2017.04.27
総額500億円、24時間自習室、マンガ2万2千冊・・・全てが規格外!近大の新エリアはここが凄い
- Kindai Picks編集部
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2017年4月にオープンした近畿大学の「アカデミックシアター」。約500億円かけたその施設は、計7万冊の蔵書のうちマンガが2万2千冊を占める新図書館や、24時間利用可能な自習室などを備え、学生の知的好奇心を刺激し、常識を打ち破る実践の場を目指す。教育ジャーナリストの水崎真智子氏が現地に入って詳細をレポートする。
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3年前、「近大をぶっ壊す」のスローガンとともにスタートした近畿大学東大阪キャンパス整備計画「超近大プロジェクト」。2020年完成予定のビッグプロジェクトの中でも、目玉ともいえる「アカデミックシアター」が、2017年4月にその姿を明らかにした。
見学して発見したのは、人の行動を変える「場」の力だ。
学部間連携プロジェクト、社会課題を解決する実践的教育、語学教育を中心に据えたグローバル教育、就活に結びつくキャリア教育などは、どの大学も取り組んでいる旬のトピックスだ。
果たしてそれらは全学生に開かれているのだろうか。学生に周知されているのだろうか。知ったとしてやりたいと思うのだろうか。
今回、近畿大学はこれらの課題に見える化でアプローチした。
「おもしろそうだ」「ワクワクする」「カッコいい」「ここでの経験は将来きっと役に立つ」そう、学生が実感できる場を作ったのだという。
そのアカデミックシアターを5つの視点から解剖する。
大学の新しい価値その1
―学生が引き寄せられる学部横断型施設
ここにいるのが気持ちいい
近大生で良かったと実感できる空間
高揚感のある場である。見学して最初にそう感じた。
近畿大学東大阪キャンパスのシンボルである西門。その先に足を進めると、右手に見上げるように建つのが、ガラスと木格子の外観デザインが美しくいモダンな1号館だ。
アカデミックシアターは、1号館から5号館の5つの棟から構成されたエリアを指す。
空間の作り方が、いわゆる廊下に部屋が並んだハーモニカ型ではなく、5つの建物が緩やかにつながる。迷宮と言ってもいい。そのことが学生をワクワクとさせるし、どこを切り取っても絵になる空間づくりも気持ちいい。
近畿大学の公式の説明はこうだ。
“ アカデミックシアターとは、
建学の精神「実学教育」と「人格の陶冶」を礎に
人間のあらゆる知的好奇心を揺り動かす知の実験劇場である ”
ここで学生たちは何ができるのか、具体的に見ていこう。アカデミックシアターには次の機能がある。
・留学、国際交流、外国語教育のサポート(1号館)
・就活応援、産学連携、地域との交流促進(2号館)
・24時間使える自習室(3号館)
・日本の大学初となるCNNカフェとALL DAY COFFEE店舗(4号館)
そして、以上4つの建物をつなぐ、
・マンガ、新書、専門書をテーマ別に開架で備えたライブラリスペースと、ACT(アクト)と呼ばれる少人数のミーティングスペース(5号館)
アカデミックシアターとは、この5つの施設全体を指す。
はじめて入った者は、迷うだろう。それでいいのだ。そもそもA地点からB地点まで最短距離で移動できることが良いといった発想では作られていないのは明白だ(もちろん、最短で行けるルートはある)。
敢えて迷う迷路のようにすることで、偶発的に書籍やアイデアと出会う機会を創りだすのだという。
アカデミックシアターの最大の特徴は、学部横断型施設でどの学部にも属さず、近大生であれば、どの学部の学生であっても利用できる点だ。
近畿大学に限らず学部横断型の教育プログラムは、多くの先進的な大学が取り組む。つまり時代が必要としているものであり、同時に流行りでもある。しかしまだ試行錯誤の段階とも言える。
近畿大学は2016年に初めての外国語・国際系学部領域である国際学部を設置した。その取材の際、「今後、語学教育・グローバル教育は国際学部に限らず全学部に拡大していく」との発言があったことを筆者は記憶している。
「グローバル教育は全学部の学生に必要なことなのだ」という考えは、アカデミックシアターにしっかり反映されている。語学教育・グローバル教育にとどまらず学部横断で大学の価値を最大化する施設といえよう。
大学の新しい価値その2
―インターンシップのような実学の場
社会に出ていく前に大学でできること
近大の「実学教育」が、ガラス張りに
大学は学問の場としてだけでなく、社会につながる知識とスキルを養う場としても期待されるようになり、キャリア教育や実学教育という言葉が、しきりに聞かれるようになった。
近畿大学は創立当時から「実学教育」を建学の精神に掲げてきた大学だ。マグロの養殖やバイオコークスなど数々の研究成果で社会とつながり、社会に還元する活動も知られており、名実ともに社会とつながる知識とスキルをも養える大学のひとつと言える。
アカデミックシアター5号館にはACT(アクト)と呼ばれる42のガラス張りの小部屋が備えられている。学生たちが主役となって社会の課題解決に取り組んでいくプロジェクト空間だ。
そして今年度、様々な学部の学生によるプロジェクトは既に30以上用意されている。
アカデミックシアターの勝算は、その空間づくりにある。教授と学生たちが、ともに議論する光景は、まるでデザイン会社かIT企業でのインターンシップのようだ。
ガラス張りのプロジェクト用の小部屋ACTで、デジタル機器を扱い、ブレーンストーミングをし、社会の課題解決に向きあっていく…こういった経験は就職活動で大きな自信となるに違いないだろう。
近畿大学の教育方針、アドミッションポリシーには、実学教育について次のように記されている。
“ 真の「実学」とは、必ずしも直接的な有用性を志向するだけではなく、その事柄の意味を学び取ることを含みます。現実に立脚しつつも、歴史的展望をもち、地に足をつけて、しなやかな批判精神やチャレンジ精神を発揮できる、創造性豊かな人格の陶冶を志向するものです ”
ACTは時代に乗っかって生まれたものではなく、創設時からの思いを具体化したものなのだ。
大学の新しい価値その3
―松岡正剛氏プロデュースの近大オリジナル
読書体験が少ないからマンガ?
いいや、マンガを侮るな!
42のプロジェクト空間ACTとともに編み目のようにつながり、迷宮のような楽しさを醸し出しているのがビブリオシアターと呼ぶ本のある空間だ。
5号館の2階スペースはDONDEN(ドンデン)と呼ばれ、11のエリア、32のテーマを設け、マンガ約2万2000冊を含め新書、文庫など約4万冊を開架で並べている。1階のNOAH33(ノア33)と呼ばれる空間には、近畿大学独自の分類で33のテーマ書棚に一般書籍を中心に約3万冊が配架されている。
この空間は、編集工学研究所所長で本施設のスーパーバイザーを務める松岡正剛氏の手によるものだ。
マンガの配架率が高いことから、本も読まない若者達には文字の少ないマンガがちょうど良かろう、と考えた人はいないだろうか。
確かに、マンガから知のつながりを感じ、知の奥へ向かう学生もいるだろう。しかし、それだけではなさそうだ。
テーマごとに本が並べられた空間は、机や椅子、ソファが置かれており読書も雑談も勉強もできるが、通り過ぎる通路でもある。そこで偶然目にする本との出会いは、キャンパス内にある中央図書館や学部ごとに備えられた図書館での出会い方とは全く異なるのだ。
書架には黒板塗料が塗られた壁スペースが設けられており、チョークで本から抜粋したフレーズがイラストともに描かれていた。これは全て編集工学研究所が集めた学生サポーターの手によるものだ。この活動は今後も続くといい、この学生たちは在学中に編集工学研究所とともに本に関わる事ができる。
大学の新しい価値その4
―グローバル教育を全学部へ
思う存分学ぶことができる!
学費以上にお得な近大
グローバル人材育成が叫ばれる中、語学教育を中心に据えたグローバル教育は注目の的だ。事実、大学で工学や経済などを学びながら語学学校に通う学生は多い。
語学は、比較的自学自習が可能である。1号館のインターナショナルスタディーズエリアは、学生時代に語学力も伸ばしたいという学生に応える機能を備えている。
約1万4000冊の多読本、約2000本のDVDとそれらを視聴し学ぶ環境があり、英語だけでなく多言語の教材とそのサポートスタッフもいる。
そして、留学生との交流を促進するインターナショナルラウンジや、一日中CNNニュースが流れる4号館のCNNカフェなど、自由に外国語に触れる機会が用意されている。
生きたヒアリングやスピーキングだけでなく、リーディングやライティングの勉強もしたいという気持ちになったとき、すぐ目の前には豊富な教材があるし、学ぶ場所もある。しかも近大生であれば無料で利用できる。
自ら苦学した経験をもつ創設者、世耕弘一先生の「学びたい者に学ばせたい」という理念は、アカデミックシアターにも生きている。
学びたい、その気持ちに火がついた時にその受け皿となる24時間利用できる自習室も新しく用意された。全2400席の自習スペースうち、まずは250席分を24時間利用として運用を開始するという。学生はスマートフォンのアプリで映画館のように座席予約をする。
また、女性専用の自習室も設けられているのも嬉しい。
コツコツと自分ひとりで勉強し続けることは簡単ではない。そんな時、自分の視界に頑張っている学生がいる。そのことが励みになることもあるだろう。
大学の新しい価値その5
―門戸を開き、場所を示す
職員、同窓会、企業、行政…
社会とつながり経験値を高めよう
アカデミックシアターには、学外とつながる機能も備えている。それが2号館のオープン・キャリアフィールドだ。
ここには就職を支援するキャリアセンター、産学官連携を推進するリエゾンセンター、卒業生の窓口である校友会、自治体との連携などに取り組む社会連携推進センターが1フロアに集まり、近大生にとって、外とのつながりの手がかりが得られる場所となっている。
用がなければなかなか足を運ばないこれらの窓口が、図書館やACTの動線に組み込まれていることも、学生目線で作られていると感じる点だ。
部屋の中にまで入っていくことがなくても、施設を歩くだけで視界に入ってくる。どんな有用な情報も学生が自分ごととして認識しなければ活用に至らないが、このリアルの場は、学生の意識を揺さぶってそれを乗り越える力がある。
産学官連携を考える企業や行政の担当者にとっても、ここに来ると近畿大学をより身近に感じられるだろう。ACTで学生がディスカッションする、ブレーンストーミングをする、プレゼンをする…。その姿を見ることができる。
産学官連携は、実学教育を掲げる近畿大学がこれまで取り組んできたことだが、場ができることで更に加速するだろう。属人的なアプローチでなく、場をつくり広く門戸を開いた。実学教育をガラス張りにしたことで、さらに外部との連携は深まるに違いない。それは学生の成長のチャンスにもつながる。
学部の充実とともに学部間連携の充実がトレンドであるが、医学部を含む14学部48学科を有する規模の総合大学は多くはない。
総合大学のスケールメリットを活かし、真新しい施設であるアカデミックシアターでどんな学びが展開されるのか、今後に注目していきたい。
取材・文:教育ジャーナリスト 水崎真智子
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