2016.01.27
情熱、憧れ、ひらめき、自負心。ベンチャーのトップが起業したそれぞれの理由【前編】
- Kindai Picks編集部
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中井清和(学情)×松野真一(アラタナ)×上村一行(アイアンドシー・クルーズ)×森健志郎(スクー)×小澤隆生(ヤフー)
一度は企業に勤めながらも、そこを飛び出し、自らリスクを取ってベンチャーを立ち上げた4人の起業家たち。彼らを起業に駆り立てた動機と今日の成功に至る道のりに迫ります。
<KINDAIサミット2015第3部分科会A「近大はシリコンバレーになれるのか!?~ベンチャー精神論~」より>
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スピーカー
中井清和(なかいきよかず)
株式会社学情 代表取締役社長
1948年大阪府生まれ。1972年に近畿大学法学部を卒業後、広告会社に入社し1976年には総合広告代理業の実鷹企画を創業して代表取締役社長に就任。2000年に社名を株式会社学情に変更した。2002年ジャスダック、2005年東証二部、2006年東証一部上場。2011年日本経済団体連合会に入会。
松野真一(まつのしんいち)
株式会社アラタナ 取締役CISO(最高情報セキュリティ責任者)/ゲヒルン株式会社 取締役
1978年愛知県生まれ。2001年に近畿大学工学部を卒業。2006年には伊藤忠グループ企業にて海外パートナーと共同で情報セキュリティ事業を立ち上げる。2008年伊藤忠商事の子会社として株式会社サイバーディフェンス研究所を設立し、執行役員開発部長に就任。2013年、株式会社アラタナの取締役CISOとゲヒルン株式会社の取締役にそれぞれ就任。TBSドラマ「ブラッディ・マンデイ」にてハッキングシーンの技術監修を担当。「ハッカージャパン(白夜書房)」をはじめ、セキュリティ関連の書籍を多数執筆。
上村一行(うえむらかずゆき)
株式会社アイアンドシー・クルーズ 代表取締役
1977年福岡県生まれ。2002年近畿大学法学部卒業。在学中に起業してオリジナルパソコンの製造と販売を行う。卒業後は、デロイト・トーマツ・コンサルティング株式会社(現アビームコンサルティング株式会社)に入社。2005年ベンチャー経営者支援を行う株式会社ジェイブレインに役員として参画。2008年株式会社アイアンドシー・クルーズを設立し代表取締役社長に就任。
森健志郎(もりけんしろう)
株式会社スクー 代表取締役社長
1986年大阪府生まれ。2009年に近畿大学経営学部を卒業後、株式会社リクルート・リクルートメディアコミュニケーションズに入社し、不動産関連の広告制作のディレクターを務める。このときeラーニングによる社内教育を受けたが、その内容に不満を感じたという経験から、インターネットを活用した教育サービスを自ら立ち上げることを決意。2011年に株式会社スクーを設立し、代表取締役社長に就任。
モデレーター
小澤隆生(おざわたかお)
ヤフー株式会社 執行役員 ショッピングカンパニー長
1972年千葉県生まれ。1995年に早稲田大学法学部を卒業し、株式会社CSKに入社。1999年株式会社ビズシークを設立し、代表取締役に就任。2003年、ビズシークの吸収合併により楽天に入社。楽天イーグルスの立ち上げなどに携わった後、2006年に退社して小澤総合研究所を設立。2011年株式会社クロコスを設立、2012年には同社をヤフー株式会社に売却し、ヤフーに入社。2013年に同社執行役員・ショッピングカンパニー長に就任。
一週間アメ玉だけの生活も。それでもやりたいことがあった
小澤:まずは登壇者のみなさんに、事業内容をご紹介いただきましょう。中井さんからお願いします。
中井:就職情報会社の学情という東証一部上場の会社を経営しています。1972年に近畿大学を卒業して、1976年に創業。ゼロからスタートして東証一部上場までいきましたので、そこで学んできた経営のコツを今日はお伝えしたいと思っています。
小澤:一部上場企業って1,800社くらいしかないんですよね。そのうちの一つが近大OBが作った会社で、しかもこんなにも熱い思いを持っていらっしゃる。
起業と言われてもピンとこない学生も多いと思いますし、リスクもあるかと思います。これから起業家をもっと増やすためにはどうすれば?
中井:私の考え方は昔から変わっていなくて、「人の真似をしない生き方をする」ということです。安全な生活というのを気にせず、他の人とは違ったことをしてやろうと思ってやってきました。商品を作る時も同じです。同じような商品を出して競争しても上手くはいきません。他とは全く違うオリジナル商品を開発するから上手くいくんです。
小澤:今は就職情報会社というのはたくさんありますが、中井さんの会社が日本で最初に始められたんですよね。最初は、どういった発想だったのでしょうか?
中井:当時は就職情報誌という本が学生に配られていて、学生は知名度のある企業には応募ハガキを出すんですけど、99%の知らない会社には出さないんですよ。そういった企業からすると全く学生が来ない。こういう状況をなんとかできないかなと考えて、ふと思いついたのが「学生を一箇所に集めて合同のお見合い会をやったらどうだろう」ということだったんです。このアイデアを企業の方にお話したら「そんなことできるんですか?」という反応でしたが、「やってみます」ということで始めました。それが今年は参加企業数5,000社、参加学生数28万人で、おかげ様で名実ともに日本一となりました。
小澤:こうやって聞けばなるほどと思いますけど、自分の中でそれを発想して実行するのは簡単なことじゃない。案ずるより産むが易しとはよく言ったものですが、会社や事業について頭で考えてると大変なことがたくさん思い浮かんで、何もできなくなってしまうんですよね。
続いて松野さん、お願いします。
松野:私はアラタナという宮崎県にある会社の役員として、ネットショップの構築や運営などをしています。それともう一つ、ゲヒルンという会社では情報セキュリティの担当役員もしています。
元々はサラリーマンで、いろいろ紆余曲折はありましたけど、一貫して情報セキュリティに関わっているのが強みかなと思っています。
小澤:松野さんは伊藤忠グループにいたのに、その後はベンチャー企業の役員をされていますよね。それはどういった心変わりがあってでしょうか?
松野:伊藤忠商事の社内ベンチャーとしてサイバーディフェンス研究所という、一回倒産して事業部扱いになった組織があったんですけど、そこを黒字化したらもう一度法人化してあげるよということに。そこで伊藤忠の会社を辞めて契約社員になって、事業を黒字化してもう一度法人にした時に役員になったんです。
新卒で入社した時から情報セキュリティの仕事をしてきたので、これに関しては強烈に自分のやりたいことであり、何でもできるという自信もありました。もちろん会社員を辞めて自分で会社やることは、リスクはあるし、甘えは許されず、失職する可能性もある。最初は激しく後悔したんですけど、そこで頑張って、今もその延長線上でやっているという感覚です。
小澤:松野さんは情報セキュリティの専門職をされていて、その活躍のフィールドを広げるために、結果的にベンチャーで起業したということですね。こうやって専門職をつきつめていくのも、一つのやり方だと思います。
では、続いて上村さん。
上村:私の会社では「住まい」と「自動車」、この2つの領域でインターネットサービスを提供しています。住まいの方は太陽光やリフォームといった一般の方からすると価格がわかりづらい分野で、安心して見積もりを取り、相談できる場をインターネット上に作ろうと思ったのがきっかけです。それで、ある一定の基準をクリアしている太陽光やリフォームの会社に加盟登録していただいて、相談のあったユーザーさんに紹介しているんです。
自動車の方はまた全然違ったアプローチで、本当は電気自動車に注目していたのですが、急遽方向性を変更して、スマホに特化した自動車情報メディアを作ることにしたんです。今は月に300万人くらいの方が見てくださっています。
ところで、私は高校には行っておらず大検を受けて近大の夜間部に入りました。最初の1〜2年は昼間にトラックの運転手や鳶職をしていたんですけど、アメリカで起業していた同級生のお兄さんと話をする機会があり、「起業ってすごくかっこいいな」と思ったんです。それで私も大学3年生の時にその友人と会社を作ったのですが、失敗してしまって…。でも、これがきっかけで「起業するのはかっこいいことだ」「自分も絶対そういう道に進もう」と決めました。
小澤:昔はプロ野球選手が、子供が語る将来の夢ナンバーワンだったのですが、それは王選手と長嶋選手がいたからなんですよね。自分もあんなふうに活躍したいなと、憧れの姿を追い求める。ビジネスでも「この人みたいになりたい」と思える人に出会うのは重要ですよね。
もちろん起業だけが素晴らしいと言うつもりはありませんが、起業する人を増やすためにはどうすれば?
上村:私はどちらかと言うと起業家精神みたいなものよりは、行動することが大事かなと思っています。ちょっとでも何かに興味を持ったら、実際に行動してみると良いのではないでしょうか。
小澤:上村さんは、トラック運転手をやっていたのに、どうやって起業家に変わっていったのですか?
上村:在学中の2000年に、大阪の日本橋でパソコンの部品を買って、注文があったら組み立てて売るという商売を始めたのですが、どのように事業を大きくしたらいいのかわからず失敗してしました。それで、一度企業に就職して、いろんな会社を回っていろんな事業を知るという経験をしました。その中で「この事業はこう伸びるな」とか「このビジネスはこういう構造になっているんだな」というのがわかる力を身についていったと思います。私はいつも世の中の先頭集団に入りたいと思っていて、起業してからも、これから伸びていきそうな事業を選んできました。
小澤:先程の松野さんのように、自分の専門分野の延長線上で起業するのもいいし、上村さんのようにこれから伸びてくる産業を見つけるのもいいですよね。そして、それが人の役に立つのかどうかというのも、考える必要があると思います。中井さんも、就職したい学生と採用したい会社のニーズがあって、それをくっつけることで新しい事業アイデアを生み出しました。
森さんも、上村さんと同じくインターネットのサービスをされていますね。
森:私は4年前からインターネットの動画を使った学習サービスを運営しています。大学の授業やプログラミング、デザインといった「仕事に活きるスキル」を、インターネットにアクセスさえできればどのデバイスからでも見られるというサービスを提供しています。子育て中にちょっと興味あるけど直接話を聞きに行くほどではない、遠くてなかなか行けないなど、いろいろな状況の人がいますが、学習の機会を均一化すれば、こういった人たちも気軽に学びたいことを学べるようになり、もっと世の中が良くなるんじゃないかと思って。
自分で会社を始めると、お金のこと、人のこと、事業のこと、競合のことなど、良いことも悪いこともたくさん起きます。悪いことも起きるけど、それを直視して仲間と一緒に悩んだり乗り越えたりした時や、何かを達成して喜んでいる時には、ものすごく「人生を味わっている」「生きている」という感じがします。そういう生き方を選択したことは、今でも間違っていなかったと強く感じていますね。
小澤:最初はどこに就職されたんですか?
森:リクルートです。
小澤:立派な会社で給与も高いと有名ですが、独立後は1週間アメ玉だけで生活されていたこともあるそうですね。なぜ給与の高い会社を辞めて起業しようと思ったのですか?
森:一言で言うと、これはやらなきゃいけないと思うことを見つけてしまったからですね。リクルートでは3年目から役職が変わるということで、スキルアップのためにeラーニングシステムを使って10時間の動画を見て勉強してくださいと会社から言われたんです。私はその内容をすごく学びたいと思っていたのですが、実際に動画を再生してみると、おじさんがダサいパワーポイントの資料を使って延々と語り続けるというもので…。これだけインターネットが使える時代に、もっと良い体験を作ることはできるだろうと思いましたし、そうすることで今は学んでいない人ももっと学ぶことができるんじゃないかと思ったんです。それで次の日にすぐ退職届を出して、僕はこのサービスを変えますといって起業しました。その結果、アメだけしか食べられない経験もすることになったのですが(笑)
宝くじで一億円当たった人は知らないけど、起業して一憶二億稼いでる人は山のようにいる
小澤:それでは、ここからは会場にいる大学生のみなさんに質問していただき、登壇者のみなさんに答えていただくことにしましょう。
大学生(経済学部、3年生):社長というのは、人の上に立ち、やる気を起こさせて、人を動かす仕事だと思います。近大の教育理念にも「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人の育成」というのがありますが、そういう人になるために普段心掛けていることはありますか?
中井:仰る通り、経営者というのはグループのリーダーですから、リーダーにふさわしい人間でないと務まらないと思います。これまでにいろんな経営者を見てきましたが、社員を安く使ってやろうとか、そういう考え方の人は失敗していますね。一緒に成功しよう、そしてその成功の果実を共に分かち合おうという考え方の人は成功しています。
東証一部に上場した時、創業30年だったのですが、その当時の東証の社長さんに「創業メンバーが全員揃って東証一部に上場するのは初めてです」と褒めていただきました。みんなで一緒に成功するという気持ちを絶対に忘れてはいけないと思います。
そして、厳しい局面を迎えた時は、一番痛い思いをしないといけないのが経営者です。自分は痛い思いをせずに、社員に押し付けている人が圧倒的に多い。それでは人はついてきません。私の会社はリーマンショックの時に売上が半分になってしまったことがあるのですが、社員は一人もリストラしていません。でも自分の給与は7割カットしました。社員は8%だけ給与を下げさせていただきましたが、週5日間勤務のところを4日勤務にしてワークシェアしてもらうことで、誰一人リストラはしませんでした。
大学院生(総合理工研究科):この分科会は「近大はシリコンバレーになれるのか!?」というタイトルですが、近大が実際にシリコンバレーのようになるために必要なことは何でしょうか?
小澤:シリコンバレーの特徴は「エコシステム」だと言われていますね。成功者が後輩にお金もノウハウも提供し、良き先輩としてメンターになることでどんどん育てあげる。シリコンバレーにはスタンフォード大学がありますが、そこではまさにこのエコシステムが作られていて、近大はスタンフォードのようになれるかどうかが問われているわけですね。上村さん、いかがでしょうか?
上村:実は私の会社もシリコンバレーのVC(ベンチャーキャピタル)から投資を受けていて、VCの人が役員として入っています。スタンフォード大学には3回行ったことがあるのですが、どんどん新しい起業家が生まれていて、成功した先輩がヒト・モノ・カネ・情報とあらゆる点で後輩を育てるサイクルが回っているのを実感しました。
近大も、既に起業した人と、起業を考えている学生や卒業生が上手く繋がってサイクルが回っていくといいですよね。本当はどこかに集まれるといいのでしょうけど、まずはバーチャルでもいいので動き始めるのが大事かなと思います。
小澤:ネットワークを作ってノウハウを共有するって、本当に重要なんですよね。身近に相談相手がいて、身近に成功事例がある。それがシリコンバレーのような状態を作るのに、最も大事なことだと思います。
私は宝くじを絶対に買わないんですけど、身の回りで一億円当たった人は誰もいないんですよ。でも、起業して一億や二億稼いでいる人は、山のようにいます。起業して良いサービスを作って、マスコミから高い評価を受けて、ユーザーからも評価されて…という人はいっぱいいる。そういう周りの人を見ることで、自分もできるかなと思えるわけです。ですから、近くで成功している人を見れる機会を作ったり、それをPRしたりすることで、近大もシリコンバレーやスタンフォードになれるのかなと思いました。
後編では、多くの成功と失敗を経験してきた4人の、失敗への対応、成功のコツなどを深堀します。
<→「成功確率10%!ベンチャーの世界で生き抜くため4つのメソッド」【後編】に進む>
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