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黒潮の海と奄美の海で育つ白浜名物の幻の魚「クエ」

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2017.02.28

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和歌山県白浜町を代表する海の幸「クエ」。その背景には、漁獲量が極端に少ない〝幻の魚〟と言われる「クエ」の完全養殖に20年かけて成功した、近大水産研究所の研究成果があった。

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【クエ】
主な生産地:白浜町、日高町など
出回り時期:11月~3月
和歌山では「紀州本クエ」と呼ばれ、最需要期には1kgあたり8,000~10,000円の高値で取引される超高級魚。九州では「アラ」と呼ばれる。漁獲量が少ないため 「幻の魚」と言われ、大きいものになると、体長1m超、重さ50kgを超える。 ゼラチン質を多く含み、脂がのった白身で関西圏で人気が高い。クエ鍋、お造り、唐揚げなどにして食べることが多い。


紀中から紀南の岩礁に生息する高級魚クエ。そのおいしさから西日本を中心に人気のこの魚は、和歌山県白浜町の看板食材として注目を浴びている。
取材・文:清水友樹(バウンド)、撮影:渡部恭弘、写真:和歌山県

*本記事は、大正大学 地域構想研究所から発行されている『地域人(第17号)』に掲載された記事です。

南紀白浜を代表する海の幸〝クエ〟

「クエを食うたら、ほかの魚は〝くえん〟」

こう言われるほど人気のクエ。水深50~100mの岩礁に棲むため、なかなか水揚げされず、「幻の魚」といわれる。関西を代表する海水浴場がある和歌山県白浜町。ここを代表する海の幸がクエだ。町の象徴ともいえる、真っ白な砂浜が美しい白良浜(しららはま)ビーチに面した通りに、クエにこだわる料理店「浜屋台マルキヨ」がある。店主山内啓史さんは、天然の、しかも重さ20㎏以上のクエにこだわり、鍋はもちろんのこと、七輪焼きなど常時15種類以上のクエ料理を提供する。

「小さなクエと、大きなクエでは味が違います。クエは他の魚に比べて成長が遅く、1年で1㎏ずつしか体重が増えません。だからこそ大きいクエには、じっくり成長した身の力がある。大きいクエほどおいしいですから、小さいクエは〝小クエ〟として別メニューとして出しているほどです」


1.浜屋台マルキヨ名物「くえ七輪焼き」。まるで鶏肉のような食感で、広がる旨みが後にひく。2.クエ料理の代表格である「くえ鍋」。特有のゼラチン質を楽しむことができる。3.「くえ造り」はさっぱりとした味わいだ。4.「くえ皮チップス」は、一度食べたら止まらなくなる。

山内さんはクエを余すことなく味わってもらうため、クエ料理の定番「くえ鍋」だけでなく、「くえエラ唐揚げ」「くえ胃袋唐揚げ」「くえモツ煮」といった珍しい料理も出す。「どこを食べてもおいしいクエは、捨てるところがほとんどない」のだそうだ。
なかでも山内さんのおすすめは、「くえ七輪焼」だ。焼いたクエは鶏肉のような弾力がある食感で、淡泊ながら脂がのった身を噛みしめるとジワリとあとを引く旨みが口の中に広がる。これが数日経っても、その味が脳内でリフレインされるほどのおいしさだ。


クエを七輪で焼く、浜屋台マルキヨ店主の山内啓史さん

「幻の魚といわれるだけあって、注文してもなかなか入荷できないことが多いんです。場合によっては、仲買人に高い金額を提示して探してもらうこともあるほどです」(山内さん)

天然もののクエはそれほど入手しづらいのだ。


あの近畿大学水産研究所がクエの養殖に成功

もともとクエは、和歌山県中部にある日高町の名物として知られ、同町では江戸時代からクエ祭りが行われるなど、古くから食されてきた。

しかし、漁獲量が極端に少ない〝幻の魚〟。ここに目をつけたのが、「近大マグロ」で有名な近畿大学水産研究所白浜実験場(以下、白浜実験場)だ。

「国や県の水産研究所のように税金で運営されていませんから、研究を続けるために自分たちで資金を捻出しなければいけません。マグロやマダイなどを養殖し、それを市場に流すことで収益化して、実験するための資金に還元してきました」と語るのは白浜実験場で実験場長代理を務める山本眞司さん。

たとえば、現在、マダイの養殖用稚魚は毎年全国で5000万匹ほど流通している。そのうちの1100万~1200万匹を近大水産研究所が供給しているという。今では当たり前に食卓に並ぶさまざまな養殖魚だが、これまで多くの魚種の養殖用稚魚を研究し、実用化してきた。「近大マグロ」は大きな話題になったが、マダイやブリなど、多くの養殖魚でも同研究所の成果が大きな役割を果たしているのだ。

しかし、1983年(昭和58年)に本格的に実験に取り組みはじめたクエは一筋縄ではいかなかった。1986年には人工孵化、仔稚魚の飼育に成功したものの、クエの成長スピードがあまりに遅いため、なかなか商業化できなかったのだ。

研究を続けていくなかで、水温が20℃以下になるとエサを食べる量が急減することを突き止めたことが突破口になった。白浜実験場で育てた稚魚を、水温が下がる時期に奄美大島にある近大の実験場に送り、そこで成魚にする方法を考案。奄美で成長したクエを、再び白浜の黒潮の海に戻すことで味がよいクエになるという。この養殖技術を確立し、安定供給できるまでに20年かかった。


1.近畿大学水産研究所白浜実験場で養殖されたクエ。2.山本さんがクエを見せるために、海に浮かぶ生け簀から網ですくってくれた。3.白浜実験場ではマダイの養殖も行っていた。

成長が遅いクエを成長させるには、長い年月の莫大なコストがかかる。そこで白浜実験場では、経済合理性の観点から、5年かけて約3~4㎏になったクエを出荷する。タイなら16ヵ月で出荷できるというから、いかに時間がかかる魚かがわかるだろう。

こうして養殖に成功した〝近大クエ〟は、2007年(平成19年)から白浜町に安定的に供給されるようになった。南紀白浜でクエを1年中食べれるようになったのは、こうした白浜実験場の地元貢献があったからだった。


近畿大学水産研究所白浜実験場・実験場長代理の山本眞司さん。

「クエの養殖は、やっと軌道にのったところ」と山本さん。今後は生産量をもっと増やしていくのが目標だ。

和歌山県は、白浜名物クエを観光客誘致の呼び水にしたいと考えている。


納屋克浩さん
和歌山県農林水産部
農林水産政策局
食品流通課 副主査


「紀州の南高梅や温州みかんが全国区ですが、クエをはじめとする和歌山の水産物もおいしいことを多くの人に知っていただきたいですね」と和歌山県食品流通課の納屋克浩さん。

取材したのは12月初旬。澄み切った青空に映える、誰もいない白良浜ビーチのあまりの美しさに驚いていると、「夏は関西圏からたくさんの海水浴客が来て、すごい賑わいなんですよ」と納屋さんが教えてくれた。

夏は真っ白なビーチ、冬は温泉を楽しめる南紀白浜。そして、ここには1年中、食べられる〝幻の魚〟がある。

【和歌山県のその他の絶品食材】

温州みかん

和歌山県の温暖な気候と水はけの良い傾斜地は、みかんの栽培に適しており、有田地方を中心に栽培され、生産量日本一を誇る。厳しい傾斜地で燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びて育つみかんは、糖度が高く、濃い味に仕上がるのが特徴だ。和歌山県では、温州みかんの市場評価を高めるため、糖度選別が可能な光センサー選果機を利用して厳選したみかんを市場に出荷する「厳選みかん」の取り組みを展開している。

マグロ
那智勝浦町は、全国有数の生マグロ水揚量を誇っている。黒潮にのったカツオ、イカ、アジなどを追って紀伊半島に近づいてくるクロマグロ、メバチ、キハダ、ビンチョウマグロなどが漁獲される。その中でも特に多く漁獲されるのがビンチョウマグロで、12月から3 月にかけて旬を迎え脂がのって大変おいしくなる。桜色の淡いピンク色をした身が特徴で 「さくらびんちょう」として商標登録されている。「県の魚」であるマグロ、特にビンチョウマグロを本県水産集の起爆剤として全国に売り込んでいる。また、クロマグロについては、紀南地方で養殖も行われており、2002年には世界で初めて完全養殖に成功した。


柿は、主に伊都地方を中心とする紀ノ川流域で栽培されており、生産量日本ーを誇る。「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほどの健康食材で、ピタミンC、タンニンなどを多く含み、高血圧予防、抗酸化作用などの効果があると言われている。その中でも紀の川柿は和歌山ならではの柿で、切ると黒砂糖が入ったような見た目で、しっかりとした歯ごたえと完熟の甘さが特徴だ。
(協力/和歌山県食品流通課)





大正大学 地域構想研究所発行 地域人(第17号)

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