2022.01.17
ゲーマーの就職事情は?CoD学生対抗戦"全国2連覇"の伝説を残したeスポーツチーム「近グダム」の今
- Kindai Picks編集部
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2016年に『コール オブ デューティ』シリーズの大学生対抗戦で史上初の2連覇を達成した、近大生eスポーツチーム「近グダム」。”最強チーム”といわれた彼らは、3連覇への挑戦を辞退し「就活」を選びました。今、彼らはなにをしているのでしょうか? プロゲーマーにならなかった理由は? 「近グダム」初代メンバーで、理工学部情報学科の卒業生4人を取材しました。
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2016年に掲載されたKindai Picksのインタビューで「eスポーツをオリンピック種目にしたい!」「近畿大学はゲームも強いという伝説を作る!」と熱く語っていた彼らは、現在なにをしているのでしょうか?
ゲームをオリンピック種目に。―学生の頂点を極めた近グダムが描く「eスポーツ」の未来―
2016年の大会出場用「近グダム」プロフィール写真。左からくっすん、イチコ、ゆだってぃ、ミルヒナ、ばれんちん(バレンタイン)、ミナス。
また、2022年に新設される近畿大学情報学部の母体である理工学部情報学科を卒業した彼らにとって、PlayStationの生みの親ともいわれる久夛良木 健(くたらぎ けん)氏が学部長に就任するというニュースをどう受け止めているのでしょうか?
元「近グダム」のメンバーであり、理工学部情報学科の卒業生4人を取材しました。
HN:ミルヒナ
近グダムリーダー/近畿大学esportsサークル初代代表
現在の勤務先:株式会社CyberAgent(株式会社CyberZへ出向)
楠本 慧(くすもと さとし)
HN:くっすん
現在の勤務先:株式会社CyberZ
多田 圭汰(ただ けいた)
HN:ばれんちん(バレンタイン)
現在の勤務先:パナソニックコンシューマーマーケティング株式会社
原 将人(はら まさと)
HN:ミナス
現在の勤務先:株式会社日本総研情報サービス
全国2連覇という快挙の裏にあった、メンバーの誓い
―― まずは、現在どんな仕事をしているのか自己紹介をお願いします。
卒業後はサイバーエージェントに入社し、1年目から子会社のCyberZに出向する形で、ゲーム動画配信プラットフォーム「OPENREC.tv」のディレクターとして働いています。CyberZは、社内にゲーム実況の専用スタジオを完備した、国内最大級のeスポーツ大会「RAGE」の運営も手がけている会社です。
僕は、新卒でテレビ番組の制作会社に入社したんですが、入社1年目の12月に石塚から「東京に来ないか」と誘われ、今は石塚と同じCyberZで、OPENREC.tvの『PUBG PARK』やABEMAのウルトラゲームスチャンネルと共同配信していた『賞金首』など、ゲーム番組の制作に携わっています。
僕だけずっと大阪にいるんですが、パナソニックの家電卸販売を行うパナソニックコンシューマーマーケティングに入社して、家電量販店や町の電気屋さんにルート営業をしたりしています。
大学では交通情報学を学んでいましたが、日本総研情報サービスに入社して、現在はエンジニアとして銀行を支えるシステム開発を担当しています。
2021年6月にメンバー多田くんの結婚式で大阪に集まった元近グダムメンバーと、一緒にeSports体験イベントの運営を担当したみなさん。
―― ゲームに関連する企業に就職した方もいれば、情報系の分野で活躍している方もいるんですね。就職せずにプロゲーマーになるという道は考えなかったのでしょうか?
実は、チーム内で、いくらゲームでナンバーワンになろうが「留年せずに就職しよう」というルールを決めていたんです。ちゃんと大学を卒業して、社会に出るために就職する。そして皆でまたゲームしよう……と。特に当時(2015年頃)はまだeスポーツという概念が一般的にあまり知られていなかったからこそ、ゲームと学業どちらも両立しようと皆で話し合いました。
自分たちがeスポーツの文化を広めていく上で、見本となるように振る舞おうと話してましたね。ゲームの大会で優勝しても単位を落とす言い訳にならない。だからこそ、ゲームの練習だけではなく試験勉強や就職活動もメンバーで協力して取り組むようにしました。
Skype(通話アプリ)でオンライン通話しながら一緒に勉強してましたね。
日本のeスポーツ市場規模推移
出典:ファミ通(KADOKAWA Game Linkage)より一部改変
2017年に3.7億だった日本のeスポーツ市場規模は、2020年に約66.8億円に。 2024年には180億円超に拡大すると予測されている。
―― ゲームにあまり真面目なイメージが抱かれないからこそ、文武両道を志したと。そのルールはどうやって決めたんですか?
まず自分たちの親を説得したいという想いがありました。やっぱりゲームのサークルって親からするとなにをしているのか不安なんですよね。特に実家暮らしのメンバーのなかには、ゲームを練習する時間で親と折り合いがつかないこともありました。そうしたなかで、自分たちがゲームと学業を両立できることを証明しないといけないんだなと気付いたんです。
だから、『CoD』の大会で2連覇したあと、3連覇を目指すこともできたんですが、当時4年生だった僕らは就活を考慮して辞退※したんです。
※初代メンバーは出場を辞退したが、世代交代した新メンバーによる「近グダム New Generation」として2017年は大会に出場したが、3位決定戦で敗北。
大会出場のプロフィール写真と同じ並びで撮影した、卒業式の記念写真。
―― 就職活動も協力して取り組んだんでしょうか?
一緒にエントリーシートを見せ合ったりしていましたね。特にゲームにおける活動をどうPRするか、あまり前例がないからこそちゃんと伝え方を考える必要がありました。
いくら実績があっても、ゲームに興味のない企業の方には理解されにくいですからね。なので、目標に向けて個人個人がどう役割をこなしたか、またチームメンバーでどう練習したかなど、優勝という実績ではなく、優勝に至る過程をわかりやすく伝えるように考えました。
2016年3月13日に行われた『Call of Duty: Black OpsⅢ』の「全国大学生対抗戦」で2年連続の優勝を勝ち取った。
―― CoDはチームの連携が大切なゲームなんですよね。
そうなんです。例えば僕が前線で切込隊長、原が中心で調整役、楠本が後ろでディフェンス、多田がオールラウンダーといった役割を、それぞれ決めて試合に臨んでいました。もちろん試合中の役割分担やコミュニケーションも大切ですが、試合前に対戦相手のデータを分析して対策を練る必要もあり、特に原がその分析をうまくやってくれていたんです。
「近グダム」として全国で2連覇したあと、僕たちは同じ大学のゲーマーを集めて「近畿大学esportsサークル」を結成しました。留学生と『League of Legends』(以下、『LoL』)というゲームを使って交流するイベントをしたり、オープンキャンパスで企業とコラボした経験もあったので、そういう部分が実績として評価されやすかったのではないかと思います。
――「近グダム」が、現在の「近畿大学esportsサークル」を立ち上げたんですか?
僕が大学1年生の頃(2014年)に『CoD』の全国大学対抗戦が開催されることになって、メンバーを集めたのが「近グダム」結成のきっかけでした。
ただ、2014年の大会はチーム内で問題があって出場できなかったんですよね。
結成2年目から多田が入り、2015年の大会に出場して優勝しました。さらに2016年には近畿大学の広報室の方にも活動実績を認めていただき、チームのPVをキャンパス内で撮影したり、優勝した実績を『Kindai Picks』に取り上げていただけるようになりました。
そうした大学側の支援もあって2016年の大会も優勝すると、いよいよeスポーツのサークルを立ち上げようという話になったんです。
大学、企業、後輩とともに「創る」ことに挑戦
―― 実際に「近畿大学esportsサークル」を立ち上げるきっかけはなんでしたか?
全国2連覇を達成したあと、競技とは別に新しいeスポーツの取り組みをしたいなとメンバーで話し合っていたんです。
そんな時に、当時ヤフーの子会社だったGameBankの方から「大学で『LoL』を使った大会ができないか?」と、声をかけてもらったんです。必要な機材を貸していただき、さらに『LoL』を運営するライアットゲームズから賞品も用意していただける、というお話で。
―― それでサークルを結成することに?
はい。本格的に近畿大学の許可を取って大会を行うことになるので、サークルを結成しようと。当時、同じ近畿大学で30名ほどメンバーがいた『LoL』のサークル「KnkU」と合流し、「近畿大学esportsサークル」を結成しました。
近畿大学esportsサークル結成当時の写真
とはいえ、学び舎である大学の中で、ゲームのイベントを開くことは難しいと感じました。そこで、ただのゲームイベントではなく、中国人留学生との交流イベントも兼ねて大学側に打診したところ、大学からも協力いただけることになったんです。
当時はサークルも合併したてで、なかなかまとめるのも難しかったんですが、「ここで活動実績を作ったら就職活動のエピソードに使えるぞ!」って声をかけて、最終的にほぼ全員から協力を得ました。
色々トラブルもあって苦労しましたけどね。無我夢中でした。当時は「100点満点やったぞ!」と思っていましたが、本当に色々な方に助けてもらったおかげでしたし、社会人となった今、あの時の自分は50点もないかなと(笑)
そこが多田のいいところ。強いこだわりがあって、簡単に妥協しないんです。だから僕たちも最後まで頑張れたんです。
2016年8月の近畿大学オープンキャンパスの様子。
その実績のおかげか、今度は大学の広報室の方から「オープンキャンパスでeスポーツのイベントをしないか?」とご提案いただいて。そこで、『シャドウバース』と『LoL』を中心にしたゲーム体験会を開くことになったんです。
めちゃくちゃ大変でしたよね(笑)。イベントの規模がすごく大きくなって、PCやマウスなどの機材を企業に提供していただいたり、ゲーム会社から景品を提供していただいたり、他のサークルメンバーも積極的に手伝ってくれたおかげで、なんとか実施することができました。
1日あたり1,000人近い方に来ていただけたんですが、それだけの人数ともなれば、案内するだけでもひと苦労で。当日は合計40人くらいのスタッフがフル稼働でした。
ゲームやサークルのイベントの実績のおかげで就職できた僕らだからこそ、後輩たちにも自信をもって「一緒に頑張れば就活にも役立つしたくさん学べるよ」っていえる実績を残せたと思っています。
現在も現役ゲーマー!? 最近ハマっているのは……?
原くんの現在のゲーム環境。
―― 皆さんは、今も一緒にゲームをしているんでしょうか?また、どれくらいプレイしているんでしょうか?
昨日も原と一緒に新作のゲームをやろうといって、深夜2時ぐらいまでやってましたよ(笑)。最近は週30時間くらいしかやっていないですが、『LOL』とか、『LOL』からスピンオフした『TeamFight Tactics』もプレイしてます。『LOL』は観戦メインだったんですが、社会人になってから本格的にやり始めた感じです。
なんだかんだ今も一緒にゲームしてますね。僕は今でも週に40時間はゲームをしています。最近よくプレイするのは『Escape from Tarkov』。『Pokémon UNITE』は、到達最高ランク世界39位ですね。
僕はゲームだと『Apex Legends』マスターランク(上位0.2%)などをプレイしていますね。あとは、最近アミューズメントポーカーにハマっていて、トーナメントに出場して何度か優勝したこともあります。
僕は『Back 4 Blood』とか『Path of Exile』『Legion TD 2』なんかをプレイしています。あと、僕の場合は結婚しているので、ゲームばかりでなく、休日は妻と旅行に行くなどもして過ごしています。
近大はeスポーツで一番強い大学になるのか!?
2022年4月にキャンパス内に設置予定のeスポーツ空間のイメージ。ゲーム用の高性能PCと大型スクリーンを設置。ゲームの大会をネットで生配信できるようにもなる。
―― 皆さんのいた理工学部情報学科が独立し、情報学部として新設されることについてどう思われますか?
久夛良木 健 氏が学部長に就任するんですよね。大学公認でゲームができるって、専門学校以外あり得ないと思っていたので、ITのエンタメ業界で働いている自分としては、すごいことだなと思いました。
キャンパス内にeスポーツができる空間も設置されるらしいですね。
自分たちがやってきたことの延長線じゃないですけど、母校がeスポーツに取り組んでくれるのは嬉しいです。
僕らがしたことは、いわば茨の道の草を取ったぐらいですが、その茨の道を大学が見つけて、大学公式の施設として取り入れられるのは本当に嬉しいですね。セキュリティが厳重かつ特殊過ぎて、大学内でeスポーツのイベントをするために、ネット環境から自分たちで整備しなければいけなかったのが嘘のようです(笑)。うらやましいです。
―― 最後に、後輩に向けて、ひと言メッセージをお願いします。
僕たちが活動していた頃と比べ、今ではeスポーツという言葉は社会で認知されるようになりましたが、だからこそライバルも増え、eスポーツで実績を作ったり、就職することが難しくなってると思います。それでも、僕は自分が全力で取り組めることを仕事にするべきだと思うので、ゲーム関係で就職したい方はぜひ諦めず頑張ってほしいです。そして近畿大学は、まさに全力で取り組めることを仕事にする上で一番の大学だと思います。
僕はサークルでの様々な活動を通じ、場所を貸してもらったり、相談に乗ってくださったり、近畿大学には何度も助けてもらいました。自分たちがやりたいことをバックアップしてくれる大学なので、情報学部に興味がある方を含め、ぜひ近畿大学に来てほしいですね。
僕たちは学業とeスポーツの両立を目指して活動していましたが、多様化する社会に向けて、やはり選択肢を増やすことは大事だと思います。他のサークルやアルバイトを含め、勉学以外のことも学びながら大学生活を過ごしてほしいなと思います。
僕たちは1年生の頃から就職活動について考えていましたが、当初から「武器は一つでは足りない」と考えていました。なので大会で優勝したあと、イベントを開催したり、組織を運営したりなど、武器を増やすために活動の幅を広げたんです。その点で、近畿大学は新たな武器を増やすことをサポートしてくれる大学でもあります。
僕ら、めっちゃ近大好きみたいに話してますけど、本当に好きなんですよ。確かに僕らも頑張りましたが、ゲームを一生懸命やっていたことが、今こうしてたくさん語ることができる経験になったのは、近大のおかげなんです。だから大学には本当に感謝しています。
近畿大学情報学部
取材・文:Jini
編集:米田智彦/人間編集部
企画:人間編集部
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