2023.01.24
高校で「情報Ⅰ」が必履修科目になって…実際どう?「共通テスト」対策は?プログラミング教育最前線
- Kindai Picks編集部
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2022年から高校で必履修科目になった「情報I」。2025年には共通テストの科目としても採用されます。最新の教科書をチェックすると、現役大学生の僕が高校生だった当時とかなり違っているそうで……!? プログラミング授業ってどんな感じ? 共通テストの問題とは? 気になる疑問を、現役の情報学科の学生が近畿大学附属高等学校の先生に聞いてきました。
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ふむふむ……。
ええ〜〜……。
いまの高校生って、こんなことまで必修で勉強してるの……!?
いきなり戸惑いの顔ですみません。理工学部情報学科4年生の清水大良です。
僕がいま見ているのは、2022年度版の高校「情報I」の教科書。ここ最近、僕が大学で専門分野として学んでいる情報の学問が大きく変わりつつあります。
もともと高校の教科「情報」自体は2003年度に必修化されていたんですが、プログラミングを含む「情報の科学」と、情報リテラシーを中心に扱う「社会と情報」のどちらかを選択するようになっていました。しかし、2022年度から共通必履修科目になった「情報I」はこの2科目を統合し、一部例外はあるものの、全国の高校生がプログラミングやデータ分析を必修科目として学んでいるんです。
僕はいま人工知能に関係する研究などをしていますが、基礎的な勉強は大学に入ってから始めました。いまの最新の「情報I」の教科書は、情報リテラシーの基礎的な部分はもちろんですが、自分でソースコードを組んでWebページをつくる方法なんかも載っているんですよね……。
これからの大学生は、僕たちの世代が大学に入ってから学んだことを高校で勉強したうえで大学に入ってくるのか……。そう思うと、積み上げられる知識量の差が全然違うのでレベルの高さが恐ろしい!!
しかも、2025年度からは大学入学共通テスト(以下、共通テスト)で「情報I」のテストが始まるそう。
ただ、基本的にプログラミングなどはPCでの作業なので、紙で解くマークシートではどんな問題になるんだろう……? いまの最新の「情報」の授業事情について、また模擬問題も配布され始めた情報Iの共通テストについて、高校の先生にいろいろ聞いてみました!
近畿大学附属高等学校の情報の先生に聞いてみよう!
というわけで、やってきたのは近畿大学附属高等学校!
近畿大学の東大阪キャンパスとは道路を挟んで隣同士ですが、外部受験生だった僕は入るのがはじめて。わくわく……。
情報の授業をおこなうPCルームにやってきました!
ぜ、
ぜ……
ぜ、全部iMacやないか〜!! しかも新しい!! 僕が通っていた高校にあったPCって、当時ですらOSの古いWindowsだったような気がします。
附属高校ではiPadも日常的に使うようだし、まず学ぶツールのスペックの高さから現代の高校生は違うなあ!
そして今回、お話をうかがうのは情報を教える岡嵜麻由先生。
岡嵜先生、よろしくお願いします!
デジタルと人の創造力で課題を解決する!? 「Society 5.0」の人材を育てる授業
出典:内閣府「Society 5.0『科学技術イノベーションが拓く新たな社会』説明資料」
岡嵜 麻由(おかざき まゆ)
近畿大学附属高等学校 情報科・地歴公民科教諭 、近畿大学教職課程情報科教育法担当。佛教大学社会学部社会学科で地方自治を学び、教科「情報」元年と呼ばれる2003年より高等学校で情報を教える。
プログラミングの必修化、共通テストの科目にも採用されるということは、国をあげて情報の知識を持った人を育てたいのかなと思うんですが、どうでしょう?
そうですね。いま国は「Society 5.0」という標語を掲げ、教育や人材育成に取り組んでいます。
「Society 5.0」、僕も最近いろんなところで聞くようになりました。
内閣府が発表した「第5期科学技術基本計画」のなかで提唱された、新しい社会のあり方のことですね。狩猟社会を「Society 1.0」、農耕社会を「Society 2.0」、工業社会を「Society 3.0」、情報社会を「Society 4.0」と定義し、高度な情報やシステムが世の中を覆い、仮想空間が発達して現実の空間にも影響を及ぼしているような社会を「Society 5.0」と呼び、我が国が目指すべき未来社会の姿として定めています。現代社会ではAIが疑問に答えてくれたり、自動運転の技術が向上していたり、高度な情報に触れる機会がたくさんありますよね。
そうですね。
そしていま、世界規模の環境問題や、高齢化による労働者不足などの社会課題もたくさんあります。いろんな課題や問題をテクノロジーによって解決し、そして人の暮らしの可能性を広めていくためには、情報技術を扱える人は多いほうがいい。そういうわけで、全ての高校1年生がプログラミングを必修で学ぶことになったんです。
10年くらい前から少しずつレゴ®エデュケーション プログラミング※を取り入れる義務教育の現場も増えてきていて、3年前に小学校で、2年前から中学校でもプログラミングの授業が全面的にスタートしました。
ちなみに、海外だともっと進んでいるものなんですか?
そうですね、アメリカのカリフォルニア州やカナダなんかは、だいたい小学校に入る前から遊びの感覚でプログラミング教育を取り入れてはいますね。傾向としては、資源が少ない国は積極的にプログラミング教育を取り入れています。アジア圏だと、シンガポールなんかはプログラミング教育に加えて英語教育も盛んです。
国をあげて優秀な人材を育てているんですね。
そうですね。いまはSNSで誰もが動画コンテンツを世界に発信したり、サービスを海外に売ることができる時代なので、世界全体で見ると日本は少し遅れているのかなという印象です。
※レゴ®エデュケーション プログラミング:ブロック玩具のレゴ®が開発した、小学生〜中高生向けのプログラミング玩具
授業ではどんな課題をしているのか、実際に見せてもらいました。
ちなみに、近畿大学附属高校ではどんな情報の授業をしてるんでしょうか?
本校では教科書を元に独自に授業計画……いわゆるシラバスをつくっています。教科書の内容を学校や生徒のレベルに合わせてカスタマイズしているんですよ。
岡嵜先生の情報授業のシラバス
教科書のなかには、ワープロの使い方とか、演算ソフトの使い方など「情報は特殊な機械を使っておこなうもの」という印象を与える書き方をしているものもあります。「情報って難しい分野なんだ」と一度でも思ってしまうと苦手意識に繋がるので、たとえば文章作成ソフトを使ってレポートを書いてもらうとか、文房具と同じような距離感で、機械に触れてもらうところから始めています。
スマートフォンやPC、タブレットなどは多くの人に身近なものだし、文章を書く作業はすごく実用的ですね。
そう、難しい話は後から学べばいい。まずは実用的な体験を通じて、ハードルを下げるというのが重要かなと思っています。もちろん、情報という分野の歴史的経緯なんかもきちんと座学で教えますよ。
教科書によっては、掲載されているプログラミング言語が違うみたいですが、近大附属高校は何を採用していますか?
うちの学校では「Python(パイソン)」を採用していますね。プログラミング言語とは何なのか、それらを使ってどういうことができるのかなども指導します。
自分でWebページをつくって、 Webコンテンツの仕組みを学ぶ
また、生徒には自力で基礎的なWebページをつくってもらうようにしています。
Webページを自分でつくるんですか!
そうなんです。 Webページを表示させるための言語であるHTMLとCSSを、うちはテキストエディタを使って自分で書くところから始めています。
なるほど〜。生徒の反応はどうですか?
これがね、すごく反応がいいんですよ! 最初はみんな「わけわからん!」って混乱もするんですけど、見本を見せると「これってどうやって動くの?」って興味を持ってくれたり。テキストがうまく改行できなくて、レイアウトが乱れて困っていた子が、自分で解決できたときに喜んでくれたりとか。
やっぱり、自分でプログラムを書いてみると、どのコードがどういう機能を持っていて、どういう動きをするのか身につきやすいですもんね。僕もプログラムがうまく動いてくれたとき、すごく達成感があります。
また学習指導要領では、他の教科とも積極的に関わりを持つように定められているんですね。そこで芸術科目とコラボをして、学生同士で相互評価ができるWebページ作成を実施しています。たとえば書道の授業で書いた作品を撮影し、その画像を使って自分の作品を紹介するWebページを作成しました。ただWebページを作成するだけの実習ではなく、生徒が自分の作品を用いたWebページを作成するので、情報の授業が身近になります。
いまは高校でそんな実用的な授業が……。い、いいなあ〜!
本校は環境がすごくいいと思います。PCのスペックも揃っているので、いろいろな実習に挑戦できます。一般的に、PCのスペックの良さや、最新の情報を教えられる先生がいるのかはどうしても学校ごとに差があるので、必修化を進めるにあたってその差をどう埋めていくのか、いち教師として情報の必修化に対して課題を感じますね……。
共通テストはどうなる? 受験勉強やその対策など考えていること
情報の共通テストが2025年から始まりますよね。そもそもプログラミングはPCでするものなのに、マークシート方式の共通テストってどうなるんでしょう……?
いま大学入試センターが試作問題を出してるんですよ。それを見てもらうとわかるんですが、プログラミングや演算以外の、情報リテラシーの問題も結構多いんですよね。著作権の問題とか、データ通信の仕組みであるとか。
現代社会なんかの分野とも被ってきますね。
そうなんです。ここはコードを書く能力というよりは、時勢を知る能力や一般教養の分野なので、受験勉強のため! というよりは日頃から世の中のニュースにアンテナを張ってもらうことが大事かなと。
なるほど。
あとは図を読み解く力が大事かもしれません。問題文をじっくり読んで、対応する表や数値と照らし合わせるとか。
プログラミングのコードを読み解く問題もあるのかなと思うんですが、言語はなんなんでしょう?
面白いのが、共通テスト独自の言語なんですよ。PythonでもJavaでも、どのプログラミング言語を勉強していても解くことができる独自の言語で問題がつくられているんです。
へー!! じゃあ、コードガンガン書けます! というよりは「このコードがこういう動きを制御しているんだな」と読み解く力が必要になるんですね。
そうですね。当初の予定では、共通テストでは試験中にPCを使って問題を解いてもらおうという構想があったみたいなんですが、さすがに現実的じゃないということになりました。平等性を保ちながら情報処理能力を問うための問題がつくられています。
試験勉強はどう対応する予定なんですか?
それが結構大変で……。共通テストの範囲は「情報I」で、1年生でしか学びません。より専門分野の知識を学ぶ「情報II」は2年生以降で学ぶうえ、選択科目です。国語とか英語みたいに、3年間継続して学ぶわけじゃないんですよね。
そうか、勉強してから共通テストまで期間が空いちゃうんですね。
そうなんです。学習のタイムラグを埋めるため、可能な限り共通テスト対策(補習)をして対応しようかなとは思っています。アルゴリズムの仕組みなども高校3年生で補習をおこなう予定です。
自宅学習も、家庭によってPCがないとかの差がありそうですし。
普段の課題でもそうですが、タイピングの経験が少なくてコードを書くのが苦手な生徒もいます。そこでまずは紙ベースでレイアウトを提出してもらうとか、事前に準備をしてから実習をおこなうようにしています。だから、家庭のPC環境については、授業にほとんど影響がありません。「情報嫌い」をつくらないための授業を心がけています。
すごく大事だと思います……!
1年間の学習が楽しく自分の人生の実になれば、試験勉強にも苦手意識が少なくなりますし、ポジティブな心持ちで試験に望んでもらえる。そうしたら、必然的に結果に出ると考えています。そしてこれは余談ですが、情報を教えられる先生が圧倒的に足りてないので、情報学科の全ての学生さんに教職課程をとってもらいたい!(笑)
情報分野は技術の移り変わりが早いので、若い世代がどんどん次の世代に教えることが大事なんですね。今日はありがとうございました!
現役情報学科の学生が試作問題に挑戦してみた!
取材後、大学入試センターが発行していた仮想試験問題を僕も解いてみました!結果は……100点中、97点!!
点数次第では情報学科の沽券に関わるぞ……と少しだけ緊張しましたが、この点数なら大丈夫なはず!
大学入学共通テストのサンプル問題(独立行政法人大学入試センター公開 令和7年度版より)を実際に解いてみた
解いてみた感想ですが、問題の内容自体は問題文をしっかり読めばヒントとなることも書いてありました。
擬似コードなんかも、通常なら「if 〜」で書かれるところも「もし〜ならば」と日本人の言語感覚に合わせてわかりやすく表現されているので、情報のテストが解けるか不安な人でも、問題を解いて練習すれば高得点もしっかり取れると思います!
自分の将来を押し広げてくれる「情報」は、全ての人の可能性を広げる分野
今回は近畿大学附属高等学校の情報の先生にお話をうかがいました。僕は情報に興味があって情報学科に進学しましたが、本格的にプログラミングなどもするようになったのは大学生になってから。プログラミングの面白さに触れる機会が早いうちにある、いまの高校生が純粋に羨ましく思いました。
「プログラミング」と聞くと僕たちの世代にとっては、難しくて知識がないととっつきにくい「専門分野」のような印象を強く感じますが、じつは情報の世界ってもっと門戸が広いものなんですよね。
新しい授業のカリキュラムが、「情報の面白さ」をいまの高校生たちに広めるきっかけのひとつになればと思います。
加えて、新しい情報の教育を受けて力をつけた若い人たちが、すぐ下の世代にいると思うと僕も負けていられません……! 僕自身ももっと、技術に磨きをかけていきたいと思います!
この記事を書いた人
清水 大良(しみず・たいら)
近畿大学 理工学部 情報学科4年生。昼夜問わず深夜ラジオを聴く生粋のラジオリスナー。面白かった過去の放送回は何度も聴き返してしまう。近頃ラジオ局主催イベントが多く金欠気味。
構成・写真:平山靖子
企画・編集:人間編集部
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