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世界に誇る「早慶近」が、日本の高等教育をぶっ壊す!

第六部全体会

Kindai Picks編集部

2018.05.25

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OB・OG・在学生
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ビジネス
KINDAIサミット
キャリア

世界大学ランキングにおいて、日本の私立総合大学でランクインしたのは早稲田大学・慶應義塾大学・近畿大学のみ。それぞれの大学トップ経験者が、今の高等教育の問題と、グローバル人材に必要なことについて語り合う。

<KINDAIサミット2017 第6部全体会『“早慶近”~世界で戦うための教育・研究とは?~』より>

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スピーカー
安西祐一郎
独立行政法人日本学術振興会 理事長
1974年、慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程を修了。カーネギーメロン大学心理学科客員助教授、北海道大学文学部助教授等、慶應義塾大学理工学部教授を経て2001年慶應義塾長に。2011年より独立行政法人日本学術振興会理事長。


鎌田薫氏
早稲田大学 総長
1970年、早稲田大学法学部を卒業。同大学助手、助教授、教授、大学院法務研究科長を経て、2010年第16代早稲田大学総長に就任。教育再生実行会議座長も務め、日本の教育改革を推進するため数々の重要提言を行っている。


塩﨑均
近畿大学 学長
1970年、大阪大学医学部を卒業。ハイデルベルグ大学留学、大阪大学第二外科助教授、近畿大学医学部第一外科教授、同附属病院長、同医学部長を経て、2012年より近畿大学および同短期大学学長に。外科医としての専門は上部消化管外科。



モデレーター
福原賢一
株式会社ベネッセホールディングス 代表取締役副会長
1976年、京都大学法部を卒業 。同年、野村證券株式会社に入社。その後、野村證券株式会社取締役、野村リサーチ・アン ド・アドバイザリー株式会社代表取締役社長などを経て、2004年株式会社ベネッセコーポレーション入社。2017年より現職。



※冒頭の広告紹介者
世耕石弘
近畿大学 総務部長
1992年、近畿日本鉄道に入社。 ホテル事業、海外派遣、広報担当を経て2007年に近畿大学に。2013年より広報部部長代理、2017年より総務部長。水上競技部長も兼任。




*肩書きはセッション開催当時のものです



世界でランクインされている大学は「早慶近」だけ


世耕:2017年の正月に『早慶近』というキャッチコピーで新聞広告を出しまして、おかげさまで話題になりました。まずはこちらの件について、近畿大学総務部長である私の方から経緯をご説明させていただきます。

今の大学の世界は入れ替え戦のないリーグになっています。関西には3つのリーグがありまして、まずは1部リーグの「京阪神(京大・阪大・神大)」。何十年も順位が入れ変わることはなく、大阪大学はどれだけ頑張っても入試では京大に勝てないし、神戸大学には絶対に負けないという状況が続いている。その背景には旧制高校で帝国大学だったとか、もともとは商業大学だったとか、そういうつまらない価値観が根強く残っているからです。

続いて2部リーグの「関関同立」。これは何か基準があったわけではなく、昭和40年代に夕陽丘予備校の校長先生が、名前で括っただけ。カンカンドウリツという韻の踏み方で、頭に残りますよね。そして我らが3部リーグ「産近甲龍」ですね。

1992年くらいには204万人いた18歳人口が、今は118万人。そして2031年には100万人を切る見込みです。そんな中、我々近畿大学は、関西トップの私立大学を目指すんだというのを強く決意しています。そのためにはまず、古い価値観をぶっ壊す必要があるんです。

本当に近大にそんなことができるのか?と言われることもありますが、Times Higher Educationの『THE世界大学ランキング』を見ると、日本の私立大学でラインクインしているのは早稲田、慶應、そして近大だけ。関西では3部リーグと言われているけど、世界では教育力も研究力も評価をされているということです。それで『早慶近』というキャッチコピーの新聞広告を出したというわけです。

でもインターネット上では賛否両論ありまして。2chには『【悲報】近畿大学さん、「早慶近」とかいうとんでもないキャッチコピーを作り出す』というスレッドが立ち上がったほどです(笑)。それでも読売新聞の広告大賞でグランプリをいただきました。ただしその時の評価コメントは、「大胆不敵で懲りないアプローチ、ユーモアがある厚かましさ」。ひどいですね(笑)

さて、そんな中、本日は元慶應義塾長や現早稲田大学総長に来ていただいておりまして、我が近畿大学の学長と一緒にセッションを行っていきます。みなさん、よろしくお願いします。



日本のプレゼンスは下がる一方。どうする高等教育?


福原:私は1970年代の末に留学をして、そのまま1988年までロンドンで金融資本主義黄金時代のど真ん中で働いていました。その時と比べると、今の日本はプレゼンスがどんどん低下しているという危機感があります。これを教育という側面から紐解いていきたいですね。


鎌田:以前は「早稲田はこんな大学だ」というイメージがあったと思いますが、最近の受験生は「たまたま偏差値がちょうど適していたから」といった理由で来る子が多いように思います。非常に個性豊かな学生が集まってその中で切磋琢磨して自分の個性を伸ばしていくのが早稲田大学でした。それが単色化している。次の新しい時代に向けてチャレンジして切り開いていくイノベーティブな人材を育てていかなければいけない時に、これで果たして大丈夫なんだろうかと。これが最大の課題です。



早稲田大学 総長 鎌田薫氏


安西:私学として歴史を作っていくためには、やはり筆舌に尽くしがたい苦労がありますよね。慶應義塾の場合、塾を潰そうかということもありましたし、戦前は旧帝大系と比べて卒業生の給与が圧倒的に低いという時代もありました。そんな中で独立自尊を貫くのが非常に大事。

また、慶應義塾は非常にローカルです。早稲田大学の名称はアジアであれば通じますが、慶應義塾はほとんど通じません。国際化の関係部署は一生懸命やっているのですが、関係ない部署の人たちにとっては「あぁ国際関連の人たちが頑張ってるね」という感じで。大学全体で意識を共有することの大切さを痛感しています。


塩﨑:私が学長になって一番苦労したのは、キャンパスをいかにまとめるかです。近畿大学は大阪だけでなく福岡や広島など合わせて6つのキャンパスがありまして。もう一つはOBOGや現役学生、そしてもちろん教職員も含めた「オール近大」をいかに作っていくかです。今日のこのKINDAIサミットもそうですし、普段も毎月必ず全国の学部長と一緒にお昼ごはんを食べながら、意思統一を図っています。


福原:グローバル化については、近畿大学は2016年4月に新しく国際学部をスタートされましたよね。1学年500人という大規模な学部で、当グループも構想当初からお手伝いをさせていただいております。ここに入学された学生さんは、1年生の時に全員留学をすることになっていて、TOEICの平均点は留学前469点・留学後700点となっています。中には220点から806点になった学生さんもいるとのことで。これはもう近大マグロを凌ぐ快挙ではないでしょうか。


塩﨑:これは私が学長になった6年前からずっと言っていたことで、「KINKI University」から「KINDAI University」に変えようと。これがやっと国際学部の新設に合わせて実現できました。他の学部の教員も英語で講義できることを原則にしていますし、これをきっかけに大学全体をグローバル化していきます。



海外ではこれが当たり前。やっぱり日本は島国!?


福原:みなさん、海外で学んだり教えたりした経験もあると思いますが、世界の大学と日本大学との違いはどういったところにありますか?


鎌田:私はフランスに留学したのですが、フランスはすべての大学が国立で、授業料はタダでした。高校卒業資格を取った人は全員受け入れるので、日本の国立大学とはあり方が全く違うのですが。それと日本の大学は途中でドロップアウトすると、高卒資格のままですよね。フランスは、例えば大学で2年間法律の勉強をしてやっぱりなじめないなと思った時には、ちゃんと国から法学部2年課程終了の資格がもらえます。

日本は入学時の偏差値でランキングされていますから、大学に入ってからの学問に対するモチベーションはあまり高まらないですよね。また、アメリカは私立大学が多いのですが、寄付文化が定着していて学生個人の負担は少ないですし、研究資金も豊富ですね。


福原:入学後のモチベーションについては、企業も学生が大学で何を学んできたのかを重視しておらず、そういう点も問題なのかなと思っています。高度成長期から日本の大企業は、被訓練性が高い人、つまり勉強の偏差値が高い学生を好んできた。それが今の国際競争力のなさに繋がっているような気がします。


安西:私がいたカーネギーメロン大学は、学生数は5,000人くらいで小規模ですが、大学ランキングでは東大より上に入っています。かと言って科学技術の研究ばかりしているわけではなく、ミュージシャンやブロードウェイの俳優もたくさん輩出しています。学長を誰にするかということから始まり、世界的に優秀な研究者を一本釣りをしたり、学生をどうやって集めるのか考えたりと、かなりの努力をしています。その中でも、大学の評価に直結するのは「どういう卒業生を輩出するか」だと思います。端的に言えば、卒業生がその後どういう活躍をしてくれるのかですね。


福原:企業側もぜひ大学に多様な人材を見出していただきたいですね。塩﨑先生のドイツ留学についてはいかがですか?


塩﨑:1978年ですからずいぶん昔の話になりますが、一番感じたのは日本の大学も企業も、いかに閉鎖的かということです。まさに島国だということを実感しました。私は日本で医師の資格を取ってから留学したのですが、ドイツでは言葉が理解できればそのまま日本の医師免許が使えます。でも逆はダメ。しかもドイツでやった解剖の症例数は、日本ではカウントされません。


福原:私のところでは介護をやっているグループ会社があるのですが、介護業界の有効求人倍率は9倍、正規雇用の場合は17倍もあって完全に人材不足です。にもかかわらず、海外で介護をやっていた人が日本に来たら、また日本で試験を受けないといけない仕組みです。同じようなことは各分野で起きているのかもしれませんね。



早押しクイズ教育は、もうやめにしよう。


福原:今後の日本の高等教育を引っ張っていく上で、みなさんはどういったビジョンをお持ちでしょうか。


鎌田:早稲田大学では、2012年に中長期計画『Waseda Vision 150』を策定しました。20年間の長期計画で、4つのビジョンをもとに13の戦略と75の具体的プロジェクトを掲げています。大学のミッションって教育と研究と社会連携なんです。例えば教育面では洞察力と人間力を備えたグローバルリーダーの育成という目標を立てています。グローバル教育というのは語学力のことだけでなく、価値観や文化的背景が違う人たちの中で説得したり信頼を得たりできるようにすること。そのためには大学の授業を一方的な知識の詰め込みではなく、自分の頭で課題を発見しそしてそれを解決するようなものにしなければなりませんし、大学入試も変えていかなければなりません。


安西:あとは世界で一流の大学として認められるためには、やっぱり研究のレベルが高くないといけない。日本の私立大学の場合、どうしても旧帝大と比べて研究予算が厳しい。ただし、国立大学はある意味一枚岩で動きにくいところもありますので、私学の方が個々に努力すればその分報われやすいとも言えます。それと入試改革というのは、本当は教育改革からなんです。幼稚園や小学校まで含めて教育全体でアクティブな人材を作っていかなければいけない。どうしても枝葉末節のところが取り上げられることが多いのですが、これからの時代を考えると、入試を含めて教育のあり方を私学が汗をかきながら変えていくことが必要です。



独立行政法人日本学術振興会 理事長 安西祐一郎氏


福原:繰り返しになりますが、そのためには就職試験も変えていく必要がありますね。今はそれを理由に留学を諦める人もたくさんいます。


塩﨑:私は企業のトップの方とよくお話する機会がありまして、企業としてはどういう人が欲しいのかをお聞きすると「素直な人」や「やる気のある人」といった答えが返ってきて、これは近大の建学の精神である「実学教育」にも繋がるところがあります。グローバルに対応できるためには、やはり英語ができても中身がないと通用しません。英語はもちろん大事ですが、人間としてしっかり成長させていくことが大学に求められているのだと思います。



近畿大学 学長 塩﨑均(写真右)


鎌田:例えばフランスでは、理系だろうが文系だろうが、全員必修科目で最初にやるのは哲学です。入学試験も哲学を4時間かけてやります。その中身は哲学者の解説みたいなものが並んでいて問いに答えるのではなく、自分でお題についての文章を書くんです。そして全国一位になった人は、世界的にも有名な一流紙に全文掲載される。

こういった文章をちゃんと書けるような訓練を小学校から高校までずっとやってきた国の人たちと、日本でそれこそクイズ王養成みたいな4択で出たらパッと押す、何秒で答えが出せるか、といった教育をやっているところでは明らかに差がついてきています。またアメリカでは、2011年時点で小学校に入った子供が大学を出る頃には、65%の人は今は存在しない職業に就職すると言われている。そういった中で既存の知識を山のように詰め込んだって、何の役にも立たないじゃないかと思うんです。


安西:それと、明るくて人の嫌がることを引き受ける、人の気持ちを感じることができる。そういった人が、大学のキャンパスで育っていくといいですね。


塩﨑:私はすごいシャイな子供で、小学中学校では授業中に手を挙げたことは一度もありませんでした。でも今はこうやってみなさんの前で話をしている。つまり一つひとつ成功体験を積み重ねていくことで、性格は変わらなくてもいいのですが、人格というものは作られていきます。大学に入ってからでも、人はいくらでも変えていけます。日本の文化や幼少時代の環境というのもありますが、今の若い人たちは、ぜひ世界に目を向けて自分を成長させていって欲しいと思います。

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