2018.03.13
志願者数「日本一」に躍進 大学の経営力(近畿大学1)
- 読売新聞
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18歳人口が減る中、5年連続一般入試の志願者数日本一となった近畿大学。「大学の経営力」という切り口から、人気の背景に迫ります。
*本記事は2018年2月6日から4回にわたり読売新聞に連載された「ビジネス潮流 大学の経営力」をWEB用に編集したものです。
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研究発信で知名度向上
1月27日午後、近畿大学東大阪キャンパス(大阪府東大阪市)から最寄り駅まで約1キロの通称「近大通り」は、一般入試を終えた受験生らで埋め尽くされた。
試験(前期・A日程)に挑んだのは約7200人。オープンキャンパスに3回参加し、近畿大が第1志望の高校生は「大学に勢いを感じる。充実した研究設備や図書館も魅力」と話した。
2018年度入試は、大きな“記録”がかかる。人気のバロメーターである志願者数で5年連続の日本一になることだ。
14年度に首都圏以外の大学で初の首位となり、17年度の志願者数は14万6896人と、2位の法政大(11万9206人)、3位早稲田大(11万4983人)を引き離してトップを走る。「5連覇」なら、かつて首位が定位置だった早稲田以来となる。
入試の責任者で教学本部長の逵(つじ)浩康(58)は「何としてでも首位を取りたい」と意欲を燃やす。
イメージ
近畿大は1949年、衆院議員も務めた世耕弘一(1893〜1965年)が「実学教育と人格の陶冶(とうや)」を建学の精神に創設した。医学部や農学部など計14学部48学科・6キャンパスの総合大学だ。約3万3000人の学生数は関西では立命館大に次ぐ2位。三つの総合病院や、幼稚園まで擁する陣容は巨大な企業集団のようだ。
一方、「やぼったい」「マンモス大」などイメージ面では苦戦してきた。関西では関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)に次ぐ、産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)の序列も立ち位置を縛った。
その近畿大の躍進が注目を集めている。教育情報会社・大学通信の調査では研究力で2017年に西日本の私大1位、15年度の企業からの受託研究費の受け入れ額も西日本の私大1位(文部科学省調べ)。17年のリクルートの進学ブランド力調査でも、知名度で関西首位だった。
養殖魚
02年に世界初の完全養殖に成功した近大マグロを筆頭に、研究成果を学術分野に終わらせず、大学の知名度向上につなげる戦略は進化を続ける。
「近大卒」の養殖魚を提供する飲食店「近畿大学水産研究所」の銀座店(東京都)で1月中旬、大学名を冠した「キンダイ」の刺し身がメニューに加わった。高級魚イシダイとイシガキダイを交配し、姿は地味だが味は良い。「近大(きんだい)のキンダイって?」と客の笑いを誘う。
店長の森聡(42)は「『キンダイ』は見た目は悪いが、プリプリした弾力のある食感と甘みはタイやヒラメに負けません」。
銀座と大阪の2店で年5億円を稼ぎ、情報発信の役割も担う。店内は「マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?」と大書したポスターのほか、テーブルのメニュー置きには大学案内も。17年度の首都圏の受験生は1167人と13年度の2・5倍に増えた。
世耕は「それまでにない独創的な研究に挑むこと。そして、その研究を社会に生かし、しかも収益を上げること」との言葉を残した。躍進の根底に、今も世耕の精神が息づく。(敬称略)
少子化で大学は大競争時代を迎えた。生き残るには、企業のような経営センスと長期的な視野に立った戦略が不可欠だ。大学界で“革命児”といわれる近畿大の「経営力」に迫る。
「関関同立」と「産近甲龍」
偏差値などで分類された関西の主要な私大の通称。関関同立は1970年代初め、夕陽丘予備(大阪市)の校長だった白山桂三氏が命名したとされる。同じ大阪にある関西大が、京都の同志社大と立命館大、兵庫の関西学院大の間で埋没していたため、ひとくくりにして関西大の存在感を高める狙いだったという。産近甲龍は80年代に「受験雑誌が名付けた」「関西の予備校が最初に使った」などの説があり、いずれも学生の間に浸透した。
18歳人口減 淘汰の時代
18歳人口が、2018年から再び減少期に入る。学生が“顧客”の大学にとって市場の縮小を意味し、淘汰(とうた)は避けられない。「大学の2018年問題」として危機感が強まっている。
文部科学省によると、18歳人口はピークだった1966年の249万人から118万人まで減り、31年は99万人と予測される。既に大学進学率は5割に達し、大幅な上昇も見込めない。
特に私立大は、規制緩和により15年間で約100校も増えた。全私立大の約4割、短大の約7割は定員割れが慢性化している。大学運営費の9割は学生の授業料が占め、減収は経営を直撃する。いかに学生を集め、財務基盤を強化するか、大学経営の手腕が問われる。
(2018.02.06 読売新聞 大阪朝刊)
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