2015.11.13
逆転の発想で養殖業を救え!「うなぎ味のナマズ」誕生秘話(農学部 有路昌彦准教授)
- Kindai Picks編集部
5508 View
「脂がのっていておいしい」「うなぎと言われたら気が付かない」2015年7月、「うなぎ味のナマズ」の登場が世間を賑わした。その開発者である近畿大学農学部 有路昌彦准教授に、その誕生秘話と今後の展開を聞いた。
この記事をシェア
PROFILE
有路昌彦(ありじまさひこ)
近畿大学農学部水産経済学研究室准教授 ㈱食縁代表取締役社長 ㈱自然産業研究所取締役
1975年福岡県生まれ。京都大学農学部卒、京都大学大学院博士課程修了後、大手銀行系シンクタンク研究員、民間経済研究所役員を経て現職。京都大学博士 (農学:生物資源経済学)。専門は食料経済、事業化、リスクコミュニケーション。OECD水産委員会政府代表団員など各種国際会議委員、政府各種委員、自治体各種委員を歴任。現在、内閣府食品安全委員会企画等専門調査会委員、日本学術会議連携会員(食の安全部会幹事)、日本水産学会編集委員、国際漁業学会事務局長理事等を兼務。食品に関する事業、経営再建や事業化を手掛ける。各種学会賞受賞。論文、連載、著書多数。著書に「無添加はかえって危ない」(日経BP)、「水産業者のための会計・経営技術」(緑書房)、「誤解だらけの「食の安全」」(日経プレミア新書)などがある。
日本中がどよめいた「うなぎ味のナマズ」の登場と量産への取り組み
ー今年の土用の丑の日は「うなぎ味のナマズ」の話題で持ちきりでしたね。
ある程度は予想していましたが、想像を超える反響でした。養殖業専門料理店「近畿大学水産研究所」でのテスト販売でも約8割の方から「美味しい」と評価を得ることができました。この日を境に多くの大手商社や流通業者からオファーをいただきました。
そこで、この度、来年の土用の丑の日に向けて新会社「日本なまず生産株式会社」を設立しました。
ー「日本なまず生産株式会社」の狙いは?
設立の目的は一つ。「うなぎ味のナマズ」の産業化です。新会社は生産方法の指導から、成魚の販売までを請け負う母体となり、ナマズの生産については、パートナーとなる養殖会社を広く募集してフランチャイズ契約を結びます。
ーなぜフランチャイズにするのですか?
一つは新会社でしっかりと技術管理をやりながら、フランチャイズによって生産拠点を急速に拡大させるためです。自社生産では十分な量を供給するまでにどうしても時間がかかってしまいます。
二つ目は、そもそも「うなぎ味のナマズ」の開発背景にはシラスの供給量が激減し経営難に直面している養鰻会社を救いたいという思いがあるからです。だから新規技術ではなく「既存技術の編集」で生産できる体制を考えました。
ー養鰻業者ならすぐにでも参入できるということですか?
ナマズの養殖の仕組みは完成しているので、正直、誰でもできます。その環境を前提に餌と水で付加価値を創出したんです。後は、パートナーになっていただければ絶対に儲からせます。(笑)そういう思いです。
ー儲かるんですね(笑)
もちろんです。間違いなく単年度で収益化が図れると思っています。いや、そう信じています。
事実、既に大手流通業者や総合商社から多数の引き合いをいただいており、中には「生産目標の100トンを全て納品してくれ!」という話もあります。 販売前から売り先がこんなにある事業なんてそうないですよ。嬉しい悲鳴です。
「売る」ことからスタートする。逆転の発想がイノベーションの源泉
養殖ナマズの蒲焼。テスト販売でも多くの支持を得ることができた。
ーまるでベンチャー起業家みたいですね
安心してください。教員ですよ。(笑)ちゃんと近畿大学農学部で教鞭をとっています。 ただ、「有路さんって大学の先生だったんですか。」って驚かれることもよくあります。
ー研究成果の事業化という発想はどこから来たのですか?
私は、もともとシンクタンクで水産業界の経営立て直しをやっていたのですが、ある会社の経営再建に全力で取り組んでいた時、違う会社がバタバタ会社を畳んでいくのを見てきました。あの時は本当に悔しくて、自分の無力さを痛感しました。
そんな苦しい時に「一緒に養殖業界を盛り上げよう。一人じゃできないことも養殖界のパイオニアの近大となら変えられる」と近大の恩師といえる先生に声をかけてもらいました。
ーそれで水産経済を研究されるようになり、その成果が「うなぎ味のナマズ」ということなのですね
そうです。ただ、「作る」ことではなく「売る」ことがスタートになっていることが私の発想と普通の研究の違うところです。ここにこれだけの市場が眠っているからその市場を取るためにはどうしたらいいのか。そんなことをずっと考えています。
「うなぎ味のナマズ」のだって、うなぎの市場を奪うためではなく 来たるべき、うなぎが手軽に食べられなくなる時に、「あぁ。蒲焼が食べたいな」と思う人に満足感を提供したい。 そこに絶対市場があると確信したから猛烈なスピードで事業化の準備をしています。
研究成果を生かした地域創生を果たしたい
ーこの勢いでしたら土用の丑の日がナマズにとって代わる日も近そうですね
「うなぎ味のナマズ」は単にうなぎの代替を狙っているわけではありません。うなぎの供給不足を補いながら地方の養殖業を活性化させたい。それがこの事業の真の目的です。研究成果を生かすことで、自分なりに地方創生を果たしたいと思っています。
ー壮大なストーリーですね
ありがとうございます。とはいえ、来年の土用の丑の日に十分な量の「うなぎ味のナマズ」を提供することが、直近の目標です。楽しみにしていてください。
記事を読む
この記事をシェア