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2025.08.07

近畿大学湯浅農場のプロが解説。「温州みかん」摘果のポイント

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
近畿大学附属湯浅農場
近大みかん
摘果
粗摘果
みかん

日本の冬には欠かせない、こたつとセットで思い浮かぶ果物、みかん。 買うばかりでなく、家庭菜園の延長で、意外と自宅にみかんの木があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
庭木の手入れは大変ですが、少し手をかけることで、収穫できるみかんの質は大きく変わってきます。 今回は、夏に行うべき「摘果」作業について、近畿大学附属湯浅農場(和歌山県有田郡湯浅町)でみかん栽培に携わる、技術課長の堀川勇次さんに、みかんの摘果のコツについて聞きました。

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PROFILE
堀川 勇次 (ホリカワ ユウジ)
近畿大学附属湯浅農場 技術課長
専門:柑橘・熱帯果樹栽培
近畿大学附属農場

粗摘果のポイント動画はこちら

YouTubeで見る

――まずは、近畿大学附属湯浅農場について教えてください。

堀川さん
堀川さん
湯浅農場は、紀伊半島西部海岸の中央部にある“有田ミカン“の本場、さらに醤油発祥の地として、全国的に有名な和歌山県有田郡湯浅町に立地しています。
マンゴーなど熱帯果樹類の栽培研究や、柑橘類の品種を系統保存すると同時に機能性を見出す薬用利用の研究などに取り組んでおり、農学部生の実習や、農学部・生物理工学部の卒業研究の場としても利用されています。

中央部分が柑橘栽培圃場。その向こうには湯浅城が見えます。


堀川さん
堀川さん
ちなみに今はマンゴーの収穫期なのですが、オリジナル品種である近大マンゴー「愛紅」は、千疋屋総本店と伊勢丹3店舗で、今年も販売されています。

近大マンゴー「愛紅」


堀川さん
堀川さん
温州みかんなどを栽培している柑橘栽培圃場は、約25,000平方メートルの広さです。早生品種「宮川早生」と普通品種「林温州」の温州みかん2品種を大規模に栽培し、「近大みかん」として生果で出荷するほか、ジュースなどの加工品にも使用しています。
また、温州みかん以外にも約200品種の柑橘類を「柑橘遺伝資源保存園」内で系統保存しています。
みかんは現在、年間約50トンの収穫があり、収穫時期は11月中旬から始まり、大体12月中下旬に終わります。

みかんの木がずらり。


――毎年安定的に収穫されるのですか?

堀川さん
堀川さん
びっしり実がなる「表年」の翌年は、木が休んでしまう「裏年」という現象が起こります。これを「隔年結果」と呼んでいます。そのため、木単体で見ると毎年コンスタントには採れません。
しかし、園地全体では、表年と裏年の木がバランスよくあるため、収穫量は年間50トン前後で推移しています。

――日本には欠かせないみかんですが、改めてどんな作物なのでしょうか?

堀川さん
堀川さん
野菜は1年ごとにリセットして栽培しますが、みかんは永年作物です。比較的「連作障害」も出にくいので、同じ場所に植え替えてもよく育ちます。梅などは連作障害で成長しないこともありますが、みかんはほとんどないですね。
それに、みかんは非常に優秀な果物で、日持ちもしますし、比較的転がしても大丈夫なんです。桃やマンゴーなどは転がした時点で商品価値がなくなってしまいますが、みかんはそういった心配が少ないです。

プロに聞く、みかんの摘果のコツ


――いいみかんをたくさん収穫するために行う、摘果作業について教えてください。

堀川さん
堀川さん
みかんの数を減らして、残った実を大きく育てるために、摘果は非常に重要な作業です。木を植えてから、実がなり始めるのは大体5年くらい経ってからです。摘果は基本的に年に2回行います。

今は数千個も実があると思われる摘果前の木。


――どのようなスケジュールで行われるのですか?

堀川さん
堀川さん
1回目が「粗摘果」で、湯浅農場では、7月上旬から8月中旬頃までに行っています。ここで大まかに数を減らし、8月下旬から9月下旬にかけて「仕上げ摘果」を行います。
仕上げ摘果では、雨の量などで異なる実の成長具合を見て、最終的にMサイズ(約6.1cm)の理想的な大きさになるよう調整します。雨が降らず実が大きくならない場合は、3回目を行う年もあります。

――粗摘果では、具体的にどんな実を落とすのですか?

堀川さん
堀川さん
まず、木の懐や枝の付け根など、日の当たりにくい「裾懐(すそふところ)」と呼ばれる場所の実を優先的に落とします。これらの実は最終的に品質の良い果実にはなりません。粗摘果の目的はとにかく数を減らすことなので、その中で傷がついているものや汚れているものも優先的に落とします。さらに、重なっている実の中で小さいものも落とします。太陽がよく当たる外側の実は最も品質が良くなるので、基本的にはあまり触りません。

陽の当たる場所になっているみかん。


堀川さん
堀川さん
粗摘果の時点では3cmから3.5cmくらいですが、最終的にはMサイズを目指します。摘果中には、枯れている枝も病気の元になるので、できるだけ切ってあげるのが良いです。

――素人が摘果を習得するにはどれくらいかかりますか?

堀川さん
堀川さん
ざっと数を半分に減らす程度であれば、1~2年経験すればある程度できるようになると思います。ただ、摘果の最も難しい部分は「実を外す」という作業です。慣れていない方は引っ張ってちぎってしまいがちですが、これでは無駄な力が入り非効率です。
両手でできるようになると、効率が格段に上がります。1日に数千〜1万個も落とすので、片手だけだと腱鞘炎になってしまいますから。

作業時は、グリップ力が上がる手袋も有効。


――確かに、プロの皆さんは本当にスピーディーに作業されますね。

堀川さん
堀川さん
農場のスタッフの場合、常に次の実を探しながら、手元では無意識に実を外しているような感覚で粗摘果を進めます。手の感覚で、隠れた小さい実や、品質の悪い実を見つけて落としていきます。この段階で小さすぎる実は、放っておいても大きくならないので、他の実に養分を分配するために落とします。
特に日の当たらない内側の実は絶対に必要ないので、優先的に取り除きます。教科書的には、最終的に葉っぱ25枚に対して果実1つをつけるのが理想ですが、全てを測るのは現実的ではないので、荒摘果ではまずは葉っぱ15枚に果実1つくらいの感覚で数を減らします。

既に黄色くなりつつある実も摘果対象。


――出来が悪い「裏年」の時はどうすればよいのでしょうか?

堀川さん
堀川さん
裏年の木はそもそも実が少ないので、基本的にあまり触りません。摘果してしまうと、残った実に養分が集中しすぎて大きくなりすぎたり、形が悪くなったりする傾向があります。

――摘果で落としたみかんはどうするのですか?

堀川さん
堀川さん
地面に落ちたら、そのままカピカピになって黒くなり、自然に土に還ります。摘果したみかんは食べられなくはないですが、とても酸っぱいですよ。苦みやエグみもあるかもしれません。すだちのように使えるかと言われると、すだちとは風味が違いますね。

摘果で落とされたみかん。


堀川さん
堀川さん
夏には硬くて酸っぱい青みかんですが、しっかりと摘果することで、いいサイズの甘くておいしいみかんが育っていきます。 慣れないうちは力の入れ方に苦戦するかもしれませんが、実際の作業で少しずつコツをつかんでいきましょう。

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