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2025.10.03

空き家を国際シェアハウスに! 父の急逝を機に起業を志した学生と、近大OBメンターによる奮闘記

Kindai Picks編集部

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OB・OG

2022年に開設された近畿大学発ベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」は、すでに100社以上の近畿大学発ベンチャーを創出してきました。今回は「外国人留学生の居場所をつくりたい」と、空き家運用事業を立ち上げた国際学部4年生で株式会社miracrare代表取締役の原真里さんと、商経学部OBでKINCUBAメンターのアイビィー株式会社 代表取締役の大山和俊さんが、起業までの道のりを振り返ります。

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大山 和俊(おおやま・かずとし)
アイビィー株式会社 代表取締役
1993年、近畿大学商経学部経営学科卒業。在学中に不動産会社でアルバイトを始め、実務経験を積んで大手不動産会社に新卒入社。その後マンションデベロッパーなどを経て、アイビィーを設立し、不動産販売集客コンサルに取り組む。30年以上の不動産実務経験や法的知識を生かし、公益社団法人の運営協力、後進教育などにも尽力している。




原 真里(はら・まり)
株式会社miracrare 代表取締役
近畿大学国際学部 グローバル専攻 4年生
KINCUBA法人登記・開業支援プログラムを経て2024年、空き家運用や外国人の居場所づくりを行う株式会社miracrareを設立。空き家を借り上げてシェアハウスとして整備する。2025年9月には、八尾市内の物件で最初の入居者を受け入れる予定。


KINCUBAとは
近畿大学生や大学院生、研究者による近畿大学発ベンチャーの創出を目指す起業支援プログラムで、ネーミングはKINDAIとINCUBATIONを組み合わせた造語。学生のレベルに応じた3段階のプログラムを提供し、24時間利用可能なKINCUBA Basecampを設置、学生向けのビジネスプランコンテストなどを開催しています。近畿大学創立100周年の2025年度中に「100社の大学発ベンチャー企業創出」を目指していましたが、当初目標を1年10カ月早く、2024年度に達成しました。
KINCUBA公式サイト



父からの相続を経て、空き家問題に直面。「人を支えたい」思いで起業を目指した



大山和俊
大山和俊
株式会社miracrareにとって最初の入居者募集が近づいてきましたね! 私は起業家の先輩として、不動産業界に携わってきた知見を生かし、事業化をサポートしました。メンターとして初めて出会ったころと比べると顔つきも変わり、かなりたくましくなりましたね。


原真里
原真里
実は私はもともと「起業したい」という思いは持っていなかったんです。2年前急逝した父が経営していた会社や個人事業を整理した際に、不動産を相続し運用事業を継承して……。ビジネスについて何も分からない状態だったので、最初は知識を身に付けたくてKINCUBAに参加したんです。そこからイベントにも顔を出すようになり、法人登記・開業支援の審査会を通過し……という流れで新たに事業を立ち上げることになりました。


大山和俊
大山和俊
私がメンタリングを始めたころは、対話を重ねながら今後の事業の形を一緒に考えていく、というところから取り組みましたよね。お父さんから賃貸不動産を相続し、空き家問題にも関心が高まったことから、私にできることはないでしょうかと相談を受けました。外国人というキーワードは当初からはっきりしていた記憶があります。何か元になっている経験があるのでしょうか?


原真里
原真里
私はストリートチルドレンなどの問題に関心があり、ゼミでは国際協力や貧困について学んでいるのですが、元をたどると、私自身が周りの人たちに支えてもらってきた経験があります。小学1年生のころ両親が離婚し、母子家庭としてさまざまな支援を受けてきたので「いつか人を支える側になりたい」という思いがありました。また近大に入ってからは、留学生が多い割に、日本人学生と交流する機会が少ないことは少し気になっていました。


大山和俊
大山和俊
大学入学後に原さんが留学したことも影響していますか?


原真里
原真里
そうですね。学部のカリキュラムとして8カ月、アメリカのサンフランシスコに留学したのですが、自分のポリシーを持って生きている現地の人たちとの出会いは、インパクトが大きくて。事業をつくるという道を選んだのも、父が築いたものを残したいという思いに加え、自分が納得できる生き方をしたいと思ったからです。




大山和俊
大山和俊
起業を目指す学生の多くは、「会社をつくりたい」「こんな事業をしたい」という思いが先にあり、それをブラッシュアップしていきます。その一方、原さんは、自身の内面や社会と向き合い、それをどのように事業に落とし込んでいくか? というプロセスをたどったレアケースなんですよ。


原真里
原真里
たしかに、周りとは課題解決の形が違いましたね……!


大山和俊
大山和俊
全国的に空き家問題は深刻化していて、中でも東大阪市の空き家数は、市区町村別ランキングで全国4位といわれています。外国人留学生や外国人労働者、日本の学生が住めるシェアハウスの運営が成功すれば東大阪、ひいては全国の空き家問題にもアプローチしていけるはずです。



答えを与えず実践へ導いた大山さん独自のメンタリングと、それに応えた原さん



大山和俊
大山和俊
今でこそ起業家となった原さんですが、当初の知識量からここに至るまでは、かなり大変だったと感じます。空き家活用をビジネスにするにはたくさんの課題があり、それを乗り越えてほしい思いもあって、高い要求を伝えたこともありましたよね。


原真里
原真里
大山さんのアドバイスは、行動を伴うものが多かったです。私の事業アイデアに対して「東大阪の空き家は何軒あるか、知っていますか?」「なぜ空き家になったのか、考えたことはありますか?」「活用したいと思っても、空き家の所有者はどう調べるの?」と“宿題”が常に出される感じでした。答えは自分で見つけるしかなかったので、とにかく動きました!


大山和俊
大山和俊
空き家を貸してくださる方を見つけるところからがスタートですからね。例えば、建物の所有者を知るには、法務局に行って調べるところから始まります。仮に持ち主が分かっても、そこに住んでいない場合は本人にたどり着けない。では次はその家のお隣さんに直接聞いて……といろいろな苦労がつきものなんですよね。だからこそ、「アナログな仕事を一生懸命やりなさい」と伝えましたね。最初から答えを教えず、まずは一度自分の頭で考えてもらうことを繰り返しました。


原真里
原真里
実際にお家のインターホンを押して、所有者情報の聞き取りも行いました。外国人労働者の受け入れについては、企業がどのような条件でみなさんを雇用しているか知る必要があって、ハローワークに行って求人情報の「社宅あり/なし」の欄を読み漁りました。外国人の入居を想定する場合、オーナーさんの理解を得るのが難しいこともある、というのも後で知ったことです。


大山和俊
大山和俊
もちろん期待はしていましたが「もしかしたら音を上げるかな」と心配もしていて……足を使ってすぐに実行に移す積極性は素晴らしく、「そこまでやるか!」と驚かされました。


法人登記・開業支援プログラムの様子

原真里
原真里
行動力も留学で身につけてきました(笑)。大山さんには、行政との連携も必要だからと、東大阪市の野田義和市長に直接プレゼンテーションする場も設けていただきましたよね。でもその日は緊張してしまい……。


大山和俊
大山和俊
原さんのパソコンまで固まってしまったんですよね! しかし、かえってそれが功を奏したのだと思います。用意していた資料を使わず口頭のみでのプレゼンが、市長の心をつかんだんです。原さんはそれまでに空き家について徹底的に調べ上げていたので、もう口出しすることはないなと思っていましたが、本当にその通りでした。


原真里
原真里
そのときには蓄積してきた知識や情報を自分の言葉で話せるようになっていたからこそ、思いを余すことなくお伝えできたような気がします。



落ち着ける空間がありながら、交流が生まれるシェアハウスに



大山和俊
大山和俊
原さんが思い描く今後についても聞かせてください。まずは八尾・久宝寺のシェアハウスの運用が始まりますね。どんな場にしたいですか?


原真里
原真里
近大の留学生と日本人学生が入居する、国際シェアハウスにする予定です。第一に、入居者同士が国境を超えて、かつ日本文化を通じて仲良くなれる場所にしたいと考えています。囲炉裏もある立派な日本家屋なので、その空間を生かしたイベントや交流が生まれてほしい。ゆくゆくはイベント時には入居者以外にもオープンにするなど、開かれた施設になればうれしいですね。地域コミュニティや行政と連携し、地域活性化の拠点としての活用の可能性も視野に入れています。



大山和俊
大山和俊
屋内の利用を計画する上で気を付けたのは、どのようなところですか?




原真里
原真里
シェアハウスなので、プライベートと交流の両立、そしてバランスが大切だと思っています。ボランティア団体が運営するシェアハウスがあり、私もときどき泊まったりお手伝いしたりしています。そこでの経験を生かしつつ、個人のための空間と交流を促すリビングづくりを意識して計画しました。


大山和俊
大山和俊
不動産業界は昔からの商慣習もまだまだあり、イノベーションが進みにくい領域でもあります。そこに、学生ならではの柔らかい発想を生かして、新しいモデルケースをつくっていってほしいです。注目を集めるようになれば真似されるリスクも発生しますが、競合が少ないうちに独自の方法論を構築していってください。例えば、ここまでに築いた関係性を生かし、企業として近大や自治体とコラボできる可能性もありますよね。近大そしてKINCUBA“出身”というバックボーンの強みも存分に利用してください!



15年分の経験値を数カ月で!? 濃密な学びがKINCUBAにはある



大山和俊
大山和俊
お話ししたとおり、原さんのような形で起業にシフトする学生は珍しいです。最初、KINCUBAに来たときはどのように感じましたか?


原真里
原真里
起業を具体的に考え始めたのが遅かったのもあって、最初に来たときは不安でした。周りの利用者やプログラム参加者を見て「私がここにいていいのかな……」と萎縮してしまったこともありました。それでも通い続け、実践に移したことで今につながりました。


大山和俊
大山和俊
現在の姿からは、そんな原さんを想像できない人が多いでしょうね! これまでの経験を踏まえ、起業を目指す学生がいたらどんな言葉をかけますか。


原真里
原真里
「もし少しでも起業を考えているなら、臆せず挑戦してみよう!」と伝えます。私自身がさまざまな形でサポートしてもらいながら起業を果たしたことで、「初めの一歩さえ踏み出せば、あとはなんとかなる」と今は思っているので。逆に、メンターとして見守ってくださった大山さんから見て、KINCUBAの魅力はどんなところだと思いますか?




原さんが起業する際に登壇したイベント

大山和俊
大山和俊
経験豊富な起業家たちから近い距離感でリアルな助言をもらえる環境は、ものすごく貴重だと考えています。行き詰まったときは、複数のメンターと壁打ちすることもできますからね。私たちも学生が考えたビジネスとして軌道に乗せることを目指しているので、厳しいアドバイスになることもありますが。


原真里
原真里
確かに、一度の面談でかなりたくさんの気付きや学びがありました。


大山和俊
大山和俊
私はかつて就活の面接で「いつか独立します!」と宣言した上で就職したのですが、実際に起業したのは、会社員として15年勤めた後でした。社会人を経ても、起業には相応の経験と時間が必要です。KINCUBAなら、極端にいえば、その15年を3カ月に短縮できると言っても過言ではありません。それくらい濃密な体験が、ここには用意されています。


原真里
原真里
私は“ピン”ときたら、それを信じて動く直感型なのですが「あのとき勇気を出してよかった」と改めて思いました。たくさんの近大生がKINCUBAを利用し、心強い味方に出会ってほしいです。



取材:トミモトリエ
文:山瀬龍一
写真:牛久保賢二
編集:人間編集舎プレスラボ

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