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2026.10.28

生成AIは医療をどう変える?医師が語る活用事例とリスク、今後の可能性

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
生成AI
医学部
医療
AI
大塚篤司

生成AIの急速な進化は、私たちの暮らしを大きく変え始めています。医療分野も例外ではありません。診療や研究、医療教育など、その活用の可能性は日々広がっています。AI技術を医療の発展にどう生かすべきか――。臨床医として診療にあたりながら、生成AIの活用にも取り組む近畿大学医学部 皮膚科学教室 主任教授の大塚篤司に、「医療×AI」の現在地と、医師だからこそ考える可能性や課題について伺いました。

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大塚 篤司(おおつか あつし)の写真
大塚 篤司(おおつか あつし)

近畿大学医学部 皮膚科学教室 主任教授
専門:アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎を含む皮膚アレルギーの診断、病態機序、治療法まで。また、皮膚悪性腫瘍、とくに悪性黒色腫に関すること、免疫チェックポイント阻害剤に関してコメント可能。

著書:『医師による医師のためのChatGPT入門0(ゼロ)(なぜ、あの医師はAIを使わないのか)』(医学書院)
『あっという間のAIスライド作成術 (医師による医師のためのChatGPT入門)』(医学書院)
『皮膚科の診断に迷ったらChatGPTに全部聞いちゃえ!』(中外医学社)
『まるごとアトピー: アトピー性皮膚炎の病態から最新薬剤、患者コミュニケーションまで』(医学書院)
『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)ほか、多数。
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AIは医療をどう変え始めている?

インタビューを受ける大塚先生の写真

――まずは、先生が普段どのように医療や研究にAIを活用されているのか教えてください。

皮膚科医・大塚
現在AIを活用している場面としては、主に研究関係などの学術的な使い方が多いですね。例えば、私たちの皮膚科研究室では「皮膚科診断AI」の開発を行っていますが、その開発プロセスの中でもAIをフル活用しています。

また、一般的なデスクワークや書類仕事はほぼAIを使っています。新しい分野を勉強するときや、仕事の漏れがないかチェックするなど、個人情報が入らないインターネット上の作業であれば、ほぼすべてAIを組み込んでいるような状態です。


――そうしたAIの活用は、いつ頃から始められたのですか?

皮膚科医・大塚
使い始めたのは「ChatGPT」の3.5が出た2022年12月頃からです。当時はまだ今ほどの範囲で使えたわけではなく、教科書の原稿やブログ記事の作成などからこつこつと始めていました。

医療の分野で本格的に仕事に使えると確信したのは、ChatGPTの「4」が出た2023年春頃ですね。それまでは高校生レベルの文章力という印象でしたが、「4」になって知識も文章も一部で大学生レベルに達し、「これは仕事に使える」と感じました。最初は「こんなズルをしていいのか」と、こっそり使っていましたよ(笑)。今ではすっかり手放せない相棒です。


――医療現場や研究室では、具体的にどのような場面でAIが活躍しているのでしょうか?

皮膚科医・大塚
医療におけるAIの活用は、ChatGPTなどの生成AIが登場する前から進んでいました。例えば、レントゲン画像から微小な影を見つけ出したり、心電図の波形から不整脈の兆候を検知したりといった画像診断支援や医薬品開発などです。これらは情報の識別や予測を行うもので、医師の見落としを防ぐ「助手」のような役割を担っています。

生成AIの普及した後でいうと、臨床では電子カルテ作成の補助などに活用されています。私たちの研究室ではさらに踏み込み、色素性病変(ほくろやしみなど)の診断を目的としたAIモデルの作成に本格的に取り組んでいます。


「AIで調べてから病院へ」が当たり前になる?

医師から説明を受けている患者の写真

――最近では、患者さん自身が何らかの症状が出たときに、生成AIなどで調べてから病院に来られるケースも増えている印象があります。こうした患者側のAI利用について、先生はどのように捉えていらっしゃいますか?

皮膚科医・大塚
実際の診療の場において、「ChatGPTでこう言っていました」と、患者さんご自身から明示されることはまだそこまで多くありません。ただ、私がAIに熱心に取り組んでいることを知っている患者さんから、「ChatGPTにはこう言われたのですが……」と質問を受けることは時々あります。

患者さんがAIを使うこと自体は否定しませんが、現時点では、「自分の病気をChatGPTに直接相談して診断や治療を決めようとすることは、やめた方がいい」とお伝えしたいです。


——それはなぜでしょうか?

皮膚科医・大塚
生成AIは、一般論についてのハルシネーション(誤情報)こそ減ってきたものの、一人ひとりの患者さんの複雑な身体状況に合わせた個別の判断まではできません。そして万が一、AIの助言によって間違った方向へ進んでしまったとしても、AIは責任を取ってくれません。

海外では、高血圧の患者さんが減塩をするために、塩分の代わりに別の化学薬品をChatGPTに勧められて使用し、中毒で入院したという有名な症例報告があります。また、メンタルヘルスに関する相談で、本来は専門機関へつなぐべきところでAIが引き止めすぎた結果として悲惨な事態を招き、裁判に発展したケースも海外で起きています。日本国内では幸いこうした大きな健康被害の報告はまだありませんが、がんの食事療法などに関して古いガイドラインに基づいた誤った情報をAIが返し、患者さんが本来食べてよいものを控えてしまうといった話は耳にしたことがあります。


――では、患者は医療とAIの付き合い方として、どのように活用するのが望ましいのでしょうか?

皮膚科医・大塚
私がおすすめしているのは、「診察室での限られた時間を有意義・効率的に使うための頭の整理(壁打ち)」としての利用です。

「お医者さんに何から伝えたらいいか分からない」「緊張して聞きたいことを全部忘れてしまう」「専門用語が難しそう」といった悩みを抱える患者さんは少なくありません。いわゆる「3分診療」と言われる限られた診察時間を濃密にするために、事前にAIを使って自分の症状や質問を整理しておく。そうした準備のツールとして賢く使ってもらうのが一番望ましい形です。


生成AIのリスクに、医療はどう向き合うのか

生成AIを使用するイメージ画像

――医療現場や臨床の視点から見て、AIが持つ倫理的な問題やリスクにはどのようなものがあるとお考えですか?

皮膚科医・大塚
最も大きなリスクは、先ほどもお話しした「責任の所在」と「誤情報の危険性」です。医療事故が起きた場合、医師が直接診断したのであればその医師が責任を取りますが、生成AIの回答を鵜呑みにして自己流の健康管理や治療を行ってしまっても、AIは一切の保証をしてくれません。

また、医療特有の課題として「安全性と法規制のハードル」があります。例えば皮膚科の領域において、画像診断支援などのプログラム医療機器(SaMD)は、国が厳格な審査を行っています。AIが「がんではありません」と判定したものが実際にはがんだった場合の患者さんへの影響は計り知れません。そのため、安全性を慎重に見極める必要がある一方で、本当に有用な技術が現場に届くまで時間がかかるというジレンマもあります。国側も、安全性を担保しつつ迅速に利用できるような段階的な許可制度などを準備しつつありますが、技術のスピードと制度設計のバランスは引き続き大きな課題といえます。


AIの力を、より良い医療につなげるには

大塚教授の著書の写真
大塚教授の著書『医師による医師のためのChatGPT入門0(ゼロ)(なぜ、あの医師はAIを使わないのか)』


――大塚先生ご自身が、ここまで情熱を持って医療にAIを取り入れ、研究や情報発信を続けられている原動力や思いとは何でしょうか?

皮膚科医・大塚
私の研究室における最終的な大きな目標は、「皮膚科のフィジカルロボット」を作ることです。患部を見て診断し、治療法を考え、ゆくゆくは簡単な手術や処置まで行えるようなロボットです。

背景にあるのは、深刻な医師不足、特に地方や離島などの地域医療の課題です。内科の先生が一人で守っているような地域に皮膚科医が不在であるケースは多く、専門外の先生が皮膚がんや複雑な皮膚疾患を見極めるのは非常に困難です。そこにロボットやAIのサポートがあれば、初期の診断支援や適切な振り分けができ、重症患者を都市部へスムーズにつなぐことで医療崩壊を防ぐ一助になると考えています。

また、若手医師が専門研修を経ずに美容医療へ進む「直美問題(※)」においても、未熟な診断による見落としを防ぐための「セキュリティの入り口」としてAIを活用できるはずです。こうした技術を広げ、日本全体の医療を盛り上げたいという思いから、書籍の執筆や学会発信にも力を入れています。

※初期臨床研修を修了後、内科や外科などの専門研修を受けずに、直接、美容外科や美容皮膚科など自由診療のクリニックなどに進むこと


――皮膚科領域からこうしたロボットやAI開発に挑まれているのには、何か理由があるのですか?

皮膚科医・大塚
皮膚科は、視診や画像診断の比重が大きく、もともとAIと非常に相性が良い領域です。そのうえで、私たちが日頃から実際に手を動かして診療しているからこそ、「どこが診療の勘どころなのか」という重要な判断ポイントをAIに落とし込みやすいのです。

とはいえ、道程は平坦ではありません。例えば「軟膏を塗る」という一見シンプルな動作ひとつとっても、ロボットに人間のような「これ以上押したら痛いと感じる圧力の加減」や「皮膚のへこみ具合」「塗りムラのない配慮」を学習させるのは極めて難しい。人間が無意識に行っている感覚的な対人配慮や微細な力加減を言語化・データ化し、一つひとつのハードルをクリアしていく必要があります。実現できる時期はまだ見えていませんが、技術と法制度の両面から一歩ずつ挑んでいきたいと思っています。


――先生が現在取り組まれている、AIと医師の知見を組み合わせたプロジェクト「美肌コネクト」についても教えてください。

美肌コネクト使用写真

皮膚科医・大塚
「美肌コネクト」は、美容医療におけるクリニックや医師選びの難しさを解消するための、AIを活用したキュレーション型プラットフォームです。2025年10月に近畿大学発のベンチャーとして、株式会社美肌AIコネクトを立ち上げました。

現在の美容医療は身近になった一方で、トラブルや事業者倒産、あるいは経験の浅い医師による診断の見落としなどが問題視されています。一方で、本当に腕が良く実力のある皮膚科専門医の先生方が、SNSのマーケティングや華やかな演出の勝負で埋もれてしまっているケースがある、という構造的な課題もあります。

そこで、医師の研修内容や期間、学術活動、専門医資格、さらには過去の指導歴や免許に関わる正式文書に至るまで、客観的なデータをAIに読み込ませ、人間のひいきやブレを排して、「信頼できる医師やクリニック」を厳選・選別する仕組みを作っています。現在はプロのエンジニアとともに開発を進めており、情報漏えい対策などの厳格なセキュリティをクリアした上で、2027年頃のリリースを目指して準備を進めているところです。


AIを使える人になる

著書を手に持った大塚教授の写真

――最後に、今後の医療とAIの未来を見据えて、読者の皆さんに伝えたいメッセージをお願いします。

皮膚科医・大塚
この先、病院や診察室の中にAIが溶け込み、患者さんが気づかないような形で電子カルテやサポートシステムとして常駐する未来は確実にやってきます。お医者さんの説明の補助や、患者さん自身の価値観に寄り添ったアドバイスをしてくれるAIも登場するでしょう。

大切なのは、AIを過度に恐れて排除するのではなく、人間にとって頼れる「パートナー」として上手に味方につけることです。

一方で、患者の皆さんは「最終的にAIは責任を取ってくれない」という点をぜひ忘れないでください。病気の治療や健康相談において、AIはあくまで「優秀な壁打ち相手」や「参考資料」です。責任を持つ主治医や医療従事者という人間の存在を頼りながら、賢くテクノロジーを使いこなして、より良い医療の未来を一緒に作っていけたらと思っています。



この記事を書いた人
笠原 美律(かさはら・みのり)
まち情報や時事問題、子育て・教育、専門家取材の機会を多く持つ。特に得意な分野は、食と農。書籍や雑誌、カタログ、冊子など紙媒体の企画編集、インテリアや食の撮影ディレクションも行う。カラダにいいコトや食が大好き。


取材・執筆:笠原 美律
編集:アール・プランニング


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