2016.02.11
世界一は夢じゃない トップアスリート4人の練習法【後編】
- Kindai Picks編集部
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赤井英和×寺川綾×古川高晴×村上恭和×為末大
厳しい競技の世界の中で支えとなっていたのは日々の練習だった。【前編】で明らかになった各々の戦い方に続き、世界で戦うトップアスリートたちの練習へのこだわりに迫る。
<KINDAIサミット2015第4部分科会C「スポーツ立国近大!! ~メダリスト育成論~」より>
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スピーカー
村上恭和(むらかみやすかず)
卓球女子日本代表チーム監督・日本生命女子卓球部監督
1957年生まれ。小学6年生のときに卓球に出会う。近畿大学附属福山高校・近畿大学商経学部在学中も、一貫して卓球選手として活躍。1990年に日本生命女子卓球部監督に就任し、6年後には日本一に。1996年日本女子代表チームのコーチに、2008年には監督に就任。2012年のロンドンオリンピックでは女子団体で2位となり、日本卓球界悲願の初メダルを獲得した。
赤井英和(あかいひでかず)
近畿大学ボクシング部総監督・元プロボクサー
1959年生まれ。1984年に近畿大学商経学部を卒業。プロボクサーとして「浪速のロッキー」の異名を誇る活躍をした後、俳優に転身。2012年に母校である近畿大学ボクシング部が活動を再開するにあたり、総監督に就任。2015年には1部昇格に導いた。アマチュアボクサー時代の獲得タイトルは、「インターハイ・ライトウェルター級優勝」「アジアジュニア選手権ライトウェルター級優勝」など。
古川高晴(ふるかわたかはる)
近畿大学洋弓部コーチ・アーチェリーロンドンオリンピック銀メダリスト
1984年生まれ。青森県立青森東高校でアーチェリーを始め国体で優勝。近畿大学在学中にアテネオリンピックに出場。その後、近畿大学の職員になり、北京オリンピック・ロンドンオリンピックに出場。ロンドンオリンピックで個人銀メダルを獲得した。2016年のリオデジャネイロオリンピック代表選手にも内定している。
寺川綾(てらかわあや)
美津濃株式会社・水泳ロンドンオリンピック銅メダリスト
1984年生まれ。2003年に近畿大学附属高校、2007年に近畿大学法学部を卒業。大学2年生の時にアテネオリンピックに出場し、200m背泳ぎで8位入賞。さらに2012年のロンドンオリンピックでは100m背泳ぎ・400mメドレーリレーでそれぞれ銅メダルを獲得した。
モデレーター
為末大(ためすえだい)
一般社団法人アスリートソサエティ代表理事・元プロ陸上選手
1978年生まれ。中学生の時に全日本中学校選手権の100m・200mで二冠を獲得し、ジュニアオリンピックでは日本記録を更新した。以降、インターハイ、国体、世界ジュニア選手権などで短距離の新記録をマーク。シドニー、アテネ、北京オリンピックに出場。世界選手権では2001年エドモントン大会にて3位になり、トラック競技で日本人初のメダルを獲得した。著書に『日本人の足を速くする(新潮新書)』、『走る哲学(扶桑社)』など。
リングに上がるのはむちゃくちゃ怖い。だから練習するしかない
為末:赤井さんはアマチュアもプロも経験されていますが、何か違いはありますか?
赤井:私はプロ19戦のうち、16戦はKO勝ちをしています。同じパンチでも、打つポイントやタイミング、例えば相手が下がる時よりこちらに向ってくる時にカウンターで打った方がKOを取れるというテクニックがあって、そういうのを練習していました。
今、アマチュアボクシングの指導をしていて、正直「それはおかしいだろう」という判定があります。でもKOで倒せば間違いなく勝ちですからね。逆に、いくら防御が強くても勝てません。だから、今の学生にも相手を倒しにいく指導をしているんです。
為末:ボクシングというのは陸上競技と違って、相手と向き合って戦う競技ですが、怖さというのはなくなるものなのでしょうか?
赤井:もちろんむちゃくちゃ怖いですよ。でも、今まであれだけきついトレーニングをしてきたんだからという気持ちでリングに上がっているんです。学生にも、怖さを克服するのは練習しかないということを常々伝えています。
古川:私が大事にしているのも練習量ですね。もちろん練習そのものがスキルを向上させるというのもありますが、毎日その日一日誰よりも練習しているということが、本番での自信に繋がりますので。
寺川:私も大学生の時、朝も夕方も練習していましたので、授業がある時はスケジュールがかなりハードで、身体への負担はかなり大きかったですね。やはり100%頑張れる状態で練習した方が効果的ですし、ヘトヘトの状態で無理をすると怪我に繋がる恐れもありますので、休息の取り方には気をつけていました。
為末:陸上の短距離は、普通1日1回練習するのですが、水泳選手って本当に「近大マグロか!」と思うくらいよく泳ぎますよね。
寺川:そうですね。私も多いときで、1日に1万6,000メートルくらい泳いでいました。でも水泳ではそれが当たり前ですし、長距離の選手はもっと長い時間泳いでいましたから、自分だけしんどいだなんて言えませんでした。
教えてくれないことが、成長につながった
為末:村上さんは長年卓球に携わってこられて、昔は「水を飲むな」といった指導をされていた時代もあると思います。これだけ日本の卓球が強くなったのは、現場でどのような指導の変化があったからなのでしょうか?
村上:私が学生の頃は、指導者が絶対、先輩の言うことも絶対という時代でしたが、そういうところは試合になったら弱いんですよね。卓球は、試合中にコーチがアドバイスしたらダメなんです。サインを出すだけでも失格・退場になる。ですから、自分で作戦を考えて行動を起こせる選手でないと勝てません。
日本代表のチームも日本生命のチームも同じですが、私は練習に来るかどうかも自由にしますし、練習メニューも自分で考えさせていますし、練習中も途中で集中力がなくなったら帰っていいことにしています。でも、このやり方を採用したら、休む人はゼロになりましたね(笑)
元々、卓球というのは痛みのあるスポーツではないし、とても楽しいものですからね。毎日練習に来たいと思うのが普通なんです。昔のように先生や先輩から殴られることもありませんし。
為末:卓球界はなぜ若年齢化しているのか教えていただけますか?
村上:中学生の伊藤美誠と平野美宇が2014年の世界グランドファイナルのダブルスで優勝しました。でも、卓球は10年やれば一流になれると言われていて、この二人が卓球を始めたのは2歳ですから、中学生で世界チャンピオンになっても何ら不思議はないんです。
為末:若年齢化が進んできた一方で、年齢を重ねた選手の戦い方というのはあるのでしょうか?
村上:年齢が若い選手は卓球台に近いところで速攻プレーをしますが、歳を取っていくと動体視力が落ちますので、台から少し距離を取ったところでボールを返すようにするんです。それに経験によってボールが来るところが予想できるようになってきますので、20代後半になっても10代と同じくらいの競技力を維持できるはずです。
為末:水泳もここ10年20年の間に世界で活躍する選手が飛躍的に増えてきましたが、どのようなことが行われているのでしょうか?
寺川:日本の自由形は世界で通用しないと言われていて、まずは自由形の強化合宿が取り入れられたんです。その結果、自由形はリレーの中でオリンピックの標準記録を切るようになっていった。今ではリレーで世界と戦うために背泳ぎ・平泳ぎ・バタフライ・自由形の選手が集まってリレー合宿も行われています。こういった取り組みをすることで、先程の赤井さんのお話にありましたように、横の繋がりや仲間意識も出てきましたし、合宿で学んできた選手を見ることで他の後輩も育っていくのではないかと思います。
為末:寺川さんがそういう合宿に参加した時は、他のトップクラスの選手を見てどのように学んでいましたか?
寺川:世界のトップで戦っている先輩方は言葉で表現しない人が多いので、見て学んでいました。言われてやるだけでは自分の身にならないので、自分で考えて「あの人はこうしてるのか」「でも自分はこうするな」とか、自分で考えて判断するのが大切だと思います。
為末:本物を見るというのはとても重要ですよね。私は、先程から寺川さんが手を動かす度に、腕がとても長いなと感じていたのですが、そういう、例えば水泳選手の肩を根本から動かす動作ですとか、陸上選手の脚の動きですとか、直接会うことでそういった細部にも気づけるのだと思います。
2020年、狙うはもちろん表彰台!
為末:最後に、2020年のオリンピックに向けて一言ずつお願いします。
寺川:私はもう選手ではありませんが、元アスリートとして、オリンピックの素晴らしさやスポーツの感動を伝えるお手伝いができればと思っています。それと、オリンピックの開催国はなぜか自国で開催した翌年に成績が良くなると言われていますが、まだ5年ありますので、もう一歩進んだトレーニングなどによって、東京オリンピックの時に日本人が素晴らしい活躍ができるようにして欲しいですね。そのためには、引退した選手が現役選手にもっと関わるというのも大事だと考えています。
為末:古川さんは、もちろん東京オリンピックも狙いますよね?
古川:もちろんです。そして出るだけでなくメダルを取るためにこれから努力していきます。また、個人と団体がありますので、団体の方では男女とも近大の選手が入って表彰台に上がれるように頑張りたいと思っています。
近大は、これまでは関西の小さな大学の一つと言われていたのかもしれませんが、今はどんどん有名になっていて、入学志願者数も2年連続で1位になっています。そういうネームブランドも、競技をする際の自信に繋がります。
赤井:ボクシング部も、「近大ばっかりじゃないか!」と思われるように全階級制覇するという気持ちでいます。
村上:実は卓球の世界では、2012年のロンドンオリンピックで銀メダルを取った直後から、2020年に金メダルと取ろうというプロジェクトが動いていました。そして着々と実力がついてきて、あと5年あれば中国の実力6に対して日本は4くらいになると思います。正直、追い越すのはたぶん難しい。実力では6対4ですが、地元のエネルギーと若さで勝って、金メダルを取れるのではないかという構想を描いています。
為末:ぜひ多くの近大生や近大出身の選手に出場していただき、世界に見せつけて欲しいですね。
前編では、勝つためにこだわり続けている戦い方についてお話を伺っています。
<→絶対世界一になるんや!トップアスリートたちの勝つための戦い方【前編】に進む>
▼KINDAIサミットとは
http://www.kindai.ac.jp/kindaisummit/
▼為末大×村上恭和×赤井英和×古川高晴×寺川綾 「スポーツ立国近大!! ~メダリスト育成論~」 (YouTube)
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