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2022.01.07

増加し続ける日本人女性の「乳がん」罹患数。コロナ禍の検診自粛や飲酒量に問題あり?

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
医療
乳がん

日本人女性の9人に1人が「乳がん」になる時代。早期に発見できれば9割以上が治るがんですが、罹患率及び死亡率は増加の一途をたどっています。最近では、コロナ禍で検診受診者も減少し、検診を先送りにした結果、本来ならば治療できていたはずのがんが進行してしまうケースも。乳がんの予防や治療を適切に行うには、若いうちから正しい知識を持っておくことが大切です。乳がんに詳しい医学部の菰池教授に今、私たちが知っておくべきことを伺いました。

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菰池 佳史(こもいけ よしふみ)

医師/博士(医学)/近畿大学 医学部 医学科 医学研究科 教授
専門:乳腺外科

乳がんの診断から外科治療・薬物療法まで専門的に扱っています。乳がんの罹患リスクの評価についても研究しています。薬剤感受性の早期判断や、患者さんの個別の対応ができるように努力しています。

近畿大学病院



9人に1人の確率! 日本人女性の乳がん罹患数が増え続けている?

そもそも乳がんとは、どれくらいの人がかかる、どのようながんなのでしょうか。また、どんな自覚症状があれば受診が必要なのでしょうか。まずはそうした基本的な疑問について、教えていただきました。

――日本人女性の乳がん罹患数が増加傾向にあるのはなぜなんでしょうか?

いくつかの要因があると思いますが、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響が大きいといえるでしょう。エストロゲンは初経が始まる少し前から分泌され始め、月経が定期的に来るようになってからは、月経のたびに大量に分泌されるホルモンです。エストロゲンには女性の体を健やかに保つための大切な役割がたくさんあり、女性にとってなくてはならない存在ですが、乳がんに対しては発生リスクを高める要因になってしまいます。
昨今は初経年齢の低下や出産回数の減少などにより月経の回数が多くなり、エストロゲンを分泌する期間も以前と比べて長くなっています。その影響により、乳がんの発生も増えていると考えられます。

女性の乳がん(上皮内がん含む)の推定罹患率(対人口10万人)


出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

――がんの中で、乳がんの割合はどのくらいですか?

2018年のがん統計データにおいて、男女合わせて罹患数の第1位は大腸がん、次いで胃がん、肺がんと続き、乳がんは第4位です。
女性のがんの割合においては乳がんが断然多く、現在まで30年近くにわたって女性のがん罹患数のトップとなっています。2018年の統計では、女性のがん罹患のうち、約20%が乳がんと診断されています。

部位別がん罹患数(2018年)


出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

――どんな症状があった場合、乳がんを疑えばよいのでしょうか?

乳がんの症状として最も多く見られるのは、乳房のしこりといわれています。
近畿大学医学部乳腺外科にて、過去に乳がんの手術を受けられた方の受診契機を調べた調査でも、1位「乳房腫瘤」60.7%、2位「症状なし(検診で異常を指摘された)」32.1%、3位「その他(他の検査で偶然発見された、乳頭分泌など)」7.2%という結果でした。
しこりがあっても乳がんではない可能性は大いにあるのですが、早期に発見することが重要なので、怖がらずに専門施設にご相談いただきたいですね。

――乳房の痛みとがんは関係ありますか?

乳房の痛みを訴えて受診される方も非常に多いです。しかし、痛みそのものは、乳がんとは直接の関係がなく、また、乳がんの進行状況ともまったく関係がありません。我々の施設で手術を受けられた乳がんの方では、痛みがある場合でもそれ以外の症状を伴っていることが多く、痛みのみで発見された患者数は全体の1%未満でした。痛みの有無に関わらず、先ほど紹介した乳房のしこりのような、気になる症状がある場合は受診していただいたほうがよいでしょう。


初経が早いと要注意? 乳がんになりやすい人、なりにくい人




乳がんには年代や体質、生活習慣などによってかかりやすさに違いがあるそうです。何によって変わってくるのか、特徴をいくつか教えていただきました。

――乳がんにかかりやすい年齢があると聞きました。何歳ぐらいになると注意が必要なのでしょうか?

日本人女性においては、30代から徐々に患者数が増え始め、40代になると急激に増加していきます。最も多くなるのは60代後半ですが、それとあまり変わらないくらい40代後半~50代、そして60代前半も患者数は多くなっています。個人差はありますが、40歳を過ぎたら注意しておいたほうがよいでしょう。
なおアメリカでは、乳がんの患者数が最も多いのは70歳代です。それと比較すると、日本人は若い年代でも乳がんにかかりやすい傾向があると言えます。

年齢階級別乳がん罹患率(2018年)


出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

――体質や生活習慣などによって乳がんのかかりやすさに違いはありますか?

最初にもお話ししたように、乳がんは月経に伴って分泌されるエストロゲンという女性ホルモンの影響を大きく受けます。そのため、初経が早かったり閉経が遅かったりというように月経の回数が多くなる場合は、乳がんの発生リスクが大きくなります。
出産経験の有無も乳がんのかかりやすさに関わってきます。妊娠・出産をするとその間、月経が止まるので、出産経験が多く、授乳経験が多い人は乳がんの発生率が低くなることが知られています。

また閉経後の肥満もハイリスク要素のひとつです。閉経前はエストロゲンが卵巣でつくられるのに対し、閉経後は脂肪細胞からつくられるようになるため、肥満で脂肪が多い状態だとエストロゲンの分泌量が多くなってしまうからです。
飲酒については、特に閉経前の女性において、飲酒量が多くなるほど乳がんの発生率が高くなるという報告が出ています。このほか経口避妊薬(ピル)の使用や閉経後の長期のホルモン補充療法も、乳がんの発生リスクを高めることがわかっています。

乳がんにかかりやすいといわれる主なリスク

月経関連・初経年齢が早い
・閉経年齢が遅い
出産関連・出産経験がない
・初産年齢が高い
・授乳経験がない
その他の体質・身長が高い
・異型乳管過形成など、乳房の病気にかかったことがある
・閉経後の肥満
生活習慣・一定量以上の飲酒の習慣
・運動不足

――乳製品や大豆イソフラボンをたくさん摂取すると乳がんになりやすいというのは本当ですか?

乳製品を摂取すると乳がんになりやすいとか、大豆製品・大豆イソフラボンを摂取すると乳がんになりやすいなどといううわさを耳にしたことがある人も多いかもしれませんね。ですが、それらのうわさには、まったくもって根拠はありません。特定の栄養素だけをあまりにも多くとりすぎることはおすすめできませんが、大豆イソフラボンの入ったサプリメントを適量飲んでいる程度なら、気にする必要はないでしょう。

――遺伝の影響はどうでしょうか?

乳がんの発生において、遺伝の影響は無視できません。近親者に乳がんや卵巣がん、前立腺がんにかかった人がいる場合、乳がんの発生率は高くなると考えられます。
また乳がんの中には、特殊な変異のある遺伝子が遺伝することで発生するものもあります。この遺伝子の変異は性別に関わらず、2分の1の確率で親から子に遺伝すると言われ、それを持つ家系では乳がんの発生率が高くなることがわかっています。このような遺伝子の変異があるかどうかは血液検査で調べることができます。乳がんを発症された方で特定の要件を満たす場合(年齢、多発、血縁者で乳がんや卵巣がんの方がおられるかなど)は保険診療、乳がんを発症されていない方が希望される場合は自己負担で、簡単な血液検査で調べることができます。ただ、遺伝に関する情報を知ることには、特殊な注意点があるため、遺伝カウンセラーとよばれる専門知識を持ったスタッフも含めて十分な説明と理解のもとにこのような検査が行われています。近畿大学病院でも、専門の遺伝カウンセラーによる外来を開設し、このような方に対する対応を行っています。


今は乳房が残せる? 早期に対策すれば9割以上が治るってホント?




最近では乳がんになったからといって、大きな手術をする必要はなくなっているそうです。乳がんと診断された場合、どんな治療が行われるのでしょうか。

――乳がんと診断されたら、どのように治療していくのでしょうか?

乳がんの治療は「手術療法」、「放射線療法」、「薬物療法(化学療法:いわゆる抗がん剤、ホルモン療法、分子標的治療)」の3つの方法を組み合わせて行います。例えば、手術でうまく病巣が切除できた場合でも、それで治療を終了するのではなく、術後も薬物療法や、必要であれば放射線療法を行います。そうすることで、がんが治る確率が高くなります。

手術に関しては、昔のような大きな手術をすることはほとんどなくなっています。多くの乳がんの患者さんで乳房を残すことも可能となったほか、不要にリンパ節を切除して体に負担をかけることもなくなりました。やむを得ず乳房を切除する場合でも、乳房再建を行うという手段も普及してきています。
また術後に行われる薬物療法についても、「サブタイプ」と呼ばれる乳がんの性質に基づき、個別に最も適した薬物を選択し、治療を行っています。

――乳がんを予防する方法はあるのでしょうか?

生活習慣についてエビデンスがあるのは、適度な運動をし、肥満を避けることです。乳がんのリスクになるといわれている要因のうち、改善可能なものは対策をすることで、間接的に予防をはかるのが、適切な予防策だと考えられています。
適度な運動を行う習慣をつけたり、ストレスを減らしたり、個人の嗜好のため、やむを得ない部分はありますが、飲酒や喫煙についてもたしなむ程度にしたりすることは、乳がんに限らず多くの病気の予防に役立つでしょう。特に肥満は乳がんの発生に関連するため、適度な運動とバランスのよい食生活を保ち、体重管理を行うことは有効です。

海外では、乳がんを発病しやすいと考えられる方を対象に、ある種の予防薬(ラロキシフェン、タモキシフェン)を使用することもあります。しかし、この薬には副作用の問題があるうえ、日本では保険診療で認められていないこともあり、一般的ではないというのが現状です。

近年は、前述したような乳がんにかかりやすい変異遺伝子(BRCA1/2遺伝子)を持つ人の場合は、将来的な乳がんの発生率を考慮し、乳がんの発生前に、予防的に両側の乳房を切除する(希望により乳房再建を行う)という方法が徐々に行われるようになりました。特に乳がんを発症してしまった人で、未発症の側の乳房を予防的に切除することが保険診療で行われるようになりました。未発症の方への予防的な切除(リスク低減手術)はまだ自費診療となります。

――乳がんを早く見つけるために必要なこととはなんでしょう?



まずは乳がん検診を受けることです。乳がんは早期発見・早期治療が原則です。特にステージⅠの段階で発見された乳がんの10年相対生存率は98.0%と、非常に良好な結果がでています。

乳がんの病期別10年相対生存率


出典:『がんの統計’21』資料編 13.全国がんセンター協議会加盟施設における10年生存率(2004〜2007年診断)

乳がんの好発年齢(40歳以上)になったら、ぜひ乳がん検診を受けてほしいです。2年に一度、お住まいの自治体から案内があったら、必ず受けましょう。最近は乳がん検診の大切さが理解されつつあるようで、2010年では39.1%だった受診率が2019年には47.4%になるなど、増加傾向にあります。

また、セルフチェックも有効です。定期的に行うことで、普段とは違う乳房の変化に気づくことができます。
セルフチェックによって、乳がん検診の時点ではがん細胞が小さすぎて見逃されてしまった進行がんが発見されることは少なくありません。閉経前の女性は生理が終わってから4~5日後、閉経後の人は毎月、日を決めて、月1回のセルフチェックを行うとよいでしょう。
その結果、もしも変化に気づいた場合は怖がらず、早めに専門施設に相談してください。

――コロナ禍で気をつけるべきことはありますか?

乳がんに限らずがん患者さんは、がんそのものの影響、そして化学療法をはじめとした、がん治療の影響により、体の免疫に関連する機能が低下していることが考えられます。ウイルスによる感染症である新型コロナは、免疫機能が低下すると感染の可能性が高くなるため、がんにかかっていない人に比べるとかかりやすい傾向にあるといえます。

乳がんにかかっていても、新型コロナのワクチン接種は可能です。できれば新型コロナのワクチンを接種し、感染や重症化を防いでおいたほうがよいでしょう。
ただし新型コロナのワクチンには、感染や重症化が予防できるというメリットがある一方で、様々な副反応が生じる可能性があります。副反応によるリスクよりも、重症化を防げるメリットのほうが上回ると思われるため接種が推奨されますが、心配なこともあると思いますので、主治医の先生とよく相談し、正しい理解を深めたうえで、接種するかどうかをご自身で判断しましょう。


文:山本尚恵
編集:人間編集部

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