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雑学・コラム

2018.03.29

レトロゲームマニアの聖地だった近大前「あうとばぁん」の今と”あの看板の謎”に迫る

Kindai Picks編集部

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コラム

近大西門の前で、ただならぬ存在感を放つ赤い外壁と赤い看板の店「あうとばぁん」。店の中がどうなっているのか気になっている人も多いと思いますが、看板のデザインに疑問を抱く人も多いのではないでしょうか?この看板の謎を解明すべく突撃取材を決行。閉鎖された2階にも潜入してきました!

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こんにちは、株式会社人間のトミモトリエです。

近畿大学東大阪キャンパス西門の目の前にある、赤い外壁が際立つ2階建の建物。

これ、何の店だかわかりますか?

定食屋やラーメン屋が所狭しとひしめく通りに、ここだけやたらと広いのも目立っていますが、まず、斜めに掲げられたこの「看板」に疑問を抱く人も多いのではないでしょうか?



んぁばとうあ……?


………あっ!

逆から読んで「あうとばぁん」?

でも、何で逆向きなんだろ?
筆で書いたような書体も含めて、何を狙ったデザインなんだ……?

……そもそも、何の店???

窓はたくさんあるのですが、店内は薄暗く、チェーンで一つの入り口以外近づけないようになっているので、遠目から見るとよくわからない。

とにかく入りにく〜〜い雰囲気。

しかし、あまりに気になるので恐る恐る覗いてみると………



まさかのゲーセン!!!!

しかし、外観店名看板のデザインもミスマッチだし、薄暗い店の雰囲気にきらびやかなゲーム筐体が浮きまくってる。



というか、入り口入っていきなり「ラブライブ!」の音ゲーが8台って、多過ぎじゃない?

※「ラブライブ!」とは、架空のスクールアイドルユニットを中心に展開するユーザー参加型のメディアミックス作品で、雑誌、アニメ、ゲーム、実在の声優ユニットにまで及ぶ人気コンテンツ。アーケードゲーム版「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル~after school ACTIVITY~」は、リズムアクションゲーム。



ん……?



よく見るとこのゲーセン……



音ゲーしかない……



音ゲー専門店!?

外観からも、看板からも全く想像できない、音ゲー専門のゲームセンター「あうとばぁん」。

大学前の好立地で、こんなニッチなゲームセンターをやっている理由は……?

ゲームセンターとは思えないデザインの看板はいったい何を狙っているの……?

あまりに気になるので、お店の人に聞いてみました!



音ゲー専門店にした理由とは?




すみません、このお店っていつからやってるんですか?ゲーセンとは思えない外観だったので、入ってびっくりしたんですが……


あ〜、僕が店長になってからまだ2年くらいなんで、こういう形体にしたのは結構最近なんですよ。元々親父が長いこと店やってて、2010年頃までは昭和のレトロゲームが10円とか30円で遊べる店だったんです。

えっ!それはそれで凄い話なんですが、どうしてまた「音ゲー専門店」にしたんでしょうか?


メンテナンスが楽だから(笑)



え。



まあ、UFOキャッチャーとかプリクラとか入れた方が人は入るんだろうけど、メンテナンスが面倒なんですよ。実は、一度外の業者に経営を任せてそういう感じにした時もあったんですが、上手くいかなくて。僕が店長になってからは、完全に割り切って音ゲーだけに絞ったんです。

大学の目の前で、これだけ広さもあると、もっと色んな人が遊べる店にした方が儲かるんじゃ?と思ってしまうんですが……


ゲームしながら1人で店番できるくらいがちょうどいいんで(笑)



面倒くさがりか……





看板のデザインは誰が考えたのか?


あと、外の看板のデザインも気になるんですが、どうしてあんな逆から読むようなデザインにしたんですか?筆で書いたような日本語の書体も、ゲームセンターとはミスマッチじゃないですか?

それは親父に聞いてください。



それは私が考えたんですが、簡単に言うと変な看板の方が目立ちそうだからです。

って、お父さんだったんですか……!!(めっちゃファンキーなお父さんだ……)じゃあ、目立たせるために逆さにして、あえてあの書体に!?

そう。でも、今の看板になるまでに色んなデザインがあったんです。元々喫茶店時代の店名だし。


ここって、喫茶店だったんですか?




図に書いて説明してくれるお父さん。

もう何十年も前の話だけどね。その前は中華料理屋だった。でも、その時は4分の1の広さだったけど。


最初からこの広さじゃなくて増築していったってことですか?



うーん、ややこしいから図と写真で説明するけど、最初は私の親父が「ラーメンと餃子」の店をやってたの。私が大学1年の頃。それが、この「1」の場所。「2」「3」「4」は全部他の家や店だった。



なるほど!



ちなみに、私は近大の経営学部に通ってたんですが、店も大変だったから毎日親父の手伝いをして、よく近大に出前に行ったりもしてた。これがその頃の写真。



1973年、ラーメンと餃子の店をやっていた頃。右の女性は2000年に亡くなったというお父さんの奥さん(店長さんのお母さん)で、左はお父さんのお友だちだそうです。近畿大学の西門がなく、旧本館がそのまま見えています。


看板が斜めなのは最初っからなんですね。



そう。私の父が「片付けなくていいのぼり」をイメージして斜めにしたって言ってました。


片付けなくていいのぼり…!それをずっと引き継いでるんですね。



一度「北京飯店」って店に変わって、その後、私が大学を卒業してから店を継いで、「カフェテリア アウトバーン」って喫茶店にリニューアルしたんです。その時は看板も英語でもっとモダンな感じだった。

1977年、白黒でモダンな雰囲気のカフェテリアアウトバーン。

うわー、今と全然違う雰囲気ですね。時代を感じる!ちなみに「アウトバーン」ってどういう意味ですか?


ドイツの高速道路の名前らしいけど、たまたまテレビのニュースで「アウトバーン」って言葉聞いて、響がかっこよかったからそれに決めた。

そんな安直に決めたんですか(笑)



でも、店の中は中華料理屋のままだったから使い勝手が悪くて、その後「2」の場所が空いたから移転したんです。その時「喫茶室あうとばぁん」に改名して、インパクトを付けたくて逆から読む看板にした。

この写真見ると看板に「喫茶室」って書いてあったんですね。位置もたいぶ下の方にありません?



1981年、27歳のお父さんと1歳の店長さん。この位置にあった「喫茶室」の部分は可動式だった。この頃は西門もある。

この頃は看板が2つに分かれていて、この上に「あうとばぁん」の看板があった。下の「喫茶室」の部分は、閉店時は店内に収納できるように可動式にしてたんです。ぶつかると危ないし。

なるほどー!で、最初に喫茶店をやってた「1」の場所はどうしたんですか?


そこでゲームセンターを始めたんです。当時はゲームセンターっていう言葉もなくて、空いた場所にゲームを置いてただけなんだけど。その後「3」の場所も借りてゲームセンターを広げて、数年後に「4」の場所も空いたから更に広げた。


1984年頃の店内。昭和のアーケードゲームがたくさん。

ゲームセンターの方が儲かったんですか?



いや、そんなに儲かるもんじゃないけど、ゲームと両替機置いておけば良かったから、人件費かからないし、楽だったんです。


ん?でも、喫茶店の方が「あうとばぁん」だったってことは、その時のゲームセンターの名前は?


特に名前は付けてなかった(笑)



名前なかったんか……!!



そう。で、その数年後に私が骨折して喫茶店を続けられなくなって、4軒ともゲームセンターにしたんです。その時に下の「喫茶室」を外して上の看板だけ残したから、そのままゲームセンターの名前が「あうとばぁん」になった。

な、なるほどーーーーー!!!想像以上に長くてややこしい話だった……(笑)




2階はレトロゲームマニアヨダレもんの宝の山!




ところで、ここ、階段がいくつかあるじゃないですか。「本日閉店しました。」って書いてあるけど、2階は何があるんですか?


昔は2階も全部ゲームセンターとして営業してたんですよ。今は閉めてるけど。


じゃあ、今も昔のゲーム機が残ってたりするんですか?



全部残ってるよ。テーブル筐体とか、全部で200台くらいある。



それって今も動くんですか?



2010年の時点では全部動いてたね。もう8年以上電源つけてないからわからないけど。


2階…見せてもらえたりします?



ダンボールだらけで完全に物置になってるけど、ええよ。





ひえええええ!!ダンボールに埋もれてるけど、これ、レトロゲームマニアからしたら宝の山じゃないですか……!!


2階も開けてた頃は、噂を聞いてわざわざ遠くから来てくれる人たちもいたんですよ。10年ぐらい前に、フランス人がツアーを組んで来たこともありましたね。

だってこれ、博物館レベルですもんね……。テレビの取材は来てないんですか?



この辺は比較的新しいゲーム。『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』『鉄拳タッグトーナメント』『THE KING OF FIGHTERS '97』など。

テレビの取材も何回か受けたことありますよ。テレビ朝日の『ザ・レジェンド』って番組で、藤井隆さんと陣内智則さんが来たり。あと、NHKの『プロジェクトX』の淀川工業高校グリークラブが題材になった「ファイト 町工場に捧げる日本一の歌」で、不良がたむろするゲームセンターのロケ地はうちの2階です。あの後、過剰表現が問題で番組終了しましたが……

えー!!問題になってNHKが謝罪したやつですよね!?それにしても、今は探そうと思ってもこんな場所なかなかないですよね……。やっぱり再開するのは難しいんですか?

儲かる方法があるなら再開したいけど。いや、儲からなくてもトントンになればいいんだけど、動かしたら電気代だけで赤字になるから。


100円を10円玉に、50円玉を10円に両替する両替機。

そうか……そりゃそうですよね……。1プレイ10円とか30円って、どう考えても電気代で赤字ですよね。


わざわざ来る人たちも懐かしむだけで、実際そんなにゲームしないんですよ。100円あれば存分に遊べるし、ほとんど昔話して満足して帰って行く。

そうか……。でも、2010年までここを開けてたこと自体凄いことですね。全部動いてたっていうのも凄い……。


今も動くと思うけどね。ちょっと電源点けてみよか。




1979年に登場した任天堂のガンシューティングゲーム『Sheriff(シェリフ)』。スーパーマリオの生みの親の宮本茂さんが筐体デザインを手がけた。

おお、点いた!!



8年ぶりに電源入れたよ。これは任天堂の『シェリフ』。任天堂も当時はまだそんなに有名じゃなくて、ファミコンとかゲーム&ウォッチよりも前にこういうゲームセンター用のゲームを作ってた。

へーー。こういうテーブル筐体は、ゲームセンターというより喫茶店向けに作られたものなんですよね?


そう。タイトーの『スペースインベーダー』が大ヒットして、喫茶店にこういうテーブル筐体を置くのが流行った時代があったんです。置くだけで儲かるから。「インベーダーゲーム設置しますよ」って言って前金を払わせる詐欺も流行ったくらい。


1978年に登場したタイトー『スペースインベーダー』。アーケードゲーム史上最大のヒット作となり、様々な社会問題も生んだ。

そこまでの影響力だったんですね……。



うちも最初に置いたのは任天堂の『ブロック崩し』と、この『スペースインベーダー』だったね。その後、インベーダーブームをきっかけに、全国にゲームセンターが増えていったんです。

今まで、壊れたりしなかったんですか?



何度も壊れてるよ。その度に私が修理してた。



自分で修理してたんですか?



メーカーが修理してくれないから、自分でやるしかないんだよ。こっちのゲームなんて、30年以上前にメーカーがなくなってるからね。三共っていう、パチンコの三共とは別の会社なんだけど。って、アレ?電源は入るけど画面が出ないな。


電源は入るが画面が真っ白。ガンガンたたくお父さん。

って、そんなガンガン叩いて大丈夫なんですか?



そんなもんですよ。ほら点いた。今のうちに写真撮って!




三共(パチンコの三共とは関係ない)『ピラミッド』。1978年発売の同社発売『キャッスルテイク』のプログラム改造版。

自分で修理してたって話も含めて、これだけの数をずっと動く状態で保持するって大変なことだと思うんですが、ゲームに対する愛がないとできないことですよね。

でも、それだけじゃ店は続けられないからね。



やっぱり思い入れはあります?売ったり処分したりしたくない感じですか?


いや、別に売ってもいいけど、売れる状態にするのが面倒(笑)




1983年に登場したタイトー『エレベーターアクション』。この時代になると喫茶店用のテーブルというよりゲームセンター用の筐体になり、レバーやボタンが使いやすい位置に出ている。

どれもネットオークションに出品したら高く売れそうだけど……。とはいえ、売ってしまうのもなんとなく悲しいーー!!再開できる方法があると良いですね。

博物館にしてもしょうがないしね。



1階の音ゲーの方は儲かってるんですか?



まあ、一応。でも、ギリギリですよ。大学が休みの時は全然お客さん来ないし。



1978年製造の朝日産業『チャンスラー』は、駄菓子屋などに置かれていたクレーンゲーム。後ろにあるのは1981年製造のナムコ『バッティングチャンス』。どちらも1プレイ10円。

やっぱりお客さんは近大生が多いんですか?



ほとんど近大生だね。近所の人も来るけど。近大に「音ゲーサークル」があるから、今はその子たちの部室みたいになってますよ(笑)。日曜・祝日は定休日だけど、たまにその子たちが貸し切りでイベントやったりもしてる。

なるほど、今は「音ゲーサークル」とかあるのか。その子たちにとっては、大学の前にこんな場所あったら最高ですよね。


この辺はほとんど近大ありきの商売なので、大学が臨時休校になったらうちも臨時休業です(笑)


なるほど。でも、昔はゲーセンといえば不良のたまり場みたいなイメージでしたが、今はどこも健全ですよね。特に音ゲーやってる子たちは真剣というか……

真面目な子が多いですよ。息子(店長)とも仲良くやってます。



今の大学生が楽しめる場所になっているようで良かったです。いやー、ずっと気になってた看板の謎も解けて、あうとばぁんの歴史も興味深かったです。ありがとうございました。



最後に




レトロゲームマニアの聖地だった「あうとばぁん」、現在は音ゲー専門のゲームセンターとして、音ゲーマニアの聖地になっていました。

“あの看板”にも長い歴史があり、元は喫茶店の名前だったんですね。

今回取材に応じてくれた店長さんとお父さん、見た目は少し近寄りがたい雰囲気ですが、気さくで優しくて、ゲーム愛に溢れた親子です。

記事は1日で取材したような構成になっていますが、実際は合計5回お店に行き、少しずつ聞いた話をまとめました。途中で昔の写真を探し出してくれたり、メールで昔のお店の配置図を送ってくれたり、最後は2階にも入れてもらい、この記事が完成しました。貴重なお話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました。

入りにくい雰囲気ですが、「実は気になってた…!」という近大生のみなさん、ぜひ一度覗いてみてください!

ちなみに、日曜・祝日定休で、土曜の短縮営業や臨時休業も多いようなので、営業日は店長さんが更新するTwitterでご確認ください。


注意:現在あうとばぁんでは中古機や基板販売はしておりません。(2018.3.30 追記)


(終わり)


ライタープロフィール
トミモトリエ
人間編集部編集長。1976年東京生まれ。ファッションデザイナーからウェブ業界に転身。自分を生中継し続けるブログや、時間を切り売りする人間レンタルサービスを立ち上げ、"ダダ漏れ女子"として話題になる。『東京ナイロンガールズ』初代編集長。2014年大阪へ活動の拠点を移し、株式会社人間に入社。


企画・編集:人間編集部

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