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Kindai Picks トップ学生・生徒・教職員よ、覚悟はいいか。2017年、教室はこう変わる。

学生・生徒・教職員よ、覚悟はいいか。2017年、教室はこう変わる。

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Kindai Picks編集部

2017/02/15

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OB・OG・在学生
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KINDAIサミット
ICT
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教育

【村田晃嗣/国際学部客員教授、同志社大学教授×森健志郎/スクー代表取締役社長×乾武司/附属高等学校ICT教育推進室長×藤原和博/奈良市立一条高等学校校長】
2020年から、小学校でのプログラミング教育が必修化される。そんな中、教育現場ではどこまでICTを活用しているのだろうか。そして、これから教師に求められることとは。「校長」「動画学習のベンチャー社長」「大学教員」「高校教師」、それぞれの立場で語る。

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●スピーカー
村田晃嗣/近畿大学国際学部客員教授、同志社大学法学部教授
1987年、同志社大学法学部政治学科卒業。1998年、博士号(神戸大学・政治学)の学位受領。広島大学総合科学部助教授、衆議院/参議院憲法調査会参考人、同志社大学長などを歴任。国際政治学者としても精力的に活動中。吉田茂賞など受賞歴多数。

森健志郎/株式会社スクー 代表取締役社長
2009年に近畿大学経営学部を卒業後、株式会社リクルート・リクルートメディアコミュニケーションズに入社。eラーニングによる社内教育を受けたが、その内容に不満を感じ、インターネットを活用した教育サービスを自ら立ち上げることを決意。2011年に株式会社スクーを設立。

乾武司/近畿大学附属高等学校 ICT教育推進室長
1986年、近畿大学農学部卒業。高等学校・塾・予備校等の講師を経験後、2002年から理科専任教員として近畿大学附属高等学校に勤務。ペーパーレス化をはじめlCT教育環境のアウトラインデザインに取り組む。2014年度、ICT教育推進室室長に就任。

●モデレーター
藤原和博/奈良市立一条高等学校 校長
1978年、東京大学経済学部を卒業しリクルートに入社。東京営業統括部長などを歴任した後、同社フェローに。2003年、杉並区立和田中学校校長に就任。「よのなか科」などが話題に。その後、大阪府知事特別顧問などを経て、2016年奈良市立一条高等学校校長に。文部科学大臣賞など受賞歴多数。

*肩書きはセッション開催当時のものです

※ICT:Information and Communication Technologyの略。ITにコミュニケーションの重要性も加味した言葉。
<KINDAIサミット2016 第2部分科会A「経済成長を切り拓く人材育成~ICT教育活用法~」より>


●高校で授業中ネット使い放題にして分かったこと。

藤原:近畿大学附属の中高一貫校では、既に全員iPadを使っているのだとか?



乾:はい、中高含めて生徒が4,000人くらいいるのですが、全員iPadを持っています。部分的に導入という例は他の学校でもあるんですけれど、全員自由にいつでも使えるよう学校としてサポートをしているのは、おそらくうちの学校だけだと思います。この取り組みが認められて、2013年には「eラーニング アワード 文部科学大臣賞」を受賞、翌年には「Apple Distinguished Program」に認定されました。

藤原:どういったきっかけで始められたのですか?

乾:学校では紙が無尽蔵に配られて、大半はゴミになりますよね。そういった状況を目の当たりにして、どうにかしたいという想いで始めました。最初は便利そうだなということでICTを推進したのですが、やり始めた結果「学校ってどうあるべきなんだろう?」「先生って一体どんな存在なんだろう?」といった問題に行き着いて今に至ります。

藤原:ICTの導入によって、どんなことができるようになりましたか?

乾:例えば反転授業ですね。普通学校でやるような講義内容は家で見てくる。そして、学校では演習問題をやる。英語の場合は、文法は家で動画を見ながら学習して、授業中はすべて英会話をするとか。

藤原:タブレットを持たせてしまえば最先端のICT教育ができるだろうと安易に考えてしまう人も多いのですが、佐賀県では、ある一人の教員がいなくなったら全然うまく使えなくなったという失敗例もありますよね。

乾:ICTを導入してラクになったかと聞かれますけれども、とんでもない。昔のように知識で生徒からのリスペクトを得られる時代ではなくなりますから。私も今後10年分くらいの指導案をすべて公開したので、「明日何しよう」「次どうしよう」と毎日考えていますよ。

藤原:ICT導入で、生徒からの質問は鋭くなりました?

乾:もちろんです。授業中もインターネットを自由に使えるので、間違ったことを言うと「先生それ違います」みたいなリアクションがすぐに返ってきますし。

藤原:そうすると、やっぱり知識伝達だけの先生はいらなくなるんでしょうね。

乾:必要なくなってくると思います。既に、調べればわかる知識を知っている先生ではなく「個性的な発言をする先生」をリスペクトするようになってきていると思います。

藤原:ところで、授業受けている振りをしてゲームやLINEをしてる生徒はいませんか?全国の高校の先生はそれが怖くて導入しないんですよ。

乾:今までも授業中にノートに落書きしたり、寝てたり、漫画読んでたりしている生徒はいましたからね。インターネットに繋がるからどうこうではない。

藤原:なるほど、確かに。

乾:規制をかけて生徒を守ると言っている学校は多いですが、結局それって授業の秩序を保つために教員が必死にバリアを張っているだけだと思うんですよ。

藤原:体育大会や文化祭でも、使い放題?

乾:そうです。生徒同士で写真や動画を共有してアルバムを作ったりしていますね。そうすると、写真加工のプロみたいな子が出てきたり、やたら音楽が得意な子が作品を作ったりして、例えば「より面白い動画を作れる生徒」がリスペクトされ始めるんですよ。私たち教師が介入するのは、例えば生徒同士のトラブルや、外部の業者に依頼する時のお金のことくらいですね。準備なんかはGoogleで調べた方が早いですから。


●大学の価値は、最高の授業を聴くことだけじゃない。



藤原:森さんは、オンラインの動画学習サービスをやっているんですよね?

森:はい、国内最大の社会人向け動画学習サービス『スクー』を提供していて、そこではITをはじめいろいろなビジネススキルを学ぶことができます。

藤原:大学向けは?

森:それもやっています。20の大学と連携して。例えば、近畿大学では原子力の研究の授業を提供していますね。

藤原:オンラインの動画で何かを学ぶ時に、どういう順番で話したらいいとか、そういうノウハウも蓄積されているのですか?

森:もちろんです。どこに住んでいるどんな人が、どの授業を見て、どこで離脱してしまったかとか、そういうのは1秒単位で計測して教材の改善に繋げています。

藤原:続いて村田さん。村田さんは同志社の学長もされていましたが、大学教育に対してどのような課題を感じているのでしょうか?

村田:日本の大学って、みんなで同じ方向に走る傾向が強いですよね。グローバル化のことにしても「みんなグローバル化しなきゃいけない」という話になるし。ミニ東大を目指したってダメ。それぞれの特徴を活かしていかないと、生き残れないでしょうね。



森:大学教育においては、インターネットをどう活用をしていくべきだとお考えですか?

村田:JMOOCというオンライン大学講座で15分間の講義をしたことがあるんですけど、今の大学の教師って90分で授業やることに慣れてるから、15分で1話完結みたいなテーマで話していくのは難しいと思いました。こういうサービス増えていった時、大学の教員もそのための教育メソッドみたいなものを作っていかないと、ほとんど効果を上げられないだろうなというのが率直な感想です。

藤原:今はインターネットでハーバードやスタンフォードの公開授業を見ることができますが、それでもやはり大学に行くのメリットはあると思いますか?

村田:4年間、満員電車に揉まれながら朝イチの授業に間に合うように通学して、あんまり授業は聞いてなかったけど、食堂で友達と話してとそのまま遊びに行くとか、そういう体験って一生の思い出ですよね。その時できた人間関係に後で助けられたりとか。たしかにネットを使えば世界のトップの授業は聴くことができます。でも、それだけが大事なのかというと、私はそうは思わないですね。


●双方向のやり取りで、動画を最後まで見る人は67%増加する。

藤原:私が校長を務めている一条高校でも、授業でスマホを活用しています。C-Learningというサービスを使うと、生徒が意見を送ることができて、先生はそれを一覧で見れるんです。もちろんスクリーンに表示することも。こうすることで友達同士、お互いにどんな意見を持っているかがわかりますし、先生は生徒からのフィードバックを得られる。普通は、授業で「質問ありますか?」と聞いても、手を挙げるのは目立ちたがり屋と成績が優秀な数人だけですが、スマホで質問を集めると、ほぼ全員が質問を送るんです。

森:『スクー』でもリアルタイムで講師とユーザーがやり取りできるようになっていて、60分の動画をただ流すだけだと最後まで見てくれる人は15%くらいですが、双方向にやり取りできるシステムを使うことで82%まで上がるというデータがあります。

藤原:それと、学校の授業ってどうしても「全然ついていけてない生徒」と「塾に通っていてわかっている生徒」に二分化されてしまうんですよね。そうなると、授業は一体誰に向けてやっているんだということになる。全員に同じ内容を受けさせる授業というのは、元々兵隊を育てるためのシステムで、もう無理がきている訳です。

森:アメリカのKhan Academy(カーン・アカデミー)という動画サービスでは、既にユーザーが理解度などに合わせて進めていけるよう複数パターンの教材を用意していますね。

村田:ある同じ単元について5種類くらいの違う教え方があって、さらにレベルを100段階くらい用意して、わからない時は戻って学習するといったことをやっているんですよね。いわば公文のような。

森:また、Udacity(ユダシティ)というオンライン教育サービスではIT系の技術者に関する職業教育に力を入れていますが、プログラマーになるために動画で勉強している人がインドにいたとして、その人に対してアメリカのシリコンバレーのトップエンジニアが「それよりこっちの教材を使った方がいいよ」とアドバイスできる。つまり人力でも可能だということですね。
もちろん今後は、コンテンツのリコメンデーション(おすすめ)や、対象者に対しての最適化は人工知能で自動化していくと思いますが。いずれにせよ、こういう個人に合わせた学習サービスが増えていけば、落ちこぼれてしまう人はいなくなるし、トップクラスの才能を持っていながら埋もれてしまう人もいなくなると思うんです。

藤原:まさに今、聴講者にスマホを出してもらって、「Khan Academy(カーン・アカデミー)って知ってますか?」と確認して、知らない人が多いという集計結果だったら、すぐにその場で解説動画を配信するとかね。そういうことができるわけですよね。


●ICTで、人間らしさを取り戻す?



藤原:非常に面白いGoogleのCMがあります。Googleアプリにいろいろな質問をするという内容で、例えば月までの距離を聞いたら、ちゃんと教えてくれる。そのCMの中で高校球児が「ここから甲子園まで」って聞いた時は、アプリは何も答えませんでしたが、10年後にはGoogleにいろんなデータが蓄積されて、どんな監督を迎えて、どういう練習をしたら甲子園に行けるのか教えてくれるかもしれない。こういうことが実現されるようになってきた時、先生って一体何なのか?ということになります。

乾:学校が担っている一番大きな役割は、生徒がこれから生きていくための道筋を作ること。そのためには、先生は自分の生き様を晒さないといけない。今は「グローバル化の時代だからお前ら世界に出ろよ」と言っている先生が全然世界に出ていないというのが普通ですが、これからはそれじゃ通用しない。自分が生きてきたバッググラウンドを生徒に晒して、それに対する生徒からのフィードバックを受けることになります。

藤原:ずっと昔から教師をしている人は、自分だけが知っている知識を持っていて、それを伝えることでリスペクトを得ていた。その優位性が崩れるので、かなりハードルが高いですね。

乾:そうだと思います。でも、教師というのは、本来それだけの覚悟を持たないといけない仕事だということです。

藤原:もう一つ私が思うのは、もし知識のすべてをGoogleに頼れるようになったとしても、「生物が好き」「学ぶのが好き」といった先生が持つオーラを生徒は感じ取るんじゃないかなということ。教育って伝染だと思うんです。これはGoogleにはできない。

乾:デジタルでできることはどんどん任せていくと、最終的には磨き抜かれたアナログが残るということですね。

藤原:ICTによって、むしろ人間がより人間らしくなるはずです。

乾:そういう意味では、先生は自分の持っているアナログを磨くことが求められる。 

藤原:一方で、日本はICTについては猛烈に遅れている。

乾:2015年に、いろいろな国の先生たちとミーティングをする機会があったのですが、かなりショックでしたね。日本では最先端の取り組みをしていると思っていたのですが、世界では当たり前だったのです。シンガポールでは、アプリも自由にダウンロードできて24時間インターネットを自由に使わせているのに、日本は逆に制限をかけている。でも、アナログで提供できる面に関しては、日本の先生も決して負けていないんです。あとは、いかに覚悟を決めて制限を外して、生徒が先生を超えることを受け入れるか、ですね。

村田:今、教育の世界でも「人材」という言葉が使われていますが、学校は企業の人事部ではありません。役に立つとか、成果をあげるとか、もちろんそういうのがないと困るのですが、あまりにもそっちに偏りすぎています。特に大学は、すぐに役に立たないことを教えることがかなり重要ですし、高校だと教員と生徒がくだらないことで喧嘩をすることも大事です。

これから日本の人口は減っていくし、日本語という特殊な言語の壁はあるし、地理的な問題もあるので、日本の大学がアメリカやヨーロッパの大学を超えて世界のトップで走っていけるかと言われたら、なかなか難しいと思いますが、そんな中でも日本らしくアナログさを活かして生き残っていくことが大切なのではないでしょうか。

藤原:やはりICTを活用するのは当然として、その先、どうやって人間として勝負するか。今後はそこが問われていくのでしょうね。

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