2021.07.06
阪神・佐藤輝明選手って何がすごいの?筋肉の専門家と近大野球部の監督・後輩が証言!
- Kindai Picks編集部
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近大硬式野球部でリーグ通算本塁打記録を更新する見事な活躍を見せ、ドラフトではセ・パ4球団競合の末に阪神タイガースへと進んだ佐藤輝明選手。ルーキーイヤーとは思えないバッティングでファンを沸かせる彼の圧倒的な打撃力を支えるのは、これまた圧倒的なその肉体、その筋肉です。いまや球界で大注目の存在となった佐藤選手のすごみを、フィジカルの側面から徹底解剖します!
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では、その人並み外れたボディは、どのようにして形づくられたのか。なにがどう、規格外なのか。佐藤選手を間近に見てきた硬式野球部の後輩・恩師、さらにはNHK『みんなで筋肉体操』でおなじみの谷本道哉准教授の証言から、彼のマッスルパワーをひも解きます。
1999年3月13日生まれ。兵庫県西宮市出身。仁川学院高校から近畿大学を経て、2020年ドラフト1位で阪神タイガースに入団した左のスラッガー。ルーキーイヤーの今年は開幕戦からスタメンに名を連ね、その試合の初打席でプロ初打点を記録。2戦目には球団新人最速タイのプロ初ホームランを放った。王貞治氏や清原和博氏など、往年の大打者も活躍に太鼓判を押す阪神期待の星。身長187センチメートル、体重94キログラム。右投左打。年俸1,600万円(2021年)。
佐藤選手とともに汗を流した近大硬式野球部・後輩の証言
佐藤選手と近大打線を形成したこともある片岡主将(左)と蔵野副主将(右)。
まず最初に話を聞いたのは、現役の硬式野球部員・片岡大和主将と蔵野真隆副主将。その言葉からは、同じ釜の飯を食べたものだからこそ分かるリアルな佐藤輝明像が見えてきました。
――佐藤選手のここまでの活躍ぶりをどう感じますか?
片岡:身近にいた先輩が、ほど遠い存在になったというか。大学時代にどれだけスターでもプロで活躍できるかは別ものですし、もうちょっと苦労するかなと思っていました。でも、こんなに打っててほんまに偉大な先輩やと思います。
蔵野:いまはテレビでしか見ることないですけど、プロ1年目なのに雰囲気というか風格があって。連絡は取ってるんですけど、もう雲の上の存在になってしまいました。
――入団わずか3ヶ月ほどでスターになってしまったと。では、大学時代ともにプレーするなかで感じた佐藤選手のすごみとはなんですか?
蔵野:長打狙いだと、普通は打ち上げてしまうか、空振りするか、長打かの3択になるんです。でも佐藤さんの場合、バットに当たりさえすれば詰まった打球でもヒットに持っていける。これって、とてつもないパワーとセンスがないとできない芸当なんですよ。僕も打撃について相談したことがあるんですが、「メジャーの選手のスイングを参考にしている」と言われて。体の強さだったり、使い方だったり、すべてが規格外でとても真似できる技術じゃなくて。
――メジャーの視点で野球と向き合う。すでに大物の風格が漂っていたんですね!
片岡:僕が印象に残ったのは、なんといっても飛距離ですね。佐藤さんの前にランナーを出したら点が入る雰囲気がありました。それにコンディショニングにも気を使っていましたね。例えば食事でいうと、野球部の寮食では満足しない。寮食だけで済ませる部員を尻目に、佐藤さんは栄養のバランスを考えて、スーパーで買ってきた惣菜や野菜などで足りない栄養を補っていました。プロというか、野球でがんばろうっていう気持ちが伝わってきましたね。
現在の食事も、バランスに気をつけているのがわかる。YouTubeチャンネル『阪神タイガース 公式』より。
蔵野:そうそう! サプリとかプロテインにも詳しいんですよ。プロテインだったら「タンパク質〇〇グラム」とかあるじゃないですか。「ただ飲めばいいんじゃなくて、摂りすぎたら脂肪になるよ」みたいによく助言してくれました。
――学生ながらにプロ意識がすごい……!
蔵野:トレーニングにも佐藤さんなりの意図があったと思います。ベンチプレスだったら、シーズンオフは100キログラム前後の高負荷で筋肉を大きくして、シーズンに入ると負荷を半分程度に落として素早い動きに変える。野球のプレーはどれも瞬発力が大切なので、オンとオフで切り替えをしていたんだと思います。
近大野球部時代の佐藤選手のトレーニング風景。
片岡:蔵野が言うトレーニングのメリハリもそうですが、懸垂ってかなりしんどいんですが、めちゃくちゃな数できるんですよ。それを普通の顔でこなしていたのがすごいなと。あと、とても優しかったです。怒られることがなくて、マイペースな先輩。
――変な話で恐縮なのですが、佐藤選手の筋肉に触れたことは?
蔵野:はい、あります。入部してすぐに触らせてもらったのですがまず分厚いっすね。弾力があって、力を入れたら硬い。必要な筋肉をプラスアルファで蓄えている印象でした。この人には勝てないなって思いましたね。
――阪神ファン垂涎の体験ですね。では、最後にそんな先輩に期待することを教えてください。
片岡:日本だけじゃなくて世界でも活躍できるように。いずれは日本代表になって、メジャーのクリーンナップを打ってほしいです。それほどの選手だと思っています!
蔵野:佐藤さんの夢はメジャーリーガーって聞いてます。片岡と同じく、メジャーでいい成績を残してほしいと思います!
恩師から見た佐藤輝明って? 監督の証言
「プレー以外の面でも規格外の選手だった」と田中監督。
続いて話をうかがったのは、硬式野球部の田中秀昌監督。多くのプロ野球選手を育てあげた名将の口からは、佐藤選手の意外な一面も語られました。
――いまや阪神の顔といっても過言ではない佐藤選手ですが、ここまで早く活躍すると思っていましたか?
田中監督:まったく思ってませんでした。阪神の監督・コーチの指導で選球眼が改善しつつあるんでしょう。そこが大学時代との大きな違いです。
――高校時代から抜きん出たものがあったそうですね。
田中監督:佐藤選手と初めて会ったのは、彼が高校3年生の6月。練習をひと目見て、プロに行ける素材だと確信しました。スイングが速く、パワーもある。当時は捕手でしたが、2塁送球が1.8秒台と肩も強い。おまけに50メートル走は6秒台で。
――あの長打力で強肩かつ俊足……、恐るべき選手ですね。
田中監督:大きい体でありながら、打つだけではない選手に出会えたのは初めてです。とはいえ、やはり遠くに飛ばす能力が一番光っていましたね。正直、持って生まれた才能なしに場外へは打てませんよ。
――そして近大に入学。教え子になった佐藤選手にはどのように接しましたか?
2019年の佐藤選手。当時から打者としての貫禄はプロ顔負けと称されていた。
田中監督:肉体的なことは本人が研究熱心なので、私からはなにも言ってません。個人練習はほんとによくやっていて、懸垂なんか94キログラムの体重でなん十回もできますから。こちらから伝えたのは、間の取り方やバットトップの位置といった技術面。打てる形をつくるのが、我々の役割でした。
――自主性を重んじていたんですね。
田中監督:試合ではワンバウンドを振ろうが、高めの釣り球を振ろうが起用し続けました。結果、二岡くん(智宏=近大OB、現・巨人三軍監督)が持っていた関西学生野球リーグの通算本塁打記録を更新。自分が見てきたなかで飛距離はナンバーワンじゃないですかね。
2018年の神宮大会一回戦で、特大HRを打った佐藤選手。
――地道な取り組みが実を結んだわけですね。さぞ精神的にも強い選手だったのでは?
田中監督:いや、ほんとマイペースなんですよ。「お前はチームの中心だから、泥だらけになったらチームの士気が上がるで」と言うても、まぁやらないですね。4年生のときには副主将に指名して責任感を持たせたはずが、あまり変わりませんでした。裏を返せば、そんな周りに左右されない性格がプロの世界にマッチしているのかもしれません。
――周囲の動向に流されないマイペースさは、確かにプロの世界で重要ですね。
田中監督:打席に立つと、10年選手のような顔つきというかね。大山(悠輔)選手が離脱して、大学時代と同じサードを守ることもありましたが、水を得た魚のように映りました。
――ファンの期待はますます高まると思います。今後はどんな選手を目指してほしいですか?
田中監督:優勝に貢献する、愛される選手になってほしいですね。エンゼルスの大谷翔平選手のような。高校野球の監督時代に大谷選手と話したことがありますが、人間的にも非常に実直です。ああいう選手を目指してほしいですね。
――後輩たちはメジャーリーグでの活躍も期待しています。
田中監督:本人にも憧れがあるのは知っています。ただ、教え子の黒田くん(元・ドジャースなど)とも話すんですが、野手でメジャーは並大抵ではありません。まず阪神でしっかり結果を出して、その先を考えてほしいですね。
佐藤選手を動物に例えると……? 谷本先生の証言
筋肉の専門家から見た佐藤輝明とは?
ここまでの話で明らかになったのは、佐藤選手が心身両面で天性のスラッガーとしての資質を備えているということ。さて、最後は生物理工学部の谷本道哉准教授に、科学の視点から活躍の理由を分析してもらいます。
近畿大学 生物理工学部 人間環境デザイン工学科 准教授。筋生理学、トレーニング科学を専門とし、NHKの『みんなで筋肉体操』などメディア出演多数。効果的な運動の方法を分かりやすく解説する一方、「筋肉は裏切らない」をはじめとする名言も数多く残す。
――近大OBの活躍を受けて、率直な印象を聞かせてください。
谷本先生:とにかく飛距離が尋常じゃない。同じホームランでも「どこまで飛ぶんだ」という打球を見ると、ワクワクしますよね。打撃成績に飛距離は関係ありませんが、プロスポーツは娯楽の要素も強い。それこそ、空振りしてもお客さんを呼べるようなスター性がありますね。そんな選手が近大出身というのは、教職員の1人としてうれしく思います。
――エンターテインメントの側面で見ても長けていると。
谷本先生:『半沢直樹』もそうですけど、自分がやりたくてもできないことを誰かがやってくれる快感ってあって。思いきりぶん回してホームランを打つのは、できる人にしかできないわけですよ。それを痛快にやってくれる。スカッとした気分になれますよね。やはりスポーツは才能ですよ。
――スポーツは才能……逆の意味で身に覚えがあります。そこに努力を積み重ねていまのボディがあるわけですよね。
谷本先生:筋肉どうこう以前に、彼はバットを振るのも、ボールに当てるのもうまい。そのうえでのフィジカルです。背が高く体重もある。もう全身の筋肉量が多いんですよ。脚も太いし、ウエスト周りもがっちりしてますしね。エンジンの基本性能としては、筋肉量に比例して発揮できるパワーは決まる。野球は全身を使いますからね。それに必要な全身の筋肉がじゅうぶん備わっていると思います。
佐藤選手の圧巻のホームラン集。YouTubeチャンネル『虎バン 阪神タイガース応援チャンネル ABCテレビ公式』より。
――磨いた技術をフルに活かせる肉体なんですね。
谷本先生:手足の長さも特徴です。理論上、手足が長いと同じパワーでもそれがより長く発揮されるので生み出すエネルギー量が増えます。時速160㎞を超すボールを投げるピッチャーも、高身長で腕が長い人が多いでしょ。佐藤くんとは在学中、実験で会いましたけど、腕が長いなという印象があります。
――佐藤選手の動作を見て気づいたことはありますか?
谷本先生:投球の実験をしたことがあって。球速はピッチャーなみだったんですけど、ちょっと変わった投げ方でしたね。
――というと、どんな投げ方でしょうか?
谷本先生:いわゆるアーム投げです。通常、ピッチングは腕を軸上に大きく外にひねってから内側にひねる「内旋」の動きを主に使いますが、佐藤くんの場合は腕の「ひねり」よりも、肘を伸ばして腕を「振る」動きを強調したフォームに見えました。一般的に上手とされるセオリーの投げ方とは違っていて球速が出にくいはずなのに、彼の場合はスピードが出ていました。
内旋投げは、腕の軸上のひねり動作を主とする投球フォーム。
――なるほど。アーム投げについてもう少し詳しく聞かせてください。
サッカーのキーパーのロングスローがありますよね。腕をひねる内旋は使わずに腕を振る動きだけで投げる。すると、重いボールを遠くに投げることができます。ただ、軽い野球のボールを同じように投げても、球速は出にくい。アーム投げもそれに近いんです。つまりは重いものには重いもの、軽いものには軽いものなりの投げ方があると。
腕全体を大きく振って投げるアーム投げ。
――確かに!
谷本先生:ピッチングにおいて内旋の動作が有利なのは、腕をひねる方向に対して大胸筋・広背筋の付着部が近いから。てこの力点と支点の距離が短いということです。すると、力は出ないぶんスピードが出る。野球のボールのように軽いものなら、内旋の動きが適していることになります。
――少しややこしくなってきました……。が、佐藤選手はそんな定説もはね飛ばせるということですよね?
谷本先生:アーム投げでは、主に腕を振る動作になりますが、振る動作に対しては大胸筋・広背筋の力点と支点の距離は長くなる。大きな力は生まれるけど、速さは出しにくくなります。重いボールには向いているけど軽いボールには向かないはずです。もしかすると佐藤くんは腕を振る方向に対する大胸筋・広背筋の付着部が人より近くに位置する「スピード型」の構造なのかもしれない。それが腕の長さと相まって、アーム投げで速いボールを投げられている可能性があります。
2019年の対同志社戦で、フルスイングを見せる佐藤選手。
――そうした体の構造はバッティングにも影響しますか?
谷本先生:そもそもこの構造の話が推測にすぎないのですが、可能性はあります。スピード型は力で不利になりますが、彼の筋肉量であればバットはそれほど重い負荷ではないのかもしれません。
――そもそもの体のつくりが違う可能性があるとは、驚きと同時に納得です。
谷本先生:アーム投げは少年野球とかだと直されることもありそうですけどね。個性を伸ばす考えの指導者だったのでしょうか、佐藤くんが自分の考えを通したのでしょうか。
――では、現在の成績を向上させるうえで必要なものはなんでしょうか?
谷本先生:賛否分かれる所かもですが、さらに筋肉量を増やしても良いと僕は思いますよ。飛距離がさらに伸びるでしょう。筋肉量を増やすには脂肪も合わせて体を大きくするのが近道です。多少脂肪がついても野球の動作の妨げにはさほどならないでしょう。InBody(近大にも導入されている体成分分析装置)のスコアは大学時代から満点と聞いていますが、これは体脂肪率が低い証拠。つまり、さらに筋肉量を増やせる余地があるといえますね。
――筋肉をつけすぎると動きにくくなるイメージがあります。
谷本先生:筋肉がスイングの邪魔になるというのは考えにくいです。例えは悪いですが、90年代後半のメジャーリーグではドーピングに手を出した選手がホームラン王を争っていたじゃないですか。あれだけ筋骨隆々で70本も打てるわけですからスイングの邪魔にはまずならないといえるでしょう。
――まだまだ成長する素質を秘めているとは! 向かうところ敵なしでは?
谷本先生:最大の敵はケガでしょうね。F1の車って走ってるだけで壊れますよね。でも、軽自動車ってそうそう壊れないじゃないですか。人間も同じで、高出力のパフォーマンスは体のあちこちに局所的な負荷を与えます。そこは無理せず。
――めちゃくちゃ分かりやすい例えです。
谷本先生:なので「素振り1,000回」といった量に頼る方法ではなく、「できる練習量に上限がある」ことを念頭に置いて、限られた量の中で質を求めて練習に取り組むことが大切。特に関節には注意が必要です。症状が出にくいため、痛めていても無理ができてしまうからです。
――圧倒的なフィジカルだからこそ考えて取り組む必要があると。ところで、野球部の後輩から「佐藤さんを動物に例えると?」という質問が届いています。
谷本先生:ずばり「サトウ」ですね。動物に例えるのは、動物のほうが優れている前提での話ですよね。走ったり跳んだりといった動作でヒトは動物にかないませんが、投げる、打つは人間固有の動きでどんな動物より秀でてるんですよ。佐藤くんのようにすごいバッティングのできる動物は絶対いません。答えは「野獣・サトウ」としておきましょう。
――野獣・サトウ、すごく腑に落ちました……! では、そんな佐藤選手に向けてエールを。
谷本先生:自分らしいプレーを堂々と貫いてほしい、これがファンとしての要望です。専門家としては、筋肉はもっとつけて構わないので、さらにハイパフォーマンスを見せてほしい。そのためには一つひとつの練習をていねいに、量より質で。パワーがあるのでそうしないと体がもたない。それくらい強いパワーを秘めた野獣、それが佐藤くんですからね。
佐藤輝明は“物怖じしない野獣”だった
佐藤輝明という野球選手について、メディアで見聞きする以上の非凡さを痛感することになった今回の取材。強靭なフィジカルは、周囲に物怖じすることなく自らの意志を貫ける、こちらも強靭なメンタルに支えられていることが分かりました。加えて、まだまだ「巨大化」の余地を残していようとは、楽しみがひとつ増えた気分です。2021年シーズン、佐藤選手はどれほどの成績を残すことになるのか。さらにその後は……? 近大が生んだ稀代の野獣の足跡、じっくり見届けていきたいと思います。
取材・文:関根デッカオ
企画・編集:人間編集部
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