2023.03.30
部屋で音漏れを気にせず歌える!?約1万3千円で、大学生に優しい防音室を1日で作ってみた
- Kindai Picks編集部
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自宅で友達と通話をしているとき、歌を歌っているとき、Zoomでミーティングをしているとき、「周りに迷惑をかけていないかな」と思ったことはありませんか? 今回はDIY未経験でも簡単かつ、安価でできる防音室作りに挑戦します!
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初めまして! 近畿大学広報室でインターンをしている、理工学部 理学科物理学コース 2年生の中井七海です。
私は軽音サークルに所属しており、ボーカルとしてよくライブに出演しています。そのため、自宅でも歌の練習をしたいのですが、今住んでいる実家ではなかなか練習ができません。というのも、自分の部屋で歌うとよく音が響いてしまい、親に怒られる上に、近所迷惑にもなってしまうからです。
また、私はゲームが好きなため、よく友人と通話しながらオンラインゲームをします。ついはしゃぎすぎて、親に「うるさいで〜あんた電話控えてよ!」と怒られてしまいます。
そこで防音室があれば、自由に自分の趣味が満喫できるのでは?と思い、防音室を作ることにしました。
しかし、
市販の防音室は高すぎる!!
比較的安価なものでも、10万円程度。
学生のバイト代では、なかなか手が出しにくい値段です……
これはもう自分で作るしかない!
作りたいのは、机の上にパーティーション型で置くことができて、歌声や話し声などが漏れるのを防ぐことのできる防音室。
まずは作り方を検索しましょうか〜、ん??
釘を打ったり、板を切ったりしなければならない、だと!?
カナヅチやドライバーを持ったことのない私にとっては、大問題……!
「釘の打ち方を知らないのに1人でできるのかな?」「材料の板を運搬するには、車が必要だな」そんな不安が次々と浮かんで、防音環境を作ることがますます億劫になってしまいました。
さらに、そもそも防音の仕組みもわかりません。そこで、近畿大学 工学部 機械工学科で防音・振動の制御や雑音対策の研究を行う西村先生にアドバイスをいただきました!
防音の仕組みとは? どんな素材がいいの? 専門家に聞いてみた!
西村 公伸 (ニシムラ キミノブ)
近畿大学 工学部 機械工学科 教授
専門:音響・音響機器・振動工学・環境振動
騒音・振動の制御や雑音対策などを扱っており、オーディオ機器の雑音低減技術、楽器の音響特性評価・設計、遮音・吸音システムの特性評価・設計、さらに公害振動制御に関する指導を行っている。
教員情報詳細
西村先生、本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
防音室を作りたいのですが、まず「防音」の仕組みについてお聞きしたいです。
中井さんは、自分の部屋の音を外に出にくくしたいんですね。
そうなんです!
音は空気が振動することにより、生じます。そして防音には、「遮音」と「吸音」という2つの考え方があります。
どう違うんですか?
外部へ抜ける音量を小さくするのが「遮音」です。一方の「吸音」は、音を吸収することで、音のエネルギーを熱エネルギーに変換します。この2つの考え方を上手に組み合わせることが、防音室を作るポイントですね。
なるほど……! 吸音の場合、どのようにして音のエネルギーが熱エネルギーに変換されるのでしょうか?
吸音材には、綿のような繊維が使われることがあります。音波が入ってくると綿が揺れて、綿の繊維が擦れ合うことによって熱エネルギーに変換されます。
綿を擦ると少しあたたかくなるのと同じ原理でしょうか?
そうですね。身近な例としては、音楽室の壁などに使われる有孔ボードも吸音材なんですよ。
どうして穴が空いているのに、吸音するんですか?
有孔ボードは、瓶の口に息を吹きかけたときに音がなるのと同じ原理なんです。
どういうことですか?
穴の奥には空間が広がっていますよね。音が穴に入ると、もともと穴の中にあった空気を押し出し、空間内の空気を圧縮します。
すると、圧縮された空気が穴の空気を押し返します。この動きが繰り返されることによって、壁の穴で空気が擦れて、熱エネルギーに変わります。
子どものころからどういう仕組みなのか不思議に思っていました……!
そうですね。吸音は、反射する音を最小限にするという考え方です。広い運動場で声を出したとき、音は反射しませんよね。
はい。
それが、良く吸音されている状態なんです。しかし、狭い部屋で大きな音を出すカラオケルームでは、音が壁に反射します。
もう1つの遮音は、どういう仕組みなんですか?
音が壁に当たると、壁を振動させて音が漏れていきます。このとき、音量を決めるのは、壁が振動する速度です。そこで重い壁にすると音が漏れにくくなる。これが遮音です。
なるほど! だから壁が薄いと音が漏れるんですね。
薄い壁でも、「二重壁」にすることで遮音性能を高めることができます。二重窓がその例ですね。
なるほど。ガラスを2枚にすることで、遮音性能が高まるんですね。
二重窓は、ガラスとガラスの間にある空間で音が反射することにより、音が小さくなるという構造です。
遮音と吸音の仕組みを利用すること、そして遮音の性能を上げるために二重壁にすることがポイントになるということですね。
そうですね、そのポイントを抑えれば防音性能は上がると考えられます。
今回私は机の上に置けるパーティーション型の防音室を作成する予定です。安価で、簡単に一人でもできるような防音室を作る上で、おすすめの素材や作り方があれば知りたいです!
見た目や工作性の良さを考えると、50~60cmの四角い箱を作り、10mmの板の内側に綿を貼ることで、音が漏れにくくなります。
手前の壁はなくてもいいんですか?
声は前方に進んでいきます。そのため、顔の前面に吸音材があれば吸収できます。
なるほど。じゃあ、スピーカーを使う場合はどうですか?
スピーカーの音は、様々な方向に進んでいくので、四方を塞ぐ必要があります。
なるほど、音の広がる向きによって、防音の仕方が変わるのですね。
そうですね。音の進む方向に沢山吸音材を置いてあげることが大事です。
吸音材の材質でおすすめはありますか?
私が今まで使ってきた中で1番良かったのは、「パーフェクトバリア」です。これは住宅、学校、病院と幅広く使用されているポリエステル素材の断熱材です。建築現場ではグラスウールがよく使用されますが、触るとチクチクして痛いのでおすすめしません。「パーフェクトバリア」は、赤ちゃんが上で寝ても肌に影響がありませんよ。
そうなんですね。では、遮音の役割を果たす箱の素材は、ダンボールとプラスチックダンボールのどちらがいいんでしょうか?
防音性を重視するならばダンボール、軽さを重視するならプラスチックダンボールが好ましいですね。加工がしやすいんですよ。
今回は歌の録音時にも、防音室を使用したいと考えています。気をつけることはありますか?
歌を録音する場合は、会話用の防音室よりも2回りほど大きなサイズにする必要があります。吸音面積が大きくなると、より吸音できます。60〜90cmくらいの奥行きがあった方がいいですね。
大きな音を防ぐためには、吸音面積を広げる必要があるのですね。
もう1つ気をつけることがあります。吸音材があると歌声がデッドな状態になってしまいます。
音に響きがない状態ですね。
そうです。いい歌声を録音するためには、防音室の2面のみを吸音材にするといいです。
そうすると、歌声に響きが出にくいんですね。
さらに、2面の吸音材の裏をマジックテープで接着して着脱できるようにするといいですね。
用途に合わせて構造を変えられるのは、かなり便利ですね。
そうですね。
では、今回はこれらのポイントを抑えて、防音室の作成に取り組みます!
・プラスチックダンボールを使って二重壁構造にする(遮音)
・吸音材の素材はパーフェクトバリアを使う(吸音)
・歌を録るなら、吸音材は2面でも良い(吸音)
吸音と遮音の両方を取り入れることで、防音効果は十分得られると思います。頑張ってくださいね。
はい! 頑張ります!
実際にブース型防音室を作ってみた!
使用する材料と予算
西村先生からの貴重なアドバイスを参考にして早速設計図を作成し、ネット通販で以下の材料を揃えました!材料一覧
商品名 | 個数(ヶ) | 税込価格(円) |
---|---|---|
プラダンシート 半透明 幅615mm × 長860mm 厚5mm | 10 | 5,660 |
ニトムズ 超強力両面テープ PE・PP用 No.5015 20mm×20m J0990 | 1 | 305 |
東京防音 吸音・防音材 ホワイトキューオン ESW-10-303 300mm×300mm×厚10mm | 12 | 4,800 |
東京防音 吸音・防音材 ホワイトキューオン ESW-10-910 600mm×910mm×厚10mm | 1 | 2,309 |
合計 | 13,074円 |
ネット通販で購入したため家に材料が届き、とても楽でした。こちらの設計図をもとに作成していきます。
今回は歌を歌ったときに音がきちんと響くため、防音室の天井に当たる面は吸音材を貼らないことにしました。また、防音室内に光を採り入れて明るくするため、天井の一部を一重構造にします。
では早速作っていきましょう〜!
ベースの箱を作る
まずはこちらのプラスチックダンボールを加工して、二重壁を作ります。「二重壁のつなぎ」を作り、両面テープで接着します。
①プラスチックダンボールをカッターナイフで半分にカットする
②9cm間隔で印をつけてカットする
③長い方に9cm間隔で印をつけて、さらにカットする
④左端から2cm、5cmのところに印をつけて、切りこみを入れて折り曲げる
これで「二重壁のつなぎ」は完成です!
このつなぎを用いて、二重壁を作ります。
⑤二重壁を作成する
プラスチックダンボールの短い辺には1つ、長い辺には3つ、等間隔に両面テープで接着します。
ここで注意することは、防音室の横の壁の奥の面と、接する辺をしっかり接着するためにつなぎ目を3つ作ることです。
⑥吸音材をカットする
プラスチックダンボールの大きさに合わせて印をつけて、カッターナイフと定規を使ってカットしました。力のない私でも楽にカットできました!
⑦吸音材をプラスチックダンボールに接着する
全ての吸音材の裏面の上下に両面テープを貼りつけます。
PP(ポリプロピレン)用の両面テープを使用しましたが、吸音材が繊維質のため少し接着が甘いです。心配な方は接着剤を用いたり、4辺全てに両面テープを貼ることをおすすめします。
吸音材をプラスチックダンボールに接着しました。剥がれないようにしっかりと押しつけます。
⑧プラスチックダンボールを接着する
二重壁のつなぎの部分に両面テープを貼りつけます。貼りつけが完了したら防音室を組み立てます。サイズが大きく重いため、この工程が1番大変でした。
奥の面と横の面の接着の様子です。
⑨完成!
所要時間は約6時間! 時間はかかりましたが、DIYの経験がない私でも簡単に楽しく作ることができました。今回の防音室は気軽に持ち運べて机の上ならどこでも設置できるのもメリットだと思います!
防音室内外の音の大きさを確認する
実際に防音効果はあるのでしょうか? デジタル騒音計で計測してみましょう。ちなみに音の目安はこちら。
数値(dB) | 音 |
---|---|
30dB | ささやき声 |
40dB | 小さめの話し声 |
60dB | 目覚まし時計 |
80dB | 地下鉄の車内 |
100dB | ライブハウス |
120dB | 飛行機のエンジン音 |
今回は自室のドアの前で計測をします!まずは自室のドアの前で普段電話する声の大きさで1分間声を出して測定しました。
防音室なしでは最大で74.7dB、防音室ありではなんと56.4dBと、18.3dB軽減されました! かなりの防音効果です!
防音室なしの場合、65dBであったのに対して防音室ありの場合、45dB。これなら、会話はほぼ気になりません。親にも聞いてみたところ「喋っている声は全然聞こえないよ」と言われるレベルにまで引き下げることができました。
それから、1分間歌を歌って計測しました。
防音室なしでは最大86.6dB、防音室ありでは73.7dBと12.9dB軽減されました。こちらも親に聞いてみたところ「歌声が籠って聞こえるようになった」と言われるレベルに引き下げることができました。
また、プラスチックダンボールで作成したため、防音室内が明るくてとても快適です。歌の録音時以外は天井面に吸音材を接着すれば、さらに防音効果を上げることができそうです。
実験を始める前は「自分で作れるのだろうか」「防音効果は見込めるのだろうか」と不安でしたが、今回思い切ってやってみると、意外と簡単に作ることができ、達成感もありました!
そして何より、13,704円という低価格で、防音効果が得られて嬉しいです。これで安心して友人との通話や歌を歌うことができます!
あなたもぜひこの機会に夢の防音室を作ってみませんか。
この記事を書いた人
中井 七海(なかい ななみ)
近畿大学 理工学部 理学科 物理学コース2年生。
近畿大学 広報室でインターン中。
音楽とネコをこよなく愛しており、マイブームは家のネコのお腹を吸うこと。軽音サークルでボーカルを務めている。写真を撮ることが好きで、ライブでカメラマンをすることもしばしば。
編集:人間編集部
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