している業務をソフトウェアでサポートすることの重要性を痛感しました。データと人、そして現場をつなぐテクノロジーが、インフラ維持管理のポイントになると確信できたんです。


笑顔で話す越智さん


観衆の想像力を掻きたてる「魅せ方」にこだわり、「近大ビジコン」へ2度目の挑戦!

――建設業界全体から、インフラのメンテナンスを支えるサービスへと事業転換され、いよいよ2回目となる「近大ビジコン」に登壇されるんですね。

越智さん
越智さん
そうですね。2回目は「グランプリ部門」での登壇を決めました。2回目のビジネスプランは「絶対実現したい」という自分の熱もはっきりあったし、これからの時代に必要だと信じていました。ただ、ビジネスプランが圧倒的に優れているライバル登壇者がいたんです。「あとはピッチで魅せるしかない!」と、めちゃくちゃ考えて、ビジコンの2週間前から200回は繰り返して練習しました。「KINCUBA Basecamp」で練習するときは、そこで仕事をしている近大生を捕まえて、無理やり聴いてもらって(笑)。


――人前で話す際の、「魅せ方のコツ」ってあるんでしょうか?

越智さん
越智さん
強敵に勝つには、とにかくオーディエンスの記憶に残る必要がある。まずは観衆のみなさんが「ハッとする話」をしようと考えました。「あぁ、よくある話ね」と思わせてはもったいない。聴き手の気持ちを想像しながら、自分にしか語れない話を、退屈させない順序で伝えようと意識しました。
当たり前のことですが「腹から声を出す」ことも重要です。どれだけ中身が面白かったり新鮮でも、聴き手を不安にさせたり、聴き取りづらいとそれだけでマイナスです。この2つが押さえられていれば、事業の素晴らしさはさておき、ピッチには勝ちやすくなると考えています。


2024年近大ビジコンの越智さん

――昨年は最優秀賞、協賛企業賞、オーディエンス賞の三冠を獲得されたんですね。

越智さん
越智さん
最優秀賞とオーディエンス賞はずっと狙っていました。専門家、有識者はもちろん、一般の方も「このプランが実現したら、自分が生きている世界が良くなりそう」と予感してくれた証だと思ったので。新鮮な話題と自信を感じさせる態度の二本立てで「この人の話、なんかちゃう(違う)かも!?」と感じていただけたことが、受賞につながったのだと思います。


――受賞コメントはばっちり決まりましたか?

越智さん
越智さん
それが、コメントのことをすっかり忘れていて……。「近大生らしさ」というか、やっぱり面白いこと言いたい気持ちはあるので、なんとかひねり出したものの、ややウケにとどまったことは今でも悔やんでます(苦笑)。


――ビジコン登壇を経て、自身の変化を感じられることはありますか?

越智さん
越智さん
ライバルに勝てたことで、自分が活きる戦略を立て、コツコツ準備すればなんとか成果が出せるという自信がつきました。また、ビジコン前に重ねたピッチの練習が、今になってお客様への事業説明に生きています。事業の内容や強みが自分にしみこんでいるおかげで、現場ではお客様の声、困りごとを拾い上げることに集中できています。
余談ですが、現場のお客様とお話しする際、「近大ビジコンで優勝して200万円もらいました!」が、鉄板のアイスブレイクになっていました(笑)。「近大ビジコン」の後、「KANSAI STUDENT PITCH」でも最優秀賞をいただき、会う人会う人に「調子良さそうやね」とチヤホヤはされました(笑)。また、「KINCUBA Basecamp」で仕事していると、ビジコンに出たいという学生の方に相談されたりといった機会も増えましたね。


最優秀賞を獲得した越智さん


ビジコン勝利から一年。優勝賞金200万円の使い道&その後の変化

――優勝後の1年間、どのような道のりを歩まれましたか?

越智さん
越智さん
TRASS株式会社を設立し、土木産業に関わる建設コンサルタントや点検・調査の専門業者のみなさまに向け、インフラメンテナンスの内業(現場で記録した情報の整理から報告書作成まで)の効率化を進めるサービスを形にしています。スマートフォンやタブレットに点検した記録を入力するだけで、PCでの報告書作成がスムーズに完了できます。
この一年は、インフラメンテナンスの現場を訪問し、内業の圧縮が本当に望まれていることなのか、内業のどの部分が特に負担かなどヒアリングを繰り返しました。現場の方が求めるサービスでなければ意味がないので、地道に現場へ通っています。今年はVC(ベンチャーキャピタル)からの出資も受け、顧客も増えつつあります。


――社名の「TRASS」には、どんな意味を込められていますか?

越智さん
越智さん
データ記録をPCでトレースできる当社のサービス内容を示す単語「TRACE(トレース)」と、三角形を基本単位とする構造形式を示す「TRUSS(トラス)」という単語を組み合わせています。三角形は少ない辺で安定的に強い構造を作り出せる。この先、組織としても力強く歩んでいきたいという想いを込めています。


――では、みなさんが気になる優勝賞金200万円の使い道を教えてください。

越智さん
越智さん
受賞から1年、交通費とメンバー2人へのボーナスと、その他もろもろで全部なくなりました(笑)。私たちの仕事は、メンテナンスが必要な現場に行ってこそ。今は、愛知県や岐阜県の現場に出向くことが多いのですが、バスから新幹線に乗れるようになって本当に助かってます。
その他もろもろのひとつは、現場への手土産代。現場のみなさんの声がサービスを進化させてくださるので、感謝の気持ちで。あと、仕事で必要なMacBookを買いました。それまで、人から貸してもらっていたPCで作業していたんで、やっと返せました(笑)。


ヘルメット着用の越智さん


誰もが安心して、当たり前の暮らしを送れる世界をつくるために

――現在、思い描いている事業の展望を教えてください。

越智さん
越智さん
会社としては、インフラの補修工事を増やしていきたいという想いがあります。適切な補修をしなければ、インフラ破損などの事故が増える流れを止められません。私たちは今、インフラの現状把握という過程を支えていますが、実際に補修工事の発注に至るまでには、工事の優先順位づけ、工事計画の立案、工事の仕様書づくりなどさまざまなプロセスがあります。5年後までには、補修工事が発注されるまでの全工程を省力化できるサービスをつくりたいです。
現在は、課題が特に山積する橋梁の点検サポートを行っていますが、今後はトンネル、小規模付属物へと対応範囲を広げていきます。


――TRASSが進める事業で、どのような方を幸せにできますか?

越智さん
越智さん
土木事業に関わるみなさんはもちろん、極論ですが、全ての国民、ひいては地球人80億人を幸せにできる事業だと思っています。メンテナンスでインフラにまつわる事故を未然に食い止め、成熟社会で「足るを知った」日本の人々がこの先も穏やかな幸せを享受し、大きな不安なく暮らせるようにしたいんです。当たり前の明日が、当たり前に来てほしい。そんな人々の願いを技術で支えることが、メンテナンス業の存在意義だと考えています。
ほとんどの建設テック企業が「建築」から事業を始める中、私たちは「土木」に特化しています。土木は「築土構木(ちくどこうぼく)」という言葉が示すように、人のために土台を築き、木を組む産業。人々の暮らしの基礎であるインフラを舞台に、これからも現場の支えになるサービスを提供していきます。


KINCUBA Basecampの前に立つ越智さん

越智さんへのインタビューは、まさに「ハッとする話」の連続でした。近大在学中のさまざまな気づきと出会い、自ら起こすアクションすべてをサービス構築に活かしている姿を前に、私もビジコンの観衆の一人だったかのように、穏やかで幸せな未来を空想しました。
越智さんも登壇された「近大ビジコン」は、学生がビジネスプランを競い合う場というだけでなく、一気に成長できる機会でもあります。2025年の「近大ビジコン」最優秀賞は誰の手に!

≫KINDAI BUSINESS CONTEST2025 公式ページはこちら
≫近畿大学発ベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA」公式サイトはこちら


この記事を書いた人
岡島 梓(オカジマ アズサ)
2024年末、東京から大阪に拠点を移したインタビュアー・ライター。取材を受けてくださった方、文章に触れてくださった方にとって、何かの「はじまり」が生まれる表現を模索します。


取材 岡島 梓
編集 ウエストプラン


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