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2018.05.23

本には書いてない。これが生のリーダーシップ論

Kindai Picks編集部

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KINDAIサミット
キャリア

誰もが一度はつまづくのが、リーダーとして組織やプロジェクトをまとめることだ。事業家や料理人など、今まさに活躍している4人のリーダーが「日本と欧米」「過去と未来」について比較しながら、必要とされるリーダーシップについて議論する。


<KINDAIサミット2017 第3部分科会C『日本的リーダーシップとは?』より>

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スピーカー
加藤友康
カトープレジャーグループ 代表取締役兼CEO
1987年、近畿大学商経学部を卒業。大学在学中より父親の事業に携わり、22歳で承継。以来、多角的な視点からレジャー事業の総合的なプロデュースを手掛ける。著書『世界一楽しい仕事をしよう!KPG METHOD』(ワニブックス)など。


米田肇
株式会社HAJIME&ARTISTES 代表取締役
1996年、近畿大学理工学部を卒業。コンピュータ関連のエンジニアを経て、料理の世界へ。世界最短でミシュラン三つ星を獲得。Foodie Top 100 Restaurants、Asiaʼs 50 Best Restaurantsなどにランクイン。
さらに、世界を代表する100人のシェフ「100 chefs au monde」に選ばれる。


渋澤健
コモンズ投信株式会社 取締役会長、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
1983年、テキサス大学化学工学部を卒業。財団法人日本国際交流センター、UCLA大学MBA経営大学院、JPモルガン、ゴールドマンサックス、米大手ヘッジファンドを経て2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。著書『渋沢栄一100の訓言』(日本経済新聞出版社)など。



モデレーター
末松弥奈子
株式会社ジャパンタイムズ 代表取締役会長
学習院大学大学院修士課程を修了後、インターネット関連ビジネスで起業。2001年、株式会社ニューズ・ツー・ユー設立。2017年、株式会社ニューズ・ツー・ユー ホールディングス代表取締役社長に就任。同年、株式会社ジャパンタイムズの代表取締役会長就任。弥勒の里国際文化学院日本語学校の理事長なども務める。



*肩書きはセッション開催当時のものです



時代や組織によって、求められるリーダーは異なる


末松:加藤さんは就職せずに、社長から始められたのだとか。つまり最初からリーダーだったわけですね。


加藤:私が22歳の時に、会社を経営していた父親が亡くなりまして。それで私が事業を継承することになりました。今ではレジャー事業であれば何でもやっています。


末松:リーダーとしての自覚を持つようになったのは、いつ頃でしたか?


加藤:『つるとんたん』を作った時ですね。うちの会社は洋服屋がルーツなのですが、社名をカトープレジャーグループに変更して、コンセプトや理念を明確に掲げ、父親が経営した時と比べて10倍の売上目標を立てた。当時のスタッフは寝食も忘れて協力してくれましたし、妻は私が会社を継いだ22歳の時に結婚してくれました。それで当時のことを聞いてみると、みんな同じことを言うんです。「かわいそうで見てられなかった」と。おかげで30億円という売上目標は達成できまして、当時はお金もなかったので欲しかったのですけど、実際に達成したら「お金はもうどうでもいいな」と思うようになって。いろんな人に出会ったことで、自分の力って大したことないんだな、いろんな人に協力してもらってできたんだな、と思うようになりました。



カトープレジャーグループ 代表取締役兼CEO 加藤友康氏


末松:渋澤さんは渋澤栄一から数えて四代目で、同じく生粋のリーダーでいらっしゃいます。


渋澤:20代と30代の時は外資系の金融機関に勤めていまして、はじめの頃は「成果さえ出せば評価される」という感覚がありました。しかし転職した後は状況が変わりまして「俺たちはこんな素晴らしい仕事をしてこんな利益を上げたんだ!」というのを上にアピールするのが大事になったんです。そこではちゃんと社内でアピールして、グループに配るためのボーナスを引っ張ってくるのがリーダーの役目でした。あとはやっぱり、自分が会社を立ち上げた時ですね。それまでは組織の看板の下でやっていたのですが、自分の看板でビジネスをすると、信用の大切さがすごくわかります。信用力をいかに高めるかが、リーダーとして大事なことのひとつだと思います。そして自分で会社を持ったことで、「今期どうするか?」という目先のことだけではなく「それをいかに次の時代につなげていくか?」という持続性への意識も芽生えました。


末松:米田さんはレストランのオーナーシェフという立ち位置ですが、「リーダーシップ」ということについて、どういった考えをお持ちでしょうか?


米田:大阪で18席くらいの小さな店をやっていまして、私がやっていることは組織を大きくするというより、テクニックを磨いたり、そこから出る発想をどんどん追求して行くという方向性なんですね。料理人ですので、リーダーというよりもまずは職人としての方針があります。


末松:大学卒業後は、一旦エンジニアとして就職されたのだとか?


米田:はい、コンピューターの設計をやっていました。その時はいわゆる企業ですので、きっちりと教育体制が整っていて、何を目指していくのかというのが提示されていた。でも、料理の世界ではシェフが黙々と作る、説明は一回しかしない、それで間違えると怒られる。そんな環境です。でも人口が減っているため、今は飲食業界も人材が足りていない。そのため、今後は労働環境を改善するなど、昔とは違うリーダーシップが必要になってくるのではないかと考えています。


末松:実際に米田さんのレストランで工夫されていることはありますか?


米田:例えば、昔は厨房にノートもペンも持ち込んだらダメでした。見て覚えろと。でも今は全部映像を取らせてデータにして、みんなでLINEで共有させています。


末松:私は自分でベンチャーを立ち上げ、実家の造船所でも働くことになり、ジャパンタイムズを買収して…と、数十億円の船を売っている仕事から210円の新聞を売る仕事まで経験しました。その中で、米田さんと同様に、リーダーのあり方は組織の規模や事業によって変わるのだなと実感しています。



リーダーシップは人間力。感情で指導しないこと


末松:私はベンチャーを立ち上げた時、何としても知名度を上げていきたいと思ってPR活動を積極的にやっていました。そしたら、すごい叱られたんです。「そんなにメディアに載る必要はないんだ」「お前は隠匿という言葉を知らないのか」って。一方、国際カンファレンスなどで外国人のプレゼンを見ていると、自分たちが10やったことを10以上に見えるように伝えている。本当に「日本人的なリーダーシップ」が今後も通用するのだろうかと、正直疑問に思っています。


米田:日本は障子の文化なんですよね。向こう側にいる人がどんなことをやっているのかを考えながら「失礼します」と言ってスーッと開ける。でも欧米はノックの文化。察するのではなく、明確にわかるように伝えたり確認したりする。私が自分のレストランをオープンしたのは2008年で、もうその時から日本の人口が減っていくのはわかっていましたから、最初から海外戦略を取り入れていました。例えば日本人同士だったらわかることでも、外国人のお客様には、どういう意図で何をしているのかを明確に説明するんです。実際、今は海外からのお客様が8割から9割になっていますね。


加藤:金融の世界でも、日本のパートナーと仕事をする時と、海外のパートナーと仕事をする時では、やはり大きな違いがあります。日本の場合、プロジェクトの説明をすると「じゃあ来月役員会があるのでその時に返事をします」「これは大きい案件なので即答はできない」となります。一方で外資の場合、私がプロジェクトを持ち込んだら、日本支社長がすぐにやると回答。さらにその場でニューヨーク本社に電話して「YES」を引き出すんです。それで「よし決まった!じゃあやろう」と。このスピード感を見て、日本は負けるなと思いました。


末松:スピード感が全然違いますよね。


加藤:ただ、今はどちらが良い悪いではなく、日本の現在の体制には日本型のリーダーシップがフィットしているんじゃないか?とも思っています。


末松:例えばどのような時に?


加藤:銀行や信用金庫って、偉い人が会長・顧問・相談役と肩書きを変えながら、ずっと権力を持っているようなところがありますよね。そういうのが機能しているから、日本企業はこれだけ安定的に続いているのかもしれません。


渋澤:私は、そもそも判断はトップではなく、現場に任せればいいと思っています。どうしても判断できないところだけトップが決める。あとは外部から新しい考え方を持ってくるのがリーダーの重要な仕事ではないでしょうか。


末松:日本と欧米の違いについてはいかがでしょうか?


渋澤:ジム・コリンズという人が書いた本『ビジョナリー・カンパニー(Good to Great)』には、会社がGreatになるためには以下の3つが必要だと書かれています。まずは自分の会社の事業モデルがどう回っているかをきちんと把握すること、そしてパッションを持っていること、最後にどんなにニッチな分野でもいいので世界一になるという揺るがない意思を持つこと。また「日本資本主義の父」と言われている渋沢栄一は、知・情・意、つまり知識と情熱と意思の3のバランスを持つことが常識に繋がると言っています。つまり、表現に違いはありますけど、欧米も日本も根本のところは同じなのではないかと思いますね。


末松:リーダーシップの普遍性みたいなものがあるのかもしれませんね。


渋澤:それがきっと「人間力」と言われているものなのでしょうね。


末松:みなさんご自身がリーダーとしてこだわっていることはありますか?


加藤:私は叱責人間で「もうちょっとこうして欲しい」「ああしてくれ」ということをよく言っているのですが、それが自分の機嫌や私利私欲によるものではいけないと思っています。叱る時は、それを改めることで相手が向上するか、会社のためになっているか、関係者やお客様のためになっているかという3つを考えています。


米田:教えるだけでなく、できるようにすることですね。自転車の乗り方を教えて「一回教えたんだから後はもう知らない」だと、相手は乗れるようにはなりません。実際に乗ってみることをやらせて、転びそうになったら手を差し伸べる。場合によっては失敗させる。それと、本当に教えないといけないのはテクニックや方法ではなく、その相手が次のリーダーになった時、さらに次の人にどう教えるかだと思っています。


渋澤:自分がリーダーという立場になって感じたのは、意外と他の人は私のことを見ているということです。顔色を伺っているし、小さい行動も見ている。ですから、私も感情が激しい方で落ち込むこともあるのですが、常に他人に見られていることを意識して自分の心のスイッチをオンにしておくようにしています。



自分がわくわくすることを知る


末松:では、ここからは会場にいる方の質問に答えていきましょう。


質問者A:会社を経営していると失敗することもあると思うのですが、そんな時はどうされていますか。


加藤:複数のプロジェクトが並行して走っているので、判断は各リーダーに任せていますが、失敗した時の責任は私にしか取れないと思っています。もちろん成功率は高めていかないといけないのですが、誰もやったことのない何かにチャレンジするので、失敗する可能性はあります。そんな時に責任を取れるのがトップの人間です。


米田:私の場合、料理業界の最先端のことをやっているんですね。なので失敗はあった方がいいんですよ。挑戦しているということなので。何かに向かおうとすると現実がわかるんです。そういう意味では、失敗なんてないとも言えます。大事なのは、最初からみんなにそういう話をしておくことですね。一緒に挑戦をしようと。


渋澤:普通は「できる/できない」という軸で考えると思うんですよ。だから失敗するかもしれないという発想になってしまう。でもリーダーに必要なのは、「やりたい/やりたくない」という軸なんです。なので、自分がわくわくすることを知るのはすごく大切。そして、もしそれが誰かのためにもなるのであれば、それこそが自分のミッションや存在意義ということになります。



モンズ投信株式会社 取締役会長、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健氏


末松:では続いての質問です。


質問者B:ラガード(新しいことを最後まで受け入れない人たち)に対しては、どういったアプローチをされていますか。


渋澤:大きな組織であれば多少はラガードがいても、なんとか回ります。でもベンチャーの中にラガードがいると厳しいですね。組織が求めている方向性とその人が求めている方向性が違うのであれば、「ここは君のいる場所じゃないかもしれないね」と伝えることも必要かもしれません。方向性は同じなんだけどスキルが足りないとかそういう問題なのであれば、いろんなやり方で解決していけると思いますけど。


米田:末端の人もトップと同じ考えで行動できるかっていうのは、チームとしては大切なことです。例えばうちのレストランでは、お皿を洗う担当者に「何やってるの?」って聞くと、「食器を洗ってるんです」ではなく「お客さんを感動させるためにこれを洗ってるんです」という答えが返ってきます。



株式会社HAJIME&ARTISTES 代表取締役 米田肇氏


末松:みなさん仰っていることは同じで、「一緒の方向性に向かう」「そしてそれを共有する」ということがリーダーの条件だと言えそうですね。またリーダーシップには普遍的な要素と、流動的な要素があるのかもしれません。みなさんもご自身の状況下における「必要とされるリーダーシップ」について、ぜひ一度考えてみてください。

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